相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん

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バレバレのバレ

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「いま……レムネアおねーちゃんたち、空飛んできた、よね?」

 ウチの庭。
 目を丸くしてるリッコが、呆然と俺たちの方を見ながら言った。

「ね!?」

 隣に立つナギサに同意を求める。
 ナギサもリッコ同様、ビックリ顔をして口をあんぐりさせていたのだが、声を掛けられてハッとしたようだ。

「う、うん。飛んできた……、空……飛んできた」

 彼女たちはレムネアがエルフで、魔法を使うことを知らない。
 この田舎に住む上で、話がややこしくなるから伏せていたわけだけれども、まさかこんな所を見られてしまうとは迂闊だった。

 心の中で冷や汗を掻きながら、努めて平静に笑ってみせる俺。

「なに言ってるかな二人とも。俺たち屋根から降りて来ただけだよ。な? レムネア」
「えっ!? あ、ハイ! ソウですねケースケさま、私たちは屋根の方から降りてキマシタ!」

 俺の嘘を、さり気なくギリギリ嘘じゃない言葉に修正しながら、レムネアがコクコクと頷いた。

 ……って、おいレムネア。
 ちょっと頷き方が大げさでわざとらしいぞ、まるで腹話術の人形みたいだ。
 芝居の類はできない性質だなこいつ。喋り方も少し棒読みチックで……、あ。

 ほらみろ、呆然としていただけの二人の目が、一気にジトっと疑惑の目つきになってきた。
 目を細めたナギサが、美津音ちゃんに声を掛ける。

「見たよねミッツンも?」

 だけど美津音ちゃんは唯一、レムネアが呪文使いスペルマスターであることを知っている子なので。

「き……、気の……せい。二人が言ってる通り……、屋根から、降りてきただけだよ、ナギサちゃん」

 俺たちが困っているのを見てフォローをしてくれる。
 良い子だ。頑張れ美津音ちゃん、二人を説き伏せてくれ!

「なに言ってるの! ギューン、て空から降りて来たよ!? あれなんだろうって、二人が空に居るときから皆で見てたじゃない。ねえ、リッコ」
「見てた! 宙返りしたりして、UFOかもとか私たち言ってた!」

 うお、そんな前から見られていたのか。
 なんてこった、これは万事休す。俺はレムネアに、どうにかならないか? と目配せで打診した。

 レムネアが首を振る。
 どうやら、もうどうにもならないらしい。暗示の類はタイミングが重要なのだろう。

 いかん、バレてしまう。
 もしこの子たちに知られたら、周りにレムネアが変だと言いふらされて、俺たちはここから居場所を失ってしまうかもしれない! ……って、ん?

 ――そんなこと、あるか?

 ちょっと考え込んでしまった。
 今までの付き合いで知った、この子たちの性質を思い出す。

 この子たち、そんなことしなくないか?
 出会い始めならまだしも、今はだいぶ慣れているわけで。彼女たちはレムネアに懐いてもいる。レムネアだって、この子たちが大好きだ。信頼関係は構築できていると言っていいよな。――あれれ?

 知られても、問題なくない?
 俺は頭を掻いた。

「ケースケさま?」

 俺の空気が変わったことに気がついたのだろう。
 不安そうな顔をこちらに向けていたレムネアが、小首を傾げた。
 彼女にクスリと笑ってみせて、俺はリッコとナギサにも秘密を打ち明けることにした。

「実は、レムネアが異世界から来た魔法使いだって言ったら、信じるか?」

 美津音ちゃんは、はわわ、といった感じに俺の告白に狼狽えている。
 いいんだ美津音ちゃん。俺たちはもっと、キミらを信じるべきだった。

 リッコとナギサはというと、顔を見合わせて目をパチクリ。
 そして笑顔になった。

「ほらねー!」
「やっぱりそうだったんですか」

 ――え?

「ケースケおにーさんの畑、なんか小さな泥人形がいっつも畑耕してたし、レムネアおねーちゃんの耳はたまに長く見えることあるし」
「レムネアさんが重い荷物をフワフワ浮かべてたりしてるとこも見かけたりしたよね」
「あった! あったね、ナギサ! あのときもビックリした!」

 ――あれれ?

「この間は杖からポンポンと花火連発してましたしね」

 全部、バレてない?
 ちょっとレムネアさん?

