子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

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ちょっとどころではない


「どうしました? シリル様。もしかして、寂しかったですか?」

もしそうなら、天に上るほど嬉しい。シリル様がこくんと頷く。可愛すぎる。今にも小躍りしそうなほど喜んだ。

「会いたかったです。お父様と待ってました。おやつも……」
「おやつ?」
「シリルが、キーラが来てから食べると言って、まだお茶をしてないのだ」
「まぁ! なんて可愛いのでしょう! すぐにお茶をしましょう!」

シリル様と手を繋いでいそいそと邸へと入ろうとすれば、リクハルド様が叫んだ。

「ちょっと待て! 俺は!」
「もちろんご一緒でよろしいですわ」
「……っ!」

舌打ちをするリクハルド様の背後では、使用人たちが気まずい様子で荷物を運び入れている。

「あら、そうですわ。荷物は、後ほどまた届きますけど、そちらのドレスはすぐにお部屋へとお願いします」
「はい。奥様」
「だから、奥様ではないですよ。さぁ、シリル様。おすすめのお茶を教えて下さいね」
「はい。ミルクが美味しかったです」
「では、今日のお茶会はミルクティーでお願いしますわ」

背後から、リクハルド様の不穏な空気を淀んでいる。シリル様が、思わずリクハルド様を見てビクッとした。久しぶりの再会のシリル様に浮かれた私は、気づかないままでお茶を準備しているテラスへと向かった。

テラスにはアフタヌーンティーが準備されており、さっそくシリル様の隣へと座った。

「王都は、まだ温かいですわね。でも夜は冷えますから、シリル様は温かくして寝てくださいね」
「はい」

今夜は、夜会だ。シリル様を寝かしつけることができないでいる。残念だなぁと思っていると、気が付けばリクハルド様が隣に座っていた。

「リクハルド様。いつの間に?」
「最初からここにいた!」
「そうでしたか。とっても美味しいお茶をありがとうございます」
「君の好きなミュントスの茶葉を持って来た。存分に飲め」
「はい。ミルクティーでも美味しいのですね。茶葉を味わいたかったので、いつもはストレートでしたが、ミルクティーも最高ですわ」

ミュントスの茶葉は高いのだ。そのうえ、数が少ない貴重な茶葉だ。だから、いつもはストレートで味わっていた。

「冬が終われば、収穫が始まる。春には数も増えるから、気にすることなく飲めばいい」
「はい」

美味しいお茶に、隣にはシリル様がいる。馬車は壊れたけど、諦めずにここまで来てよかった。しみじみ思う。

「それよりも、ドレスが破れているぞ。到着も予定より遅かった」
「魔物がでたので、魔法を使って対応しましたの。せっかく近道をしたのに、馬車が壊れて余計に遅くなってしまいましたわ」
「今度からは、普通の街道で来なさい」
「私としたことが、シリル様に会いたくてちょっとだけ興奮しすぎていましたわ」
「馬車が壊れて、ドレスも裂けているんだぞ。ちょっとどころではない。普通に来るんだ! 普通に!」

街道なら、魔物が出ないように対策が取られているから安全だったのだ。

「そうしますわ。だから、私とシリル様を引き離さないでくださいね」
「……誰が敵なのか、わからなくなってきた」
「敵がいれば、やっつけ……ではなくて対処すればよろしいですわよ」

頭を抱えるリクハルド様。私の破けたドレスも頭の痛いことのようだった。

「はぁ……では、俺は城に行ってくる」
「お城に?」
「殿下に呼ばれているのだ。マクシミリアン伯爵領のこともあるし……」
「まぁ、忙しいのですね」
「そうだな……キーラは、ドレスを着替えろ」
「そうですわね……お茶が終われば着替えますわ」

隣のシリル様に視線を移せば、美味しくケーキを頬張っている。微笑ましくなる。すると、リクハルド様が立ち上がった。

「シリル。土産を買って来る。何が欲しい?」
「え、と……お菓子?」
「では、何か珍しい菓子と、本を買って帰る。大人しく邸にいるんだぞ」

こくんと頷くシリル様。何かバツが悪そうにケーキを口に入れた。

「何かありましたの? シリル様は、お利口さんですわよ?」
「キーラが遅いから探しに行こうとしていた。君もどこにも行かないようにしてくれ。夜は夜会だ。城へは普通に来るように。必ず迎えに行くから……普通にだ」
「はい。準備していきますわ」

立ち上がったリクハルド様が私を見て言うので、笑顔で返した。隣を見れば、シリル様がずっとケーキを食べていている。思わず、笑みが零れる。

すると、リクハルド様が私の肩の手を回して顔を近付けて頬の軽くキスをされた。

「……っ!!」

一瞬のことに驚いて言葉も出ない。

「では、本当に行ってくる」
「は、はい! お気を付けて!」

声が上ずる。頬を押さえると、熱い気がする。私は恋愛初心者だと言ったのに、リクハルド様の仕草に戸惑い動悸がしていた。隣のシリル様は、フォークを咥えたままで、なぜかムスッとして眉間にシワが寄っていた。




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