陛下の溺愛するお嫁様

さらさ

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㉖わたくしのナイト

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あれは狼だわ!アイリス様とカイラさんが囲まれているけれど、アイリス様は硬直してしまって声も出せないでいる。カイラさんは短剣を構えてアイリス様を庇うように立っているけれど、周りを囲まれているので、どこから襲って来るか分からない。

狼はジリジリとアイリス様達との間を詰めていく。一匹の狼が襲いかかろうと飛んだ瞬間、アイリス様との間に人が滑り込んできて、その狼は「ギャウッ」と悲鳴を上げて崩れ落ちた。

「シド様!!」

シド様がアイリス様を護るように前に立つ。

「叫び声が聞こえたと思ったら、狼の群れ?」

シド様の言葉に辺りを見回すと、アイリス様を囲う四匹だけでなく、沢山の狼に囲まれていた。
恐らく、四十匹はいる。

仲間を殺られて一瞬怯んだ狼が今度は一斉にシド様目掛けて飛び掛った。

「シド様!!」

思わず叫んだけれど、シド様は襲いかかってくる狼を全て切り捨てていく。
流石はミカが見込んだ人だわ。強い。
普段は可愛いお顔で弟のような方なのに、こういう時は頼もしい。

「レイラ嬢!!」

シド様の勇敢な姿に見入っていると、シド様が不意にこっちを向いて叫ぶ。

「え?」

「お嬢様、動かないでください。」

わたくしの傍でミーナが言う。
見ると、わたくしもいつの間にか狼に囲まれていた。

シド様の向こうでは他の護衛の方も駆けつけてくれている。けれど、わたくしは森の奥側にいたので助けは期待できない。
シド様もこちらに来ようとしているけれど、アイリス様が居るので身動きが取れないでいる。

ミーナも短剣を構えて狼に立ち向かおうとしてくれているけど、きっとミーナでは敵わない。狼の体は大きい。

「お嬢様、私が相手をしている間にお逃げ下さい。」

ミーナが言うけれど、ミーナを置いてなんて行けない。

少しずつ後ずさっていると、大きな木にぶつかって後が無くなってしまった。

狼はグルグルと唸り声を上げながらヨダレを垂らしてわたくし達を見る。
わたくしは美味しくないと思うのだけど・・・

「レイラ嬢!!」

わたくしも怖くて動けないでいると、シド様が叫びながらこちらに向かって来るのが見えた。どうやらアイリス様の周りに居た狼は全て退治したようで、アイリス様の周りには護衛の方が取り囲んでいるのが見える。

シド様が来てくれる。そう思ったのに、シド様は狼まで後少しの所で足を止めた。

え?どうして?と思う間もなく、目の前に迫っていた狼が悲鳴を上げて横から飛ばされる。

「レイラ!!」

横を見ると、ミカが立っていた。

「ミカ!」

ミカが助けに来てくれた。
七日ぶりに見るミカはとても綺麗でカッコよくて、思わず魅入ってしまいそうになる。

その後、シド様と、ミカに付いてきたライル様も入ってあっという間にわたくしを囲んでいた狼を退治してしまった。
シド様はミカが来るのが見えたから立ち止まったのね。

「レイラ嬢、大丈夫か?」

ミカがわたくしを見て話しかける。
その顔を見た途端安心して、わたくしはへたりと座り込んでしまった。 

「レイラ!」

慌ててミカが駆け寄って立たせようとしてくれるけれど、腰に力が入らない。

「ミカ、腰が抜けちゃったみたい。」

わたくしが情けなくてへらりと笑うと、ミカがしゃがみこんで「はーっ」と大きなため息をつく。

「レイラ嬢に何かあったのかと焦った。」

そう言って、そのままわたくしを抱き上げてくれる。

「陛下、ナイスタイミング」

わたくしを抱き上げて振り向くと、シド様がミカに声をかけた。

「野営地を見つけたのに誰もいなくて焦ったよ」

「ごめんなさい。わたくしが水浴びをしたいなんて言ったから・・・」

そうだ。狼に襲われたのはわたくしの責任。アイリス様を危険な目に遭わせてしまった。
 
「レイラ嬢のせいじゃないですよ、この近くに狼の群れが潜んでいたみたいです。どのみち野営地が襲われてましたよ。」

シド様がそう言ってくれて少し気が楽になる。

「お兄様!」

アイリス様がわたくし達の方へ掛けてきた。

「アイリス様、大丈夫でした?」

「うん、シド様が助けてくれたから大丈夫、それより、レイラお姉様は?」

アイリス様がミカに抱かれるわたくしを見て気遣ってくれる。

「わたくしも大丈夫よ、ミカが助けてくれたの。安心したら少し腰が抜けちゃって、情けないわね。」

「まさかお兄様が来るとは思わなかったわ。本当に良かった。」

アイリス様の言葉にわたくしも頷く。
そして、わたくしを優しく抱き上げてくれているミカを見る。

「ミカは明後日合流のはずじゃなかった?」

「レイラ嬢に早く会いたくて、仕事を早く終わらせて馬で一気に駆けて来たんだ。早く来てよかった。」

ミカの笑顔にほっと安心する。

「ありがとう。」








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