相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん

文字の大きさ
27 / 35

9月になって

しおりを挟む
 種芋を畑に植えて一週間、9月に入った頃。
 今度はセルトレイで育成した白菜の苗を畑に植え替えることにした。

 白菜には虫が付きやすい。
 なのに、さほど虫害もなく育てることができたのは、間違いなくレムネアの魔法薬のお陰だろう。

 ゴーレムたちと畑の畝立てをしながらレムネアに礼を言うと、彼女は控えめな笑顔で耳をピコピコ動かして見せた。とても喜んでいる証拠だ。

「セフセフですよ。アブラムシが湧いたときにはどうしようかと思ったものですが」
「一度くっつかれちゃうと、効果が薄いぽいな。駆除効果はないみたいだから、その辺農薬とは違ってそうだ」

 でも、うまく使えば農薬を減らして白菜を育てられるかもしれない。
 無農薬の栽培は地獄と聞くけど、減らせるなら減らしてみたい気はする。

 怖い物知らずな素人ほど、無農薬とか減農薬の栽培という物に憧れるものなのだ。
 はい俺です。

 都内に住んでいた頃、無農薬野菜を使うレストランで野菜を食べたことがあるんだけど、確かに美味しかった。人参、全然エグさがなくて甘みがあったもんな。

 そういう野菜を作ってみたいな、という願望はやはりあるんだよね。

「ケースケさまがやりたいことでしたら、この私がどんなことでもお力になりますとも!」

 俺がちょっとしたお気持ちを吐露すると、レムネアが手を腰に当てて胸を張った。
 えっへん、というポーズだ。
 自信ありげになってきて、なにより。彼女もだいぶ変わってきた気がする。

「そうだな。頼らせてもらうよ」
「頼ってください!」

 午前中。
 10時になり、休憩に入る。今日は木陰でお茶と甘い物を食べることにした。
 甘味はモナカ。
 確か和菓子は初めてなんじゃないかな、レムネア。

「わあっ、かわいい」

 モナカの皮がデフォルメされた動物の顔の形になっている。
 食べるのが勿体ない、と笑う彼女に率先して、俺は一つ口にした。ぱくり。

「んー、甘いアンコが疲れた身体に沁みるー」

 そして水筒から紙コップに注いだ冷たくて濃い緑茶をグビリ。
 この組み合わせって最強の一種だよなぁ。
 緑茶の苦さとアンコの甘さが丁度良くマッチして、口の中がさっぱりする。

 俺が二つ目のモナカに手を伸ばそうとすると。

「ず、ずるいですケースケさま」

 慌ててレムネアも続いてきた。
 モナカにぱくりと齧りつく。

「ぁま~い!」

 緑茶を飲む。

「にが~い!」

 困ったように笑っているのはきっと、この組み合わせが気に入ったからだ。
 何故なら甘い、にがい、を交互に繰り返しながら、恍惚とした表情でモナカと緑茶を口に運び続けていく彼女なのだった。

「気に入って貰えたようで、なにより」
「まだこんな美味しい物を隠していたなんて、この世界はホントにもう!」

 レムネアは、片手にモナカ。片手に緑茶。
 おいおい食いしん坊か。食いしん坊だった。すごい勢いで食べてくぞこいつ。

「はー、お腹がいっぱいです」

 食べ終えた頃には、俺の四倍くらいモナカを口にしている。
 元気の証明で良いことだけどな。俺は苦笑しながら話題を変えた。

「苗の植え替えが終わったら、虫よけをもう一回してもらうか」
「まだ魔法薬の効果が切れる頃じゃないとは思いますが……」
「そうなのか? それじゃその辺の時期はレムネアに任せるとして――」

 虫除け網を張ったり芽の選定をしたりとか、あれやってこれやってと忙しくなりそうだ。
 木陰に二人で座りながら、今も働き続けてくれているゴーレムさんたちを眺める。
 あいつらはこの暑い中でも文句一つ言わずに動いてくれるなぁ。
 凄い労働力だよ。ゴーレムさん、ひいてはレムネアにも、感謝の気持ちしかない。

「白菜、うまく育ってくれるといいですねぇ」
「そうだな。ジャガイモと違って育成が難しいらしいから、頑張らないとな」
「難しいんですか?」
「野崎さんの話だと、虫害を受けやすくて大変なんだそうだ。だからレムネアには特に頼らせて貰うよ」

 俺がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべて。

「はい! 頼ってください!」

 と嬉しそうに俺の顔を見た。
 つい苦笑してしまう俺。

「はは、なんでそんな嬉しそうに言うんだ」
「……私は前の世界ではあまり頼られたりしませんでしたから。ちゃんとケースケさまのお役に立てて、一人前扱いされることが嬉しいんです」

 真顔で言われてしまった。
 そっか、そういうものなのか。うまく返事をすることができず、俺は思わず空を見上げた。

 ミーンミーンミーン。
 蝉の声。

 9月になりたてとか、まだ真夏と暑さは差して変わりがない。
 こうして木陰で風に吹かれていても暑さがジワジワ身体を蝕んでくるほどだ。

「……こう暑いと、プールでも行きたくならないか?」
「? ぷーるというのは、なんですか?」

 ああそうか、いかにも異世界には存在しなさそうなレジャー施設だわな。
 俺はレムネアにプールというものを説明した。

「水がたくさんで泳げる施設……ですか」
「レムネアは泳げる?」
「一応。というかどちらかと言えば得意な技術ですね」
「技術って、なんか大げさだな」

 思わず苦笑してしまうが、レムネアは至って真面目な顔を崩さずに。

「そりゃあ、冒険者にとっては大切な技術ですよ。水辺の魔物の中には、私たちを水中に引きずり込む輩もいるのですから」
「河童みたいな奴だな」
「――! こちらの世界にもやはり水辺の魔物が!?」

 クワッと目を見開いて反応してくる彼女に、重ねて苦笑する俺だった。

「居ない居ない。まだ科学が発達してなかった大昔の伝承だよ」

 ソウデスカ。
 と棒読みで返してくるレムネアだった。
 ちょっとシュンとして見えるのは何故だろう。

 俺は少し聞いてみた。

「……やっぱり、冒険者としての能力を発揮する場がないってのは寂しいものか?」
「え、いえ! そんなことはありませんよ!?」

 慌てた顔で否定するレムネア。
 どうやら図星ではあるらしい。

 といって、その欲求を満たしてやることは、俺にもできない。
 なにせこの世界には魔物なんて居ないんだからな、なにかと戦ったりする場面なんかそうそうあるものじゃない。
 俺はちょっとだけ話題を変えた。

「泳ぐの得意って言ってたけど、どれくらい得意なんだ?」
「魔法を使いますが、20分ほどは水に潜ったままで居られます」
「え、すご」

 シンプルに驚いてみせると、気を良くしたのかレムネアは笑顔を見せた。

「溺れる心配のない状態で泳ぎも練習してますから、たぶん上手と言ってよいレベルだと思いますよ。水の中をスイスイです」
「マジかー。俺も一応泳げるけど、そんな上手くはないからなぁ」
「なんなら水の上を歩くこともできます!」

 えっへん、と胸を張るが、それはもう泳ぎじゃない。興味はあるけど。
 にしても、そうかレムネアは泳ぎが得意だったのか。
 ちょっと見てみたい気がするな、泳いでいるレムネアのこと。

「……白菜の植え替えが一段落したら、皆でプールに行ってみるか?」
「え?」
「レムネアは泳ぎが得意なんだろ、あの三人娘にコーチでもしてやれよ。なんなら、俺もコーチして欲しいくらいだけど」
「い、行きたいです、ぜひ!」

 レムネアが目を輝かせる。
 おおっと、そんなに喜ぶとは思っていなかった。

「よーし。レイジにも話を通しておくよ、この辺にプールがあるか聞いてみないとな」
「はいっ!」

 ◇◆◇◆

 一週間後、レイジが大きなバンに乗って俺の家へと顔を出した。
 三人娘も乗っている。

 今日はプールに行く日だ。
 この日の為に、レムネアの水着も買いにいった。

 例によって「しまむらさん」という大衆ブランドだ。この辺、俺はあまり詳しくないのでレムネアを連れていけるところがワンパで申し訳ない。

 女性店員さんがレムネアの対応をしてくれて(前回と同じ店員さんだったぽく、覚えられていた)、最後はまたニンマリした笑顔で「美人のお嫁さんで羨ましい限りです旦那さん」などと冷やかされたものである。

「準備はいいようだな」
「オッケーだ。にしてもデカい車だな、駄菓子屋って儲かるのか?」
「本業は他にあるって言ったろ」

 そうだった。
 本業を聞いてみたのだが、笑って答えない。
 なんだよ闇の商売でもやってるのかコイツ。俺が苦笑すると、レイジは肩を竦めてみせた。

「その辺はまあ、おいおいな。よーし、おまえら準備はいいかー! 出かけるぞー!」

 おー、と元気よく応えたのは後部座席に乗っている三人娘だった。
 それぞれさっそくカバンから駄菓子を取り出して、レムネアに渡し出す。

「レムネアおねーちゃん、これ美味しいから!」
「おねえ……さん。こっち、も」

 リッコと美津音ちゃんに詰められて、レムネアが困った顔でこちらを見る。
 俺は笑ってみせた。

「貰っとけ貰っとけ。駄菓子なんてものは皆で食べた方が美味しいんだから」
「ケースケお兄さん、わかっていますね。ご褒美にこれを差し上げます」

 後部座席から身体を乗り出してきたのはナギサだった。
 手渡されたのはうまか棒スナック、サラミ味。

「おいおい、俺にはないのかよナギサぁ」
「レイジさんは運転があるから。危ないので」
「ひでえ!」

 車内に笑い声が響く。
 さあ、今日はプールだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私は貧しい家に生まれた お母さんが作ってくれたパイを始めて食べて食の楽しさを知った メイドとして働くことになれて少しすると美味しそうなパイが出される 王妃様への食事だと分かっていても食べたかった そんなパイに手を出したが最後、私は王族に気に入られるようになってしまった 私はつまみ食いしただけなんですけど…

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る

六志麻あさ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。 だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。 それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。 世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。 快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。 ●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。 オッサンにだって、未来がある。 底辺から這い上がる冒険譚?! 辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。 しかし現実は厳しかった。 十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。 そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――

処理中です...