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二章 ご寵愛されてます
21.わたくしの功績はディアン子爵家の功績
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ディアン子爵家の陞爵の話は問題なく進んでいた。
このままだと年明けにはディアン子爵家は伯爵家になれるだろう。
その背景にわたくしの力があったことを、ラヴァル夫人からわたくしは聞かされた。
「ディアン子爵家のレイシー殿下が皇帝陛下に進言して、皇帝陛下が自分一人で背負っていた執務を他にできるものは他の者たちに振り分けるようになった。このことはとても重大なことでした」
「わたくしは、アレクサンテリ陛下のお体と、アレクサンテリ陛下一人がいなくなったらこの国がうまく機能しないような状態は健全ではないということをお伝えしただけです」
「それがよかったのです。皇帝陛下は全ての執務を掌握して誰にも任せることができなかった。それではこの国は成り立ちません。様々なものが国に関わる執務を把握していて、共に政治を行わないと皇帝陛下の独裁になりかねませんでした」
周囲からもアレクサンテリ陛下は心配されていたし、警戒もされていたとラヴァル夫人は話してくれた。特に属国からはアレクサンテリ陛下が独裁体制を布いて皇帝陛下お一人の力が強大になるのではないかと恐れる声も出ていたというのだ。
「このままでは属国がまたクーデターを起こしかねない状態だったのです。それを打開してくださったのがレイシー殿下でした」
「わたくしがそんなにお役に立てたのですか」
「皇帝陛下は他の者が進言しても聞き入れようとはしませんでした。理屈としては分かっていたのだと思いますが、執務を自分以外に任せることが、その責任感と孤独さゆえにどうしてもできなかったのだと思います」
アレクサンテリ陛下は孤独だった。
皇帝陛下とはそういう存在だと分かってはいるが、アレクサンテリ陛下はあまりにも孤高の存在だった。
幼いころから一緒の側近たちでさえ遠ざけ、セシルが亡くなってからだれにも頼ることができずに生きてきた。
「宰相閣下もそのことを憂いていました。それが今は宰相閣下や、側近や文官の方々に執務を振り分けて、皇帝陛下しか判断できないもの以外は任せるようになったのです。皇帝陛下の独裁を疑っていた属国の王たちも皇帝陛下が独裁など望んでいないことを悟り、属国から文官を皇宮に派遣する流れになっています。属国との関係もレイシー殿下は変えてしまわれたのです」
「そこまでですか」
「はい。さすがは未来の皇后陛下と国民からも評価が高くなっています」
皇太后陛下とユリウス様とのお茶会でわたくしが進言したことが、国中に広がる影響力を持っていたことに驚いてしまう。
結果としてアレクサンテリ陛下の負担も減ったし、属国との関係もよくなっているのならばよかったのだが、わたくしはそこまで考えてしたことではなかった。
「属国との関係までは考えていませんでした」
「それならば、これから学んでいきましょう」
ラヴァル夫人は属国との関係性について妃教育を始めてくれた。
この国の属国はいくつもあるが、その全てが唯々諾々とこの国に従っているわけではない。二十二年前のクーデターのように、この国に反発しようと考えている国もある。そういう国が一番恐れているのが、皇帝陛下が力を持ちすぎることだ。
アレクサンテリ陛下の父君の前皇帝陛下は非常に力の強い皇帝陛下だったが、それだけに属国に警戒された。自分たちの国政や風習を蔑ろにされるのではないかと恐れたのだ。
結果としてクーデターが起こり、皇帝陛下が暗殺されるような事態になってしまった。
今、皇帝陛下となれる皇族は限られている。
カイエタン宰相閣下は皇位継承権を放棄したので、その息子のエメリック様、娘のテレーザ様、もう一人の息子のアウグスタ様が候補になるのだが、全員が傍系で直系ではない。
アレクサンテリ陛下には直系の後継者が必要だった。
ラヴァル夫人の妃教育が終わって、昼食を食べて、一時間ピアノと声楽のレッスンをして、お茶までの時間わたくしはぬいぐるみの結婚衣装を縫い進めていた。細かな刺繍まで再現するとなるとかなり時間がかかってしまう。わたくしとアレクサンテリ陛下の結婚衣装も出来上がるまでに三か月近くかかったのだから、それと同じものを小さく作るとなるとやはり手間がかかる。
お茶の時間になって作業を中断してアレクサンテリ陛下を迎えに行くと、アレクサンテリ陛下はわたくしに歩み寄って抱き締めてきた。
外は雪が降っていたのか、アレクサンテリ陛下の毛糸のコートの肩に雪が乗っている。
わたくしがそれを払って差し上げると、アレクサンテリ陛下は微笑んでわたくしに言った。
「ただいま、レイシー」
「おかえりなさいませ、アレクサンテリ陛下」
「ただいま」と「おかえりなさい」、「行ってきます」と「行ってらっしゃい」はセシルとガーネくんが約束した大事な挨拶だ。わたくしはそれを欠かさないように気を付けていた。
アレクサンテリ陛下に抱き締められるとアレクサンテリ陛下の深い香水の匂いがする。
わたくしも調香師に作ってもらった香水を薄くつけているのだが、アレクサンテリ陛下の香水とわたくしの香水が混じると、更に深みのあるいい香りになる気がするのだ。
ハグを終えるとアレクサンテリ陛下は自分の部屋に戻って着替えてくる。
わたくしはお茶室でそれを待っていた。
アレクサンテリ陛下がお茶室に入ってきて、二人でソファに座って紅茶がカップに注がれると、わたくしはアレクサンテリ陛下に聞いてみた。
「アレクサンテリ陛下が執務を振り分けるようになったのが、属国にも伝わって、関係がよくなっていると聞いたのですが、どうなのでしょう」
「これまでわたしは全て自分でしなければいけないと意固地になっていたからね。その姿勢が皇帝の独裁を感じさせていたのかもしれない」
「わたくしはアレクサンテリ陛下のお役に立ったのですね」
「役に立っただけではない。未来の皇后としての威厳も見せてくれた。レイシーの功績はディアン子爵家の功績ともなる。ディアン子爵家が伯爵位を受けるのに、レイシーのしたことも功績としてしっかりと入っている」
「そうだったのですか!?」
皇太后陛下のお茶会でわたくしが口にしたことが国を変えるような大きな事態になっていて、ディアン子爵家の陞爵にも関わっていただなんて全く知らなかった。
ディアン子爵家が伯爵家に陞爵して領地が増えれば、収入も増えるし、工場も新しく建てられて女性の社会進出を促すこともできる。
わたくしはディアン子爵家が伯爵家となることを望んでいた。
「ディアン子爵夫妻も伯爵家となることを受け入れると言っていて、話は順調に進んでいる。年明けにはディアン子爵夫妻とソフィアを呼んで、ディアン子爵家に伯爵位を授けることになるだろう」
「ありがとうございます」
「レイシーの功績でもあるんだよ。もっと誇っていい」
「わたくしは大したことはしていないと思うのですが」
わたくしの功績だと言われても実感のないわたくしに、アレクサンテリ陛下は指先でわたくしの頬をつついた。皇帝宮に来てから少しお肉のついた頬を、アレクサンテリ陛下の指が少しへこませる。
「レイシーはセシルの夢を叶えるために、女性が働きやすい社会を作ろうとした。その試みはディアン子爵家が伯爵位を授かることによって、他の領地にも広がっていくだろう。それに、レイシーはわたしに執務を振り分けることの大切さを教えてくれた。レイシーのおかげで属国はわたしを警戒するよりも、皇宮に文官を入れて、皇宮との関係性をよくしようと考えている」
「わたくしは皇太后陛下のお茶会でアレクサンテリ陛下に進言しただけです。こんなに大きな話になるとは思っていませんでした」
「レイシーの聡明さがわたしやこの国を救おうとしているのだ。お礼を言うのはわたしの方だ。ありがとう、レイシー」
微笑んでお礼を言われてわたくしは胸が喜びで満ちてくる。
わたくしがアレクサンテリ陛下のお役に立てた。
そのことはわたくしを誇らしい気持ちにさせていた。
このままだと年明けにはディアン子爵家は伯爵家になれるだろう。
その背景にわたくしの力があったことを、ラヴァル夫人からわたくしは聞かされた。
「ディアン子爵家のレイシー殿下が皇帝陛下に進言して、皇帝陛下が自分一人で背負っていた執務を他にできるものは他の者たちに振り分けるようになった。このことはとても重大なことでした」
「わたくしは、アレクサンテリ陛下のお体と、アレクサンテリ陛下一人がいなくなったらこの国がうまく機能しないような状態は健全ではないということをお伝えしただけです」
「それがよかったのです。皇帝陛下は全ての執務を掌握して誰にも任せることができなかった。それではこの国は成り立ちません。様々なものが国に関わる執務を把握していて、共に政治を行わないと皇帝陛下の独裁になりかねませんでした」
周囲からもアレクサンテリ陛下は心配されていたし、警戒もされていたとラヴァル夫人は話してくれた。特に属国からはアレクサンテリ陛下が独裁体制を布いて皇帝陛下お一人の力が強大になるのではないかと恐れる声も出ていたというのだ。
「このままでは属国がまたクーデターを起こしかねない状態だったのです。それを打開してくださったのがレイシー殿下でした」
「わたくしがそんなにお役に立てたのですか」
「皇帝陛下は他の者が進言しても聞き入れようとはしませんでした。理屈としては分かっていたのだと思いますが、執務を自分以外に任せることが、その責任感と孤独さゆえにどうしてもできなかったのだと思います」
アレクサンテリ陛下は孤独だった。
皇帝陛下とはそういう存在だと分かってはいるが、アレクサンテリ陛下はあまりにも孤高の存在だった。
幼いころから一緒の側近たちでさえ遠ざけ、セシルが亡くなってからだれにも頼ることができずに生きてきた。
「宰相閣下もそのことを憂いていました。それが今は宰相閣下や、側近や文官の方々に執務を振り分けて、皇帝陛下しか判断できないもの以外は任せるようになったのです。皇帝陛下の独裁を疑っていた属国の王たちも皇帝陛下が独裁など望んでいないことを悟り、属国から文官を皇宮に派遣する流れになっています。属国との関係もレイシー殿下は変えてしまわれたのです」
「そこまでですか」
「はい。さすがは未来の皇后陛下と国民からも評価が高くなっています」
皇太后陛下とユリウス様とのお茶会でわたくしが進言したことが、国中に広がる影響力を持っていたことに驚いてしまう。
結果としてアレクサンテリ陛下の負担も減ったし、属国との関係もよくなっているのならばよかったのだが、わたくしはそこまで考えてしたことではなかった。
「属国との関係までは考えていませんでした」
「それならば、これから学んでいきましょう」
ラヴァル夫人は属国との関係性について妃教育を始めてくれた。
この国の属国はいくつもあるが、その全てが唯々諾々とこの国に従っているわけではない。二十二年前のクーデターのように、この国に反発しようと考えている国もある。そういう国が一番恐れているのが、皇帝陛下が力を持ちすぎることだ。
アレクサンテリ陛下の父君の前皇帝陛下は非常に力の強い皇帝陛下だったが、それだけに属国に警戒された。自分たちの国政や風習を蔑ろにされるのではないかと恐れたのだ。
結果としてクーデターが起こり、皇帝陛下が暗殺されるような事態になってしまった。
今、皇帝陛下となれる皇族は限られている。
カイエタン宰相閣下は皇位継承権を放棄したので、その息子のエメリック様、娘のテレーザ様、もう一人の息子のアウグスタ様が候補になるのだが、全員が傍系で直系ではない。
アレクサンテリ陛下には直系の後継者が必要だった。
ラヴァル夫人の妃教育が終わって、昼食を食べて、一時間ピアノと声楽のレッスンをして、お茶までの時間わたくしはぬいぐるみの結婚衣装を縫い進めていた。細かな刺繍まで再現するとなるとかなり時間がかかってしまう。わたくしとアレクサンテリ陛下の結婚衣装も出来上がるまでに三か月近くかかったのだから、それと同じものを小さく作るとなるとやはり手間がかかる。
お茶の時間になって作業を中断してアレクサンテリ陛下を迎えに行くと、アレクサンテリ陛下はわたくしに歩み寄って抱き締めてきた。
外は雪が降っていたのか、アレクサンテリ陛下の毛糸のコートの肩に雪が乗っている。
わたくしがそれを払って差し上げると、アレクサンテリ陛下は微笑んでわたくしに言った。
「ただいま、レイシー」
「おかえりなさいませ、アレクサンテリ陛下」
「ただいま」と「おかえりなさい」、「行ってきます」と「行ってらっしゃい」はセシルとガーネくんが約束した大事な挨拶だ。わたくしはそれを欠かさないように気を付けていた。
アレクサンテリ陛下に抱き締められるとアレクサンテリ陛下の深い香水の匂いがする。
わたくしも調香師に作ってもらった香水を薄くつけているのだが、アレクサンテリ陛下の香水とわたくしの香水が混じると、更に深みのあるいい香りになる気がするのだ。
ハグを終えるとアレクサンテリ陛下は自分の部屋に戻って着替えてくる。
わたくしはお茶室でそれを待っていた。
アレクサンテリ陛下がお茶室に入ってきて、二人でソファに座って紅茶がカップに注がれると、わたくしはアレクサンテリ陛下に聞いてみた。
「アレクサンテリ陛下が執務を振り分けるようになったのが、属国にも伝わって、関係がよくなっていると聞いたのですが、どうなのでしょう」
「これまでわたしは全て自分でしなければいけないと意固地になっていたからね。その姿勢が皇帝の独裁を感じさせていたのかもしれない」
「わたくしはアレクサンテリ陛下のお役に立ったのですね」
「役に立っただけではない。未来の皇后としての威厳も見せてくれた。レイシーの功績はディアン子爵家の功績ともなる。ディアン子爵家が伯爵位を受けるのに、レイシーのしたことも功績としてしっかりと入っている」
「そうだったのですか!?」
皇太后陛下のお茶会でわたくしが口にしたことが国を変えるような大きな事態になっていて、ディアン子爵家の陞爵にも関わっていただなんて全く知らなかった。
ディアン子爵家が伯爵家に陞爵して領地が増えれば、収入も増えるし、工場も新しく建てられて女性の社会進出を促すこともできる。
わたくしはディアン子爵家が伯爵家となることを望んでいた。
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「ありがとうございます」
「レイシーの功績でもあるんだよ。もっと誇っていい」
「わたくしは大したことはしていないと思うのですが」
わたくしの功績だと言われても実感のないわたくしに、アレクサンテリ陛下は指先でわたくしの頬をつついた。皇帝宮に来てから少しお肉のついた頬を、アレクサンテリ陛下の指が少しへこませる。
「レイシーはセシルの夢を叶えるために、女性が働きやすい社会を作ろうとした。その試みはディアン子爵家が伯爵位を授かることによって、他の領地にも広がっていくだろう。それに、レイシーはわたしに執務を振り分けることの大切さを教えてくれた。レイシーのおかげで属国はわたしを警戒するよりも、皇宮に文官を入れて、皇宮との関係性をよくしようと考えている」
「わたくしは皇太后陛下のお茶会でアレクサンテリ陛下に進言しただけです。こんなに大きな話になるとは思っていませんでした」
「レイシーの聡明さがわたしやこの国を救おうとしているのだ。お礼を言うのはわたしの方だ。ありがとう、レイシー」
微笑んでお礼を言われてわたくしは胸が喜びで満ちてくる。
わたくしがアレクサンテリ陛下のお役に立てた。
そのことはわたくしを誇らしい気持ちにさせていた。
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