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成敗!!
しおりを挟む……いったい、これはなんだろうか。
帰宅が遅くなったと思いながらマクシミリアン伯爵邸に帰れば、邸では炎が円柱のように燃え盛っていた。言葉が出なくて、呆然とする。
確か、昨夜からキーラが来て婚約を結んだ。朝はさっそく彼女の見送りのもと邸をいつも通り出ていった。キーラと婚約をして邸に来たこと以外は何の変わりのない朝だった。
それが、なぜ、邸の庭が焼けているのだ?
「シリル!」
「お父様……」
ほとんどの使用人たちまでもが呆然と燃え盛る炎を見ているなかで、シリルを見つけた。すぐに駆け寄ると、いつも無表情なシリルまでもが目を大きく見開いて驚いていた。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
シリルの前にしゃがみ込んで無事を確かめれば、こくんと頷くシリル。いつも通り、あまり喋らない子だ。
「これは何事だ? キーラはどこだ?」
「あの……」
シリルの視線の先を追うと、炎の前にキーラがニコニコ笑顔で立っていた。意味が分からん。時折、キーラの怪しい笑い声も聞こえて、シリルは何がなんだがわからないままで呆然としている。
シリルのそばにいるケヴィンを問いただそうとすれば、シリルが珍しく話しかけてきた。
「お父様……」
「どうした?」
「……ルイーズ様が、嫌です。先生はいらないです」
「……そうか……」
今まで言えなかったのか、言いにくそうにシリルが言った。理由は言わない。子供だから説明がうまくできないのだろうか。
そっと抱き上げれば、シリルが珍しく手を回して抱きついてきた。
「シリル。そういうことはもっと早く言いなさい」
「ごめんなさい……」
「謝る必要はない。お前は悪いことをしてない」
「お邸も燃えちゃった……」
「見たところ、燃えているのは庭だけだ。邸は大丈夫だな」
執事たちが、急いで水をかき集めて消火に当たろうとしている。
「……よくわからんが……炎を消すか……」
♢
自分で炎魔法を消すと、服が少しだけ焼けたルイーズ様が倒れていた。魔法の契約書の契約書を見れば、勝者キーラ・ナイトミュラーと光った。ついでに敗者ルイーズ・ウェルティの名前の上には、バツ印が魔法で浮かんでいる。
ふふふ……と怪しい笑みが零れた。そして、魔法の契約書を掲げてシリル様に向かって駆け出した。
「シリル様! 見てましたか? クズ女っ……ではなくて、悪漢にはお仕置きをしましたので、スカッとしましたでしょう?」
いけません、私。子供のシリル様には、汚い言葉を使わないようにしないと!
慌ててクズ女から悪漢へと言い換えて楽しそうにシリル様に向かうと、そこにはリクハルド様がシリル様を抱っこして立っていた。
「シリルなら、眠っているぞ」
「ええっ! やっぱり、子供に夜更かしは無理でしたか……やっつけたところを見せたかったのに……」
クッと拳を握って言った。
リクハルド様がシリル様を見せるとすやすやとリクハルド様に寄りかかって眠っていた。いったい、いつの間に……!
「リクハルド様? いつお帰りに? 申し訳ございません。私ったら、お出迎えもしなくて……」
「出迎えする気があったのか? それどころではなかったようだが……」
「も、もしかして、見てました?」
「見たのは、今しがただが……」
「そ、そうでしたか……」
これで、婚約破棄をされるだろう。婚約者がこんな攻撃的な令嬢は絶対に嫌われる。
ああ、短い夢だった。シリル様が可愛くて、このままここにいたいと思ったが、これではルイーズ様ではなくてリクハルド様に「婚約破棄だ!」と言って追い出される気がする。
せめて、追い出される前に言いたいことだけは言っておこう。
「リクハルド様!」
「どうした? 急に大きな声を出して……」
「お話があります!」
「俺もあるが……シリルをこのまま寝かせたい。先に部屋に連れて行っていいか?」
「まぁ、私ったら気が利きませんで……でも、今夜は私のお部屋で休ませて頂いていいでしょうか?」
「シリルと? なぜだ?」
「シリル様が可愛いからです」
「……」
驚いたリクハルド様が、言葉に詰まる。
「ええーと……それは、どう思えばいいのだ?」
「そのままです。シリル様は天使ですよ。それに、今日はいろいろあったので、一人にはさせないでくださいね」
「天使か?」
「はい。こんな可愛いお子様は初めてです!」
「そ、そうか……わかった。では、今夜だけはキーラの部屋に連れて行こう」
「はい。でも、毎日でもかまいません」
すると、リクハルド様が至極いやそうな顔で私を見た。
「何ですか? その嫌そうな顔は?」
「別に」
元の冷たい表情に戻ったリクハルド様が歩き出した。彼を見れば、シリル様を抱っこしている姿は微笑ましい。なんだが、嬉しくなる。
「キーラ。早く一緒に来てくれ。君の部屋で寝かせるのだろう」
「はい。すぐに」
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