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声が聞こえるほどの才能
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「目の前で種芋同士が怒鳴りあって喧嘩してるんだけど……」
「えっ!?」
俺の告白に、驚きの顔を見せるレムネア。
「ほ、本当ですか!?」
「うん。誰が一番元気か言い争いを始めた」
「すごいですよケースケさま! それはすごい才能です!」
さっき1000人に一人とか言ってたか?
何万人に一人とか何十万人に一人とか、そういう数字じゃないのが妙なリアリティあるけど、果たしてこれは凄いのだろうか。
ていうか『感性が鋭い才能』って具体的にどういうことなんだ?
「そうですね、勘が鋭いといいますか」
レムネアは人差し指を立てて、小首を傾げながら。
「物事の正解を『なんとなく』見つけてしまう人ですね。不測の事態でも頼りになることが多いので、冒険者の中ではとても評価される才能です」
「なんとなく、って……。まったくアテにならなそうだ」
俺が苦笑していると、その間も種芋たちが俺に話しかけてくる。
『おいおい、どうでも良い話やめて俺たちを見ろって』
『私たちを選びに来たのでしょう? 無視は失礼じゃなくって?』
『そうだそうだ、真剣に俺たちを見ろー』
『わー』
こいつらうるせー。
「はいはい、おまえとおまえ、それとおまえ。……ああ、こいつも良さそうだなウチへ来い。キミはちょっと……、元気ないな?」
「面白そうですねぇ。私も種芋たちの会話に混ざってみたいです!」
「ははは」
勘弁してくれと俺は苦笑。ややこしいことこの上なくなりそうだ。
ひょいポイ、ひょいポイ。
元気そうで生意気な種芋どもを、店で貰ったダンボールへと詰めていく。
……でもまあ。
うるさいけど、声が聞こえること自体は便利かも。
なにせ元気さが一目瞭然だからな。元気なやつは良い種芋に違いない。
「なるほどね。なんとなく選ぶって言っても、五感から得られる情報を無意識に見極めながら選んでるわけだもんな。重要な能力っちゃー重要な能力なのか」
「そうですよ。この才能が高い人ほど、冒険者パーティーのリーダーとして好まれたりもするんです」
「そうなの?」
俺が問うと、レムネアはドヤ顔で。
「リーダーには知識や経験も大事ですけど、経験すら通じない未知を前にして頼れるものは結局、直感から導き出される判断なんです。だから、重宝されます」
「そういうものか」
「ケースケさまのような方が冒険者になられていたら、きっと皆から頼りにされるパーティーリーダーになってたと思いますよ」
やめろテレくさい。
ともあれ、俺は冒険者ではないからな。
細々とこの能力を楽しませて貰いますか。
――楽しむ。
そう、この幻聴は案外楽しい。芋にも個性があるんだな、ってわかるのだ。
この声自体は、俺が芋を見た『印象』から俺の脳内が作り出している『幻聴』だ。
俺は無意識のうちに、この種芋たちをそこまで観察していたということになる。
経験を積めば、この差異がいずれ言語化できるようになるのだろうか。
魔法を使わずとも『どの種芋がどんな性質で』とか、判断できるようになるのだろうか。
なれたらいいな、と思う。
目標が出来るのは楽しい。俺この状況を楽しみながら、ひょいポイと種芋を選んでいった。
「あらおや、良いどころばかりを選んでいくねぇ」
「えっ?」
突然声を掛けられたのはそのときだ。
振り向くと、帽子に長ズボンといった作業着の小太りおばさんが呆れ顔で俺のことを見ていた。
「凄い目利きだね、あんた。こんな凄腕を知らなかったなんて、あたしもまだまだだわ」
困ったような顔でおばさんは笑い、帽子を脱いで頭を掻いた。
俺はなんと言ってよいのかわからず、レムネアと顔を合わせた。
「あれ、驚かせちゃった? ごめんね」
「い、いえ。あの……」
どちらさまでしょうか? と聞こうとして、それも突然か、と思いとどまった。
誰だろう、この人。ずいぶん距離感近いけど。
「誰このおばさん、っていう顔してるけど、もしかして私を知らなかった?」
「あ、はい」
「ありゃ。この近辺じゃ有名かと思ってたんだけど、私もまだまだだ」
アハハ、と豪快に笑ったおばさんは俺たちに向き直った。
「あたしはこの園芸スペースを取り仕切ってる管理者だよ。ウチには近隣農家から種芋を仕入れにくる人が多いけど、あんたほどドンピシャに良い芋ばかりを選んでいく客は見たことないと思ってね」
「す、すみません! もしかして、これってマナー違反でしたか!?」
思わず俺は聞き返してしまった。
良くないことをしてしまったのだろうか。
「いいや、そんなことないよ。目利きは腕の見せ所さね、どんどんやっておくれ」
笑顔のまま、おばさん。
「単純に、あんたみたいな目利きを今まで私が知らなかったのが不思議だっただけだよ」「少し前に引っ越してきたばかりでして……」
「あー。じゃあ知らなくても仕方ないか。その買い付け量から見て、家庭菜園じゃないんだろう? 農業は長いのかい?」
「えっと、今年から始めるところでして……」
おばさんが目を丸くした。
「え。初心者?」
「はい」
「その目利きで?」
「あの、その。……はい」
「うわぁ、恐ろしい。あんた、才能あるよ。ジャガイモは種芋選びが大事だからね、収穫量はここで決まると言っても過言じゃないんだ」
売り場のおばさんは、しげしげと俺を眺めたのちに、レムネアへと視線を切り替えた。
「そちらは奥さん?」
「えっ! あ……はい、あのっ!」
突然会話を振られたレムネアが言葉に詰まる。
おばさんはククク、と笑った。
「いいねぇ、顔真っ赤だ。新婚さんか。夫婦で農業、大変だ」
そしてまた、俺の方を見た。
「あたしはこの辺の農家や農協にも顔が利くからさ、なにか困ったことがあったら相談に来なよ。応援してるぜ、新米さん」
そういって、おばさんは俺たちから離れていくのだった。
レムネアが俺の袖を引っ張った。
「……なんか凄い方でしたねぇ」
「そうだな」
俺も彼女も、呆けながらおばさんの後ろ姿を追っていた。
いやでも、なんというか。
『ウチの売り場の肝っ玉母さんだよ』
『豪快なんだ。頼りになりそうだろ?』
『ちょっとお節介ですけどね』
種芋たちが頷きつつ声を上げる。
こいつらホントよく喋る。元気だな。
なんにしても目利きを識者に認めてもらえたのはありがたい。
根拠になるもんな。
レムネアの魔法のお陰だけど、今回の場合はちょっぴり俺の才能とやらも関係しているらしい。
それがほんのり嬉しかった。
こんな感じで、少しづつで良いから自信に繋がる経験を積み上げていきたいものだ。
20kgを超える種芋を軽トラまで運び、その後に俺たちは食事を取って帰ることにした。
『疲れたんじゃないか? あっさりウドンでもどうだい?』
『いやいや、ここはタコ焼きだろう。レムネア嬢ちゃんもまだ食べたことないだろうし』
『バーガーバーガー、ハンバーガー。ポテトフライもLサイズで頼んじゃってさ? これからジャガイモを作ろうという今、ウチこそが門出に相応しい』
店の看板が話しかけてくる。
うるさい。
レムネアに頼んで魔法を解除して貰おうとしたのだが、一定時間このままで居るしかないとのこと。マジか。
結局タコ焼きとバーガーとポテトフライを買い込んで、外のテーブルに着いた俺たちだ。メニューを選ぶ間も、耳に色々と言葉が飛んできた。
僕を選ぼう、私を食べて。
聞き流していたけど、捉え方によってはちょっと猟奇的でもあるぞこれ。
『まあまあ、俺でも食べて落ち着きたまえよ』
これは目の前のタコ焼きくんの声。
なんだよ自分を食べてくれっていう主張。
笑うに笑えないというか、食べにくいことこの上ない。
「まさかそんなことになってしまうなんて。申し訳ありませんケースケさま」
「あはははは」
乾いた笑いで返しつつ、気にするなとレムネアには言っておく。
悪気があったわけでないし、そもそも種芋選びには役立ってるもんな。
レムネアがシュンと耳を垂らしてしまった。
ヤバ、空気が悪くなっちゃったぞ。俺は笑ってみせて、タコ焼きくんを頬張った。
「あっちぃ!」
『やるなアツアツを一口でいくとは』
『勇者おるじゃん』
「だ、大丈夫ですかケースケさま!」
慌てたレムネアが俺にジュースを渡してくる。
「ほふほふほふ、だ、大丈夫大丈夫。レムネア、タコ焼き初めて食べるだろ? これはさ、熱いけどちょっとフーフーしたら、一口で食べるのが美味いんだよ」
「そ、そうなのですか?」
「やってごらん、ちょっとフーフーして表面を冷まして」
はい、と頷いて彼女はタコ焼きをフーフー。
そして一気に口へと運んだ。
「アツッ! ほふっ、ほふっ、アツツ!」
「どうだ?」
「ほふっ、ほふふふ、ほ!」
なにを言ってるかわからない。これがタコ焼きの一番美味しい食べ方だと俺は思ってるんだけどな。どうだろう。
と、思っていたら。
『美味しいです』
『熱いですけど!』
『口の中がベロベロになっちゃいそうですけど!』
『でも美味しいです!』
あれま。レムネアの声の幻聴まで聞こえてきた。
ややこしいぞこれ。
「おいひーれふ、ケースケさま!」
これはホンモノの声。
「だろだろ!? この食べ方が絶対美味しいんだって!」
「癖になりそうです」
そういって、またレムネアはタコ焼きをフーフーして頬張った。
「はふ、はふ、ほふ!」
「じゃあ俺も」
またタコ焼きをパクリ。はふはふ。おいしい。
『美味しいはふはふ』
『次はこっちの、はんばあがー? を食べてみたいです』
これ幻聴だな。でもきっと、彼女は今そう思っているのだろう。
俺は頷いて。
「こっちのハンバーガーは、こう食べる!」
片手にビッグマクナル、片手にポテトフライ。
バーガーを齧って、ポテトフライを食べて。両手持ちするのがコツ。
「うふふ、行儀悪いのがまた、背徳的で美味しそう」
こうして俺たちは、食べて、食べて、ジュースを飲んだ。
大食いなレムネアは追加を所望したので、ウドンを注文してやった。
箸にはまだ慣れていないけど、割りばしで挑む彼女なのだった。
食べた。あー食べた。
椅子の背もたれにがっつり身体を預けて、夏の真っ青な空を見上げる。
入道雲がモクモクと。蝉の声。
日陰なので涼しい風が、頬に気持ち良かった。
「雲に手が届きそうですね」
「ん?」
「こんな青い空と大きな白い雲、私の世界では見たことがありません」
彼女のいた土地は、真夏というものがない地方なのかもな。
「いいだろ? こういう暑い日に、日陰で大食い」
「はい」
風がサラサラとレムネアの長い金髪を揺らす。
彼女は心地よさそうに目を瞑っている。口元も動いていない。
だからこれは幻聴なのだけれども。
『ダンジョンの中で死なずに生き残れて、良かった』
本当に、そうだ。
一歩間違えば彼女は死んでいたんだ。
良かった、本当に良かった。
『この世界にこれて良かった』
そう思って貰えていたなら嬉しい。
『ケースケさまと出会えて良かった』
……そうだな。
「俺も、レムネアと出会えて良かったよ」
俺の言葉に、レムネアがキョトンとした顔をする。
しまった、つい!
「と、突然どうなさったのですかケースケさま?」
「な、なんでもない!」
「もう一度、言ってみてください!」
「よし、帰るぞ!」
「何故ですか! 急に言っておいてそんなに嫌がるなんて、おかしいです!」
勘弁してくれ。
そういう空気でもないときに言ってしまう本音ほど恥ずかしいものはないんだ。
「ケースケさまー!」
立ち上がって軽トラへと向かう。
結局この日、魔法の効果は夕方まで続いた。
そのあいだ、俺は部屋へと引きこもっていたのだけれども。
『やれやれ、素直じゃないな』
じいちゃんの遺影にまで、楽しそうに笑われてしまった俺だった。
勘弁してくれよ、じいちゃん。俺は恥ずかしくて頭を抱えたのだった。
「えっ!?」
俺の告白に、驚きの顔を見せるレムネア。
「ほ、本当ですか!?」
「うん。誰が一番元気か言い争いを始めた」
「すごいですよケースケさま! それはすごい才能です!」
さっき1000人に一人とか言ってたか?
何万人に一人とか何十万人に一人とか、そういう数字じゃないのが妙なリアリティあるけど、果たしてこれは凄いのだろうか。
ていうか『感性が鋭い才能』って具体的にどういうことなんだ?
「そうですね、勘が鋭いといいますか」
レムネアは人差し指を立てて、小首を傾げながら。
「物事の正解を『なんとなく』見つけてしまう人ですね。不測の事態でも頼りになることが多いので、冒険者の中ではとても評価される才能です」
「なんとなく、って……。まったくアテにならなそうだ」
俺が苦笑していると、その間も種芋たちが俺に話しかけてくる。
『おいおい、どうでも良い話やめて俺たちを見ろって』
『私たちを選びに来たのでしょう? 無視は失礼じゃなくって?』
『そうだそうだ、真剣に俺たちを見ろー』
『わー』
こいつらうるせー。
「はいはい、おまえとおまえ、それとおまえ。……ああ、こいつも良さそうだなウチへ来い。キミはちょっと……、元気ないな?」
「面白そうですねぇ。私も種芋たちの会話に混ざってみたいです!」
「ははは」
勘弁してくれと俺は苦笑。ややこしいことこの上なくなりそうだ。
ひょいポイ、ひょいポイ。
元気そうで生意気な種芋どもを、店で貰ったダンボールへと詰めていく。
……でもまあ。
うるさいけど、声が聞こえること自体は便利かも。
なにせ元気さが一目瞭然だからな。元気なやつは良い種芋に違いない。
「なるほどね。なんとなく選ぶって言っても、五感から得られる情報を無意識に見極めながら選んでるわけだもんな。重要な能力っちゃー重要な能力なのか」
「そうですよ。この才能が高い人ほど、冒険者パーティーのリーダーとして好まれたりもするんです」
「そうなの?」
俺が問うと、レムネアはドヤ顔で。
「リーダーには知識や経験も大事ですけど、経験すら通じない未知を前にして頼れるものは結局、直感から導き出される判断なんです。だから、重宝されます」
「そういうものか」
「ケースケさまのような方が冒険者になられていたら、きっと皆から頼りにされるパーティーリーダーになってたと思いますよ」
やめろテレくさい。
ともあれ、俺は冒険者ではないからな。
細々とこの能力を楽しませて貰いますか。
――楽しむ。
そう、この幻聴は案外楽しい。芋にも個性があるんだな、ってわかるのだ。
この声自体は、俺が芋を見た『印象』から俺の脳内が作り出している『幻聴』だ。
俺は無意識のうちに、この種芋たちをそこまで観察していたということになる。
経験を積めば、この差異がいずれ言語化できるようになるのだろうか。
魔法を使わずとも『どの種芋がどんな性質で』とか、判断できるようになるのだろうか。
なれたらいいな、と思う。
目標が出来るのは楽しい。俺この状況を楽しみながら、ひょいポイと種芋を選んでいった。
「あらおや、良いどころばかりを選んでいくねぇ」
「えっ?」
突然声を掛けられたのはそのときだ。
振り向くと、帽子に長ズボンといった作業着の小太りおばさんが呆れ顔で俺のことを見ていた。
「凄い目利きだね、あんた。こんな凄腕を知らなかったなんて、あたしもまだまだだわ」
困ったような顔でおばさんは笑い、帽子を脱いで頭を掻いた。
俺はなんと言ってよいのかわからず、レムネアと顔を合わせた。
「あれ、驚かせちゃった? ごめんね」
「い、いえ。あの……」
どちらさまでしょうか? と聞こうとして、それも突然か、と思いとどまった。
誰だろう、この人。ずいぶん距離感近いけど。
「誰このおばさん、っていう顔してるけど、もしかして私を知らなかった?」
「あ、はい」
「ありゃ。この近辺じゃ有名かと思ってたんだけど、私もまだまだだ」
アハハ、と豪快に笑ったおばさんは俺たちに向き直った。
「あたしはこの園芸スペースを取り仕切ってる管理者だよ。ウチには近隣農家から種芋を仕入れにくる人が多いけど、あんたほどドンピシャに良い芋ばかりを選んでいく客は見たことないと思ってね」
「す、すみません! もしかして、これってマナー違反でしたか!?」
思わず俺は聞き返してしまった。
良くないことをしてしまったのだろうか。
「いいや、そんなことないよ。目利きは腕の見せ所さね、どんどんやっておくれ」
笑顔のまま、おばさん。
「単純に、あんたみたいな目利きを今まで私が知らなかったのが不思議だっただけだよ」「少し前に引っ越してきたばかりでして……」
「あー。じゃあ知らなくても仕方ないか。その買い付け量から見て、家庭菜園じゃないんだろう? 農業は長いのかい?」
「えっと、今年から始めるところでして……」
おばさんが目を丸くした。
「え。初心者?」
「はい」
「その目利きで?」
「あの、その。……はい」
「うわぁ、恐ろしい。あんた、才能あるよ。ジャガイモは種芋選びが大事だからね、収穫量はここで決まると言っても過言じゃないんだ」
売り場のおばさんは、しげしげと俺を眺めたのちに、レムネアへと視線を切り替えた。
「そちらは奥さん?」
「えっ! あ……はい、あのっ!」
突然会話を振られたレムネアが言葉に詰まる。
おばさんはククク、と笑った。
「いいねぇ、顔真っ赤だ。新婚さんか。夫婦で農業、大変だ」
そしてまた、俺の方を見た。
「あたしはこの辺の農家や農協にも顔が利くからさ、なにか困ったことがあったら相談に来なよ。応援してるぜ、新米さん」
そういって、おばさんは俺たちから離れていくのだった。
レムネアが俺の袖を引っ張った。
「……なんか凄い方でしたねぇ」
「そうだな」
俺も彼女も、呆けながらおばさんの後ろ姿を追っていた。
いやでも、なんというか。
『ウチの売り場の肝っ玉母さんだよ』
『豪快なんだ。頼りになりそうだろ?』
『ちょっとお節介ですけどね』
種芋たちが頷きつつ声を上げる。
こいつらホントよく喋る。元気だな。
なんにしても目利きを識者に認めてもらえたのはありがたい。
根拠になるもんな。
レムネアの魔法のお陰だけど、今回の場合はちょっぴり俺の才能とやらも関係しているらしい。
それがほんのり嬉しかった。
こんな感じで、少しづつで良いから自信に繋がる経験を積み上げていきたいものだ。
20kgを超える種芋を軽トラまで運び、その後に俺たちは食事を取って帰ることにした。
『疲れたんじゃないか? あっさりウドンでもどうだい?』
『いやいや、ここはタコ焼きだろう。レムネア嬢ちゃんもまだ食べたことないだろうし』
『バーガーバーガー、ハンバーガー。ポテトフライもLサイズで頼んじゃってさ? これからジャガイモを作ろうという今、ウチこそが門出に相応しい』
店の看板が話しかけてくる。
うるさい。
レムネアに頼んで魔法を解除して貰おうとしたのだが、一定時間このままで居るしかないとのこと。マジか。
結局タコ焼きとバーガーとポテトフライを買い込んで、外のテーブルに着いた俺たちだ。メニューを選ぶ間も、耳に色々と言葉が飛んできた。
僕を選ぼう、私を食べて。
聞き流していたけど、捉え方によってはちょっと猟奇的でもあるぞこれ。
『まあまあ、俺でも食べて落ち着きたまえよ』
これは目の前のタコ焼きくんの声。
なんだよ自分を食べてくれっていう主張。
笑うに笑えないというか、食べにくいことこの上ない。
「まさかそんなことになってしまうなんて。申し訳ありませんケースケさま」
「あはははは」
乾いた笑いで返しつつ、気にするなとレムネアには言っておく。
悪気があったわけでないし、そもそも種芋選びには役立ってるもんな。
レムネアがシュンと耳を垂らしてしまった。
ヤバ、空気が悪くなっちゃったぞ。俺は笑ってみせて、タコ焼きくんを頬張った。
「あっちぃ!」
『やるなアツアツを一口でいくとは』
『勇者おるじゃん』
「だ、大丈夫ですかケースケさま!」
慌てたレムネアが俺にジュースを渡してくる。
「ほふほふほふ、だ、大丈夫大丈夫。レムネア、タコ焼き初めて食べるだろ? これはさ、熱いけどちょっとフーフーしたら、一口で食べるのが美味いんだよ」
「そ、そうなのですか?」
「やってごらん、ちょっとフーフーして表面を冷まして」
はい、と頷いて彼女はタコ焼きをフーフー。
そして一気に口へと運んだ。
「アツッ! ほふっ、ほふっ、アツツ!」
「どうだ?」
「ほふっ、ほふふふ、ほ!」
なにを言ってるかわからない。これがタコ焼きの一番美味しい食べ方だと俺は思ってるんだけどな。どうだろう。
と、思っていたら。
『美味しいです』
『熱いですけど!』
『口の中がベロベロになっちゃいそうですけど!』
『でも美味しいです!』
あれま。レムネアの声の幻聴まで聞こえてきた。
ややこしいぞこれ。
「おいひーれふ、ケースケさま!」
これはホンモノの声。
「だろだろ!? この食べ方が絶対美味しいんだって!」
「癖になりそうです」
そういって、またレムネアはタコ焼きをフーフーして頬張った。
「はふ、はふ、ほふ!」
「じゃあ俺も」
またタコ焼きをパクリ。はふはふ。おいしい。
『美味しいはふはふ』
『次はこっちの、はんばあがー? を食べてみたいです』
これ幻聴だな。でもきっと、彼女は今そう思っているのだろう。
俺は頷いて。
「こっちのハンバーガーは、こう食べる!」
片手にビッグマクナル、片手にポテトフライ。
バーガーを齧って、ポテトフライを食べて。両手持ちするのがコツ。
「うふふ、行儀悪いのがまた、背徳的で美味しそう」
こうして俺たちは、食べて、食べて、ジュースを飲んだ。
大食いなレムネアは追加を所望したので、ウドンを注文してやった。
箸にはまだ慣れていないけど、割りばしで挑む彼女なのだった。
食べた。あー食べた。
椅子の背もたれにがっつり身体を預けて、夏の真っ青な空を見上げる。
入道雲がモクモクと。蝉の声。
日陰なので涼しい風が、頬に気持ち良かった。
「雲に手が届きそうですね」
「ん?」
「こんな青い空と大きな白い雲、私の世界では見たことがありません」
彼女のいた土地は、真夏というものがない地方なのかもな。
「いいだろ? こういう暑い日に、日陰で大食い」
「はい」
風がサラサラとレムネアの長い金髪を揺らす。
彼女は心地よさそうに目を瞑っている。口元も動いていない。
だからこれは幻聴なのだけれども。
『ダンジョンの中で死なずに生き残れて、良かった』
本当に、そうだ。
一歩間違えば彼女は死んでいたんだ。
良かった、本当に良かった。
『この世界にこれて良かった』
そう思って貰えていたなら嬉しい。
『ケースケさまと出会えて良かった』
……そうだな。
「俺も、レムネアと出会えて良かったよ」
俺の言葉に、レムネアがキョトンとした顔をする。
しまった、つい!
「と、突然どうなさったのですかケースケさま?」
「な、なんでもない!」
「もう一度、言ってみてください!」
「よし、帰るぞ!」
「何故ですか! 急に言っておいてそんなに嫌がるなんて、おかしいです!」
勘弁してくれ。
そういう空気でもないときに言ってしまう本音ほど恥ずかしいものはないんだ。
「ケースケさまー!」
立ち上がって軽トラへと向かう。
結局この日、魔法の効果は夕方まで続いた。
そのあいだ、俺は部屋へと引きこもっていたのだけれども。
『やれやれ、素直じゃないな』
じいちゃんの遺影にまで、楽しそうに笑われてしまった俺だった。
勘弁してくれよ、じいちゃん。俺は恥ずかしくて頭を抱えたのだった。
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辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。
しかし現実は厳しかった。
十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。
そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――
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