犬猿の仲の政略結婚なのに、旦那様が別れてくれません。

屋月 トム伽

文字の大きさ
36 / 47

旦那様はお怒りです 6

しおりを挟む

アリス様ではない。髪色はピンク色でも、顔は明らかにアリス様ではない。
むしろ、美人!?
色気たっぷりの妖艶な美人です!!
私には、似ても似てないですよ!!

「だ、誰ですか!?」
「はぁ!? 私はセルシスフィート伯爵夫人よ!!」
「お、お、おかしいです! ウォルト様の結婚相手は私ですよ!!」
「えっ……!」

えっ……はこちらです。間違えた!?
でも、セルシスフィート伯爵夫人とひたすらに名乗っていたのです!
でも、アリス様ではないのです!!

「ど、どうしましょうか!」
「それは、こちらのセリフよ。とにかく縄を外してちょうだい。これは、オプションよ。使いたいなら、お金を払ってちょうだい」
「私には、こんな趣味はないですよ!?」

困惑したままで大きな声で否定する。私に縄で縛られた女性も、困惑している。
私よりも立派で形の良い胸が図らずも強調されてクラリと通れそうになる。
むしろ、動悸がしてきた。女性の身体に興味はないけども!!

「はぁっ……身体が熱いです」
「……まさか……媚薬を飲んだの?」
「そんなものは飲んだことありません」
「じゃあ、あんたは何しに来たのよ!」
「セルシスフィート伯爵夫人の偽物を……」
「……っああ、もう! ……身体が熱いのではないの?」
「熱いです……っ」

先ほどから、熱いと思っていた。それが、今では身体が火照るような感覚が始まっている。

「やっぱり、媚薬を飲んだんじゃない」

呆れ顔でため息を吐いた偽物に、媚薬を飲んだ記憶がない私は首を傾げた。

「あの……」
「会場で何も飲まなかったの?」
「お酒を飲みました。美味しかったです」
「ボーイが配っていたお酒を飲んだんじゃないの? あれは、媚薬入りよ。ボーイが、二人組の男女の側に配れるように近くを歩いていたでしょう? 媚薬のないものは、カウンターやテーブルの上に並べられていたはずよ」

血の気が引く。身体は熱いのに、青ざめてしまい上ずった声がでる。

「の、の、飲みました!!」

セイルと一緒にいたことで、今からお楽しみだと勘違いされたのだ。
では、セイルと一緒に来たせいで危険が差し迫っていると言うことだ。

こ、これは、一人で来た方が安全だったということですか!?
なんてことでしょう!!

「げ、解毒剤は!?」
「あるわけではないでしょう。ここは、そういう社交場よ?」

どうしよう!?
ここで、不貞をするわけにはいかない。

クッと歯を食いしばって項垂れた。がくんと力が抜けて床に両手をついてしまう。
赤ら顔の私。しかも、あまりの私の情けない様子に偽物が呆れたかと思えば憐れみを向けた。

「あんた、本当に大丈夫? ……でも、媚薬は軽いものだから、……男女できたのなら、相手を呼んできなさいよ。同衾すれば収まるわよ」
「恋人ではないのですよ……それに、私にはウォルト様が……」

私が肌を合わせたいのは、ウォルト様だけ……それだけは、鮮明にわかる。

「どっちでもいいから、この縄をほどきなさい」
「でも、逃げられたら困りますし、今は、もうそんな力はありません……」

呼吸を整えようと、必死で床を睨む私の発言に、偽物の額に青筋がさらに浮かんだ。

「……あんた……本当に何しに来たのよーー!!」
「ウォルト様のところに帰らないと……」

とにかく帰らなければ……そう思い、ゆっくりと立ち上がった。軽い媚薬だからか、何とか立てたけど、歩いているのに、どこかふらついている感覚に陥る。でも、意識もしっかりとしているし、歩いている自覚もある。

「ちょっとっ、待ちなさい! これをほどきなさいよ!! 放置プレイもオプションよ!!」
「でも、ウォルト様のところに帰らないと……後日改めてお話に参ります。ごきげんよう」
「そうじゃないでしょ!!」

名前も、どこの令嬢かも知らない。それさえも、聞くことが頭にないままでウォルト様の名前を呟きながら歩いた。

「ウォルト様……」
「……ティアナ?」

廊下の壁を支えにもたれて、ウォルト様の名前が自然と口から出ると、私に影が差した。
火照った顔を上げれば、冷たいウォルト様の目が合う。

「ティアナ! どうしたんだ!?」
「ウォルト様……私……媚薬を飲んでっ……」

甘えたような声で泣きそうになる。すると、ウォルト様の目つきがさらに鋭くなった。

「媚薬……?」

そして、ウォルト様の手が勢いよく伸びて私の頭を掠る。壁を背後にウォルト様に挟まれたと同時に、壁が壊れる音がした。

「ひっ!!」

声にならない声がでる。
頭の横の壁は、ウォルト様の手がめり込んでいた。
壁にドンと押しやられて、手をめり込ませる人なんているのだろうか。青ざめてしまう。

「ティアナ……何をしているんだ」

ウォルト様が顔を近づけて来て言う凄んだ声音は恐ろしい。今から、戦場にでも出るのではと錯覚させる。でも、そんなことよりも、身体の火照りがそんな思考を消した。

「怖いです……ウォルト様……」

近づいているウォルト様の胸に縋った。抱き着くように触れれば、ウォルト様の腕が私を包み込んだ。
ウォルト様が視線を部屋に移すと、部屋にはベッドのそばにいる縄で縛られた私の偽物を彼が見た。

「……あれは何だ?」
「私、ウォルト様が……」

そう言うと、ウォルト様がジッと私を見つめる。

「俺がどうした?」
「ウォルト様がいいの……ウォルト様が好き……」

弱々しい声音で言うと、ウォルト様が何も言わずに私を抱き上げた。

「……媚薬を知らずに飲んだみたいよ。始めてだろうから、良く効いているのでしょうね」
「媚薬……なぜ、そんなことに……」
「というわけで、この縄を解いてくださいな。あなたなら、相手をしてもいいわよ」
「知らん。縛った奴に頼め」

縛られた偽物に興味を見せないウォルト様が、私を横抱きに抱きかかえたままで、歩き出すと、必死で縛られた偽物が叫んだ。

「縛ったのは、大事に腕に抱いているその娘よ!! 責任をとってちょうだい!!」
「ティアナが? ……何をやっているんだ……」

怒ったままのウォルト様が、嫌そうに私の頭もとでため息を吐いていた。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる

ラム猫
恋愛
 王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています ※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。

処理中です...