9 / 83
決闘!!
しおりを挟む夜になれば、決闘のためにマクシミリアン伯爵邸の庭にいた。決闘のために勇ましい衣装に着替えているルイーズ様と、いつもの晩餐用のドレスのままで2人で睨みあっていた。
周りはシリル様を筆頭に、使用人たちが集まって見ていた。冷や冷やする者もいれば、目がテンになって見ている者もいる。
「ふん。その格好はなんです? 決闘をする前から、白旗を上げるつもり? ですが、許しませんわよ」
「仕方ありませんわ。晩餐にはドレスがセオリーですのよ」
「ま、まさか、先ほどまでのんびり晩餐をしていたと……!?」
「当然ですわ。お腹が空いたら、どうしますの?」
「何を考えているの!?」
「早く終わらせて、ゆっくりと眠ろうと思っております」
「なんですってっ……! 勝てないと思うなら、今すぐに負けを認めて出ていきなさい! この婚約破棄女!!」
「……喧嘩は買わない主義だと言いましたわ。はっきりと言えば、いつもならこんな面倒事は嫌いなのです」
はぁーー、あからさまにため息を吐いた。
「ちなみに、決闘の契約書もお持ちしましたわ。どうぞ、あなたもこちらに宣誓してください」
__決闘の勝者は相手の言うことを一つ聞く。
決闘の契約書には、そう記されていた。
「よろしくてよ! このルイーズ・ウェルティ。勝利の報奨を望みますわ!! 勝利の報酬は、キーラ・ナイトミュラーがリクハルド・マクシミリアン伯爵と婚約破棄をして、マクシミリアン伯爵家から出ていくことです!!」
ルイーズ様がフルールを騎士のように掲げて叫んだ。
「では、私、キーラ・ナイトミュラーは魔法の契約書に従い、ルイーズ・ウェルティの家庭教師解雇後、マクシミリアン伯爵家からの退去を望みますわ」
ルイーズ様が宣誓で叫ぶと、魔法の契約書の文字が光った。魔法の契約書だけはウソを書けない。魔法の契約書が私たちの決闘を受理したのだ。
「これで、逃げられませんわ」
「お黙り! 構えなさい!」
怒らせたルイーズ様が、フルールを持って構える。もう、私と会話する気はないのだろう。それを、見据えて手を軽く掲げた。
「武器が用意できなかったなど、言い訳は認めませんわよ!」
えいっと、叫びながらルイーズ様がかかってきた。
「別にいいですよ。私は武器を持つことは禁じられているので……」
そう言って、視線鋭く見据えてルイーズ様の足元を見た。手を軽く掲げれば、グリモワールが現れる。魔法を使えば、グリモワールがパラパラと風に煽られるようにページが開いていた。
「炎魔法、『火焔円舞(ヴォルティックフレイム)』」
「……っ!!」
静かに唱えると、ルイーズ様の周りに炎が円を描いて立ち上った。私に向かって突きかかって来ようとしたルイーズ様は、つんのめりそうな足を止めて炎に囲まれていた。
「キャアァ!? 何よ! これ!!」
「私の上位炎魔法です。そこから出なければ、炎に焼かれることはありませんわ。大人しくそこで立っていることをお勧めします」
笑顔で言う。ルイーズ様の姿が炎に包まれているために、表情はよくわからないが、きっと歯ぎしりをして悔しがっているだろう。思い浮かべるだけで、笑いが零れそうになった。
魔法を使う私は、魔力が高いと言われていた。
子供の時はうまく使えず、しかも、何度も邸を壊したから、必要時以外はあまり使わないことにしていた。邸を壊すなと、何度もお父様に𠮟られていたし。
でも、ふしだらな令嬢と噂がたった原因のあの夜会。襲われた時に未遂で済んだのは、襲ってきた男を魔法で吹き飛ばしたからだ。
そして危ない令嬢となり、ラッキージンクスと噂があるにもかかわらず、私に縁談を申し込む人はいなくなった。
たぶん、その噂も有名だからリクハルド様も知っているだろう。私が男に襲われたと。
それでも、彼は私と婚約を結んで結婚も考えていると言った。物好きと言えばそうなのだろうけど、後がない私は少し驚いてしまった。
そして、シリル様。子供があんな目に合うのは嫌いだ。そのためなら、魔法も使うことに抵抗はない。
「だから、私、本能に従うことにしましたの」
「何の話よ!」
「あなたには、お仕置きが必要ということですわ」
「いいから、ここから出しなさい! 卑怯者! これでは、決闘にならないわ!」
「何もおっしゃっているのです? これは、正式な決闘ですわ。私の武器は、魔法です。私がグリモワールを出したところを見たでしょう? そんなフルールではありませんもの」
そして、魔法の契約書が違反の発動をしないということは、私が魔法を使っても決闘に問題はないということ。武器の制限をしないのは、ルイーズ様の落ち度だ、武器を持っても負けるつもりはないけども。
「自分の武器を調達するのは、当然でしょう!」
「どうせ、私に勝とうとして、急いで高級で殺傷力のあるフルールを準備したのでしょう?」
はぁーーとわざとらしくため息を吐いた。
「そうでなかったら、決闘の時間を今夜にする必要はなかったですものね。ちなみに、私はシリル様とお茶会をしたかったので、今夜を希望してましてよ? あなたと違って、とっても楽しいお茶会を開催できましたわ」
ルイーズ様が見えないほど燃え盛る炎に向かって言い切った。笑顔は素晴らしい。きっとこれならシリル様も怯えることはないだろう。
「そろそろ、構えたほうがよろしくてよ? 炎に包まれているから全く見えませんけど? まぁ、どっちでもいいですわ」
「まさか……焼き殺す気!?」
「雷魔法『落雷(ライトニング)』」
ピリッとルイーズ様の頭上から音がすれば、一瞬で一閃の雷が落ちた。
「キャアァァーー!!」
ルイーズ様の悲鳴が庭中に聞こえた。
「あら、素直にフルールを構えたのね。おかげで避雷針代わりになりました。好感度はマイナスでしたけど、雨露一滴ぐらいの好感度にはなりましたよ」
そして、バタンと倒れた音がして、私は炎の魔法を解いた。
655
あなたにおすすめの小説
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。
楠ノ木雫
恋愛
若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。
婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?
そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。
主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。
※他のサイトにも投稿しています。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる