忘れられない君の香

秋月真鳥

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ヴォルフラム(攻め)視点

3.結婚後初めてのヒート

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 結婚後のアレクシスの初めてのヒートのとき、ヴォルフラムは一緒に過ごしたい気持ちを必死に抑えていた。アレクシスは抑制剤でヒートを抑えると言っているが、抑制剤の中には不妊になるものがあったり、精度のいいものばかりではなかった。
 アレクシスが望まないのであれば子どもはいらないと思っているが、望んでくれるならばアレクシスとの間に子どもが欲しい。
 アレクシスに似ても、ヴォルフラムに似ても、アレクシスが産んだ子どもなら愛することができるだろう。

「来週あたりにヒートが来ます。抑制剤で制御しますが、来週はわたしに近寄らないようにしてください」
「ヒートの期間中くらい休んでほしい。抑制剤は副作用もあるので使ってほしくない」

ヒートの期間中でも執務をするくらいの強い抑制剤は使ってほしくないし、オメガにとってはヒートは体力を奪うものである。執務も休んでほしいと願えば、アレクシスは渋々ながら了承してくれた。

 アレクシスが存在するだけで屋敷の中はいつも微かにアレクシスのフェロモンの香りがするのだが、ヒート期間中はアレクシスの部屋に行かなくてもアレクシスのフェロモンが強くなっている気がしてヴォルフラムは落ち着かなかった。
 ヒートを耐えるために未婚のオメガは自分より身分の低いアルファに慰めてもらっても純潔が失われたことにならない。それはヒートを耐えるためのオメガに許された貴族社会の優遇策なのだが、結婚しているアレクシスがそれをするわけにはいかないし、それくらいならヴォルフラムを呼んでほしいと思っていた。

 屋敷中に漂うアレクシスの匂いに勝てずに、ヴォルフラムはバスルームでシャワーを浴びながら自分の中心を自分で慰めた。
 シャンプーも石鹸も全てアレクシスと同じものが置かれているので、バスルームにこもると嫌でもアレクシスのことを思い出してしまう。

 中心を扱く手を速めて先端を親指でこすると、耐えきれずどぷどぷと大量の白濁が吐き出される。
 この白濁をアレクシスの中に注ぎたい。アレクシスの奥の奥まで突き上げて、胎の中に白濁をぶちまけたい。
 アルファとしての本能がアレクシスを求めていた。

 ヒートの間はアレクシスの代わりに執務を請け負っていたが、アレクシスでないと判断できないことも多くて、アレクシスが本当に優秀でバルテル侯爵として領地を完璧に治めているのだと実感させられた。
 アレクシスのヒートが終わったら、少しやつれた顔でアレクシスは執務室にやってきた。
 オメガのヒートはひどく消耗するものだと知っているし、アレクシスはそれを一人で乗り越えたのだからもう少し休んでもいいのではないかという気持ちと、アレクシスがいなければ片付かない仕事との間でヴォルフラムは苦悩した。

 何よりヒートが終わったばかりのアレクシスはまだ濃厚にフェロモンの香りがする。アルファを狂わせるほどの量ではないが、我慢していたヴォルフラムには強すぎるものだった。

 このままアレクシスを抱き締めて、夫夫の寝室に連れ込んで抱いてしまいたい。
 凶暴な獣のような本能を必死に抑えて、ヴォルフラムはアレクシスと穏やかに話していた。

 アレクシスのヒートの間にヴォルフラムは手触りのいいカシミアのひざ掛けを用意して、果樹園の事業で作った中でもアレクシスが気に入っていた紅茶を入れて、アレクシスを迎えた。
 秋口でそこそこ冷えるようになっていたし、執務室は日の当たらない奥の部屋だったのでひざ掛けをかけるとアレクシスは驚いているようだった。

「わたしは体の弱いオメガではないので必要ありません」
「ヒートで消耗したのではないですか? おれが抑制剤を使ってほしくないと言ったばかりに」

 体が弱くなかろうと、ヴォルフラムにとってアレクシスは大事な相手だ。甘やかして大切にしたいと思っている。
 
「わたしにそんなに構うことはないのです」
「あなたはおれの伴侶です。まだ番にはなっていないけれど、番だと思っています」
「番……」

 遠慮するアレクシスに、ヴォルフラムは真実を告げたかった。
 自分はアレクシスが十一歳のころに出会った女の子の格好をした相手で、あのときからずっと運命を感じているのだと。
 しかし、女装をさせられていたことはできればアレクシスに知られたくないし、アレクシスの縁談をフィリップに手を回してもらって潰してきたことや、学園でもアレクシスに興味を持つものは遠ざけてきたことに気付かれてしまってはアレクシスに嫌われてしまう。
 あくまでもヴォルフラムはアレクシスに対して紳士で優しくなければいけなかった。

