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第二章 ユニコーン
奉殿の幻獣 5
しおりを挟むひびの入った壁から、軋む音がする。それを見た兄上が、私を罵倒する。
「お前などに、この奉殿が壊せるものか! なんの才能もなかったくせに!!」
「……才能はないかもしれません。でも、ずっと一人で魔法を覚えていました。癒しの魔法も使えたから、擦り傷が出来た時も自分で治していましたけど……」
だから、誰にも手当てなどされずに生きてきた。
「なら、なぜその魔法の力を使わなかった!? 母上が死んだのはお前のせいだぞ!」
「もうおやめください! いくら妹君を恨んでいるからと言って、親子以上に年の離れた陛下の妾に出そうなど、どうかしてます!!」
兄上が、私を責める。でも、何も言えない。病弱だった母上にはユニコーン様が必要だと知らなかったし、ここに連れて来られた意味など知らなかったのだ。
その瞬間に、フェリクス様の氷が飛んできた。それは、私を通り過ぎて兄上へと命中した。そのまま、兄上は気絶してしまう。
「うるさい。お前がリーネを恨んでいようがどうでもいい。リーネはフェンヴィルム国から返す気はないからな」
冷ややかな怒りがフェリクス様から、流れ込んでくる。自分が持ってなかった怒りの感情を始めて知った気分に襲われる。私は、怒って良かったのかもしれない。
でも、私にはそれさえなかった。
「王妃様……もう大丈夫です」
返す気はないと言ってくれるフェリクス様を信じている。私がしたかったことは、兄上たちに復讐することでも何でもない。私は、ここから解放されたかったのだ。それが今は叶っている。
杖を握りしめて、兄上たちに向かって掲げた。
「王妃様……私を蔑まなくてありがとうございます」
王妃様は、私に帰らないように、と言ってくれた。それが、私を思って言ってくれたことだとわかる。
「フィリ―ネ様は、何も悪くありません……私は……私は、自分を恥じました。自分の子が出来て、初めてフィリ―ネ様の境遇に心を痛めたのです……陛下たちのやっていることは間違ってます……だから、私は陛下に……フェリクス陛下から、結婚のお話が来た時に、いいお話だと、陛下に進言したのです……フェンヴィルム国は我が国よりも大国です……きっと守ってくださると信じて、陛下を説得したのです……私は、それまで……何とも思わなくて……」
途切れ途切れの言葉で子供を抱きかかえたままで俯いている王妃様は、まるで私に懺悔しているようだった。
王妃様が、私のことを知らなかったのは当然だ。私は隠された王女だった。きっと兄上と結婚してから、私の現状を知ったのだろう。
私が軟禁同様にされていたことは、数少ない人間しか知らなかった。
それに、誰もおかしいとは思ってなかった。
誰も陛下であった父上に異を唱える者などいないし、それが当たり前になっていた。
王妃様は、私の境遇を知っていても、子供をもうけるまでは、父上たちのしたことに、何の違和感もなかったのだろう。そんなものぐらいにしか思わなかったと思える。だから、気にすることさえなかった。
でも、自分の子が出来て、もし自分の子が同じように軟禁されたら……と初めて気づいたのだ。そして、王妃様が私をフェンヴィルム国へと後押ししてくれたのだとわかった。
母上が生きていたら、私の軟禁を止めてくれただろうか。不思議とそんな気がした。
そして、杖に力を入れると、空中に氷が音を立てて形を成していく。それを、フェンリルに言われたように壁に向かって飛ばすと、奉殿の壁が崩れていった。
すでに、雷だらけの奉殿は今にも崩れそうだったのかもしれないし、二度も当てたせいかもしれない。
フェリクス様は、それを満足そうに横目で見た。
そして、私は壁の穴から脱出できるように邪魔になる氷の塊を炎の魔法で溶かした。
「アリエッタ。子供がいます。王妃様たちを丁重にお連れください」
「はっ! かしこまりました!」
アリエッタは、王妃様に「失礼します」と言いながら寄り添い、ヴァルト様たちがフェリクス様に気絶させられた兄上を抱えて、空いた壁の穴から連れ出した。
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