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母親の肖像
しおりを挟む夜になれば、夜会のドレスへと支度をした。
リクハルド様から贈られたドレスは、珍しい銀糸に青地がかすかに混じっているものだった。
「……私に似合うかしら?」
綺麗だなと思いながら、部屋を出た。
夜会に行く前にシリル様にお会いしてから行こうとして邸の廊下を歩いていると、扉が半開きになっている部屋があった。覗くと、シリル様が絵画をジッと見上げていた。
「シリル様。こちらにいましたの。ご挨拶をしてから行こうと思ってましたが……肖像画ですか? シリル様は絵画に興味がおありですか?」
ブンブンと首を振るシリル様が、そっと私のドレスを握って私を引っ張った。絵画の前に来て見れば、どこかで見たような気がする美しい女性の絵だった。
「綺麗な方ですね」
すると、シリル様が嬉しそうに頬を染めた。
「お母様です。お父様が、お母様の絵だと言ってました」
「こちらがシリル様の……」
どこかで見たことはあると思ったのは、シリル様の母親だからだ。きっとシリル様に面影が残っているのだ。
美しい方だ。私と同じ赤髪。いや、少し私よりも薄い赤色。微笑むような表情で、絵に収まっている。リクハルド様は、婚約者が浮気をして子供まで隠れてもうけていたのに、大事に肖像画を残している。
まだ、セアラ・シンクレアを想っているのだ。
「ここの邸に来れば、お母様の絵がみられるんです。キーラ様。こっちにもあるんです」
シリル様が嬉しそうに私の手を引いてほかの絵も見せてきた。
「まぁ、たくさんありますね……お母様にお会いできてよかったですね。シリル様」
「はい」
シリル様の目線に合わせてしゃがみ込んでそっと頭を撫でた。いつもよりも嬉しそうな表情を見せたシリル様が、私に抱き着いてくる。
「……夜会にお父様と行くんですか?」
「ええ、貴族の務めですわ。でも、久しぶりの夜会ですから、少し緊張してます」
「じゃ、じゃあ玄関までお送りします!」
「はい。嬉しいですわ。でも、シリル様はこちらでまだお母様を見ていたいのでは? だから、ゆっくりとしていていいのですよ。……私は帰れば、シリル様のお顔を見に行きますので、夜更かしせずに寝てくださいね」
「はい。絶対にきてくださいね。キーラ様」
私に手を振ってくれるシリル様を置いて、玄関へと行くとすでにケヴィンが馬車を準備して待っている。
「あら、ケヴィン。お待たせしたかしら?」
「いえ、時間通りです。ドレスもお美しゅうございます」
「そう……では、行って来ますね」
「はい。お気を付けていってらっしゃいませ」
元気のない返事をした私に、ケヴィンが一抹の不安を覚える。それでも、表情には出さないで、私を見送った。
シリル様は、やはり私ではなく母親が恋しいのだろう。
リクハルド様は、セアラ・シンクレアを見せるために、私とは別行動で出発したのかもしれない。
リクハルド様なりに、私に気を遣ったのだろうか。
「……」
ちょっとだけ寂しい気持ちになる。急いでやって来ても、結局は予定よりも遅くなっているし……もの寂しい気持ちのままで馬車は夜会へと向かっていた。
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