 俺はレムネアの顔を見る。レムネアはポカンとした顔をしていた。

「あの……、皆さん。ずっとお気づきだったのですか?」
「うん!」

 と元気に答えたのはリッコだった。
 これには美津音ちゃんも驚いたらしく。

「二人とも……わかってた、んだ?」
「そりゃ、なにかあるってことくらいはわかるよー。ミッツンも知ってたんでしょ?」
「え、あ……」

 消え入りそうな声で、美津音ちゃんは指を組んで人差し指をモジモジさせた。
 ナギサがクスっと笑う。

「三人とも内緒にしたかったみたいなので、今までは気づいてないフリをしてたんですけど……。ねえ、リッコ」
「そうだよねぇ、ナギサ」

 二人は突然腕を組んで、こちらをジトっと見つめてきた。

「さすがに、空を飛ぶなんて面白そうなことは無視できないよ!」
「スルーできません」

 あー。そういう。
 俺は思わず納得した。そりゃそうだ、空飛んで、俺も凄く楽しかったもん。

 にしても、彼女たちにバレバレだったとは。
 迂闊というかなんというか。彼女たちが良い子でよかった。
 あれ? でも彼女らにバレているということは。

 俺はリッコに訊ねた。

「こ、これ、他の皆さんは……」
「知らないんじゃないかなぁ、知ってるなら話題に出ると思うけど私たちの間でしか聞いたことないもん」

 ちょっとホッとする。
 大人は彼女たちみたいには行かないだろうからなぁ。

 俺が胸を撫で下ろしていると、腕を組んだままのリッコがにんまり笑う。

「というわけで、口封じをしてください!」
「ちょっとリッコ、それだとなんか私たち酷い目に遭わされちゃいそうだよ」

 ツッコミを入れたあとにナギサがこちらを見てニッコリ。

「私たちも空を飛んでみたいです。口止め料として、遊覧を請求します」

 俺はクスリと笑い。

「……ということらしい。レムネア、この人数で飛んだりできるのか?」
「出来なくはないですけど、あの、そろそろ魔力が心許なくて……」

 魔力? ああそう言えば。
 俺は腰バッグから、先日レムネアから預かった青い石『魔力補填石』を取り出した。

「これでレムネアに魔力を渡すことができるんだっけ?」

 両手で握って、石に意識を集中してみる。
 すると手の平の中が熱くなったような気がした。
 指の隙間から、青い光が漏れ出した。ちょっと指を開いてみると、どうやら輝いているようだ。

「わー、きれい」
「きれい……です」

 リッコと美津音ちゃんが見惚れたように呟く。
 確かに綺麗だ。なんとも言えない青い輝きは、クールな風でいて熱い。不思議な感じ。

「あ……っ、魔力が流れ込んできています。このまま続けていて頂ければ……」
「じゃあ、ちょっとだけみんなと一緒に飛んできてくれよ。俺はここでこうしているから」
「いいの!? ケースケおにーさん!」
「良いもなにも、空飛びたいんだろリッコ?」
「そうだけど、おにーさんは?」

 上目遣いで俺を見つめるリッコ。
 なんだ気を遣ってくれてるのか、優しいもんだ。ちょっと嬉しい。

「俺はさっき、思いっきり飛んで貰ったしさ。気にすんな、みんなで行ってこい」

 ぱあぁ、と三人の顔が明るくなる。
 レムネアに言われ、三人が寄りそうようにレムネアに近づいた。

「じゃあ、ちょっと飛んできますね」
「いってこい、三人を頼んだぞレムネア」

 言うが早いか、レムネアたちは空に舞い上がった。

「「「きゃああぁぁああーっ!?」」」

 飛び上がる三人の悲鳴には期待が混ざっている。
 ジェットコースターで女の子がキャーというのに近いニュアンスだった。

 楽しんできてくれよー。
 そう思いながら、俺は手の中の石に集中を続ける。にしても。

 そっかー。バレていたのかー。
 なら今度、ゴーレムたちと一緒に畑仕事を手伝って貰ったりもしてみようか。
 たぶんあいつら喜ぶ気がする。ゴーレム、なんかカワイイからな。

 少しホッとしたよ、秘密を秘密のままにするのって、割と疲れるんだ。
 バレたのがあいつらでよかった。秘密を共有する相手になって貰えて、よかった。

 そんな気がする。
 空で宙返りしているレムネアたちを眺めながら、いつしか笑っていた自分に俺は気がついたのだった。
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