相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん

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ゴーレムたちと美津音ちゃん

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「美津音、ほらケースケくんとレムネアちゃんにご挨拶しないと」

 野崎のお爺さんが孫娘を促すも、美津音ちゃんは畑で土を耕している『ゴーレム』の姿を見てしまい、目をグルグルさせていた。
 お爺さんは気にも留めてない辺り、レムネアの『気配が薄くなる魔法』は確かに働いているのだろう。ただ、美津音ちゃんには効果がないだけで。

「おじいちゃん……、畑にオバケ……、いっぱい」
「ん?」

 なにを言っとるんじゃ、と休耕地を見渡す野崎のお爺さん。
 その視界では土で出来たゴーレムたちがモソモソと土を耕しているはずなのだが、お爺さんは気づく素振りも見せない。

「この子は、またそんな失礼なことを言って」

 野崎のお爺さんが困り顔で頭を掻きながら、俺の方を見た。

「すまないなケースケくん。孫娘に謝罪させようと連れてきたのだが、加えて失礼なことを」
「いえいえいえ、気になさらずに! そうだ野崎さん、耕運機のことで聞きたいことがあったのですが今構いませんか!?」
「ん? おお。もちろんだとも」
「で、ではこちらに! レムネア、美津音ちゃんのことを少し頼んだ」

 俺はレムネアにその場を任せて、野崎のお爺さんを美津音ちゃんから引き離した。
 聞かれて変に暗示が解けてしまったら、この人までゴーレムに気づいてしまうかもしれないと思ったのだ。

「実は、これのなのですが……」
「ふむ?」

 野崎のお爺さんに適当な質問を投げかけながら、俺はレムネアと美津音ちゃんの方へと聞き耳を立てたのだった。

 ◇◆◇◆

 離れたところに二人。
 ポツンと取り残されたレムネアと美津音は、最初顔も視線も合わせずに距離を置いていた。
 だが、レムネアはグッと拳を握りしめて考える。

(ケースケさまに頼まれてしまったのです。ここは私が頑張らないと……!)

 顔を逸らしながら、一歩、また一歩と美津音に近づいていくレムネア。
 美津音はビクッと身体を硬直させるも、近づいてくるレムネアから離れるように一歩、また一歩と後ずさりしていった。

 二人はお互い顔を見合わせないまま、近づかれて、離れてを繰り返す。
 その場をグルグルと回りながら、無言の追いかけっこを続けた。

 どれだけグルグル回りあっただろう。
 やがてレムネアが根負けしたように声を出しながら美津音の方を見た。

「に、逃げないでくださいぃぃ」
「やだ……オバケさん、こわい……」
「オバケじゃありませんよ。妖精です、森の妖精、エルフです」

 森の妖精。
 自分で言うにはちょっと恥ずかしい言い回しだったことに気づき、レムネアが顔を赤くする。赤くなった耳が、シューンと垂れ下がった。

「ようせい……さん?」
「は、はい! そうです妖精さんです。ほら、耳が長いでしょう? これが妖精の証です。エルフって言うんですよ?」
「耳……、長い。人間じゃない……だけど、オバケでもない?」
「オバケではありません」

 ちょっとテレたまま、美津音の背に合わせてしゃがみ込んだ。

「私はアルドの里出身の冒険者、エルフのレムネアです」
「れむ……ねあ?」
「はい。レムネアと申します、あなたのお名前は?」
「えっと、その……。野崎美津音、小学四年生、10歳です」
「美津音さん! いい響きのお名前ですね!」

 このとき、美津音は初めてレムネアの方を向いたのだった。

「……お母さんが、つけてくれた名前なの」
「そうなんですね。お母さんに感謝だ」
「うん。ありがとうっていつも思ってる」

 美津音は頷くと、畑の真ん中を指さした。

「あっちでたくさん動いているのは、オバケさん?」
「違います。あれは、ゴーレムさんです」
「ゴーレムさん?」
「はい。私が――」

 そこでレムネアは言葉を区切り、一瞬考える素振りを見せた。
 が、程なくそのまま続ける。

「私が魔法で作った、言うことを聞いてくれる小人さんです」
「魔法……!? お姉ちゃん、魔法が使えるの?」
「はい。ちょっとだけですけどね」

 ニッコリ微笑みながらレムネアは頷いた。
 どうせ暗示の類が効かない相手なのだから、正直に言ってしまった方が良いんじゃないかと考えた彼女なのである。

「秘密ですよ? バレたらお姉ちゃん、困ってしまうので」

 しー、とゼスチャーしながら、どこからともなく杖を手の中に呼ぶと、その杖をフワフワと浮かせてみせた。
 美津音は目を丸くして、口をポカン。

「ゴーレムさんと少し遊んでみますか?」
「え、遊ぶって、なにをして?」
「そうですね……じゃあ、車ごっこ」

 レムネアの杖が空中でクルクル回ると、ゴーレムが10体ほど二人の周りにワラワラと集まってきた。
 近くで見るゴーレムたちは、しっかりと土の塊だった。
 ずんぐりとした卵のような胴体に、短い手足が付いている。

 ゴーレムたちに囲まれて少し不安そうな顔をした美津音だったが、レムネアが「大丈夫ですよ」と笑ってみせながら、また杖を振る。

「きゃっ!」

 ゴーレムたちが美津音を担ぎあげた。
 美津音の下に絨毯のように並び込み、自分たちの頭の上に彼女を座らせる。

 それを確認したレムネアは自らゴーレムの上に乗っかり、美津音のすぐ後ろに体操座りで座り込んだ。

「それじゃ、出発。車ごっこです!」
「はわわっ!?」

 10体のゴーレム絨毯が、二人を頭の上に乗せながら動き出した。
 畑の上を走り出す。

 それを横目で見ていたケースケは、ギョッとした。
 おいおい、そんなトコロを野崎のお爺さんに見られたら、ゴーレムの存在がバレちゃわないか!? と。

 しかし、野崎のお爺さんはゴーレムたちを認識していないらしくて、畑の中をゴーレム絨毯で走り出した二人を見て。

「おお。レムネアさんも元気じゃなぁ、小学生と鬼ごっこするなんて」

 などと笑うだけだった。
 どうやら魔法の力でゴーレムが気になっていないらしい。

「は、ははは……」

 と苦笑するケースケだ。
 ケースケと野崎のお爺さんが見ている中、美津音とレムネアはゴーレムの背に乗って風を切っていた。

「どうですか? 美津音さん」
「……いい」
「ん?」
「気持ち……いい、です」

 二人を乗せたゴーレム絨毯は、意外な速度で走っている。
 座ったままで地面スレスレを高速移動。
 美津音のおさげ髪が、風になびく。バタつく前髪を彼女は抑えて、笑顔になる。

「すごい、すごい。これが……魔法?」
「そうですよ、魔法です」

 正確には魔法でゴーレムに命令した結果なのだけれども、そんなことを言うのはややこしくなるだけですしね。とレムネアも風に散る長い金髪を手で抑えた。

「楽しいですか? 美津音さん」
「楽しいです、楽しいです」

 ふわわわわ、と声を上げて、美津音は風の中を進む。

「おじいちゃーん!」

 と手を振った。
 レムネアも合わせて、

「ケースケさまー」

 と手を振ってみせる。

 野崎のお爺さんとケースケが、二人のことを目で追いながら手を振ってきた。
 オフロードな畑の上を、ゴーレム絨毯は軽くジャンプ。
 美津音は「あはははは」と笑った。

「美津音さん。私の魔法は、ケースケさまと美津音さんにしかわからないの。でも、これがバレたら私は困ってしまいます。黙ってて、貰えますか?」
「黙ってたら、また遊んで……くれますか?」
「もちろん。仕事の合間でよければですが」
「わかりました、言いません! あ、でも……」

 美津音は言葉を濁した。

「ごめんなさい。リッコちゃんとナギサちゃんには、もう喋っちゃった……」
「これから黙っててくれればへーきですよ」

 普通はレムネアの魔法を見ても気にしないはずなのだ。
 多少バレてても平気なはず。

「それじゃあ、こんど二人も連れてきていい?」
「構いませんよ、どうぞお好きに」
「ありがとうレムネアお姉ちゃん!」

 そこから二人は、だいぶ長い間、ゴーレム絨毯で遊んだ。
 野崎のお爺さんはレムネアと一緒になって楽しそうに遊んでいる孫娘を残して、先に帰った。
 だから帰りは、ケースケ、レムネア、美津音の三人で田舎道を歩くことになったのだった。

 ◇◆◇◆

 夕方。
 カラスが鳴く頃合いだ。

 俺たち三人は、疲れた身体を引きずりながら談笑しつつ緩やかな坂を上っている。

「なんだ。魔法のことを美津音ちゃんにバラしちゃったのか」
「はい。美津音さんにはどうせ見破られてしまいますし」

 苦笑しながらレムネアは美津音ちゃんの顔を見た。
 美津音ちゃんは俺の言葉に慌てたように、ちょっと困り顔で俺を見る。

「あ、あの……私、もう魔法の話……誰にもしません」
「うん。ありがとうね美津音ちゃん、そうして貰えると嬉しいよ」

 なんだかんだで、良い感じに収まったようだ。
 美津音ちゃんが良い子でよかった。

「また遊びましょうね、美津音さん」
「うん……また遊びたい、です」
「あはは。なんだか楽しそうだったな、今度は俺も混ぜてくれよ」
「もちろんですケースケさま。今度は三人で遊びましょう!」
「大勢の方が……楽しそう……です」

 俺たちが笑いながら坂を上っていると、
 犬の散歩をしていた町のおばさん主婦とすれ違った。

「あら、美津音ちゃん。そちらの方々は?」
「こんにちはです、佐藤おばさん。こちらは……ケースケさんとレムネアさん。最近源蔵おじいちゃんの家に越してきた……方々です」
「あれま。源蔵おじいちゃんの家?」

 驚いた顔をするおばさん主婦だった。
 俺はすかさず挨拶をする。

「こんにちは。源蔵の孫の山科啓介です、この度じいちゃんの畑を継ぐ為に引っ越してまいりました」
「あーねぇ。聞いてはいたけど、あなたが」

 おばさん主婦は、少しの間俺をジロジロ眺める。
 やっぱり警戒されてるよなぁ。俺は今朝の町の人への挨拶を思い出した。みんな、俺を胡散臭そうな目で見ていたっけ。

 だが、どうも今回は少し様子が違うようで。

「綺麗なお嫁さんと一緒に引っ越してきたの? やるわねぇ」

 と、おばさん主婦は突然の笑顔を見せてきたのだった。
 俺は慌てて。

「い、いえこの子は……!」
「いーから、いーから。そんなテレなくても! どうしたの美津音ちゃん、楽しそうだけど、お兄さんたちに遊んでもらった?」
「はい。遊んでもらいました」

 美津音の言葉に、おばさん主婦はニッコリと笑う。

「過疎の町でしょう? だからあまり若い人がいなくてね。美津音ちゃんと遊んでくれて、ありがとうね?」
「い、いえ!」
「源蔵さんのお孫さんなら歓迎! それに美津音ちゃんが懐いたんだもの。きっと良い人ね」

 今度なにか持っていくわね、と手を振りながら、おばさん主婦は犬の散歩に戻っていった。
 俺とレムネアはしばらく顔を見合わせてから、チラと美津音ちゃんの方を見た。

 どうやらこの子のお陰で、この町に馴染めるキッカケが出来たようだ。
 正直、これは大変ありがたい。

 田舎でのご近所付き合いは都会よりも大事だって聞くからね。
 よかった。すごく助かる。
 俺は美津音ちゃんに感謝の気持ちを伝えたが、彼女はキョトンとするばかり。
 まだ、そういったややこしい人間関係とは無縁な年齢なんだろうな。

 美津音ちゃんに別れを告げ、俺はレムネアと二人歩き出した。
 今日一日の出来事を思い返し、思わず大きな息を吐いてしまう。

「今日は色々とありがとうレムネア。美津音ちゃんのこと、助かったよ」
「いえ、私の方こそ。ケースケさまのおかげで、少しずつこの世界に馴染めてる気がします」

 レムネアが満面の笑みを浮かべる。
 夕陽に照らされたその横顔を見て、心の中がほんのり温かくなるのを感じた。

「はは。俺もこの町に、少しだけ馴染めた気がしたよ。一緒に頑張ろうな、この町での新しい生活」
「はい!」

 嬉しそうに笑ってくれる。
 俺もつい釣られて、笑顔になった。

 坂道に伸びる自分たちの影を追いながら、俺たちは肩を並べて歩いて行ったのだった。
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