 アレクシスにエメラルドの飾られたチョーカーを贈ったのも、独占欲からだった。
 アレクシスに自分の色を身に着けてほしい。まだ番になれていないがアレクシスが自分のものだと主張したい。

 必要ないと断りそうになったアレクシスに、番の証である噛み跡がついていないのを隠すためだと言えば、アレクシスは素直にエメラルドの飾られたチョーカーを身に着けてくれた。
 ヴォルフラムの青みがかった緑の目の色そっくりのエメラルドがアレクシスの首で輝いている。
 そのことはヴォルフラムを満足させた。

 ハインケス子爵家からお茶会の誘いが来ていたのをアレクシスに伝えると、アレクシスは出席すると答えた。
 バルテル侯爵としてアレクシスが執務を行うので、バルテル侯爵の伴侶としてヴォルフラムは執務も手伝いながら屋敷の采配もやるようになっていた。
 借金返済のめどはつきつつあったし、バルテル侯爵家も余裕が出てきたので、少なすぎる使用人の数を増やしたり、屋敷の改修工事をしたり、ヴォルフラムは忙しくしていた。
 手紙を受け取って中身を確かめるのも、ヴォルフラムの役目だった。
 不埒な輩がアレクシスに近寄ってきたり、コンタクトを取ろうとしてもヴォルフラムが退けられるようにという気持ちもあったのだが、執務で忙しいアレクシスの負担を少しでも減らしたかった。

 ハインケス子爵家のお茶会に参加するにあたって、ヴォルフラムはアレクシスとお揃いの衣装を着たかった。
 よりはっきりとアレクシスが自分のものだと主張するためである。
 お揃いのフロックコートを仕立てる提案をすると、アレクシスはそんなことに気付いていなかった様子だが、反対はしなかった。

「衣装は仕立てて構わないのだが……」
「何か問題でも?」
「その……あなたが着るのに相応しい仕立て職人を紹介してくれないだろうか」

 これまで借金に追われる生活をしていたアレクシスにとっては、衣装にお金をかけることはできなかったのだろう。安い仕立て職人に誂えさせた流行外れの衣装ばかり着ていると思ったらそのようだった。

「もちろん、おれが仕立て職人を手配するよ。アレクシスに頼ってもらえて嬉しい」
「よろしくお願いします」
「アレクシスのためならば喜んで」

 アレクシスに頼ってもらえて嬉しいし、ヴォルフラムの好みの衣装をアレクシスに着せることができるのも楽しい。
 ヴォルフラムはハインケス子爵家にいたころから自分が贔屓にしていた仕立て職人を呼んで、アレクシスのサイズを測ってもらって、自分もサイズを測ってもらって、デザインを相談し、アレクシスと自分のお揃いのフロックコートを三着仕立ててもらうことにした。
 ハインケス子爵家のお茶会に来ていくフロックコートも決まっていたので安心していたら、サイズを測るときに脱いだジャケットを仕立て職人を招いた部屋に置いてきたことに気付いて、部屋に戻ると、アレクシスがヴォルフラムのジャケットを握っていた。

 音を立てないようにドアの隙間から覗いていると、アレクシスがジャケットを持ち上げて鼻に寄せている。匂いを嗅いでいるのだと気付いた瞬間、ヴォルフラムは顔が熱くなって頬を押さえた。

 オメガがアルファのものを嗅いでいるだなんて、それは好意があるに違いない。好意がなければアルファのフェロモンはオメガにとっては苦痛のはずだが、好意があればアルファのフェロモンはオメガにとって心地いいものになる。
 好きなアルファの匂いの付いたものを集めて、オメガは巣作りをする。

 アレクシスに気付かれないようにその場を離れたヴォルフラムは、それからときどきアレクシスの行動を盗み見していた。ヴォルフラムがさりげなく置き忘れた風に置いていくジャケットや手袋を、アレクシスは確実に部屋に持って帰っている。
 部屋に持って帰ってからいけないことだったと気付くのか、こっそり返しに来ているのだが、それもヴォルフラムは気付いていたが何も言わなかった。

 アレクシスが自分のもので巣作りをしているかもしれない。

「おれのアスコットタイが見当たらないのですが、アレクシスのものの中に混じっていませんか?」

 朝食の席で何も知らないふりをして問いかけると、マナーが完璧なアレクシスがフォークを取り落としそうになったのをヴォルフラムは見た。平然としているように見えるが、アレクシスはかなり焦っている。

「確認してみます」
「ジャケットも、シャツも、最近見当たらないものが多くて。おれが屋敷を取り仕切っているのに、申し訳ない」
「あなたが謝ることではないと思います」

 分かっていながらも口に出すとアレクシスが慌てているのが分かるようで、ヴォルフラムはそれが嬉しくてたまらなかった。
 間違いない。
 アレクシスはヴォルフラムのもので巣作りをしている。
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