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旦那様はお怒りです 5

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王都の中心にあるルギウィス王城。
その城にあるアルフェス殿下の自室に、ティアナの誤解を解くために来ていた。

「ティアナが遊んでいるという噂は、噂だけではない。最近では、夜会でも姿を確認されている。私は会うことはなかったが……」
「ですが、ティアナではありません。彼女は誰とも経験がなかったのです」

間違いない。ティアナは純潔だった。

「部下が、ピンク色の髪のセルシスフィート伯爵夫人を見たと言っていたが……」
「その者は、ティアナの知己ですか?」
「そうではない」
「なら、絶対に違います」

きっぱりと言い放つと、アルフェス殿下が一呼吸置く。

「ティアナではないのは、わかった。だが、一度広まった噂を消すのは難しいぞ」
「それでも、ティアナを責めないで頂きたい」

椅子に腰かけたアルフェス殿下を冷たく睨む。

「あれは、悪かった。ティアナには、後日詫びる。だから、私を睨むな」
「そう思うなら、頼みがあります」
「詫びの品が欲しいなら、何か贈るぞ」
「物ではなくて……」



秘密の夜会に来ると、普通の夜会と何ら変わりない。違うのは、顔がわからないように、仮面をつけていることだろうか。

「セイルも、こんなところに出入りしているのね」
「俺は、来ない。でも、若い貴族は遊びに来ることは多いんだよ」

そう言って、通り過ぎざまにボーイがトレイに持っているお酒をセイルが取ってくれる。
周りを見渡せば、仮面ごしでアリス様がわかるのだろうかと、不安になるけどとにかく遊びを止めさせなければ、私が全ての火の粉を被っている状況だ。

「……ティアナ。来たぞ」

セイルが耳打ちする。彼の視線の方向を見れば、私と同じピンク色の髪を結わえたドレス姿の女性がやって来た。

来るなり、男を誘うように慣れた様子で色んな男性に近づいている。

「私に似ているかしら?」
「ティアナを知らない人なら、名前を名乗られたら、別人かの区別はつかないだろう」

セイルとお酒を飲みながら気づかれないように観察していると、今夜の獲物が決まったのか、男性に垂れかかり二人で会場を出ていく。

「どこに行くのかしら?」
「ご休憩用の部屋があるはずだ」
「では、こっそりと行きましょう。セイルは、ここまででいいわよ」
「一緒に行く。何かあれば困るだろう」

そう言って、恋人だと疑われないようにセイルと腕を組んで尾行を始めた。
会場を出ると、部屋がいくつもありその中の一つに入っていく。
セイルと二人で視界の狭い仮面を外す。

「怪しいわね」
「だから、そういうことをする部屋なんだよ」

セイルとともに、腰を下ろし、廊下の角にへばりついて見ていた。そして、部屋に入ったところを確認する。

今、突入すれば、現行犯になるだろうか。

「セイル……考えていたのだけど、あの偽物が誘った時に、ウォールヘイトのティアナだと名乗ったのかしら? 証拠がないままで突入しても大丈夫かしら?」
「……今それを言う?」
「今、思いついたのよ」

呆れた顔でセイルが言う。

「セイルは、夜会会場でティアナと名乗っていたか聞けないかしら? 私が行くと、怪しまれそうだわ」
「そりゃあ、男同士なら聞けるけど……」
「私は、とりあえずアリス様を捕まえるわ」
「大丈夫なのか?」
「間違っても、セルシスフィート伯爵邸での態度を直すようにする取引には使えるし、大丈夫でしょう」
「本当っーに大丈夫なのか!?」

何をする気だ、と言いたげにセイルが再度確認する。

「大丈夫です。それにしても、ここは熱いですわね」
「そう言えば、そうだな……とにかく行ってくる」
「お願いします」

片手で仰ぎながらセイルが会場に戻り、熱いなぁと思いながらそっと部屋の扉に耳を当てた。
何かの会話らしいものは聞こえるが、艶めかしい声とは違う。
さすがに事を致している最中には飛び込めない。飛び込むなら今しかない。

そう決意して、勢いよく扉を開けた。

「失礼しますわ!」
「きゃあ!!」
「……っ誰だ!? 取り込み中だぞ!!」

男に跨っている私の偽物を演じているアリス様が、乱れたドレスを抑えて身体を隠そうとする。跨られた男は、こちらも乱れた上半身を起こしながら驚き怒っている。
取り込み中なのは知っている。だから、来たのだから。

「アリス様。そこまでです。すぐにセルシスフィート伯爵邸に帰りますよ!」
「はぁ!」
「ぶ、無礼ですわ! 私を誰だと思っているのです! セルシスフィート伯爵夫人ですよ!! さ、下がりなさいっ」

上ずった震えるような声音で、私の偽物が叫んだ。

「下がりません!」

ベッドに近づいてアリス様を捕まえようとすると、ちょうどいいところに縄がテーブルの上に置いてある。

「まあ。ちょうどいいですわ」

ナイス縄! と思いながら縄を取った。そして、ベッドの二人に近付いて縄をパンッと音を立てて左右に引っ張る様に広げた。

「きゃあ」
「止めないか!!」

縄を掴んで縛り上げようとすると、男が抵抗してくる。

「少しだけ大人しくしててください」

そう言って、細めた視線で男に向かって手を伸ばして魔法を放つ。「ぎゃっ」と変な声を出して男が乱れた服装のまま、一瞬のショックで気絶した。

「何するのよ!」

髪を振り乱した偽物を後ろから縛る。適当に縛っているせいか、雑な縛り方だ。
そして、背後から縄をグイッと引っ張った。

「きゃあ!」
「さぁ、帰りますよ。アリス様には、少しお話があります」
「だから、アリスって誰よ!!」

振り向いた怒り狂っている女性の顔に、今度は私が躊躇した。思わず、目が点になる。

「だ、誰ですかぁ!?」
「あんたが誰よ!!」

そこにいたのは、髪色がピンク色のまったく知らない女性だった。



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