悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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プロローグ

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 ダメージを回復させてるように見えて実際生命力自体を奪うし、癒し手が献身的な天使ってイメージを持たれがちだが実は真逆だ。あとシンプルに傷を治す時に痒み、骨が折れてたりズレてたりすれば痛みを伴う。
 シナリオライターである俺しか知らないが、回復魔法は転用の仕方によっては最も人を殺すのに向いている魔法なのだ。

「ゔっ、ぅうう~~~~もういいもういい治った!! 治ったから!!」
「ええ~? そんなかゆい? たまにいる感覚過敏なタイプかねぇ。苦労するわ学級長も」
「かつてないほど同情されてる……!?」

 傷が出来た時も左の顔半分に大きくできた火傷跡も成績不良も笑いものにしてきたのに……!?

 と驚いてみたが、まぁ解釈一致ではある。
 ヴィンセントはこの世でも貴重な回復魔法を持って生まれてきた王族。さらにその質も高く、世に二人といない力の持ち主だ。極めれば死者すら生き返らせることも可能だろう。

 そのためか、性格は本来善良。基本的に痛みや傷を見過ごせず、不摂生する患者は嫌悪の対象。
 医療従事者としての切り替えとストイックさ、患者への深い愛を生まれ持っていた。

(最高峰の癒し手として必要不可欠な性質は、王家の謀に向かなかった。そして歪められてできたのが今のヴィンセント)

 我ながらなかなか良い男を生み出せたのではないかと自負している。ちゃらんぽらんだが治療に対して懸命なのがよきポイントだな。

「ヤダヤダヤダ離せ!! もういいって! かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいああ~~~~っ!!」
「あ、ば、れんなっ! 頭に怪我してんだぞ!」

 ただ痒いもんは痒いだから回復魔法って嫌いなんだ!! どうやら傷は意外と深かったらしく、ヴィンセントが俺の額に手を当て暴れる俺を抱きすくめる。俺の方が身長が高いのでそうなってるだけで、犬猫を治療する時に保定するだろ、あんな感じ。

「学級長、優等生の顔して……ッ! こんな不良患者とはな~……ッ!! 大人しく受けろこっちは癒し手だぞ!!!!」

 ほとんど首をキメられている状態で頭のムズムズに耐えなければならない。なんて可哀想な俺、誰か助けてくれと周囲を見回しても、サバス爺さんはニコニコしているだけだし、セリオンは何やらアワアワとしていた。まだ混乱から立ち返れてないのだろう。

 痛みより痒みの方が苦手だ。たぶん、大抵の人間はそうだと思う。痛みに対しては鍛えたり慣れたりすれば耐え切れる人も多いけど、痒みは一度弱く生まれてしまったらずっと慣れない。

「う、ぁ……ひぃ……っ」
「あのさ変な声出さないでもらえる!?」

 あれもダメってこれもダメってなんなんだテメー主治医か? たまに意識戻したら色々制約かけやがって……まぁ結局それは功を奏して少しでも長く生きられたわけだし、死んだからって気負わないでほしいが。当たった患者の運が悪かっただけだ。

「……はい、処置おしまーい。血はどうにもなんねーからしばらく魚、豆、赤身肉中心に食べて貧血に気をつけるように。暴れると長引くのはわかってんだろ? いつか正式に治療受ける時とかはそういうのやめとけよ」
「!? あ、痕……痕残ってる、まだ治療……」
「いやそんなん三日くらいしたら消えるって。これ以上やったら学級長怒るんじゃね?」

お前に理解されているのは大変悔しいがその通りである。ペシペシとヴィンセントの腕を叩いて主張するセリオンは可愛いが、もう受けたくない。というか結構傷口も広がっていたと思うので、少し痕残る程度なら上々だろう。

「ダメ、ちゃんと消して。公爵の顔なんだから」
「いや公爵は父様だからなセリオン。三日で消えるなら良いだろう? 確かに額から寄生花が咲いているとかなら見苦しいが……」
「寄生花? ってアレじゃん、花の蜜吸ったら傷口から咲くやつ。根がめっちゃ浅いから無害だけど抜こうとしたら皮膚剥がれるから抜けないんだよなー。フィレンツェが魔法領って感じするわー」

寄生花は魔力の多い土地にしか咲かないからな。また吸い取る栄養も魔力だ。とっても甘くて美味しい蜜が取れるので、花の蜜から種を取り除いた製品が特産品として有名である。

ちなみに見た目はツツジ似ているし、野生の寄生花は心持ち爽やかである。

「アレ、一応しばらく放置して枯れると逆に皮膚を丈夫にしたり回復したりする効果があんだよね。根を張ってるから皮膚が繋ぎやすいんだろーな」
「ああなるほどそれで……」
「ああなるほどそれでって言った? 今」

言ってないぞ。

「えっ…………食べた?」

たべてないよ。


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