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兄弟だから (レオside)
しおりを挟むマオの髪はふわふわの明るい榛色。柔らかい猫っ毛だ。
目はもう少し濃い榛色。そして、色白、細身。
今のご時世に珍しい事でもないけど、結構色んな国の血が混ざってる。
その中には偶然か、はたまた必然なのか 僕達が過去に生きてた国も入ってる。
だからウチの家族は外見が何処かしら派手目。マオは髪色以外は少しあっさりめというか、大人しめになったかも。
前とは容姿タイプは違うけど、僕はイケてると思う。頭小さくて、可愛くて。前が綺麗系だったからか、マオ自身はそうは思ってないみたいだけど…。
なんか自己評価が低いんだよね。
あと2、3年もしたら、きっともっと背も伸びるし大人びるだろうから、前の姿に近づくかもしれないな。
整髪料の棚の前。
マオの髪質に合いそうなソフトワックスを幾つかチョイスして、選ばせてみる。
「これとかは?香りが好き」
「うん…良いね、マオにあってる。
まあ軽めに仕上がるだろうし、良いんじゃない?」
小さなブルーの見本容器を持って僕の鼻に近づけてくるマオ。
嗅いでみると、青リンゴっぽい フルーティーな香り。
うん、甘くて爽やか。
マオの柔らかい体臭と混ざるといい感じになりそう。
マオって昔っから果物の香りが好きだよね。
「これにしよっかな」
「そうする?じゃ、ちょうだい」
マオの選んだ商品見本の後ろから未開封の商品を手に取る。
「?」
「マオの記念すべきおめかし用初ワックス記念に買ってやるよ」
「えっ、いいよそんな…」
「俺は土日バイトしてるからそんくらいの金はあんの」
「…ありがと」
「どいたま」
こういうの、してみたかった。
可愛いマオと仲良く喋りながらの買い物、楽しい。
マオのワックスと僕のコンタクト洗浄液を買ってドラッグストアを出る。
「帰ったら使い方教えるよ」
「ありがと。えへへ、楽しみ。カッコよくなるかなあ」
ぅぐっ…。
期待感と嬉しさの入り混じった笑顔を向けられて、心臓がぎゅっとなる。可愛いぃ…ヒェ…俺の弟マジ天使ィ…。
「…レオ、大丈夫?」
「…ぅん、だぃじょうぶぅ…」
胸を押さえて屈み込んだ僕を気遣うマオ。優しい。優しくて嬉しいんだけど、少し切ない。
あ~、なんでこの子、僕のモンじゃないのかなあ…。
数軒のショップに寄って、この間出来たカフェに寄って、家に帰って、今は風呂前に髪の整え方を教えてる。
その方が直ぐに髪洗えるから。
「ほんのこれくらいで良いんだよ。で、手のひらで摩って広げて満遍なく付ける」
「ふんふん…こう?」
「そうそう。そんで、こう…こころもち掻き上げて少し握ってみたりしてさ」
「えー、難しい…」
「ちょっと貸してみ」
洗面所の鏡の前で髪を弄らせてみたけど、初心者だから要領がわからないマオ。
仕方ないから背中に回って後ろから髪を触る。
ふんわりした髪から青リンゴの香りと、うなじからマオの香り。
なんか堪らなくなる。
「…あんま、固めない程度に纏める方が良いよ。流れをつける程度にさ」
「レオ、美容師さんみたいだね」
マオは無邪気に、嬉しそうに鏡越しに僕に笑顔を向ける。
可愛い。
可愛いな。
可愛い、僕のマオだったのにな。
もうすぐ、あの男のとこにいっちゃうんだろうな。
それでこれからはまた、アイツがマオを守るんだろうな。
そう思ったら急に涙が出て来て困った。
マオの背中からぎゅっと抱き締めて、肩に顔を埋める。僕より少し低い位置にある肩は、未だ細くて頼りない。
泣いてるのを知られたくなくてそうしたのに、涙が流れてマオの肩を濡らすから誤魔化しがきかない。
「…レオ?どうしたの?泣いてる?」
「…大丈夫。少しだけ、肩貸してて」
「…うん」
マオ。
僕、お前が大好きだよ。愛してるんだよ。
ほんとに本気でお前を僕のにしたかったんだ。
お前が選んでくれるなら、兄弟で茨の道を生きる覚悟だって出来てたよ。
でも、違うんだよな。
僕じゃ、駄目なんだよな。
同じ顔してたって、マオにはアイツじゃなきゃ、駄目だったんだよな。
僕と一緒に生きたって、過去世で生じた業を浄化する事にはならないんだよな。
ほんとは最初からわかってたんだ、そんな事。
(あーあ…。弟に恋し続けてるなんて、不毛だよなぁ)
でも、再び兄弟としてと望んだのは僕自身だ。
きっとこの気持ちを直ぐにどうにかする事はできないだろう。
昇華するには、もしかしたら積み上げてきた年月と同じだけかかるかもしれない。
それでも、そうしよう。
「レオ、いいこいいこ。」
不意にマオの手が僕の髪を撫でたから、今度は涙腺が決壊した。
優しいマオ。
優しい魂。
お前の心の安らぎの為に、僕はこの恋を少しづつ消していこう。
そして、愛だけ残すんだ。
愛しい弟。
純粋にお前の幸せだけを願う為の愛だけを残すよ。
僕はお前の兄ちゃんだから。
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