悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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束の間の休息

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翌朝、早々に俺の公爵就任を宣言したセリオンはやけに満足げで、朝っぱらから宿内を大騒ぎさせてふんすと鼻を鳴らしていた。
用意していた朝食は執事によって取り落とされ、従者達は先日の疲れも程々に俺を素早く囲み質問攻めにした。公爵の就任宣言から5分も経過しないうちにである。ウーーン仕事のできる従者達!

「してアーノルド様、発表はいつ頃に? 皆無事の帰還を祈っておりましたぞ」
「嘘つけジジイお前あのガキついに死んだかとか言ってタバコふかしてカッコつけてただろ。あの空気感俺ら耐えられなかったんだからな」
「そう言うあんたも毎日のように墓を掃除してはどこか見てたじゃない。一時期あれ空気中の埃を見つめてるんだってまことしやかに伝わってたわよ」
「公爵になるのは歓迎ですがセリオン様はどうお考えで?」
「喜んで無かったらわざわざ言いに回らないのでは?」

というかわちゃわちゃ勝手に話し始めている。俺を囲んで。囲炉裏か何か扱いされている。
年老いた紳士的な執事の意外な一面を知りつつ、反対二割賛成八割くらいの微妙な反応に苦笑した。セリオンは不満そうだがそんなもんだと思う。少なくとも、主人の入れ替わりをコロコロ受け入れられるような人間はうちに仕えていない。

「そうさな。とりあえず、混乱の収集は第一目標だ。お前達には苦労をかけるが、国のために粉骨砕身尽力してくれ」

どうやら国が傾いているのは俺(を利用した元老院とか諸々)のせいらしいので、その辺は責任を持ってどうにかするつもりだ。セリオンも歓迎してくれているので、公爵への引き継ぎは継続して。

「もちろん、手放しに喜ばれることじゃない。当然罵倒は喰らうだろうな。石を投げられるかもしれない。そういう輩はひとまず捕まえておいて良い」

俺の声かけに、従者達は各々顔を見合わせた。フィレンツェに忠実なものばかりを集めた面子だ。殆どが、俺が公爵になることを容認して忠誠を誓ってくれた面々である。
ここで反発が少なかろうと、フィレンツェに戻り公式発表があれば、領はなかなかに荒れるだろう。

「……また、無茶して国滅ぼしませんよね」
「おいっ! お前失礼だぞ」
「あはは!」

年若い男──精鋭に選ばれるには、という意味だ。俺よりいくつか年上だろう──が手を上げて不安げに眉を顰めた。
その声に注意が入るが、それこそ皆気になっていることだろうな。また俺が溜め込んで、最終的に国を滅ぼそうとしないか。

「いや、大丈夫だ。頼りになる弟もいることだし」

セリオンにウインクを飛ばしたら嫌そうにそっぽを向かれる。何?

「なにより、お前達にも頼ることにした。公爵が侮られ消費されることなど、あってはならない。こんな時だからこそ容赦なく権威を示していかないとな」

そう。
娼婦の、貧民の子供だという負目から、俺はされるがままでいた。どんな誹りも蔑みも受け入れ、傷ついてもそのそぶりを見せないように。
──大いなる間違いである。侯爵という生き物が、他人に侮られて許しては行けない。

「俺の名に泥を塗る事は、許さない。石の一つも、言葉の一つも。公爵だからな。次こそちゃんとするよ」

そうして、フィレンツェの使用人たちはそれが不満なのだ。受け入れるなら上に立つな、上に立つなら力を誇示しろ。古い考えだが概ね同意する。情勢が混乱している中、俺が弱いそぶりを見せては陛下に差し障るだろう。

宣言すれば、ようやく従者達は少し落ち着いたようだった。最初に質問した若い男がすみません、と首を傾げ、ほかの従者もまた顔を見合わせて、各々少しだけ笑った。

「アーノルド様は少々、己に関して怒ることが苦手ですからねぇ。その点において、セリオン様はとびきりお上手ですし……」
「ぼく? やだよ。おまえたちも薄々分かってたでしょ。統治者って向いてない。つまんないし」
「セリオン様、そんな事は……確かに穀物の収量一つで一喜一憂されていたのは驚きましたが」

そんなことしてたのか。多少は誤差だというのに。どれほど天気がよかろうと生育環境が良くなろうと、病害虫だかの関係で予想通りにいかない事は多々ある。領地運営とは全てを予想通りにすることではなく、予想外をある程度いなしながら対処してゆくのが肝心なのだ。

思わず吹き出すと、セリオンから恨みがましく睨みつけられた。怖くないな。可愛い綿毛だった頃も同じ目をしている。

「へぇ、それで? 弟は心配性だからなぁ」
「ええ、時折天候を自分の裁量で変えることがございまして……」
「雨続きで洗濯物が干せないと意見箱に書くと、急に日照りが続くこともありましたな」
「ははは! ありゃ公爵が見ないこと前提で置いてんのに。任せるところは別に任せてりゃ良いんだよ」
「ルース様に諌められておいででしたよ」
「また? 変わんねぇなー」

楽しげにセリオンのことを語ってくれる従者たちは、各々が各々愛情を持って話しているのが伝わってくる声音だった。セリオンはどうやら、きちんと従者たちに愛されているらしい。いや、もちろん分かってたことだけどね。

「まぁ、ですから。公爵がアーノルド様というのは、我々も願ったり叶ったりと言いますか……」
「セリオンは自由な気質だからなぁ。向いてるかと聞かれたら、まぁ」
「自由に関して言えばあんたもかなりですけどねぇー」
「コラッお前さっきから本当の事ばかり!!」

おい。


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