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プロローグ
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目が覚めた。
何か懐かしい夢を見たな──と回想しかけて、異様な頭痛に気がつく。
えっなんか頭痛いんだけど割れる割れる割れてるもう???? ついてる????
「ッッッッデェェェエ~~~~…………!!!!!!!!!」
うわ頭触ったらヌメっとしてる割れてます。おわりおわり。えっ流石に頭蓋骨いってないよな?? 俺生きてるもんな??
「し、しん、しんで……」
「え!?!?!?!?!? 俺死んでる!?!?!?!?!?」
「生きてるぞ。学級長意外と面白いね」
「うわっヴィンセント」
「呼び捨て」
セリオンが真っ青になってワタワタとしているので一瞬勘違いしたが、どうやら俺は何かの事故で頭をぶつけて気絶していたらしい。
思い出した──箒の専門店に行って、セリオンに合う箒を特注で作ったんだった!
この世界において魔力の質というものはそれぞれ違って、箒というものはそれを直接受けるので相性が大切である。
箒と一概に言うが棒状の物であればなんでも良く──時折棒状ですらない人もいる──スタンダードな掃除用具の箒から、長ーい魔法の杖だったり剣(具体的に言えば剣の鞘)だったりする。
そう、箒とは俺たち魔法使いにとって魔力を安定させる魔法の杖の役割も担っているのだ!
「いやー、びっくりしたー。まさか弟くんが手に持った瞬間箒が動いて、一直線に学級長にぶつかるとはね」
「ほっほっほ。アーノルド坊やが気絶した時はどうなるかと思ったわい」
ヴィンセントの呑気な発言に答えるのはこの箒専門店の主、サバス爺さん。真っ白な髭を蓄えてまさに好々爺といった風貌の爺さんは、俺が箒を買いにきた時も同じように対応してくれた。
フィレンツェ侯爵領は魔法の街と称されるだけあり、豊富に魔法道具が使われている。その中の、貧民街とは逆の路地を入ったところに魔法道具専門店が並んでいるのだ。
外観からは小さく細い建物だったこの箒専門店も、中に入ってみれば驚き。時期によって姿を変える星空のもと、あらゆる形あらゆる材質の箒がそれこそ天体のようにゆっくりと回っているだだっ広い空間になる。
「セリオンの魔力量に呼応して、なんか暴走しちまったんだな。ああこら大丈夫、ほらよく見てみろ、額が切れただけだから……」
「ぁああぁああ~~~~」
「ワ、泣いてしまった」
何やらぷるぷるしていたので試しに頭を撫でてみれば、大きな瞳から透き通った涙がボロボロと出てくる。顔がくしゃくしゃになり、よく見ればさっきから半泣きだった。ごめん気付かなかった、流石に視界不良だから……。
「怪我させて落ち込んでる子供に怪我の部分よく見せんの、普通に人の心ないよ学級長」
「そ、そういうつもりでは……あーよしよしセリオン。大丈夫だぞ! お兄ちゃんは強いんだから……でもびっくりしたな? ほら、抱っこしてやろう。はーいちゅっちゅ~」
「ウワ……」
何がウワだこのやろ~!!
幼い頃孤児院のチビにしてやっていたように、はんぺんみたいなもちふわほっぺにちゅっちゅっとキスを落とす。塩味がした。ちいちゃい体を抱きしめて、よしよしと体全体を揺籠のようにしてあやす。
「あ、やば。セリオンの髪に血つきそう」
「ウワーーーーーッッそんな乱暴に擦る!?!?!?!?!? いやちょっと見てらんねぇわ怪我の扱い雑!!!!!!!!!」
なんだ急にデカ声を出して……。
思いながら滴り落ちかける血をガシガシと拭えばめちゃくちゃ痛かった多分切った傷の部分をローブの繊維が引っ掛けて広げたな?? 最悪、先に言って?
