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三章 ご寵愛の末に
9.結婚式前の家族との触れ合い
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季節は夏に移り変わっていた。
わたくしはラヴァル夫人から結婚式の説明を受けていた。
「結婚式では、レイシー殿下のお父上のディアン伯爵がレイシー殿下を式場である大広間まで連れていきます。レイシー殿下は皇帝陛下に迎えられて、皇帝陛下が結婚の誓いの言葉を述べられ、レイシー殿下はそれに対して同じように結婚の誓いの言葉を述べます。ここまではよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「皇帝陛下とレイシー殿下は誓いの後で披露宴の席に移ります。そちらでは、皇帝陛下がエスコートしてくださいますので、ついて行って席についてください」
「はい、分かりました」
「席についたら皇帝陛下がお言葉を述べて、乾杯を致します。レイシー殿下はアルコールはお得意ではないと聞いているので、果実水を用意させるようにしています」
「ご配慮ありがとうございます」
「それから食事をしながら、挨拶に来る貴族たちや属国の王族や要人の相手をしてください」
結婚式はそれで終わるのだが、披露宴が終わって結婚式が終わった後には、舞踏会が開かれる。それにはわたくしは着替えて出席しなければいけなかった。
手順が先に分かっていると、安心するので細かく教えてくれるラヴァル夫人にわたくしは感謝する。
本当ならば練習しておきたいのだが、そんな暇はないし、アレクサンテリ陛下は結婚式の後で新婚旅行に行くために執務を早めに終わらせている最中なのでとても忙しい。
窓の外は緑萌える夏。
わたくしの結婚式は間近に迫っていた。
結婚式が近付くと、地方の貴族たちや属国の王族や要人だけでなく、他国からもお祝いに王族が駆け付けてくる。
今のところわたくしが対応することはないのだが、皇后になったら賓客のもてなしも執務のうちに入るようになってくるだろう。
そのときの礼儀作法、様々な国の言語やマナーを、わたくしはラヴァル夫人とモンレイユ夫人からしっかりと習っていた。
一年間の妃教育もそろそろ終わりになる。
これからはわたくしは皇后として自分で学んで、実際に執務を行っていかなければいけない。
これまではアレクサンテリ陛下に助けられて守られてきたが、これからは公の場に出ることも多くなってくるだろう。ラヴァル夫人とモンレイユ夫人の教えてくれたことが役に立ちそうだった。
学園で首席を取る努力をずっと続けて来て、勉強してきたことも無駄ではなかった。わたくしはそのおかげで妃教育が円滑に進んだのだ。特に多めに単位を取っていた様々な国の言語や歴史の授業は、ラヴァル夫人との学習にとても役立った。
何一つ無駄なことはなかったとわたくしは胸を張って言える。
結婚式まで体型は変わらなかったので、衣装も問題なく使える。アレクサンテリ陛下の白に紫を差し色にしたテイルコートも、わたくしの純白のドレスも、白薔薇に淡い赤と紫の薔薇を混ぜた花冠も、ヴェールも、全て完璧に出来上がっている。
後は結婚式当日を待つだけだった。
結婚式の三日前からディアン伯爵家の両親とソフィアは皇宮に来ていた。
アレクサンテリ陛下はわたくしが両親とソフィアと過ごす時間が持てるように、お茶会を開いてくれた。
「ついに妃殿下が結婚だなんて、信じれらませんね」
「一年前までは、皇帝陛下と出会ってもいなかったのに」
両親の言葉にもわたくしは頷いてしまう。
デビュタントの日にわたくしとアレクサンテリ陛下は出会っているが、それも一瞬のことで、言葉を発したのはわたくしだけで、アレクサンテリ陛下はわたくしに声もかけなかった。
あの日に出会ったというよりも、わたくしとアレクサンテリ陛下が正式に出会ったのは学園の卒業パーティーのときだといった方が正しいだろう。
