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第一章 フェンリル
白い狼
アマンダ様が「本日はここまでにしましょう」と言って本を閉じた。
「今日は終わりですか?」
「はい。フェンヴィルム国に来てから、毎日頑張っていらっしゃいますからね。フィリ―ネ様は、尊大でもなく無駄口を吐きません。それは妃には必要なことです。でも、もう少し社交性を身につけましょうね。でも、それも陛下といれば身につくでしょう」
毎日フェリクス様がお茶に誘いに来ることを好ましく思っているようで、本を片付けて行こうとするとアマンダ夫人がそれを止めた。
「あぁ、ジル。あなたがフィリーネ様の本をかたづけてちょうだい」
「私がですか……」
「当然です。侍女なら言われなくてもできるようにしましょうね。さぁ、フィリーネ様は、フェリクス様をお待ちくださいね。今日は庭の温室にお茶を用意しているようですよ。陛下をお待たせしないように先にいってくださいませ」
「は、はい!」
私の後片付けをするように言われたジルは渋々本を片付けだした。私はアマンダ夫人に背中を押されて部屋を出された。
庭にある温室へと行くと、温室の前には白くて大きな狼が座り込んでいる。
「……大丈夫? 怪我をしているの?」
白い毛皮には汚れと一緒に血もついており、その怪我した前足をペロペロと舐めている。
「治しましょうか?」
辺りを見渡すと、まだフェリクス様どころか誰もいない。今なら誰にもバレないだろう。
鋭い目付きにビクつきながらもそっと白い狼に近づいた。警戒しているようで、白い狼の毛が立っている。
おそるおそる手を伸ばすと警戒したように「グルルッ__」と喉を鳴らされてしまう。
「すぐに終わりますからね」
見たこともないほど大きな白い狼に癒しの魔法をかけると、ひどい怪我ではなくあっという間に治癒する。
怪我を確認すると私の魔法で治したことを理解しているのか、綺麗で透き通るような水色の瞳で私を見定めるようにジッと見て、お互いに視線を見合わす。すると、起き上がって近づいてきた。
私よりも大きくて、威厳を感じる白い狼に恐縮して後ずさりしてしまう。
「な、治しただけですから……」
慌てて、食べないでくださいと思いながらギュッと目を瞑ると、頬に温かい舌でぺろりと舐められる。
(感謝のつもりなのかしら?)
そう思いながら、目を開けると白い狼は私を包むようにお腹に寄せてきた。白い毛皮は意外と温かくて、冷たい雪の上に座り込んだ白い狼のお腹にもたれた。
「大人しいのですね……お利口さんなのかしら? 温かいわ……」
白い狼は、何か言いたげに軽く喉を鳴らすけど、何が言いたいのかさっぱりとわからない。
「何か言いたいのかしらね……? お話がしたいわ」
ジルは、兄上から遣わされた侍女。信用に値するかといえば違う。だから、話相手にもならない。
フェリクス様は、私が好きでも何でもない。ただの女除け。私が他国の王女だから……誰よりも身分が上になり、家同士のしがらみも繋がりもない。この国の令嬢たちのフェリクス様の妃を取り合うという揉め事が起きないようにするためだった。
王妃教育で言われるのは、もう少し社交性を身につけましょうということ。でも、私は人前には、出なかったと言えるほどあの離宮でしか過ごしていないのだ。
「城から出たのも、この国に来た時が初めてだったのよ……寒くて驚いたわ」
寒くていやな気持ちになったわけではない。新鮮な気持ちだった。離宮よりもはるかに上回る寒さが不思議にさえ感じたのだ。
白い狼にもたれながら撫でていると、白い狼が喉を鳴らしながらぺろりと舐めてくる。
「ふふっ……でも、フェリクス様が来られるから、あまり舐めないでくださいね」
ただでさえ愛されてないのに、汚い格好をみせて婚約を破棄されては困る。婚約破棄などされたら、自国に戻らなくてはいけない。やっと離宮から出られたのだから帰りたくない。
それだけで王妃教育も頑張っているのだ。
白い狼はずっと私の頭や身体を撫でていると思えば、何かに気づいたみたいで今度は私のドレスを引っ張り出した。何がしたいのかわからない。言葉もわからない。
「あなたと心を通わせられれば、私の話相手になってくれるかしら……」
白い狼の身体に触れてそっと呟いた。
「……ッガウッ__!!」
「……っ!?」
急に吠えられて驚き身体がビクリとした。そのうえ、一瞬光った。
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