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畑仕事、始まる
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俺は今、土をこねている。
例の休耕地のド真ん中、早朝。
今日も天気が良さそうに太陽が昇りつつある中、夜が明ける前の暗い時間から、レムネアと共に水を含ませた土をコネコネしていた。
「こんなもんでいいのかな?」
「そうですね、これで20センチ大の土人形が30体。十分だと思いますケースケさま」
畑の土をコネ回して、ヒトガタ(と言っても単二乾電池のような寸胴体形に手足をヒョロっとつけたような奴だ)を作っていた我々である。
なんのために? と問われると、俺の口からは説明しにくい。
草を焼却した灰を土壌に撒いた俺が、「次は土を耕さないと」と言ったらレムネアが微笑みながら提案してきたのだ。
『それなら土ゴーレムにやらせてみましょう』
――と。
ゴーレムというのはなんぞや。
俺の拙いファンタジー知識によると、魔法使いが使役する魔法人形だったはずである。
材質は鉄だったり、木材だったり、土だったり、様々なれど、共通しているのは次の一点。
『製作者の命令通りに働いてくれる便利なしもべ』
という部分だ。
レムネアは、土人形に魔法を掛けて畑仕事をやらせよう、と提案してきたわけなのだった。
「それじゃ、いきますね」
地面に並べた30体のヒトガタ一体一体に、彼女が杖を当てながら呪文を呟いていく。
数が多いのでそれなりに時間が掛かったが、そんな何十分も経ったわけじゃない。むしろ拍子抜けしてしまうほど簡単そうに見えたくらいだ。
「ゴーレムを作ってしまう魔法」
レムネアが杖を振り上げると、土で出来たヒトガタがぴょこぴょこと順番に立ち上がった。
おお凄いな。
微妙に動きがぎこちない辺り、クレイアニメーションのコマ送りを見ているような気持になるけど、本当に動いているぞ。
「ゴーレムよ、ゴーレムよ。あなた方の仕事はここの土を30センチほど掘り起こすことです。畑の土壌を作ってください」
一瞬、ウチの休耕地エリア全体が鈍く光ったような気がする。
どうやら彼女がゴーレムに命令を与えているようだった。なにやらこまごまと呟いている。
「黎明の時間に形を得た身体に魔法を掛けたので、比較的長い時間活動を続けてくれると思いますよ」
「長い時間って?」
「あくまで生活魔法の簡易ゴーレムですから短めですが……。それでも儀式に沿ったので二日は持つのではないかと」
彼女の話だと彼らゴーレムたちは、二日間昼夜問わずにこの休耕地を耕してくれるのだと言う。
え、すごい。そんなのアリ?
俺が目を丸くしてボーゼンとしてると、なにを勘違いしたのかレムネアは力なくしょんぼり、その長い耳を垂れ下げた。
「申し訳ありません、やっぱり二日程度じゃ短いですよね……。戦闘用のゴーレムだったら、もっと長時間、大規模に使えたはずなのですけど」
「いやいやいや、なにか勘違いしてない!? 俺は二日もぶっ続けで土を掘ってくれるのかって驚いてただけなんだけど」
「え?」
「何回も言ってるけど、こっちの世界には魔法自体がないんだからさ。ほんとこんなの助かるよ、すごい便利じゃん!」
「そ、そうですか……?」
上目遣いでチラリ、こちらを見てくるレムネア。
自信をあまり持てないのは相変わらずか。
俺は笑顔を作って右手でサムズアップした。するとレムネアも、おずおずとサムズアップを返してくる。やっぱりジェスチャーは通じるぽい。
「よかった……お役に立ててるみたいで」
「立ててるなんてもんじゃない、レムネアが居なかったらどんなに大変だったか」
「そんな」
お。レムネアの耳がピコピコと揺れている。
よかった気持ちが上向いてきたようだな。彼女の耳は、言葉より雄弁に気持ちを語ってくれるのだ。
そうこうしている間にも、30体の小さなゴーレムたちが畑の土をモゾモゾと掘り返していた。この光景、けっこう目立つな。
「これ他人に見られたら、ちょっと困るかも」
「その点は考慮済みです。例の、少し影が薄くなる魔法を掛けておきましたから、目に移っても普通の人は気にしないはずですよ」
「そうなのか?」
こういうときまず思い出してしまうのは、失敗してるときのビジョンである。
