53 / 78
宮殿
50.仲直りより難しい
しおりを挟む
目を覚ますと傍らに人が座っていて、キアラはびくりと身を震わせた。
「……お目覚めですか」
「……ルガート、様……?」
聞き覚えがあるような気がして尋ねれば、肯定の返事が聞こえてほっとする。起き上がると水の入ったコップを差し出されて、キアラはお礼を言って受け取った。
「お加減はいかがですか」
「……少し、休めた、ので……大丈夫です。ありがとうございます、ルガート様」
ディニラスの庭で導の灯火について警告してきてからも、エドゥアルドが頻繁に会いにくるようなことはなかった。キアラのほうも特段エドゥアルドに用事があることもなく、交流がないでもない、くらいの仲だと思う。
そうして今までと比べれば穏やかな生活を送っていたのだが、マナヴィカがヴァルヴェキアに帰ったことで抑制剤を手に入れられなくなってしまい、キアラは今回のヒートでひどく苦しむことになった。うなされてもがいているところにミオが来てくれて、これを飲むようにと渡された何かを飲んだ覚えはあって、そのあとから少し楽になった気がする。
「抑制剤をお持ちするのが遅くなり、申し訳ありません。今は効いているようで……安堵いたしました」
こくり、と水を一口飲んだキアラに、ルガートが目を細める。今日も、剣も鎧もつけずにゆったりとした服装だ。
「……ルガート様が、お持ちくださったのですか」
ミオとシアに聞いてみたときは、カガルトゥラードには抑制剤というものがない、という答えだった。オメガがヒートを迎えたのなら、誰かアルファが鎮めればよいという考え方が普通で、オメガがアルファを拒むということは、考えられてもいないようだった。
「……神子様のご友人から、内密に」
いつのまにか、ミオとシアがマナヴィカとルガートを繋いでくれていたらしい。ルガートの任地である国境の砦に、カガルトゥラード国内からの荷物を装って、マナヴィカから抑制剤が届けられたのだそうだ。
しかし、ルガートからキアラのもとに抑制剤を届ける手立てがない。キアラのヒートの周期に合わせて呼び寄せられたときに、自分の日用品の一環として持ち込むしかなかった。おそらくそれを受け取ったミオが、うなされていたキアラに飲ませてくれたのだろう。
「ありがとうございます、ルガート様。マナヴィカ様にも……いつか、お礼をしなくてはいけませんね」
いつか。手紙を出すことはできないし、会えるときがくるのかわからないが、離れてしまっても心を砕いてくれていることが嬉しい。
コップをベッドサイドに置いてもらって、もう一度横になるか起きたままでいるか、少し悩む。
「……お傍に近づくことを、お許しいただけますか」
「はい」
ただ、立ち上がったルガートはすぐにはベッドに近寄らず、部屋の椅子に置いてあるクッションを集めて戻ってきた。さらにひと言断ってから、キアラの後ろにクッションを重ねて置いていく。
「体を倒してみていただけますか」
言われた通りクッションにもたれてみて、キアラは目を瞬いた。これなら自分で姿勢を保たなくても、体を起こしていられる。
「ルガート様、ありがとうございます、体が楽です」
「……大したことではございません」
ヒートが終わったら、ミオとシアにクッションをたくさん集めてくれるように頼んで、ベッドをふかふかにしてみたい。怒られてしまうだろうか。
考え込んでいたら、ルガートが上掛けを引き上げてくれた。
「お体を冷やされませぬよう」
ルガートも、ミオとシアくらい甲斐甲斐しい気がする。それとも、キアラがあまりにも頼りなく見えるのだろうか。
「ルガート様」
「はい」
「私は大人です」
「……はい、存じております」
不思議そうな顔をされてしまった。うまく伝わらなかったのかもしれない。
どう言えばいいのかと首を傾げて、聞きたいことがあったのを思い出す。
「ルガート様、お伺いしたいことがあるのです」
クッションに助けてもらいながら体勢を直して、ルガートのほうに体を向ける。少し行儀が悪いかもしれないが、ルガートなら許してくれるだろうという甘えが少しだけあった。
「……私の、答えられることでしたら」
「導の灯火とは、どのような方たちなのですか」
ルガートがわずかに眉をひそめて、少し考え込むような顔をした。
「……何か、ございましたか」
「エドゥアルド様は、ご存じですか」
知っているだろうとは思ったが、キアラは念のためルガートに確認してから話を始めた。
エドゥアルドに、導の灯火に気をつけるように言われたこと。ミオとシアに尋ねてみようかとも思ったが、あまりいい気持ちはしないだろうから、一人で考えていたこと。
「……ですが、私がお話ししたことのある導の灯火の方たちは、皆様よい方です。それに、困っている方々を助けてもいらっしゃいます。エドゥアルド様がどうして、あのようなことをおっしゃったのか、知りたいです」
そこまで口にして息をつくと、キアラはじっとルガートを見つめた。以前話したとき、ルガートも、導の灯火にはあまりよい印象を持っていないようだった。
ただ、茶色の瞳が何を考えているのか、キアラには読み取れない。
「……表向きは、貧者や弱者への施しを行う、宗教組織になります」
「おもて、むき……」
表というからには、裏があることになる。小さくつぶやいたキアラを落ちつかせるように、ルガートは穏やかな笑みを浮かべた。
「悪の組織、というわけではございません」
カガルトゥラードでは火の精霊が信仰されているから、信仰を取りまとめる立場にある導の灯火は、それだけで人々の信頼を得やすい。その民衆からの支持を背景に、例えば導の灯火独自の領地を増やしたり、王位継承者の決定に影響を及ぼしたりしているのだそうだ。
「それ、は……いけないこと、なのですか」
王家や貴族といった人たちは、領地というものを持って、そこを経営するらしい、という知識は、キアラも本から知った。ただ、それを導の灯火がしてはいけないのかわからない。
それに、そもそも誰が次の王様を決めるのかもよく知らない。王子様が次の王様になるのだろうが、エドゥアルドとゲラルドが競っていたのも、誰かに選んでもらうためだったのだろうか。
「難しい質問ですね」
「む、難しい、のですか」
「立場によって、答えが変わってしまいます」
王家から見れば、国を治める地位にあるのは王家であって、各貴族の領地の持ち分などは王家の管理下にあるものだ。にもかかわらず導の灯火が勝手に領地を増やすようなことをしては、王家の権威というものが下がってしまう。王位継承者の決定にしたって、王家が決めるはずのことに口を出されては、ますます示しがつかなくなる。
しかし、民衆が支持している導の灯火を無下にしては、人々に反感を持たれてしまう。
一方で、国というものは人々が集まって成り立っているものだから、多くの人の支持を得ている組織が力を持つのは自然なことだ。導の灯火が王家より支持されるようになっているのであれば、今の治世がうまくいっていないということで、王家に落ち度があるとも言える。
「そういう……ものなのですか……」
「ただ、これも一つの側面から見れば、という理解にすぎません」
貧しい人とそうでない人の差が生まれてしまうことは、避けられない。そして、貧しさに苦しんでいる人を目に見える形で救ってくれる組織があれば、支持されるのは当然だ。
しかも、導の灯火には精霊に祝福された神子までいる。
「私、ですか……?」
「神子がいるのだから、導の灯火は精霊に認められた組織なのだ、と拡大して考えるものは少なくありません。また、導の灯火もそう思わせています」
「……私には、何も特別な力はないのに……?」
「導の灯火の信徒であっても、神子様のお姿を拝見できるのは月に一度の王都での礼拝のみ、さらには交流する機会はほとんどない。となれば、総主の言葉を信じるしかないでしょう」
いわく、神子の姿を見るだけでもご利益がある。また、神子の祈りには特別な力があり、同席しているだけでその恩恵にあずかることができる。さらに神子は精霊に授けられた癒やしの力を持っていて、神子が作った特別な薬さえあれば、どんな病も怪我もたちどころに治ってしまう。
「市井では、そのように言われております」
「……それは、私のこと、なのですよね……?」
最後の一つだけは間違いとも言いきれないとは思うが、ご利益やら恩恵やら、いったい誰の話なのか。
困惑して思わず聞き返したキアラに、ルガートも苦笑してみせる。
「白銀の髪をしたとても美しい方、という噂ですので、他にはいらっしゃらないでしょう」
とにかく、そのようにして導の灯火が力を増しているため、王家にとって煙たい存在になりつつある、というのが、今の両者の関係らしい。エドゥアルドが導の灯火に注意するように、と言ってきても、おかしくないわけだ。
そして、エドゥアルドとゲラルドが神子を妻に迎えようと競い合っていたのと同じように、王家と導の灯火、どちらが身の内に神子を抱え込むかで争っている。
「……神子様、お気持ちはわかりますが、あまりお顔に出されるのはよろしくないかと……」
「……どのような、顔ですか」
「大変、いやそ……いえ、渋い顔を、なさっておいでです」
両手を当てて、キアラはもにゃもにゃと顔を動かした。
キアラに特別な力はないし、すごいところがあるわけでもないのに、そのように重要な人物として扱われても困る。ヨラガンには戻れないのだと、あきらめる気持ちもなくはないが、キアラの帰りたい場所はユクガの傍なのだ。きっと、どちらにも抱え込まれてしまってはいけない。
「エドゥアルド様と、総主様に、仲良くしていただくには、何をしたらよいでしょう」
ひとまず二人に仲良くしてもらえばいいだろうと尋ねると、ルガートから渋い顔が返ってきてしまった。
「……あまり深入りなさらないほうが、よろしいかと存じます」
「どうしてですか」
「深く交わるほど、しがらみは複雑になります」
ルガートの言い回しは少し難しかったが、キアラは素直にうなずいた。複雑に絡んでしまった糸ほど、解くのが難しいことは知っている。
しかし、エドゥアルドと総主の仲を取り持たないということは、王家と導の灯火の争いが収まるまで、待っていなければいけないということだ。
しかも、どちらにも引き込まれないように。
「……仲良くしていただくより、もっと難しいことを、しなければなりませんか……?」
「……ご明察です」
はっとして尋ねたキアラに、なぜかルガートは微笑んでうなずいたのだった。
「……お目覚めですか」
「……ルガート、様……?」
聞き覚えがあるような気がして尋ねれば、肯定の返事が聞こえてほっとする。起き上がると水の入ったコップを差し出されて、キアラはお礼を言って受け取った。
「お加減はいかがですか」
「……少し、休めた、ので……大丈夫です。ありがとうございます、ルガート様」
ディニラスの庭で導の灯火について警告してきてからも、エドゥアルドが頻繁に会いにくるようなことはなかった。キアラのほうも特段エドゥアルドに用事があることもなく、交流がないでもない、くらいの仲だと思う。
そうして今までと比べれば穏やかな生活を送っていたのだが、マナヴィカがヴァルヴェキアに帰ったことで抑制剤を手に入れられなくなってしまい、キアラは今回のヒートでひどく苦しむことになった。うなされてもがいているところにミオが来てくれて、これを飲むようにと渡された何かを飲んだ覚えはあって、そのあとから少し楽になった気がする。
「抑制剤をお持ちするのが遅くなり、申し訳ありません。今は効いているようで……安堵いたしました」
こくり、と水を一口飲んだキアラに、ルガートが目を細める。今日も、剣も鎧もつけずにゆったりとした服装だ。
「……ルガート様が、お持ちくださったのですか」
ミオとシアに聞いてみたときは、カガルトゥラードには抑制剤というものがない、という答えだった。オメガがヒートを迎えたのなら、誰かアルファが鎮めればよいという考え方が普通で、オメガがアルファを拒むということは、考えられてもいないようだった。
「……神子様のご友人から、内密に」
いつのまにか、ミオとシアがマナヴィカとルガートを繋いでくれていたらしい。ルガートの任地である国境の砦に、カガルトゥラード国内からの荷物を装って、マナヴィカから抑制剤が届けられたのだそうだ。
しかし、ルガートからキアラのもとに抑制剤を届ける手立てがない。キアラのヒートの周期に合わせて呼び寄せられたときに、自分の日用品の一環として持ち込むしかなかった。おそらくそれを受け取ったミオが、うなされていたキアラに飲ませてくれたのだろう。
「ありがとうございます、ルガート様。マナヴィカ様にも……いつか、お礼をしなくてはいけませんね」
いつか。手紙を出すことはできないし、会えるときがくるのかわからないが、離れてしまっても心を砕いてくれていることが嬉しい。
コップをベッドサイドに置いてもらって、もう一度横になるか起きたままでいるか、少し悩む。
「……お傍に近づくことを、お許しいただけますか」
「はい」
ただ、立ち上がったルガートはすぐにはベッドに近寄らず、部屋の椅子に置いてあるクッションを集めて戻ってきた。さらにひと言断ってから、キアラの後ろにクッションを重ねて置いていく。
「体を倒してみていただけますか」
言われた通りクッションにもたれてみて、キアラは目を瞬いた。これなら自分で姿勢を保たなくても、体を起こしていられる。
「ルガート様、ありがとうございます、体が楽です」
「……大したことではございません」
ヒートが終わったら、ミオとシアにクッションをたくさん集めてくれるように頼んで、ベッドをふかふかにしてみたい。怒られてしまうだろうか。
考え込んでいたら、ルガートが上掛けを引き上げてくれた。
「お体を冷やされませぬよう」
ルガートも、ミオとシアくらい甲斐甲斐しい気がする。それとも、キアラがあまりにも頼りなく見えるのだろうか。
「ルガート様」
「はい」
「私は大人です」
「……はい、存じております」
不思議そうな顔をされてしまった。うまく伝わらなかったのかもしれない。
どう言えばいいのかと首を傾げて、聞きたいことがあったのを思い出す。
「ルガート様、お伺いしたいことがあるのです」
クッションに助けてもらいながら体勢を直して、ルガートのほうに体を向ける。少し行儀が悪いかもしれないが、ルガートなら許してくれるだろうという甘えが少しだけあった。
「……私の、答えられることでしたら」
「導の灯火とは、どのような方たちなのですか」
ルガートがわずかに眉をひそめて、少し考え込むような顔をした。
「……何か、ございましたか」
「エドゥアルド様は、ご存じですか」
知っているだろうとは思ったが、キアラは念のためルガートに確認してから話を始めた。
エドゥアルドに、導の灯火に気をつけるように言われたこと。ミオとシアに尋ねてみようかとも思ったが、あまりいい気持ちはしないだろうから、一人で考えていたこと。
「……ですが、私がお話ししたことのある導の灯火の方たちは、皆様よい方です。それに、困っている方々を助けてもいらっしゃいます。エドゥアルド様がどうして、あのようなことをおっしゃったのか、知りたいです」
そこまで口にして息をつくと、キアラはじっとルガートを見つめた。以前話したとき、ルガートも、導の灯火にはあまりよい印象を持っていないようだった。
ただ、茶色の瞳が何を考えているのか、キアラには読み取れない。
「……表向きは、貧者や弱者への施しを行う、宗教組織になります」
「おもて、むき……」
表というからには、裏があることになる。小さくつぶやいたキアラを落ちつかせるように、ルガートは穏やかな笑みを浮かべた。
「悪の組織、というわけではございません」
カガルトゥラードでは火の精霊が信仰されているから、信仰を取りまとめる立場にある導の灯火は、それだけで人々の信頼を得やすい。その民衆からの支持を背景に、例えば導の灯火独自の領地を増やしたり、王位継承者の決定に影響を及ぼしたりしているのだそうだ。
「それ、は……いけないこと、なのですか」
王家や貴族といった人たちは、領地というものを持って、そこを経営するらしい、という知識は、キアラも本から知った。ただ、それを導の灯火がしてはいけないのかわからない。
それに、そもそも誰が次の王様を決めるのかもよく知らない。王子様が次の王様になるのだろうが、エドゥアルドとゲラルドが競っていたのも、誰かに選んでもらうためだったのだろうか。
「難しい質問ですね」
「む、難しい、のですか」
「立場によって、答えが変わってしまいます」
王家から見れば、国を治める地位にあるのは王家であって、各貴族の領地の持ち分などは王家の管理下にあるものだ。にもかかわらず導の灯火が勝手に領地を増やすようなことをしては、王家の権威というものが下がってしまう。王位継承者の決定にしたって、王家が決めるはずのことに口を出されては、ますます示しがつかなくなる。
しかし、民衆が支持している導の灯火を無下にしては、人々に反感を持たれてしまう。
一方で、国というものは人々が集まって成り立っているものだから、多くの人の支持を得ている組織が力を持つのは自然なことだ。導の灯火が王家より支持されるようになっているのであれば、今の治世がうまくいっていないということで、王家に落ち度があるとも言える。
「そういう……ものなのですか……」
「ただ、これも一つの側面から見れば、という理解にすぎません」
貧しい人とそうでない人の差が生まれてしまうことは、避けられない。そして、貧しさに苦しんでいる人を目に見える形で救ってくれる組織があれば、支持されるのは当然だ。
しかも、導の灯火には精霊に祝福された神子までいる。
「私、ですか……?」
「神子がいるのだから、導の灯火は精霊に認められた組織なのだ、と拡大して考えるものは少なくありません。また、導の灯火もそう思わせています」
「……私には、何も特別な力はないのに……?」
「導の灯火の信徒であっても、神子様のお姿を拝見できるのは月に一度の王都での礼拝のみ、さらには交流する機会はほとんどない。となれば、総主の言葉を信じるしかないでしょう」
いわく、神子の姿を見るだけでもご利益がある。また、神子の祈りには特別な力があり、同席しているだけでその恩恵にあずかることができる。さらに神子は精霊に授けられた癒やしの力を持っていて、神子が作った特別な薬さえあれば、どんな病も怪我もたちどころに治ってしまう。
「市井では、そのように言われております」
「……それは、私のこと、なのですよね……?」
最後の一つだけは間違いとも言いきれないとは思うが、ご利益やら恩恵やら、いったい誰の話なのか。
困惑して思わず聞き返したキアラに、ルガートも苦笑してみせる。
「白銀の髪をしたとても美しい方、という噂ですので、他にはいらっしゃらないでしょう」
とにかく、そのようにして導の灯火が力を増しているため、王家にとって煙たい存在になりつつある、というのが、今の両者の関係らしい。エドゥアルドが導の灯火に注意するように、と言ってきても、おかしくないわけだ。
そして、エドゥアルドとゲラルドが神子を妻に迎えようと競い合っていたのと同じように、王家と導の灯火、どちらが身の内に神子を抱え込むかで争っている。
「……神子様、お気持ちはわかりますが、あまりお顔に出されるのはよろしくないかと……」
「……どのような、顔ですか」
「大変、いやそ……いえ、渋い顔を、なさっておいでです」
両手を当てて、キアラはもにゃもにゃと顔を動かした。
キアラに特別な力はないし、すごいところがあるわけでもないのに、そのように重要な人物として扱われても困る。ヨラガンには戻れないのだと、あきらめる気持ちもなくはないが、キアラの帰りたい場所はユクガの傍なのだ。きっと、どちらにも抱え込まれてしまってはいけない。
「エドゥアルド様と、総主様に、仲良くしていただくには、何をしたらよいでしょう」
ひとまず二人に仲良くしてもらえばいいだろうと尋ねると、ルガートから渋い顔が返ってきてしまった。
「……あまり深入りなさらないほうが、よろしいかと存じます」
「どうしてですか」
「深く交わるほど、しがらみは複雑になります」
ルガートの言い回しは少し難しかったが、キアラは素直にうなずいた。複雑に絡んでしまった糸ほど、解くのが難しいことは知っている。
しかし、エドゥアルドと総主の仲を取り持たないということは、王家と導の灯火の争いが収まるまで、待っていなければいけないということだ。
しかも、どちらにも引き込まれないように。
「……仲良くしていただくより、もっと難しいことを、しなければなりませんか……?」
「……ご明察です」
はっとして尋ねたキアラに、なぜかルガートは微笑んでうなずいたのだった。
53
あなたにおすすめの小説
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
回帰したシリルの見る夢は
riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。
しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。
嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。
執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語!
執着アルファ×回帰オメガ
本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語お楽しみいただけたら幸いです。
***
2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました!
応援してくれた皆様のお陰です。
ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!!
☆☆☆
2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!!
応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。
僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた
いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲
捨てられたΩの末路は悲惨だ。
Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。
僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。
いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。
【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚
貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。
相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。
しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。
アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。
運命を知っているオメガ
riiko
BL
初めてのヒートで運命の番を知ってしまった正樹。相手は気が付かないどころか、オメガ嫌いで有名なアルファだった。
自分だけが運命の相手を知っている。
オメガ嫌いのアルファに、自分が運命の番だとバレたら大変なことになる!? 幻滅されたくないけど近くにいたい。
運命を悟られないために、斜め上の努力をする鈍感オメガの物語。
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
『運命を知っているアルファ』というアルファ側のお話もあります、アルファ側の思考を見たい時はそちらも合わせてお楽しみくださいませ。
どちらかを先に読むことでお話は全てネタバレになりますので、先にお好みの視点(オメガ側orアルファ側)をお選びくださいませ。片方だけでも物語は分かるようになっております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
コメント欄ネタバレ全解除につき、物語の展開を知りたくない方はご注意くださいませ。
表紙のイラストはデビュー同期の「派遣Ωは社長の抱き枕~エリートαを寝かしつけるお仕事~」著者grottaさんに描いていただきました!
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる