19 / 35
声が聞こえるほどの才能
しおりを挟む
「目の前で種芋同士が怒鳴りあって喧嘩してるんだけど……」
「えっ!?」
俺の告白に、驚きの顔を見せるレムネア。
「ほ、本当ですか!?」
「うん。誰が一番元気か言い争いを始めた」
「すごいですよケースケさま! それはすごい才能です!」
さっき1000人に一人とか言ってたか?
何万人に一人とか何十万人に一人とか、そういう数字じゃないのが妙なリアリティあるけど、果たしてこれは凄いのだろうか。
ていうか『感性が鋭い才能』って具体的にどういうことなんだ?
「そうですね、勘が鋭いといいますか」
レムネアは人差し指を立てて、小首を傾げながら。
「物事の正解を『なんとなく』見つけてしまう人ですね。不測の事態でも頼りになることが多いので、冒険者の中ではとても評価される才能です」
「なんとなく、って……。まったくアテにならなそうだ」
俺が苦笑していると、その間も種芋たちが俺に話しかけてくる。
『おいおい、どうでも良い話やめて俺たちを見ろって』
『私たちを選びに来たのでしょう? 無視は失礼じゃなくって?』
『そうだそうだ、真剣に俺たちを見ろー』
『わー』
こいつらうるせー。
「はいはい、おまえとおまえ、それとおまえ。……ああ、こいつも良さそうだなウチへ来い。キミはちょっと……、元気ないな?」
「面白そうですねぇ。私も種芋たちの会話に混ざってみたいです!」
「ははは」
勘弁してくれと俺は苦笑。ややこしいことこの上なくなりそうだ。
ひょいポイ、ひょいポイ。
元気そうで生意気な種芋どもを、店で貰ったダンボールへと詰めていく。
……でもまあ。
うるさいけど、声が聞こえること自体は便利かも。
なにせ元気さが一目瞭然だからな。元気なやつは良い種芋に違いない。
「なるほどね。なんとなく選ぶって言っても、五感から得られる情報を無意識に見極めながら選んでるわけだもんな。重要な能力っちゃー重要な能力なのか」
「そうですよ。この才能が高い人ほど、冒険者パーティーのリーダーとして好まれたりもするんです」
「そうなの?」
俺が問うと、レムネアはドヤ顔で。
「リーダーには知識や経験も大事ですけど、経験すら通じない未知を前にして頼れるものは結局、直感から導き出される判断なんです。だから、重宝されます」
「そういうものか」
「ケースケさまのような方が冒険者になられていたら、きっと皆から頼りにされるパーティーリーダーになってたと思いますよ」
やめろテレくさい。
ともあれ、俺は冒険者ではないからな。
細々とこの能力を楽しませて貰いますか。
――楽しむ。
そう、この幻聴は案外楽しい。芋にも個性があるんだな、ってわかるのだ。
この声自体は、俺が芋を見た『印象』から俺の脳内が作り出している『幻聴』だ。
俺は無意識のうちに、この種芋たちをそこまで観察していたということになる。
経験を積めば、この差異がいずれ言語化できるようになるのだろうか。
魔法を使わずとも『どの種芋がどんな性質で』とか、判断できるようになるのだろうか。
なれたらいいな、と思う。
目標が出来るのは楽しい。俺この状況を楽しみながら、ひょいポイと種芋を選んでいった。
「あらおや、良いどころばかりを選んでいくねぇ」
「えっ?」
突然声を掛けられたのはそのときだ。
振り向くと、帽子に長ズボンといった作業着の小太りおばさんが呆れ顔で俺のことを見ていた。
「凄い目利きだね、あんた。こんな凄腕を知らなかったなんて、あたしもまだまだだわ」
困ったような顔でおばさんは笑い、帽子を脱いで頭を掻いた。
俺はなんと言ってよいのかわからず、レムネアと顔を合わせた。
「あれ、驚かせちゃった? ごめんね」
「い、いえ。あの……」
どちらさまでしょうか? と聞こうとして、それも突然か、と思いとどまった。
誰だろう、この人。ずいぶん距離感近いけど。
「誰このおばさん、っていう顔してるけど、もしかして私を知らなかった?」
「あ、はい」
「ありゃ。この近辺じゃ有名かと思ってたんだけど、私もまだまだだ」
アハハ、と豪快に笑ったおばさんは俺たちに向き直った。
「あたしはこの園芸スペースを取り仕切ってる管理者だよ。ウチには近隣農家から種芋を仕入れにくる人が多いけど、あんたほどドンピシャに良い芋ばかりを選んでいく客は見たことないと思ってね」
「す、すみません! もしかして、これってマナー違反でしたか!?」
思わず俺は聞き返してしまった。
良くないことをしてしまったのだろうか。
「いいや、そんなことないよ。目利きは腕の見せ所さね、どんどんやっておくれ」
笑顔のまま、おばさん。
「単純に、あんたみたいな目利きを今まで私が知らなかったのが不思議だっただけだよ」「少し前に引っ越してきたばかりでして……」
「あー。じゃあ知らなくても仕方ないか。その買い付け量から見て、家庭菜園じゃないんだろう? 農業は長いのかい?」
「えっと、今年から始めるところでして……」
おばさんが目を丸くした。
「え。初心者?」
「はい」
「その目利きで?」
「あの、その。……はい」
「うわぁ、恐ろしい。あんた、才能あるよ。ジャガイモは種芋選びが大事だからね、収穫量はここで決まると言っても過言じゃないんだ」
売り場のおばさんは、しげしげと俺を眺めたのちに、レムネアへと視線を切り替えた。
「そちらは奥さん?」
「えっ! あ……はい、あのっ!」
突然会話を振られたレムネアが言葉に詰まる。
おばさんはククク、と笑った。
「いいねぇ、顔真っ赤だ。新婚さんか。夫婦で農業、大変だ」
そしてまた、俺の方を見た。
「あたしはこの辺の農家や農協にも顔が利くからさ、なにか困ったことがあったら相談に来なよ。応援してるぜ、新米さん」
そういって、おばさんは俺たちから離れていくのだった。
レムネアが俺の袖を引っ張った。
「……なんか凄い方でしたねぇ」
「そうだな」
俺も彼女も、呆けながらおばさんの後ろ姿を追っていた。
いやでも、なんというか。
『ウチの売り場の肝っ玉母さんだよ』
『豪快なんだ。頼りになりそうだろ?』
『ちょっとお節介ですけどね』
種芋たちが頷きつつ声を上げる。
こいつらホントよく喋る。元気だな。
なんにしても目利きを識者に認めてもらえたのはありがたい。
根拠になるもんな。
レムネアの魔法のお陰だけど、今回の場合はちょっぴり俺の才能とやらも関係しているらしい。
それがほんのり嬉しかった。
こんな感じで、少しづつで良いから自信に繋がる経験を積み上げていきたいものだ。
20kgを超える種芋を軽トラまで運び、その後に俺たちは食事を取って帰ることにした。
『疲れたんじゃないか? あっさりウドンでもどうだい?』
『いやいや、ここはタコ焼きだろう。レムネア嬢ちゃんもまだ食べたことないだろうし』
『バーガーバーガー、ハンバーガー。ポテトフライもLサイズで頼んじゃってさ? これからジャガイモを作ろうという今、ウチこそが門出に相応しい』
店の看板が話しかけてくる。
うるさい。
レムネアに頼んで魔法を解除して貰おうとしたのだが、一定時間このままで居るしかないとのこと。マジか。
結局タコ焼きとバーガーとポテトフライを買い込んで、外のテーブルに着いた俺たちだ。メニューを選ぶ間も、耳に色々と言葉が飛んできた。
僕を選ぼう、私を食べて。
聞き流していたけど、捉え方によってはちょっと猟奇的でもあるぞこれ。
『まあまあ、俺でも食べて落ち着きたまえよ』
これは目の前のタコ焼きくんの声。
なんだよ自分を食べてくれっていう主張。
笑うに笑えないというか、食べにくいことこの上ない。
「まさかそんなことになってしまうなんて。申し訳ありませんケースケさま」
「あはははは」
乾いた笑いで返しつつ、気にするなとレムネアには言っておく。
悪気があったわけでないし、そもそも種芋選びには役立ってるもんな。
レムネアがシュンと耳を垂らしてしまった。
ヤバ、空気が悪くなっちゃったぞ。俺は笑ってみせて、タコ焼きくんを頬張った。
「あっちぃ!」
『やるなアツアツを一口でいくとは』
『勇者おるじゃん』
「だ、大丈夫ですかケースケさま!」
慌てたレムネアが俺にジュースを渡してくる。
「ほふほふほふ、だ、大丈夫大丈夫。レムネア、タコ焼き初めて食べるだろ? これはさ、熱いけどちょっとフーフーしたら、一口で食べるのが美味いんだよ」
「そ、そうなのですか?」
「やってごらん、ちょっとフーフーして表面を冷まして」
はい、と頷いて彼女はタコ焼きをフーフー。
そして一気に口へと運んだ。
「アツッ! ほふっ、ほふっ、アツツ!」
「どうだ?」
「ほふっ、ほふふふ、ほ!」
なにを言ってるかわからない。これがタコ焼きの一番美味しい食べ方だと俺は思ってるんだけどな。どうだろう。
と、思っていたら。
『美味しいです』
『熱いですけど!』
『口の中がベロベロになっちゃいそうですけど!』
『でも美味しいです!』
あれま。レムネアの声の幻聴まで聞こえてきた。
ややこしいぞこれ。
「おいひーれふ、ケースケさま!」
これはホンモノの声。
「だろだろ!? この食べ方が絶対美味しいんだって!」
「癖になりそうです」
そういって、またレムネアはタコ焼きをフーフーして頬張った。
「はふ、はふ、ほふ!」
「じゃあ俺も」
またタコ焼きをパクリ。はふはふ。おいしい。
『美味しいはふはふ』
『次はこっちの、はんばあがー? を食べてみたいです』
これ幻聴だな。でもきっと、彼女は今そう思っているのだろう。
俺は頷いて。
「こっちのハンバーガーは、こう食べる!」
片手にビッグマクナル、片手にポテトフライ。
バーガーを齧って、ポテトフライを食べて。両手持ちするのがコツ。
「うふふ、行儀悪いのがまた、背徳的で美味しそう」
こうして俺たちは、食べて、食べて、ジュースを飲んだ。
大食いなレムネアは追加を所望したので、ウドンを注文してやった。
箸にはまだ慣れていないけど、割りばしで挑む彼女なのだった。
食べた。あー食べた。
椅子の背もたれにがっつり身体を預けて、夏の真っ青な空を見上げる。
入道雲がモクモクと。蝉の声。
日陰なので涼しい風が、頬に気持ち良かった。
「雲に手が届きそうですね」
「ん?」
「こんな青い空と大きな白い雲、私の世界では見たことがありません」
彼女のいた土地は、真夏というものがない地方なのかもな。
「いいだろ? こういう暑い日に、日陰で大食い」
「はい」
風がサラサラとレムネアの長い金髪を揺らす。
彼女は心地よさそうに目を瞑っている。口元も動いていない。
だからこれは幻聴なのだけれども。
『ダンジョンの中で死なずに生き残れて、良かった』
本当に、そうだ。
一歩間違えば彼女は死んでいたんだ。
良かった、本当に良かった。
『この世界にこれて良かった』
そう思って貰えていたなら嬉しい。
『ケースケさまと出会えて良かった』
……そうだな。
「俺も、レムネアと出会えて良かったよ」
俺の言葉に、レムネアがキョトンとした顔をする。
しまった、つい!
「と、突然どうなさったのですかケースケさま?」
「な、なんでもない!」
「もう一度、言ってみてください!」
「よし、帰るぞ!」
「何故ですか! 急に言っておいてそんなに嫌がるなんて、おかしいです!」
勘弁してくれ。
そういう空気でもないときに言ってしまう本音ほど恥ずかしいものはないんだ。
「ケースケさまー!」
立ち上がって軽トラへと向かう。
結局この日、魔法の効果は夕方まで続いた。
そのあいだ、俺は部屋へと引きこもっていたのだけれども。
『やれやれ、素直じゃないな』
じいちゃんの遺影にまで、楽しそうに笑われてしまった俺だった。
勘弁してくれよ、じいちゃん。俺は恥ずかしくて頭を抱えたのだった。
「えっ!?」
俺の告白に、驚きの顔を見せるレムネア。
「ほ、本当ですか!?」
「うん。誰が一番元気か言い争いを始めた」
「すごいですよケースケさま! それはすごい才能です!」
さっき1000人に一人とか言ってたか?
何万人に一人とか何十万人に一人とか、そういう数字じゃないのが妙なリアリティあるけど、果たしてこれは凄いのだろうか。
ていうか『感性が鋭い才能』って具体的にどういうことなんだ?
「そうですね、勘が鋭いといいますか」
レムネアは人差し指を立てて、小首を傾げながら。
「物事の正解を『なんとなく』見つけてしまう人ですね。不測の事態でも頼りになることが多いので、冒険者の中ではとても評価される才能です」
「なんとなく、って……。まったくアテにならなそうだ」
俺が苦笑していると、その間も種芋たちが俺に話しかけてくる。
『おいおい、どうでも良い話やめて俺たちを見ろって』
『私たちを選びに来たのでしょう? 無視は失礼じゃなくって?』
『そうだそうだ、真剣に俺たちを見ろー』
『わー』
こいつらうるせー。
「はいはい、おまえとおまえ、それとおまえ。……ああ、こいつも良さそうだなウチへ来い。キミはちょっと……、元気ないな?」
「面白そうですねぇ。私も種芋たちの会話に混ざってみたいです!」
「ははは」
勘弁してくれと俺は苦笑。ややこしいことこの上なくなりそうだ。
ひょいポイ、ひょいポイ。
元気そうで生意気な種芋どもを、店で貰ったダンボールへと詰めていく。
……でもまあ。
うるさいけど、声が聞こえること自体は便利かも。
なにせ元気さが一目瞭然だからな。元気なやつは良い種芋に違いない。
「なるほどね。なんとなく選ぶって言っても、五感から得られる情報を無意識に見極めながら選んでるわけだもんな。重要な能力っちゃー重要な能力なのか」
「そうですよ。この才能が高い人ほど、冒険者パーティーのリーダーとして好まれたりもするんです」
「そうなの?」
俺が問うと、レムネアはドヤ顔で。
「リーダーには知識や経験も大事ですけど、経験すら通じない未知を前にして頼れるものは結局、直感から導き出される判断なんです。だから、重宝されます」
「そういうものか」
「ケースケさまのような方が冒険者になられていたら、きっと皆から頼りにされるパーティーリーダーになってたと思いますよ」
やめろテレくさい。
ともあれ、俺は冒険者ではないからな。
細々とこの能力を楽しませて貰いますか。
――楽しむ。
そう、この幻聴は案外楽しい。芋にも個性があるんだな、ってわかるのだ。
この声自体は、俺が芋を見た『印象』から俺の脳内が作り出している『幻聴』だ。
俺は無意識のうちに、この種芋たちをそこまで観察していたということになる。
経験を積めば、この差異がいずれ言語化できるようになるのだろうか。
魔法を使わずとも『どの種芋がどんな性質で』とか、判断できるようになるのだろうか。
なれたらいいな、と思う。
目標が出来るのは楽しい。俺この状況を楽しみながら、ひょいポイと種芋を選んでいった。
「あらおや、良いどころばかりを選んでいくねぇ」
「えっ?」
突然声を掛けられたのはそのときだ。
振り向くと、帽子に長ズボンといった作業着の小太りおばさんが呆れ顔で俺のことを見ていた。
「凄い目利きだね、あんた。こんな凄腕を知らなかったなんて、あたしもまだまだだわ」
困ったような顔でおばさんは笑い、帽子を脱いで頭を掻いた。
俺はなんと言ってよいのかわからず、レムネアと顔を合わせた。
「あれ、驚かせちゃった? ごめんね」
「い、いえ。あの……」
どちらさまでしょうか? と聞こうとして、それも突然か、と思いとどまった。
誰だろう、この人。ずいぶん距離感近いけど。
「誰このおばさん、っていう顔してるけど、もしかして私を知らなかった?」
「あ、はい」
「ありゃ。この近辺じゃ有名かと思ってたんだけど、私もまだまだだ」
アハハ、と豪快に笑ったおばさんは俺たちに向き直った。
「あたしはこの園芸スペースを取り仕切ってる管理者だよ。ウチには近隣農家から種芋を仕入れにくる人が多いけど、あんたほどドンピシャに良い芋ばかりを選んでいく客は見たことないと思ってね」
「す、すみません! もしかして、これってマナー違反でしたか!?」
思わず俺は聞き返してしまった。
良くないことをしてしまったのだろうか。
「いいや、そんなことないよ。目利きは腕の見せ所さね、どんどんやっておくれ」
笑顔のまま、おばさん。
「単純に、あんたみたいな目利きを今まで私が知らなかったのが不思議だっただけだよ」「少し前に引っ越してきたばかりでして……」
「あー。じゃあ知らなくても仕方ないか。その買い付け量から見て、家庭菜園じゃないんだろう? 農業は長いのかい?」
「えっと、今年から始めるところでして……」
おばさんが目を丸くした。
「え。初心者?」
「はい」
「その目利きで?」
「あの、その。……はい」
「うわぁ、恐ろしい。あんた、才能あるよ。ジャガイモは種芋選びが大事だからね、収穫量はここで決まると言っても過言じゃないんだ」
売り場のおばさんは、しげしげと俺を眺めたのちに、レムネアへと視線を切り替えた。
「そちらは奥さん?」
「えっ! あ……はい、あのっ!」
突然会話を振られたレムネアが言葉に詰まる。
おばさんはククク、と笑った。
「いいねぇ、顔真っ赤だ。新婚さんか。夫婦で農業、大変だ」
そしてまた、俺の方を見た。
「あたしはこの辺の農家や農協にも顔が利くからさ、なにか困ったことがあったら相談に来なよ。応援してるぜ、新米さん」
そういって、おばさんは俺たちから離れていくのだった。
レムネアが俺の袖を引っ張った。
「……なんか凄い方でしたねぇ」
「そうだな」
俺も彼女も、呆けながらおばさんの後ろ姿を追っていた。
いやでも、なんというか。
『ウチの売り場の肝っ玉母さんだよ』
『豪快なんだ。頼りになりそうだろ?』
『ちょっとお節介ですけどね』
種芋たちが頷きつつ声を上げる。
こいつらホントよく喋る。元気だな。
なんにしても目利きを識者に認めてもらえたのはありがたい。
根拠になるもんな。
レムネアの魔法のお陰だけど、今回の場合はちょっぴり俺の才能とやらも関係しているらしい。
それがほんのり嬉しかった。
こんな感じで、少しづつで良いから自信に繋がる経験を積み上げていきたいものだ。
20kgを超える種芋を軽トラまで運び、その後に俺たちは食事を取って帰ることにした。
『疲れたんじゃないか? あっさりウドンでもどうだい?』
『いやいや、ここはタコ焼きだろう。レムネア嬢ちゃんもまだ食べたことないだろうし』
『バーガーバーガー、ハンバーガー。ポテトフライもLサイズで頼んじゃってさ? これからジャガイモを作ろうという今、ウチこそが門出に相応しい』
店の看板が話しかけてくる。
うるさい。
レムネアに頼んで魔法を解除して貰おうとしたのだが、一定時間このままで居るしかないとのこと。マジか。
結局タコ焼きとバーガーとポテトフライを買い込んで、外のテーブルに着いた俺たちだ。メニューを選ぶ間も、耳に色々と言葉が飛んできた。
僕を選ぼう、私を食べて。
聞き流していたけど、捉え方によってはちょっと猟奇的でもあるぞこれ。
『まあまあ、俺でも食べて落ち着きたまえよ』
これは目の前のタコ焼きくんの声。
なんだよ自分を食べてくれっていう主張。
笑うに笑えないというか、食べにくいことこの上ない。
「まさかそんなことになってしまうなんて。申し訳ありませんケースケさま」
「あはははは」
乾いた笑いで返しつつ、気にするなとレムネアには言っておく。
悪気があったわけでないし、そもそも種芋選びには役立ってるもんな。
レムネアがシュンと耳を垂らしてしまった。
ヤバ、空気が悪くなっちゃったぞ。俺は笑ってみせて、タコ焼きくんを頬張った。
「あっちぃ!」
『やるなアツアツを一口でいくとは』
『勇者おるじゃん』
「だ、大丈夫ですかケースケさま!」
慌てたレムネアが俺にジュースを渡してくる。
「ほふほふほふ、だ、大丈夫大丈夫。レムネア、タコ焼き初めて食べるだろ? これはさ、熱いけどちょっとフーフーしたら、一口で食べるのが美味いんだよ」
「そ、そうなのですか?」
「やってごらん、ちょっとフーフーして表面を冷まして」
はい、と頷いて彼女はタコ焼きをフーフー。
そして一気に口へと運んだ。
「アツッ! ほふっ、ほふっ、アツツ!」
「どうだ?」
「ほふっ、ほふふふ、ほ!」
なにを言ってるかわからない。これがタコ焼きの一番美味しい食べ方だと俺は思ってるんだけどな。どうだろう。
と、思っていたら。
『美味しいです』
『熱いですけど!』
『口の中がベロベロになっちゃいそうですけど!』
『でも美味しいです!』
あれま。レムネアの声の幻聴まで聞こえてきた。