「ちょ、ちょちょちょ手止め、止めろォ! 止血する! 止血くらいしてやるって!! やめてなんか見てるだけで痛ァい!」
「癒し手のくせに怪我に慣れてないのか?」
「癒し手だからじゃい! どっちかってーと怪我に対して雑な態度なのが慣れない」
まぁそれはそうか。
癒し手といえば引く手数多の希少な職。
他人を癒す魔法だけは、魔力の質が合わなければ絶対に使えない。それ以外の魔法は基本的に術式を使って魔力を変換→出力で使えるが、回復魔法はそのプロセスが使えないのだ。
回復魔法に目覚めただけで人生は勝ち組。当然現代で言う医者のように高級取りだし、この世界に医療保険などはないので皆出来る限り怪我しないように生きているし、癒し手を求めるような奴は大抵怪我を大ごとに捉えている。
まぁ、同族を癒す力など警戒心の低下に繋がるから生物的にも希少であるのは間違っていないのだろう。
「しかしヴィンセント殿下、お前の回復魔法は流石に搾取するわけにはいかない。お前の能力なわけだし……たとえどれほど腹の立つ奴であっても」
「どうしてお前急に煽ったの? いいよ喧嘩しよっか??」
ごねているとセリオンに腹パンされた。早く癒してもらえと言うことなのだろう。できれば嫌である。そんなことを言っている暇ではない? それはそう。
「え? 顔白いんだけどもしかして」
「本当か? ああ、血が足りないかもしれないな」
「ち……?」
「そうだぞセリオン、血だ。足りないと人は死ぬ」
「わぁぁぁあーーーーーん!!!!」
「あ、焦れーーッッ!!!!!!!!!」
可愛くてつい揶揄ってしまったが、その瞬間ヴィンセントが俺の頭を鷲掴みにして何やら唱えた。傷が塞がってく感覚──気持ち悪!! なんだこれ気持ち悪い!!
「かゆいかゆいかゆいかゆい!!」
「傷の修復早めてるだけだかんね。無茶しすぎると白髪になるよぉ~それもそれで見たいな」
本当に最悪。だから回復魔法って嫌いなんだ俺は……!
何か懐かしい夢を見たな──と回想しかけて、異様な頭痛に気がつく。
えっなんか頭痛いんだけど割れる割れる割れてるもう???? ついてる????
「ッッッッデェェェエ~~~~…………!!!!!!!!!」
うわ頭触ったらヌメっとしてる割れてます。おわりおわり。えっ流石に頭蓋骨いってないよな?? 俺生きてるもんな??
「し、しん、しんで……」
「え!?!?!?!?!? 俺死んでる!?!?!?!?!?」
「生きてるぞ。学級長意外と面白いね」
「うわっヴィンセント」
「呼び捨て」
セリオンが真っ青になってワタワタとしているので一瞬勘違いしたが、どうやら俺は何かの事故で頭をぶつけて気絶していたらしい。
思い出した──箒の専門店に行って、セリオンに合う箒を特注で作ったんだった!
この世界において魔力の質というものはそれぞれ違って、箒というものはそれを直接受けるので相性が大切である。
箒と一概に言うが棒状の物であればなんでも良く──時折棒状ですらない人もいる──スタンダードな掃除用具の箒から、長ーい魔法の杖だったり剣(具体的に言えば剣の鞘)だったりする。
そう、箒とは俺たち魔法使いにとって魔力を安定させる魔法の杖の役割も担っているのだ!
