そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥

文字の大きさ
41 / 151
二章 ご寵愛されてます

11.ソフィアと過ごす夕べ

しおりを挟む
 わたくしの演奏と歌もなんとか成功して終わり、わたくしとアレクサンテリ陛下と両親とソフィアは夕食を一緒に食べた。
 夕食は和やかな空気の中で会話が交わされた。

「それでは、レイシーは皇宮でも裁縫をさせていただいて、造花にまで挑戦させていただいているんだね」
「はい。アレクサンテリ陛下が、結婚式のブーケと花冠を作らないかと仰ったとき、わたくし、とても嬉しかったのです」
「それはよかったですね」

 わたくしが造花にも憧れていたけれど、造花には特殊な染料やこてが必要だったので諦めていたことを知っている両親は喜んでくれていた。

「中庭で家庭菜園を作っているのですか?」
「そうなのですよ、ソフィア」
「この前、レイシーが収穫したナスとキュウリを食べさせてもらった。とても美味しかったよ」
「お姉様はディアン子爵家でも家庭菜園を作っていましたからね。夏休みの間はわたくしが家庭菜園の世話をしていましたよ」
「そうだったのですね、ソフィア。トマトやナスやキュウリはよく育っていましたか」
「はい、とても」

 ソフィアとの会話にアレクサンテリ陛下は自然に入ってくるし、ソフィアもそれを嫌がる様子はなかった。わたくしが皇后として迎えられると聞いて、ソフィアもアレクサンテリ陛下の見方を変えたようだった。

 夕食後、わたくしは自分の部屋にソフィアを招いていた。
 ソフィアと二人きりで話したかったのだ。
 わたくしが滞在している部屋は、アレクサンテリ陛下が滞在している皇帝陛下のための部屋の隣で、妃のための部屋だった。これまでの皇帝陛下は複数の妃を持っていたこともあるので、妃のための部屋も複数あるのだが、その中でも寵愛されている妃のための部屋のようで、アレクサンテリ陛下は鍵をかけて、その鍵をわたくしに預けてくださっているが、皇帝陛下の部屋と直通のドアもあった。

 広い部屋のソファに座ると、わたくしはソフィアに聞いてみた。

「急にディアン子爵家の後継者となってしまいましたが、困っていることはありませんか?」
「わたくし、ディアン子爵家の後継者となって、これまでお姉様がどれだけわたくしのために心を砕いてくれていたか分かったのです。お姉様、本当にありがとうございます」
「姉が妹に何かするのは当然のことです。わたくしはソフィアのことを本当にかわいいと思っているのです」
「お姉様、わたくしもお姉様のことが大好きです」

 小さなころから美しかったソフィアとわたくしは比べられることが多かったが、わたくしは気にせずにソフィアをかわいがった。ソフィアが愛されることは嬉しかったし、ソフィアが健康で成長していることが何よりの幸福だった。
 ソフィアがいたからこそ、レナン殿との婚約も我慢できたのだと思う。

「ディアン子爵家の後継者として、お姉様を見習って、学園は首席で卒業できるように努力しています。領地に裁縫の工場ができたので、その経営にも携われるように勉強をしています」
「ソフィアは昔から裁縫はそんなに得意ではありませんでしたね」
「苦手でしたが、経営の方はできると思います。でも、どんなことをすれば工場で労働者たちが働きやすくなるのかを考えるために、わたくしも裁縫を始めました」
「ソフィアが裁縫を?」
「お姉様のように上手ではないし、すぐには上達はしませんが、どのようなものかを知っておいた方が工場経営にも役立つと思ったのです」

 どちらかといえばソフィアは活発な方で、ダンスやピアノや乗馬などの実践が得意で、裁縫のような細かい作業は苦手だった。それを経営のために理解したいと真剣に始める姿は偉いと思う。

「学んだことは絶対に活かせます。ソフィアが苦手ながら裁縫を始めたことは、これから工場で初めて裁縫をする労働者の身になって考える手助けになると思います。しっかりと頑張ってください」
「はい、お姉様」

 姉妹で手を取り合って話していると、ソフィアがふとわたくしの長く伸ばした黒髪に触れる。ソフィアの髪は母に似て金色なので、わたくしのような地味な色ではない。

「わたくし、お姉様がわたくしに必要なものがあったら髪を切って売ると言っていたのを覚えています」
「アレクサンテリ陛下のおかげで髪は売らなくてもよくなりそうですね」
「お姉様の髪は豊かで美しいのに、切ってしまったら悲しいと思っていました。お姉様の髪を切らなくてよくなって本当によかったと思います」

 もし本当にディアン子爵家が困窮して、ソフィアが学園で困るようになったら、わたくしは髪を売ってソフィアが学園で快適に過ごせるようにしていたと思う。
 この時代、髪の短い貴族の令嬢もいないわけではないし、短い髪もアレンジすればそれなりに見せられるだろうと考えていたのだ。
 ソフィア自身がわたくしの髪をそんな風に思っていてくれただなんて知らなかった。

「お姉様は本当に皇帝陛下に愛されているのですね」
「アレクサンテリ陛下は、わたくしのことを愛してくださっています。わたくしがしたいことをさせてくれて、わたくしに学びの機会を与えてくれています。皇后になってからはこんな風に自由にはできないだろうとは思うのですが、そのときには皇后としての責務を立派に果たしたいと思っています」
「お姉様は立派です。きっと素晴らしい皇后陛下になりますわ」
「そうだといいのですが」
「自信を持ってください。お姉様は学園でもずっと首席でした。お姉様のような優秀な姉を持てて、わたくしは誇らしかったです」

 「女のくせに首席を取ってどうするのか」とレナン殿には言われたことがあったが、わたくしは自分が優秀であることに胸を張っていた。ディアン子爵家を継ぐときに学園で学んだことは必ず役に立つ。そう思って学園での日々を過ごしていた。

「妃教育を受けて分かったのですが、学園で勉強したことは何一つ無駄になりませんでした。ソフィアも学園で学べるだけ学んで、立派な後継者になってください」
「はい、お姉様」

 そう答えた後でソフィアはそっとわたくしの耳に囁くようにしてお願いしてきた。

「わたくしは今は結婚など考えられないのですが、お姉様が結婚したら、真剣に婚約者を探そうと思います。お姉様はわたくしより先に幸せになって、わたくしに希望を持たせてくださいね」
「希望を?」
「この国が、皇帝陛下と皇后陛下が想い合って結ばれるような場所であると示してください」

 貴族は愛のない政略結婚をするのがほとんどだ。それをわたくしとアレクサンテリ陛下が、愛し合っている皇帝陛下と皇后という立場になれば、変えられるのかもしれない。貴族同士であっても、愛情を持って結婚するのが一般的になるのかもしれない。
 そう考えると、わたくしの責任は重大だった。

「わたくし、アレクサンテリ陛下と幸せになります」
「お姉様、応援しています」

 愛するアレクサンテリ陛下に幸せになってほしい思いは、同時にわたくしが幸せでなければいけないという思いでもあった。アレクサンテリ陛下が愛しているわたくしが幸せでなければ、アレクサンテリ陛下も幸せとはいいがたいだろう。

 ソフィアにおやすみなさいを言った後で、わたくしはアレクサンテリ陛下のお顔を見たくなった。
 この時間にお部屋を訪ねるのは失礼だし、はしたないと思われるかもしれないので、我慢してベランダに出ると、そこは思ったより広く、隣りの部屋と繋がっている。
 隣りの部屋のベランダではアレクサンテリ陛下が椅子に座って、テーブルにグラスを置いていた。

「アレクサンテリ陛下?」
「レイシーではないか。こんな時間にどうしたのかな?」
「アレクサンテリ陛下のお顔を見たかったのですが、この時間にお部屋を訪ねるのは失礼かと思って、ベランダに出て夜の湖を見ようと思っていました」
「少し冷えるようだね。こちらへどうぞ」

 アレクサンテリ陛下が自分の横の椅子を示してくれて、わたくしがそこに座ると、侍女にひざ掛けを持って来させてわたくしの膝にかけてくれた。アレクサンテリ陛下はお酒を飲んでいるようだった。

「アレクサンテリ陛下はどうなさったんですか?」
「わたしも夜の湖を見たくてベランダに出たんだ。静かで心地よかったので、ここで酒を飲んでいた」
「アレクサンテリ陛下はお酒がお好きなのですか?」
「好きか嫌いかで言えば好きだが、晩餐会で飲まされるのは好きではないね。静かに自分の部屋で飲むのが好きかな」
「わたくしがご一緒してもお邪魔じゃないですか?」
「レイシーが一緒にいてくれると嬉しいよ」

 微笑むアレクサンテリ陛下の顔は、外が薄暗いのであまりよく見えないけれど、きっと目元が朱鷺色に染まっているのだろう。

「さっきまでソフィアが部屋に来ていたのです。アレクサンテリ陛下のおかげで、ソフィアとゆっくり話すことができました」
「それはよかった。ソフィアとレイシーは仲のいい姉妹だからね。ソフィアはわたしにレイシーを取られたような気分になっているのかもしれないと思っていたよ」
「そうかもしれません。ソフィアの態度、不敬でしたでしょう?」
「気にしていないよ。ソフィアがわたしにレイシーを安心して預けられるように努力していこうと思っていた。わたしがソフィアの立場でも、姉の結婚相手というのは気になるものだろうしね」

 アレクサンテリ陛下の寛大なお心に感謝していると、アレクサンテリ陛下が手を伸ばしてわたくしの肩を抱く。アレクサンテリ陛下の顔が近くなって、アルコールの香りがした。

「レイシー、わたしを愛している?」
「はい、愛しています」
「わたしも愛しているよ」

 アレクサンテリ陛下の指が、わたくしの前髪を掻き上げて、額に唇が触れた。

「これ以上は歯止めがきかなくなってしまう。おやすみ、レイシー」

 立ち上がったアレクサンテリ陛下に解放されて、わたくしも立ち上がる。

「おやすみなさいませ、アレクサンテリ陛下」

 アレクサンテリ陛下の唇が触れた額が熱い気がして、わたくしはそっとそこを押さえた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される! 前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。 土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。 当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。 一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。 これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!

王子様とずっと一緒にいる方法

秋月真鳥
恋愛
五歳のわたくし、フィーネは姉と共に王宮へ。 そこで出会ったのは、襲われていた六歳の王太子殿下。 「フィーネ・エルネスト、助太刀します! お覚悟ー!」 身長を超える大剣で暗殺者を一掃したら、王子様の学友になっちゃった! 「フィーネ嬢、わたしと過ごしませんか?」 「王子様と一緒にいられるの!?」 毎日お茶して、一緒にお勉強して。 姉の恋の応援もして。 王子様は優しくて賢くて、まるで絵本の王子様みたい。 でも、王子様はいつか誰かと結婚してしまう。 そうしたら、わたくしは王子様のそばにいられなくなっちゃうの……? 「ずっとわたしと一緒にいる方法があると言ったら、フィーネ嬢はどうしますか?」 え? ずっと一緒にいられる方法があるの!? ――これは、五歳で出会った二人が、時間をかけて育む初恋の物語。 彼女はまだ「恋」を知らない。けれど、彼はもう決めている――。 ※貧乏子爵家の天真爛漫少女×策略王子の、ほのぼのラブコメです。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...