野崎さんの孫娘――美津音ちゃんと言ったかな? には効かなかったことが頭をよぎってしまう。
「確かにあの子には効きませんでしたけど、ほらそのあと、お店のお姉さんや野崎のお爺さまには効いていましたよね」
「ああ」
「私の長い耳を見ても、まったく気にしてませんでした」
そうだった。存在感が薄くなる魔法を耳に掛けたんだっけ。
「ちょっと違和感を覚える程度のことなら、気にならなくなるんです」
「ふんふん。確かにな」
じゃあ、ここはゴーレムさんたちに任せてしまってもだいたい平気か。
心強い話じゃないか。
俺はガッポガッポと土を掘りながら移動している小さなゴーレムさんたちを眺めて頷いた。
とはいえここには今、俺も居る。
ゴーレムさんたちが働いているのをただ見てるだけというのも能がないよな。
彼らだけに任せるわけにもいくまい、俺も土を掘り起こさないとね。
レムネアがゴーレムを管理している横で、俺は旧式の耕運機を動かし始めた。
祖父の家の物置にあったものだ。動作は確認済みで、一応まだ使えそう。
「よっし。ゴーレムに負けず、俺も頑張るぜ」
そう呟いて耕運機を押し始めたものの。
「んが。ぐっ。……あれれ」
案外土が硬くて、耕運機の爪がうまく刺さらない。爪を地面に跳ね返されながら進んでしまった。全然掘れていない。
「どうしましたケースケさま」
「……案外難しい。土が硬くて爪が食い込んでくれないんだ」
旧型なせいもあるのかな?
ここに来る前の農業体験で耕運機を使ったときは、そんな難しくなかったんだけど。
ああでも、あれは休耕地じゃなかったからな。土が最初から柔らかかっただけかもしれない。
「なるほど、つまり爪の鋭さの問題ですね」
「単純に言うとそうかも」
「でしたら――」
レムネアは耕運機の爪部分に杖をかざし。
「ちょっぴり切れ味が良くなる魔法」
なにやら呪文を唱えた。
ふう、と息を吐いて俺の方を見る。
「家庭用の包丁などの切れ味をよくする程度の生活魔法ですが、掛けてみました。これでお試しください」
「へえ、どれどれ……って、おっとぉ?」
ガガガガガ。
耕運機の爪が、さっきと打って変わって土に食い込んでいく。
「これはいい、ありがとうレムネア」
「いえいえ。お役に立てたようで幸いです」
彼女はニッコリ。
やっぱり魔法は凄いんだなぁ、と体感しながら、俺は休耕地の土を掘り起こしていったのだった。
◇◆◇◆
さて。
あれから三時間は経ったろうか。そろそろ朝の7時になろうかという頃だ。
そろそろ朝食の時間でもあるな、と思い、俺たちはゴーレムさんたちを残して休耕地を後にした。
朝の帰り道で、町の人と何人かすれ違う。
人口の少ない町だ。電車も通っていない。
仕事や学校に行くには、日に限られたバスを使って一度都市部に出るか、車などを使うしかない。
そんなわけで、バス時間の都合で朝は案外人と会うことが多い。
「おはようございます」
俺は笑顔で挨拶をするが、相手は大抵「あ、はい。……おはようございます」といった感じに戸惑ったような反応をしてくる。
田舎の、とても人口の少ない町だからなのか、余所者への警戒心を少し感じてしまうのだ。
「……皆さんから、ちょっと距離を感じますね」
レムネアでさえも察してしまうほどらしい。
「んー。まあ、そうだね」
「わ、私だけ髪の色が金色だからなのでしょうか……」
「それは関係ないと思うよ。警戒されてしまっているのは、俺が引っ越してきたばかりだからだと思う」
田舎は閉鎖的な面もあるっていうからなぁ。
早く打ち解けられるように頑張るしかないよな。
家に帰り食事を取って、少し休憩したらまた休耕地へ。
おー、ゴーレムさん頑張ってる頑張ってる。本当に24時間動いててくれるなら、二日後にはあの広い土地を掘り返すのも終わりそうだ。
順調。超順調。
俺も耕運機で頑張る。
俺がやらずとも終わってしまいそうな気がしなくもないけど、こういうのは少しでも身体で覚えていくのが大事だとも思うんだ。
レムネアの魔法は便利だけど、頼ってばかりじゃいけない。
俺は新米なんだから、身体で経験していかないとわからないことだらけなのだ。
いやもちろん、彼女の魔法がありがたいのは大前提なんだけどね。
とまあ、俺たちが二人で土を掘り起こしていると。
「うんうん、精が出てるのぅ」
野崎のお爺さんが、俺たちの様子を見に来てくれた。
「こんにちは、野崎さん」
「凄いじゃないかケースケくん。この間まで草ボウボウの土地だったのに、もう土おこしまで進んでるなんて」
普通ならもっと時間が掛かるものじゃが、と野崎のお爺さんはビックリ顔で感心してくれている。
そうだな。本当ならまだまだ草刈りをしてる段階だったはず。
俺は横で立ってたレムネアに目をやり。
「彼女が手伝ってくれたお陰です」
「二人三脚というわけか。良いの良いのぅ」
「そ、そんな。私は特に……」
レムネアは照れたのか、困り顔で小さくなっている。
だけど本当に彼女のお陰なのだ。もっと誇って欲しいと思うのは難しいのかな。
彼女の魔法は本当に助かってるんだから。
「そこで小さくなるなよレムネア。順調に進んでいるのは、キミのお陰なんだぜ?」
「そうじゃな。一人でやれることなど知れてる。二人というのはそれだけで心強いじゃよレムネアちゃん」
ニコニコ顔の野崎のお爺さんだ。
魔法の存在を知らないはずなので、本来の意味でレムネアの貢献度を知っているわけじゃないのだけど、それでもしっかり認めてくれている。
後ろで動いているゴーレムさんたちを野崎のお爺さんが見たら、なんて言うだろうか。やっぱり手放しで彼女を褒めちぎるのかなぁ。
そんなことを考えていたら、野崎さんの後ろに小さな女の子が居たことに気がついた。
身を小さくして、背後に隠れるようにしていたので気づかなかったぞ。
俺は野崎のお爺さんに聞いてみた。
「で、あの、えっと。……そちらは?」
「うん。これはウチの孫娘、野崎美津音じゃよ」
ああ、美津音ちゃん。
確かレムネアの魔法が効いていない子。
「ほら美津音、ご挨拶は?」
美津音ちゃんはお爺さんの後ろから出てこない。
――というか。
畑のゴーレムさんたちを見て、ぐるぐる目を回してる気がする!
あちゃあ、やっぱり魔法が効いてない。
俺は頭を抱えたのであった。
例の休耕地のド真ん中、早朝。
今日も天気が良さそうに太陽が昇りつつある中、夜が明ける前の暗い時間から、レムネアと共に水を含ませた土をコネコネしていた。
「こんなもんでいいのかな?」
「そうですね、これで20センチ大の土人形が30体。十分だと思いますケースケさま」
畑の土をコネ回して、ヒトガタ(と言っても単二乾電池のような寸胴体形に手足をヒョロっとつけたような奴だ)を作っていた我々である。
なんのために? と問われると、俺の口からは説明しにくい。
草を焼却した灰を土壌に撒いた俺が、「次は土を耕さないと」と言ったらレムネアが微笑みながら提案してきたのだ。
『それなら土ゴーレムにやらせてみましょう』
――と。
ゴーレムというのはなんぞや。
俺の拙いファンタジー知識によると、魔法使いが使役する魔法人形だったはずである。
材質は鉄だったり、木材だったり、土だったり、様々なれど、共通しているのは次の一点。
『製作者の命令通りに働いてくれる便利なしもべ』
という部分だ。
レムネアは、土人形に魔法を掛けて畑仕事をやらせよう、と提案してきたわけなのだった。
「それじゃ、いきますね」
地面に並べた30体のヒトガタ一体一体に、彼女が杖を当てながら呪文を呟いていく。
数が多いのでそれなりに時間が掛かったが、そんな何十分も経ったわけじゃない。むしろ拍子抜けしてしまうほど簡単そうに見えたくらいだ。
「ゴーレムを作ってしまう魔法」
レムネアが杖を振り上げると、土で出来たヒトガタがぴょこぴょこと順番に立ち上がった。
おお凄いな。
微妙に動きがぎこちない辺り、クレイアニメーションのコマ送りを見ているような気持になるけど、本当に動いているぞ。
「ゴーレムよ、ゴーレムよ。あなた方の仕事はここの土を30センチほど掘り起こすことです。畑の土壌を作ってください」
一瞬、ウチの休耕地エリア全体が鈍く光ったような気がする。
どうやら彼女がゴーレムに命令を与えているようだった。なにやらこまごまと呟いている。
「黎明の時間に形を得た身体に魔法を掛けたので、比較的長い時間活動を続けてくれると思いますよ」
「長い時間って?」
「あくまで生活魔法の簡易ゴーレムですから短めですが……。それでも儀式に沿ったので二日は持つのではないかと」
彼女の話だと彼らゴーレムたちは、二日間昼夜問わずにこの休耕地を耕してくれるのだと言う。
え、すごい。そんなのアリ?
俺が目を丸くしてボーゼンとしてると、なにを勘違いしたのかレムネアは力なくしょんぼり、その長い耳を垂れ下げた。
「申し訳ありません、やっぱり二日程度じゃ短いですよね……。戦闘用のゴーレムだったら、もっと長時間、大規模に使えたはずなのですけど」
「いやいやいや、なにか勘違いしてない!? 俺は二日もぶっ続けで土を掘ってくれるのかって驚いてただけなんだけど」
「え?」
「何回も言ってるけど、こっちの世界には魔法自体がないんだからさ。ほんとこんなの助かるよ、すごい便利じゃん!」
「そ、そうですか……?」
上目遣いでチラリ、こちらを見てくるレムネア。
自信をあまり持てないのは相変わらずか。
俺は笑顔を作って右手でサムズアップした。するとレムネアも、おずおずとサムズアップを返してくる。やっぱりジェスチャーは通じるぽい。
「よかった……お役に立ててるみたいで」
「立ててるなんてもんじゃない、レムネアが居なかったらどんなに大変だったか」
「そんな」
お。レムネアの耳がピコピコと揺れている。
よかった気持ちが上向いてきたようだな。彼女の耳は、言葉より雄弁に気持ちを語ってくれるのだ。
そうこうしている間にも、30体の小さなゴーレムたちが畑の土をモゾモゾと掘り返していた。この光景、けっこう目立つな。
「これ他人に見られたら、ちょっと困るかも」
「その点は考慮済みです。例の、少し影が薄くなる魔法を掛けておきましたから、目に移っても普通の人は気にしないはずですよ」
「そうなのか?」
こういうときまず思い出してしまうのは、失敗してるときのビジョンである。
野崎さんの孫娘――美津音ちゃんと言ったかな? には効かなかったことが頭をよぎってしまう。
「確かにあの子には効きませんでしたけど、ほらそのあと、お店のお姉さんや野崎のお爺さまには効いていましたよね」
「ああ」
「私の長い耳を見ても、まったく気にしてませんでした」
そうだった。存在感が薄くなる魔法を耳に掛けたんだっけ。
「ちょっと違和感を覚える程度のことなら、気にならなくなるんです」
「ふんふん。確かにな」
じゃあ、ここはゴーレムさんたちに任せてしまってもだいたい平気か。
心強い話じゃないか。
俺はガッポガッポと土を掘りながら移動している小さなゴーレムさんたちを眺めて頷いた。
とはいえここには今、俺も居る。
ゴーレムさんたちが働いているのをただ見てるだけというのも能がないよな。
彼らだけに任せるわけにもいくまい、俺も土を掘り起こさないとね。
レムネアがゴーレムを管理している横で、俺は旧式の耕運機を動かし始めた。
祖父の家の物置にあったものだ。動作は確認済みで、一応まだ使えそう。
「よっし。ゴーレムに負けず、俺も頑張るぜ」
そう呟いて耕運機を押し始めたものの。
「んが。ぐっ。……あれれ」
案外土が硬くて、耕運機の爪がうまく刺さらない。爪を地面に跳ね返されながら進んでしまった。全然掘れていない。
「どうしましたケースケさま」
「……案外難しい。土が硬くて爪が食い込んでくれないんだ」
旧型なせいもあるのかな?
ここに来る前の農業体験で耕運機を使ったときは、そんな難しくなかったんだけど。
ああでも、あれは休耕地じゃなかったからな。土が最初から柔らかかっただけかもしれない。
「なるほど、つまり爪の鋭さの問題ですね」
「単純に言うとそうかも」
「でしたら――」
レムネアは耕運機の爪部分に杖をかざし。
「ちょっぴり切れ味が良くなる魔法」
なにやら呪文を唱えた。
ふう、と息を吐いて俺の方を見る。
「家庭用の包丁などの切れ味をよくする程度の生活魔法ですが、掛けてみました。これでお試しください」
「へえ、どれどれ……って、おっとぉ?」
ガガガガガ。
耕運機の爪が、さっきと打って変わって土に食い込んでいく。
「これはいい、ありがとうレムネア」
「いえいえ。お役に立てたようで幸いです」
彼女はニッコリ。
やっぱり魔法は凄いんだなぁ、と体感しながら、俺は休耕地の土を掘り起こしていったのだった。
◇◆◇◆
さて。
あれから三時間は経ったろうか。そろそろ朝の7時になろうかという頃だ。
そろそろ朝食の時間でもあるな、と思い、俺たちはゴーレムさんたちを残して休耕地を後にした。
朝の帰り道で、町の人と何人かすれ違う。
人口の少ない町だ。電車も通っていない。
仕事や学校に行くには、日に限られたバスを使って一度都市部に出るか、車などを使うしかない。
そんなわけで、バス時間の都合で朝は案外人と会うことが多い。
「おはようございます」
俺は笑顔で挨拶をするが、相手は大抵「あ、はい。……おはようございます」といった感じに戸惑ったような反応をしてくる。
田舎の、とても人口の少ない町だからなのか、余所者への警戒心を少し感じてしまうのだ。
「……皆さんから、ちょっと距離を感じますね」
レムネアでさえも察してしまうほどらしい。
「んー。まあ、そうだね」
「わ、私だけ髪の色が金色だからなのでしょうか……」
「それは関係ないと思うよ。警戒されてしまっているのは、俺が引っ越してきたばかりだからだと思う」
田舎は閉鎖的な面もあるっていうからなぁ。
早く打ち解けられるように頑張るしかないよな。
家に帰り食事を取って、少し休憩したらまた休耕地へ。
おー、ゴーレムさん頑張ってる頑張ってる。本当に24時間動いててくれるなら、二日後にはあの広い土地を掘り返すのも終わりそうだ。
順調。超順調。
俺も耕運機で頑張る。
俺がやらずとも終わってしまいそうな気がしなくもないけど、こういうのは少しでも身体で覚えていくのが大事だとも思うんだ。
レムネアの魔法は便利だけど、頼ってばかりじゃいけない。
俺は新米なんだから、身体で経験していかないとわからないことだらけなのだ。
いやもちろん、彼女の魔法がありがたいのは大前提なんだけどね。
とまあ、俺たちが二人で土を掘り起こしていると。
「うんうん、精が出てるのぅ」
野崎のお爺さんが、俺たちの様子を見に来てくれた。
「こんにちは、野崎さん」
「凄いじゃないかケースケくん。この間まで草ボウボウの土地だったのに、もう土おこしまで進んでるなんて」
普通ならもっと時間が掛かるものじゃが、と野崎のお爺さんはビックリ顔で感心してくれている。
そうだな。本当ならまだまだ草刈りをしてる段階だったはず。
俺は横で立ってたレムネアに目をやり。
「彼女が手伝ってくれたお陰です」
「二人三脚というわけか。良いの良いのぅ」
「そ、そんな。私は特に……」
レムネアは照れたのか、困り顔で小さくなっている。
だけど本当に彼女のお陰なのだ。もっと誇って欲しいと思うのは難しいのかな。
彼女の魔法は本当に助かってるんだから。
「そこで小さくなるなよレムネア。順調に進んでいるのは、キミのお陰なんだぜ?」
「そうじゃな。一人でやれることなど知れてる。二人というのはそれだけで心強いじゃよレムネアちゃん」
ニコニコ顔の野崎のお爺さんだ。
魔法の存在を知らないはずなので、本来の意味でレムネアの貢献度を知っているわけじゃないのだけど、それでもしっかり認めてくれている。
後ろで動いているゴーレムさんたちを野崎のお爺さんが見たら、なんて言うだろうか。やっぱり手放しで彼女を褒めちぎるのかなぁ。
そんなことを考えていたら、野崎さんの後ろに小さな女の子が居たことに気がついた。
身を小さくして、背後に隠れるようにしていたので気づかなかったぞ。
俺は野崎のお爺さんに聞いてみた。
「で、あの、えっと。……そちらは?」
「うん。これはウチの孫娘、野崎美津音じゃよ」
ああ、美津音ちゃん。
確かレムネアの魔法が効いていない子。
「ほら美津音、ご挨拶は?」
美津音ちゃんはお爺さんの後ろから出てこない。
――というか。
畑のゴーレムさんたちを見て、ぐるぐる目を回してる気がする!
あちゃあ、やっぱり魔法が効いてない。
俺は頭を抱えたのであった。
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