「いやー、びっくりしたー。まさか弟くんが手に持った瞬間箒が動いて、一直線に学級長にぶつかるとはね」
「ほっほっほ。アーノルド坊やが気絶した時はどうなるかと思ったわい」
ヴィンセントの呑気な発言に答えるのはこの箒専門店の主、サバス爺さん。真っ白な髭を蓄えてまさに好々爺といった風貌の爺さんは、俺が箒を買いにきた時も同じように対応してくれた。
フィレンツェ侯爵領は魔法の街と称されるだけあり、豊富に魔法道具が使われている。その中の、貧民街とは逆の路地を入ったところに魔法道具専門店が並んでいるのだ。
外観からは小さく細い建物だったこの箒専門店も、中に入ってみれば驚き。時期によって姿を変える星空のもと、あらゆる形あらゆる材質の箒がそれこそ天体のようにゆっくりと回っているだだっ広い空間になる。
「セリオンの魔力量に呼応して、なんか暴走しちまったんだな。ああこら大丈夫、ほらよく見てみろ、額が切れただけだから……」
「ぁああぁああ~~~~」
「ワ、泣いてしまった」
何やらぷるぷるしていたので試しに頭を撫でてみれば、大きな瞳から透き通った涙がボロボロと出てくる。顔がくしゃくしゃになり、よく見ればさっきから半泣きだった。ごめん気付かなかった、流石に視界不良だから……。
「怪我させて落ち込んでる子供に怪我の部分よく見せんの、普通に人の心ないよ学級長」
「そ、そういうつもりでは……あーよしよしセリオン。大丈夫だぞ! お兄ちゃんは強いんだから……でもびっくりしたな? ほら、抱っこしてやろう。はーいちゅっちゅ~」
「ウワ……」
何がウワだこのやろ~!!
幼い頃孤児院のチビにしてやっていたように、はんぺんみたいなもちふわほっぺにちゅっちゅっとキスを落とす。塩味がした。ちいちゃい体を抱きしめて、よしよしと体全体を揺籠のようにしてあやす。
「あ、やば。セリオンの髪に血つきそう」
「ウワーーーーーッッそんな乱暴に擦る!?!?!?!?!? いやちょっと見てらんねぇわ怪我の扱い雑!!!!!!!!!」
なんだ急にデカ声を出して……。
思いながら滴り落ちかける血をガシガシと拭えばめちゃくちゃ痛かった多分切った傷の部分をローブの繊維が引っ掛けて広げたな?? 最悪、先に言って?
「ちょ、ちょちょちょ手止め、止めろォ! 止血する! 止血くらいしてやるって!! やめてなんか見てるだけで痛ァい!」
「癒し手のくせに怪我に慣れてないのか?」
「癒し手だからじゃい! どっちかってーと怪我に対して雑な態度なのが慣れない」
まぁそれはそうか。
癒し手といえば引く手数多の希少な職。
他人を癒す魔法だけは、魔力の質が合わなければ絶対に使えない。それ以外の魔法は基本的に術式を使って魔力を変換→出力で使えるが、回復魔法はそのプロセスが使えないのだ。
回復魔法に目覚めただけで人生は勝ち組。当然現代で言う医者のように高級取りだし、この世界に医療保険などはないので皆出来る限り怪我しないように生きているし、癒し手を求めるような奴は大抵怪我を大ごとに捉えている。
まぁ、同族を癒す力など警戒心の低下に繋がるから生物的にも希少であるのは間違っていないのだろう。
「しかしヴィンセント殿下、お前の回復魔法は流石に搾取するわけにはいかない。お前の能力なわけだし……たとえどれほど腹の立つ奴であっても」
「どうしてお前急に煽ったの? いいよ喧嘩しよっか??」
ごねているとセリオンに腹パンされた。早く癒してもらえと言うことなのだろう。できれば嫌である。そんなことを言っている暇ではない? それはそう。
「え? 顔白いんだけどもしかして」
「本当か? ああ、血が足りないかもしれないな」
「ち……?」
「そうだぞセリオン、血だ。足りないと人は死ぬ」
「わぁぁぁあーーーーーん!!!!」
「あ、焦れーーッッ!!!!!!!!!」
可愛くてつい揶揄ってしまったが、その瞬間ヴィンセントが俺の頭を鷲掴みにして何やら唱えた。傷が塞がってく感覚──気持ち悪!! なんだこれ気持ち悪い!!
「かゆいかゆいかゆいかゆい!!」
「傷の修復早めてるだけだかんね。無茶しすぎると白髪になるよぉ~それもそれで見たいな」
本当に最悪。だから回復魔法って嫌いなんだ俺は……!
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