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序章
氷狼陛下のご希望
しおりを挟む「あの……」
「フィリ―ネはここにいてくれ。君がいないと、俺まで休めなくなる」
「休め……?」
何の話かわからなくて、言葉に詰まるとフェリクス様は「人払いをさせているな」とヴァルト様に釘を刺すように確認した。
「問題はありません。侍女も今は自分の部屋に帰らせましたけど……」
怪訝な顔でヴァルト様が言う。
「口を出すなよ。フィリ―ネなら大丈夫だ。ここ数日観察してきたが、彼女はうるさい女とは違う」
「あの……フェリクス様?」
「フィリ―ネは、ここにいてくれないか? 婚約者といれば堂々と休めるんだ」
「……もしかして、毎日お茶の時間を取ってくださっていたのは……」
「フェリクス様が、忙しい中で休憩を堂々とするためです」
フェリクス様が言う前にヴァルト様がきっぱりと言い放った。
「お休みが欲しかったのですか?」
「……まぁ、そうだな。フィリ―ネは正式な婚約者だから、二人でいる時は誰も近づいて来られないからな。誰が見ても婚約者を大事にしている陛下に見えなかったか?」
……謎が解けた瞬間のようだ。恋人のように触れてくる時があってもフェリクス様が私に好意があるかどうかわからずに、そのうえ彼は素っ気ない時もあったのだ。
「もしかして、人前で……その……」
「俺がフィリ―ネを大事にしているとアピールしていれば、フィリ―ネに会いに来られる口実ができるからな。休みやすいんだ。それに、そうしていれば他の女は近づかなくなる」
「女……?」
「幾人もの貴族に、娘を妃にと勧められて困っていた。寄ってくる女にも興味がない」
手を引かれて、また同じソファーに座らせられると、ヴァルト様がお茶のおかわりを淹れながら話した。
「みな、フェリクス様の妃になりたがっていたのですよ。このご容姿ですし、令嬢たちからの視線も熱いと言いますか……」
「熱いどころではない。寝所にまで送り込まれてはたまらん」
「あれは、第一殿下だったアイザック様のご厚意らしいですから……」
「なにがご厚意だ。白々しい」
不機嫌な様子で、ソファーにもたれるフェリクス様。どうやら、私はフェリクス様の女よけらしい。
人前で私を可愛がっていたのは、フェリクス様の女よけのためで彼のお気に入りが私だとアピールするためだった。
呆然と聞いていると、私がショックを受けたと勘違いしたのかフェリクス様がしまったという表情をみせている。
「別に誰でもよかったというわけではないぞ。フィリ―ネだから話したし、お前のことは気に入っている」
「そうですか」
淡々と返事をすると、フェリクス様は軽くため息を吐いた。
「……フィリ―ネは何かないか? 願いはないか? 何でも聞いてやるぞ。困ったことがあれば言ってくれればいい。必ず助けよう」
「特には……」
考えていても私には、なにも願いなどない。
「……あの侍女はどうだ?」
昔からいるジルは、確かに困った侍女だけど……
人とあまり話すことのなかった私には、ジルのことをどう話していいのかわからなかった。
悩む私にフェリクス様は何かを察したのか、頭をポンポンと撫でた。
「話したくなったら話せばいい。フィリ―ネの話は聞こう。二人でいる時間はあるから、いつでも大丈夫だ」
「はい……」
フェリクス様は優しかった。うまく話せない私を責めることも見下すわけもなく否定もしない。それだけで、私には彼との時間は無駄ではないのかもしれない。
そして私は、フェリクス様の休憩及び女よけのために毎日お茶をすることになった。
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