ややこしいぞこれ。
「おいひーれふ、ケースケさま!」
これはホンモノの声。
「だろだろ!? この食べ方が絶対美味しいんだって!」
「癖になりそうです」
そういって、またレムネアはタコ焼きをフーフーして頬張った。
「はふ、はふ、ほふ!」
「じゃあ俺も」
またタコ焼きをパクリ。はふはふ。おいしい。
『美味しいはふはふ』
『次はこっちの、はんばあがー? を食べてみたいです』
これ幻聴だな。でもきっと、彼女は今そう思っているのだろう。
俺は頷いて。
「こっちのハンバーガーは、こう食べる!」
片手にビッグマクナル、片手にポテトフライ。
バーガーを齧って、ポテトフライを食べて。両手持ちするのがコツ。
「うふふ、行儀悪いのがまた、背徳的で美味しそう」
こうして俺たちは、食べて、食べて、ジュースを飲んだ。
大食いなレムネアは追加を所望したので、ウドンを注文してやった。
箸にはまだ慣れていないけど、割りばしで挑む彼女なのだった。
食べた。あー食べた。
椅子の背もたれにがっつり身体を預けて、夏の真っ青な空を見上げる。
入道雲がモクモクと。蝉の声。
日陰なので涼しい風が、頬に気持ち良かった。
「雲に手が届きそうですね」
「ん?」
「こんな青い空と大きな白い雲、私の世界では見たことがありません」
彼女のいた土地は、真夏というものがない地方なのかもな。
「いいだろ? こういう暑い日に、日陰で大食い」
「はい」
風がサラサラとレムネアの長い金髪を揺らす。
彼女は心地よさそうに目を瞑っている。口元も動いていない。
だからこれは幻聴なのだけれども。
『ダンジョンの中で死なずに生き残れて、良かった』
本当に、そうだ。
一歩間違えば彼女は死んでいたんだ。
良かった、本当に良かった。
『この世界にこれて良かった』
そう思って貰えていたなら嬉しい。
『ケースケさまと出会えて良かった』
……そうだな。
「俺も、レムネアと出会えて良かったよ」
俺の言葉に、レムネアがキョトンとした顔をする。
しまった、つい!
「と、突然どうなさったのですかケースケさま?」
「な、なんでもない!」
「もう一度、言ってみてください!」
「よし、帰るぞ!」
「何故ですか! 急に言っておいてそんなに嫌がるなんて、おかしいです!」
勘弁してくれ。
そういう空気でもないときに言ってしまう本音ほど恥ずかしいものはないんだ。
「ケースケさまー!」
立ち上がって軽トラへと向かう。
結局この日、魔法の効果は夕方まで続いた。
そのあいだ、俺は部屋へと引きこもっていたのだけれども。
『やれやれ、素直じゃないな』
じいちゃんの遺影にまで、楽しそうに笑われてしまった俺だった。
勘弁してくれよ、じいちゃん。俺は恥ずかしくて頭を抱えたのだった。
40
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~
わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」
現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。
渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。
私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル!
「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」
提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。
家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。
裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。
錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。
主人公無双×のんびり錬金スローライフ!
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる