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旦那様はお怒りです 6
しおりを挟むアリス様ではない。髪色はピンク色でも、顔は明らかにアリス様ではない。
むしろ、美人!?
色気たっぷりの妖艶な美人です!!
私には、似ても似てないですよ!!
「だ、誰ですか!?」
「はぁ!? 私はセルシスフィート伯爵夫人よ!!」
「お、お、おかしいです! ウォルト様の結婚相手は私ですよ!!」
「えっ……!」
えっ……はこちらです。間違えた!?
でも、セルシスフィート伯爵夫人とひたすらに名乗っていたのです!
でも、アリス様ではないのです!!
「ど、どうしましょうか!」
「それは、こちらのセリフよ。とにかく縄を外してちょうだい。これは、オプションよ。使いたいなら、お金を払ってちょうだい」
「私には、こんな趣味はないですよ!?」
困惑したままで大きな声で否定する。私に縄で縛られた女性も、困惑している。
私よりも立派で形の良い胸が図らずも強調されてクラリと通れそうになる。
むしろ、動悸がしてきた。女性の身体に興味はないけども!!
「はぁっ……身体が熱いです」
「……まさか……媚薬を飲んだの?」
「そんなものは飲んだことありません」
「じゃあ、あんたは何しに来たのよ!」
「セルシスフィート伯爵夫人の偽物を……」
「……っああ、もう! ……身体が熱いのではないの?」
「熱いです……っ」
先ほどから、熱いと思っていた。それが、今では身体が火照るような感覚が始まっている。
「やっぱり、媚薬を飲んだんじゃない」
呆れ顔でため息を吐いた偽物に、媚薬を飲んだ記憶がない私は首を傾げた。
「あの……」
「会場で何も飲まなかったの?」
「お酒を飲みました。美味しかったです」
「ボーイが配っていたお酒を飲んだんじゃないの? あれは、媚薬入りよ。ボーイが、二人組の男女の側に配れるように近くを歩いていたでしょう? 媚薬のないものは、カウンターやテーブルの上に並べられていたはずよ」
血の気が引く。身体は熱いのに、青ざめてしまい上ずった声がでる。
「の、の、飲みました!!」
セイルと一緒にいたことで、今からお楽しみだと勘違いされたのだ。
では、セイルと一緒に来たせいで危険が差し迫っていると言うことだ。
こ、これは、一人で来た方が安全だったということですか!?
なんてことでしょう!!
「げ、解毒剤は!?」
「あるわけではないでしょう。ここは、そういう社交場よ?」
どうしよう!?
ここで、不貞をするわけにはいかない。
クッと歯を食いしばって項垂れた。がくんと力が抜けて床に両手をついてしまう。
赤ら顔の私。しかも、あまりの私の情けない様子に偽物が呆れたかと思えば憐れみを向けた。
「あんた、本当に大丈夫? ……でも、媚薬は軽いものだから、……男女できたのなら、相手を呼んできなさいよ。同衾すれば収まるわよ」
「恋人ではないのですよ……それに、私にはウォルト様が……」
私が肌を合わせたいのは、ウォルト様だけ……それだけは、鮮明にわかる。
「どっちでもいいから、この縄をほどきなさい」
「でも、逃げられたら困りますし、今は、もうそんな力はありません……」
呼吸を整えようと、必死で床を睨む私の発言に、偽物の額に青筋がさらに浮かんだ。
「……あんた……本当に何しに来たのよーー!!」
「ウォルト様のところに帰らないと……」
とにかく帰らなければ……そう思い、ゆっくりと立ち上がった。軽い媚薬だからか、何とか立てたけど、歩いているのに、どこかふらついている感覚に陥る。でも、意識もしっかりとしているし、歩いている自覚もある。
「ちょっとっ、待ちなさい! これをほどきなさいよ!! 放置プレイもオプションよ!!」
「でも、ウォルト様のところに帰らないと……後日改めてお話に参ります。ごきげんよう」
「そうじゃないでしょ!!」
名前も、どこの令嬢かも知らない。それさえも、聞くことが頭にないままでウォルト様の名前を呟きながら歩いた。
「ウォルト様……」
「……ティアナ?」
廊下の壁を支えにもたれて、ウォルト様の名前が自然と口から出ると、私に影が差した。
火照った顔を上げれば、冷たいウォルト様の目が合う。
「ティアナ! どうしたんだ!?」
「ウォルト様……私……媚薬を飲んでっ……」
甘えたような声で泣きそうになる。すると、ウォルト様の目つきがさらに鋭くなった。
「媚薬……?」
そして、ウォルト様の手が勢いよく伸びて私の頭を掠る。壁を背後にウォルト様に挟まれたと同時に、壁が壊れる音がした。
「ひっ!!」
声にならない声がでる。
頭の横の壁は、ウォルト様の手がめり込んでいた。
壁にドンと押しやられて、手をめり込ませる人なんているのだろうか。青ざめてしまう。
「ティアナ……何をしているんだ」
ウォルト様が顔を近づけて来て言う凄んだ声音は恐ろしい。今から、戦場にでも出るのではと錯覚させる。でも、そんなことよりも、身体の火照りがそんな思考を消した。
「怖いです……ウォルト様……」
近づいているウォルト様の胸に縋った。抱き着くように触れれば、ウォルト様の腕が私を包み込んだ。
ウォルト様が視線を部屋に移すと、部屋にはベッドのそばにいる縄で縛られた私の偽物を彼が見た。
「……あれは何だ?」
「私、ウォルト様が……」
そう言うと、ウォルト様がジッと私を見つめる。
「俺がどうした?」
「ウォルト様がいいの……ウォルト様が好き……」
弱々しい声音で言うと、ウォルト様が何も言わずに私を抱き上げた。
「……媚薬を知らずに飲んだみたいよ。始めてだろうから、良く効いているのでしょうね」
「媚薬……なぜ、そんなことに……」
「というわけで、この縄を解いてくださいな。あなたなら、相手をしてもいいわよ」
「知らん。縛った奴に頼め」
縛られた偽物に興味を見せないウォルト様が、私を横抱きに抱きかかえたままで、歩き出すと、必死で縛られた偽物が叫んだ。
「縛ったのは、大事に腕に抱いているその娘よ!! 責任をとってちょうだい!!」
「ティアナが? ……何をやっているんだ……」
怒ったままのウォルト様が、嫌そうに私の頭もとでため息を吐いていた。
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