文字の大きさ
大
中
小
8 / 83
私、剣術を嗜んでおりませんの
私の部屋に到着すると、借りてきた猫のように落ち着かない様子のシリル様。そして、急いで執事が下僕(フットマン)を引き連れてお茶を持って来た。
次々に並べられるお茶やお菓子の数々に、シリル様の目を輝いている。
やっぱり、食べたかったのだと思う。
じっとシリル様を見れば、茶髪に薄い琥珀色の瞳。確かに、リクハルド様には似てない。顔立ちすらだ。
でも、リクハルド様が子供だと言って育てているのだから、気にする理由はない。
気にするべきなのは、あのクズ女の言動だ。
子供にあんな酷い暴言は許せない。いくら母親が他界していても、それをいいことに子供に向かって母親のことを不貞女と言い、穢らわしい子供などというのは言語道断だ。
ふっ……絶対に痛い目を見せてやりますわ。
「キーラ様……練習はしないのですか?」
「何の練習ですか?」
「ルイーズ様は、剣術をしていて……強いとよく自分で言ってました」
「あら、そうなのですか? でも、大丈夫ですよ。シリル様はお優しいのですね」
ずっと、ひどい目にあっていたのはシリル様なのに、私を気にしてくれるなど天使ではないだろうか。
「私は今夜の英気を養うために、たくさん休んで、食べますわ」
シリル様が可愛くて笑顔で返した。部屋には、お茶のいい匂いがしてくる。
「ケヴィン。シリル様のお茶はミルクにしてください。温かいミルクがいいと思います。シリル様は少しお疲れですわ」
「いいのでしょうか?」
「いいに決まってます」
きっぱりと言い放った私に逆らえず、執事が暖かいミルクをシリル様用に入れ始めた。
横目で見ると、ちゃんとお砂糖も入れている。やはり、子供向けのミルクの作り方を知っているのだ。でも、ルイーズ様が出させないようにしていた。だから、執事は戸惑い確認してくる。
ルイーズ様の発言や教育の様子、そして、ルイーズ様を気にする執事たちの言動に、シリル様への対応が伺える。
乳母も教育係も貴族の子供にとっては特別だからだ。
「さぁ、シリル様。私と一緒にお茶をしてください。一人で食べるのが、寂しかったのです。だから、一緒にたくさん食べましょうね」
「はい」
そう言って、シリル様に焼き菓子をお皿に乗せて差し出した。温かいミルクを執事がシリル様に差し出すと、また頬を可愛らしく染めたシリル様。それをそっと飲み始めるシリル様。言葉にできないほど可愛い。
「ふふ……美味しいですわね。シリル様」
「……はい」
「シリル様、私は婚約破棄をされるまではマクシミリアン伯爵邸にいますから、これからも一緒に過ごしてくださいますか? もちろん、シリル様の時間のお邪魔はしません」
「一緒に? 何をすればいいんですか?」
「……そうですね。こうやって、一緒にお茶をしたりして過ごしましょう。美味しいお菓子もこうやって食べるのですよ」
そう言って、焼き菓子にフォークを刺して食べて見せた。私にならいシリル様も食べ始める。
「……美味しい」
シリル様が驚いたようにお菓子を一口、一口と食べ始めた。
「そうですよね。とっても美味しいですわ。ケヴィン。料理長に、お菓子が美味しかったとお伝えください」
「はい。光栄でございます」
給仕をしているケヴィンが頭を下げた。頭をあげたケヴィンは、何か言いたげだ。
「どうしましたか?」
「いえ……その……本当にルイーズ様と決闘を?」
「ええ。コテンパンにやっつけてやろうと思っております」
「だ、大丈夫ですか? ルイーズ様は、学院時代から剣術を嗜んでおりまして……」
「そう言えば、そんなことも言っていましたね。でも、恐れる理由がありませんわ」
「ぶ、武器を用意しましょうか? 得意な武器があれば……」
「私、剣術を嗜んでおりませんの。無駄ですわ」
「は?」
私を心配するケヴィンに他人事のように応えて、肘をついてお菓子を食べているシリル様を見た。
「シリル様。いろいろあると思いますが……嫌な奴は、私と一緒にやっつけましょう。虐める奴には容赦は無用ですわ」
「……ルイーズ様みたいにですか?」
「ええ、今夜の決闘を見せて差し上げますわ。夜更かしはできるかしら?」
「で、できます!」
「いいお返事ですわ。では、頑張って今夜は起きておきましょうね」
「はい!」
テーブルいっぱいの美味しいお菓子と温かいお茶とミルク。そして、呆れかえ青ざめている執事たち。そんなお茶会をシリル様と堪能した。その後は子供らしくお昼寝するシリル様と一緒に眠っていた。
感想 13
あなたにおすすめの小説
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみお節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
*異世界、魔法のある世界です。
*色々ゆるゆるです。
*本作品の無断転載・AI学習への利用を禁止します。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
政略結婚のはずが、完璧公爵の溺愛が子リス系令嬢を解き放ちました
宮野夏樹 「冷徹」と噂されるヴァレリオ公爵ジュリアンと、淑女らしからぬ「男前」な本性を隠すリシェル伯爵令嬢。
政略結婚で結ばれた二人は、すれ違うばかりの初夜を過ごし、互いの距離は開く一方だった。
だが、ある秘密の趣味が露見したことで、完璧な公爵の仮面が剥がれ落ち、リシェルへの底なしの溺愛が止まらなくなる! 完璧主義の公爵が、リシェルを「可愛いもの」と認識した瞬間から、公爵邸は甘く蕩けるような空気に包まれる。
一方、執拗な嫌がらせを繰り返す邪魔な存在、シャルロッテの出現。
しかし、ジュリアンは「俺の可愛い妻を傷つける者は、決して許さない」と、その絶対的な愛と庇護で全てを排除。
そして、リシェルの長年のコンプレックスだった「男前」な本性も、ジュリアンの愛によって全て肯定され、真の幸福を掴む。
完璧公爵の強すぎる愛で、政略結婚から始まる「愛され新婚生活」は、予想もしない甘さで満たされていく——。
※以前投稿したものの修正版です。
読みやすさを重視しています。
おかげさまで、先行公開サイトにて累計100,000PVを突破いたしました!
感謝を込めて、記念の番外編をお届けします。
本日、改稿版もこれにて完結となります。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
節目には、達成祝いの話を投稿しますので、これからもヴァレリオ公爵家を温かく見守っていただけると幸いです。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
保護して育てた皇子に殺されたはずなのに、彼はいまだに前世の私に執着しているようです
廻り 治療魔法師エルは、宮廷魔法師試験の際に前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界でエルは、ヒーローである冷徹皇帝の幼少期に彼を殺そうと目論む悪役。
その未来を回避するため、エルは夢だった宮廷魔法師を諦め、平民として慎ましく生活を送る。
そんなある日、エルの家の近くで大怪我を負った少年を助ける。
後でその少年が小説のヒーローであることに気がついたエルは、悪役として仕立てられないよう、彼を手厚く保護することに。
本当の家族のようにヒーローを可愛がっていたが、彼が成長するにつれて徐々に彼の家族愛が重く変化し――
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
楠ノ木雫 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。
「お前との婚約は破棄だ」
ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)