勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
184 / 519

【92.5話】 バー・チェチェンの修羅場 ※少し昔の話し※

しおりを挟む
「リリアちゃん、居たんだ!ちょうどよかった!」
バー・ルーダの風の扉が開き、男が慌てて入って来た。
「チェチェンさん、この時間に来るって事は… あれね…」
宴もたけなわな時間、バーもそこそこ混んでいる。カウンターの裏で洗い物しながらお客の相手をしていたリリア。
「リリアちゃん、頼むよ、な?」チェチェンさんが困っている。
「コトロ、ちょっと行って来るわ」リリアがカウンターを出る。
「はいはい、いってらっしゃい」コトロの声を背に扉を閉める。

チェチェンは猫人のバー店主。ルーダの風のすぐ近くでバーを経営している。
そこそこ大きくて繁盛しているが、たまに酔っ払いが乱闘騒ぎを起こす。
連絡すれば組合から用心棒が派遣されるのだが、それも手一杯の時は勇者リリアに頼みに来る。

「リリアちゃん、すまんねぇ、明日のランチはご馳走するよ」
「セットね、ランチセット、デザートもね」リリアとチェチェンは小走り。
店は大騒ぎになっているらしく、店の前は野次馬が集まってきて騒いでいる。

「はいはい、通るわよ、どいて、どいて、国民の財産保護と治安維持活動よ!どいて!通してもらうわよ!」
人混みをかき分けて店に入る。やんやの騒ぎ。

「これはランチセットじゃ足りないよ。ディナーにご招待よ」リリアが呟く。
「リリアちゃん、とにかく収めてくれ!店が潰れっちまう!」チェチェンが訴える。
「こんなのリリアには止められないよ。どうせ半壊じゃ保険が出ないらしいじゃない。このまま全壊までやらせたら?」
「何を呑気な!!早く何とかしてくれよ!」チェチェンが焦る。

チェチェンの店内ではベアマンとタイガーマンがグループで喧嘩している。
戦場か闘技場でも行かない限り滅多にお目に掛かれない対戦カードだ。
パワー、スタミナ、折り紙付きの物理系ファイター。血の気も多い。
とにかく勇者として国民の財産を守らなければいけない。
「はい!全員そこま… きょぶ!!」
踏み込んでいきなりターブルの直撃を食らうリリア。こんな物が軽々と飛んで来る…
「ちょっと… 痛い過ぎる… こんな連中リリアに無理よ…」
「この!工事現場の看板野郎!!」「何だ、この熊プー、あの世で冬眠してやがれ!!」
罵声が飛び交う。

「リリアちゃん、どこへ?」チェチェンがリリアに立ち塞がる。
「さっきの見たでしょ。桁違いよ!人選ミス!あたしじゃ無理」
リリアは一発で戦意喪失。
「勇者だろ、リリアちゃん!今はリリアちゃんだけなんだよ、頼むよ」
普段は全然相手にされないのにこんな時だけ勇者だ… まったく…

「もう!勇者の仕事ってこんな事じゃないんだからね!」
再び乱闘の中に戻るリリア。
「あんた達いい加減に… 痛い! いい加減… ぐぼ! ちょっと止めなさ… ぶべ! 落ち着き… てぎゅ!」リリアが来るビフォーアフターで修羅場に変化がない。
「うーん… 確かに人選ミスだ…」チェチェンが呟く。
「ちょっと!ビンなんかで殴ったら… 平気なの?… 椅子なんてさすがに… そんな程度? あんたらどんな神経してるのよ!」
乱闘は全然収まらない。
普段から空気勇者リリアだが、修羅場でも空気勇者リリア。


ようやく乱闘は収まった。鎮圧された。
契約の用心棒がやって来てくれたのだ。さすが用心棒、こちらもオーガ、オーク、ベアマン等のパワー系。店に入って来て、一気に制圧する様を見て、その迫力から「おーー」と野次馬も声を上がるほど。
それは良かったのだが…

リリアも押さえつけられ床に転がされる。
「ちょっとあたし関係ないよ!あたしは騒ぎを収めに来た側よ!」
髪の毛グチャグチャの服ボロボロ状態のリリアが床で叫んでいる。


「ま、そんなわけで、皆ランチにご招待よ」リリアが誇らしげに言う。
リリア達、ギルド・ルーダの風メンバー四人はチェチェンのお店でランチを御馳走になっている。四人さすがにディナーに招待とはいかない。
「誇ってますけど、リリアは結局役立たずだったんですね」コトロ容赦ない。
「でも、がんばったニャン。リリたんのお陰でランチにゃん」
「昨日、身元引受人として迎えに行ったら手が後ろに回ってボロボロで床に転がされているから、リリたんとうとうお金に困ってイート&ランをやらかしたおと思ったピョン」
「言いたいこと言ってるけど、リリアは努力型人間なのよ。努力の甲斐あって皆でランチなんだから」リリアが口を尖らせる。
チェチェンさんがテーブルに挨拶に来た。
「リリアちゃん、昨日は大変だった、ありがとう。テーブルもイスも弁償されるようだし、がんばってくれたお礼だよ。またよろしくな」
リリアを見ると少しドヤ顔している。でも、大して役に立ってなかったはず…
チェチェンはコーヒーを継ぎ足し、デザートを出して戻って行った。

「役に立ってなさそうですが… 人気だけはありますねぇ…」コトロが笑う。
「失礼ね、努力よ。努力賞なのよ」
テーブルとイスのデザインが変わった店内は雰囲気もちょっと変わったっぽい。
「リリアには何だかんだお世話になってますね」テーブルを代表してコトロが言う。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』

segakiyui
ファンタジー
出戻り姫と噂に高いシャルンは、5回目の婚儀を迎える。 今度の相手はカースウェル王国のレダン王。剣技に優れ、温厚誠実な王は結婚相手としては申し分ないはず。けれど、この結婚には決して成立されてはならない理由があった……。 辛い過去を乗り越え、シャルンは新たな世界へ踏み出す。 世界を滅ぼす龍を右手に、愛しいレダンに守られながら。 『花咲』と龍を巡るラブストーリー、再開。毎月第2、4火曜日連載。8月は8/26に。 第1話 出戻り姫と腹黒王 第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 第3話 花咲姫と奔流王

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

処理中です...