「わたしはずっとレイシーのことを想っていたよ。満を持しての求婚のつもりだった」
「急すぎてあのときは何が起きたのかよく分かりませんでした」
「デビュタントの日にレイシーを見て運命を感じて、それからずっとレイシーのことを気にかけていた。レイシーと結婚できてとても嬉しいよ」
甘く蕩ける蜜のように微笑むアレクサンテリ陛下に、わたくしは頬が熱くなってくるのを感じる。それに対して、ソフィアは冷静だった。
「妃殿下が学園で成績が優秀ということが皇宮にまで知られていたのでしょう。妃殿下はずっと首席でしたからね」
「レイシーの噂は聞いていたよ」
「わたくしは運命など信じていませんが、シリル様がわたくしの見た目ではなくて、学園の成績やディアン家の後継者として努力していることを知っていて求婚してきたと知ったとき、心が動いたものです。皇帝陛下も妃殿下のそういうところに心惹かれたのではないですか?」
「そこもレイシーの魅力的なところだと思っているよ」
それだけではないという含みを持たせるアレクサンテリ陛下。
アレクサンテリ陛下が六歳のときに起きたクーデターで皇宮から逃がされて、セシルに保護された過去も、わたくしが小さなころからセシルの記憶を夢に見ていることも、わたくしは両親にもソフィアにも言えない。アレクサンテリ陛下もそうだろう。
こんな荒唐無稽なこと、誰が信じるのだろう。
言えないままわたくしが黙っていると、ソフィアが紅茶を一口飲んでカップをソーサーに置いた。わたくしも紅茶を飲んで、息をつく。
「レイシーは本来は何年もかけて行う妃教育も一年で全て完遂してしまった。レイシーほどこの国の皇后に相応しい人物はいない」
「それはラヴァル夫人とモンレイユ夫人の教え方がよかったからです」
「レイシーは妃教育の合間に、縫物もしていたし、中庭で家庭菜園の世話もしていた。何一つ妥協することのないレイシーの姿に、わたしはますます心惹かれた」
アレクサンテリ陛下の言葉に、わたくしはこの一年のことを思い出す。
皇帝宮に来てから一年、わたくしは本当に変わったと思う。
「わたくしも最初は正直、皇帝陛下に選ばれたので拒否できない、政略結婚は貴族の義務だから仕方がないと思っていました。アレクサンテリ陛下は皇帝宮に来たわたくしのしたいことを一切反対しなかった。それどころか、何でもしていいと次は何をするかまで提示してくださったのです」
それはレナン殿との結婚ではありえないことだった。
レナン殿はわたくしが自分で衣装を作ることも、家庭菜園で野菜を作っていることも、貧乏くさいと認めてくれなかった。わたくしは自分の結婚式の衣装は作りたかったのだが、レナン殿と結婚するのならば、それは諦めなければいけないと感じていた。
「アレクサンテリ陛下が、婚約式の衣装を作らせてくれたとき、わたくしは自分で作っていいのだと驚きました。最高級のシルクにレースやフリルも準備してくれて、本当に嬉しかったのです。結婚式の衣装のときには、花冠まで作らせてくれると仰いました。わたくしはずっと自分の結婚式の衣装は自分で作るのが夢でした。皇帝陛下の妃となるのだからそんなことはできるはずがないと諦めていたのに、アレクサンテリ陛下は認めてくださった」
そんなアレクサンテリ陛下だからこそ、わたくしは愛した。
わたくしがアレクサンテリ陛下の顔を見つめると、アレクサンテリ陛下が優しく微笑む。目元が朱鷺色に染まって、アレクサンテリ陛下のお顔がものすごく美しくて眩しい。
初めのころはあまりにも麗しすぎて眩しくて直視できなかったが、わたくしはやっとアレクサンテリ陛下のお顔を直視できるようになっている。
「わたくしは心からアレクサンテリ陛下を愛しています。わたくしのことを認め、一人の人間として尊重してくださるアレクサンテリ陛下と結婚できることが本当に幸せです」
心の底からの言葉を口にすれば、両親が目頭を押さえていた。ソフィアも目を潤ませている。
「妃殿下が本当に幸せでよかったです」
「皇后となることは苦しいこともあると思います。どうか、それでも今の気持ちを忘れないようにしてください」
「妃殿下、本当におめでとうございます」
両親と妹に認められて、わたくしも胸がいっぱいになって涙ぐんでしまった。涙ぐんだわたくしに、アレクサンテリ陛下がハンカチを差し出してくれる。青い蔦模様とアレクサンテリ陛下のお名前が刺繍されたハンカチは、皇帝宮に来てからわたくしがアレクサンテリ陛下のために作ったものだった。
ありがたくお借りして、わたくしは目元を拭った。
わたくしはラヴァル夫人から結婚式の説明を受けていた。
「結婚式では、レイシー殿下のお父上のディアン伯爵がレイシー殿下を式場である大広間まで連れていきます。レイシー殿下は皇帝陛下に迎えられて、皇帝陛下が結婚の誓いの言葉を述べられ、レイシー殿下はそれに対して同じように結婚の誓いの言葉を述べます。ここまではよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「皇帝陛下とレイシー殿下は誓いの後で披露宴の席に移ります。そちらでは、皇帝陛下がエスコートしてくださいますので、ついて行って席についてください」
「はい、分かりました」
「席についたら皇帝陛下がお言葉を述べて、乾杯を致します。レイシー殿下はアルコールはお得意ではないと聞いているので、果実水を用意させるようにしています」
「ご配慮ありがとうございます」
「それから食事をしながら、挨拶に来る貴族たちや属国の王族や要人の相手をしてください」
結婚式はそれで終わるのだが、披露宴が終わって結婚式が終わった後には、舞踏会が開かれる。それにはわたくしは着替えて出席しなければいけなかった。
手順が先に分かっていると、安心するので細かく教えてくれるラヴァル夫人にわたくしは感謝する。
本当ならば練習しておきたいのだが、そんな暇はないし、アレクサンテリ陛下は結婚式の後で新婚旅行に行くために執務を早めに終わらせている最中なのでとても忙しい。
窓の外は緑萌える夏。
わたくしの結婚式は間近に迫っていた。
結婚式が近付くと、地方の貴族たちや属国の王族や要人だけでなく、他国からもお祝いに王族が駆け付けてくる。
今のところわたくしが対応することはないのだが、皇后になったら賓客のもてなしも執務のうちに入るようになってくるだろう。
そのときの礼儀作法、様々な国の言語やマナーを、わたくしはラヴァル夫人とモンレイユ夫人からしっかりと習っていた。
一年間の妃教育もそろそろ終わりになる。
これからはわたくしは皇后として自分で学んで、実際に執務を行っていかなければいけない。
これまではアレクサンテリ陛下に助けられて守られてきたが、これからは公の場に出ることも多くなってくるだろう。ラヴァル夫人とモンレイユ夫人の教えてくれたことが役に立ちそうだった。
学園で首席を取る努力をずっと続けて来て、勉強してきたことも無駄ではなかった。わたくしはそのおかげで妃教育が円滑に進んだのだ。特に多めに単位を取っていた様々な国の言語や歴史の授業は、ラヴァル夫人との学習にとても役立った。
何一つ無駄なことはなかったとわたくしは胸を張って言える。
結婚式まで体型は変わらなかったので、衣装も問題なく使える。アレクサンテリ陛下の白に紫を差し色にしたテイルコートも、わたくしの純白のドレスも、白薔薇に淡い赤と紫の薔薇を混ぜた花冠も、ヴェールも、全て完璧に出来上がっている。
後は結婚式当日を待つだけだった。
結婚式の三日前からディアン伯爵家の両親とソフィアは皇宮に来ていた。
アレクサンテリ陛下はわたくしが両親とソフィアと過ごす時間が持てるように、お茶会を開いてくれた。
「ついに妃殿下が結婚だなんて、信じれらませんね」
「一年前までは、皇帝陛下と出会ってもいなかったのに」
両親の言葉にもわたくしは頷いてしまう。
デビュタントの日にわたくしとアレクサンテリ陛下は出会っているが、それも一瞬のことで、言葉を発したのはわたくしだけで、アレクサンテリ陛下はわたくしに声もかけなかった。
あの日に出会ったというよりも、わたくしとアレクサンテリ陛下が正式に出会ったのは学園の卒業パーティーのときだといった方が正しいだろう。
「わたしはずっとレイシーのことを想っていたよ。満を持しての求婚のつもりだった」
「急すぎてあのときは何が起きたのかよく分かりませんでした」
「デビュタントの日にレイシーを見て運命を感じて、それからずっとレイシーのことを気にかけていた。レイシーと結婚できてとても嬉しいよ」
甘く蕩ける蜜のように微笑むアレクサンテリ陛下に、わたくしは頬が熱くなってくるのを感じる。それに対して、ソフィアは冷静だった。
「妃殿下が学園で成績が優秀ということが皇宮にまで知られていたのでしょう。妃殿下はずっと首席でしたからね」
「レイシーの噂は聞いていたよ」
「わたくしは運命など信じていませんが、シリル様がわたくしの見た目ではなくて、学園の成績やディアン家の後継者として努力していることを知っていて求婚してきたと知ったとき、心が動いたものです。皇帝陛下も妃殿下のそういうところに心惹かれたのではないですか?」
「そこもレイシーの魅力的なところだと思っているよ」
それだけではないという含みを持たせるアレクサンテリ陛下。
アレクサンテリ陛下が六歳のときに起きたクーデターで皇宮から逃がされて、セシルに保護された過去も、わたくしが小さなころからセシルの記憶を夢に見ていることも、わたくしは両親にもソフィアにも言えない。アレクサンテリ陛下もそうだろう。
こんな荒唐無稽なこと、誰が信じるのだろう。
言えないままわたくしが黙っていると、ソフィアが紅茶を一口飲んでカップをソーサーに置いた。わたくしも紅茶を飲んで、息をつく。
「レイシーは本来は何年もかけて行う妃教育も一年で全て完遂してしまった。レイシーほどこの国の皇后に相応しい人物はいない」
「それはラヴァル夫人とモンレイユ夫人の教え方がよかったからです」
「レイシーは妃教育の合間に、縫物もしていたし、中庭で家庭菜園の世話もしていた。何一つ妥協することのないレイシーの姿に、わたしはますます心惹かれた」
アレクサンテリ陛下の言葉に、わたくしはこの一年のことを思い出す。
皇帝宮に来てから一年、わたくしは本当に変わったと思う。
「わたくしも最初は正直、皇帝陛下に選ばれたので拒否できない、政略結婚は貴族の義務だから仕方がないと思っていました。アレクサンテリ陛下は皇帝宮に来たわたくしのしたいことを一切反対しなかった。それどころか、何でもしていいと次は何をするかまで提示してくださったのです」
それはレナン殿との結婚ではありえないことだった。
レナン殿はわたくしが自分で衣装を作ることも、家庭菜園で野菜を作っていることも、貧乏くさいと認めてくれなかった。わたくしは自分の結婚式の衣装は作りたかったのだが、レナン殿と結婚するのならば、それは諦めなければいけないと感じていた。
「アレクサンテリ陛下が、婚約式の衣装を作らせてくれたとき、わたくしは自分で作っていいのだと驚きました。最高級のシルクにレースやフリルも準備してくれて、本当に嬉しかったのです。結婚式の衣装のときには、花冠まで作らせてくれると仰いました。わたくしはずっと自分の結婚式の衣装は自分で作るのが夢でした。皇帝陛下の妃となるのだからそんなことはできるはずがないと諦めていたのに、アレクサンテリ陛下は認めてくださった」
そんなアレクサンテリ陛下だからこそ、わたくしは愛した。
わたくしがアレクサンテリ陛下の顔を見つめると、アレクサンテリ陛下が優しく微笑む。目元が朱鷺色に染まって、アレクサンテリ陛下のお顔がものすごく美しくて眩しい。
初めのころはあまりにも麗しすぎて眩しくて直視できなかったが、わたくしはやっとアレクサンテリ陛下のお顔を直視できるようになっている。
「わたくしは心からアレクサンテリ陛下を愛しています。わたくしのことを認め、一人の人間として尊重してくださるアレクサンテリ陛下と結婚できることが本当に幸せです」
心の底からの言葉を口にすれば、両親が目頭を押さえていた。ソフィアも目を潤ませている。
「妃殿下が本当に幸せでよかったです」
「皇后となることは苦しいこともあると思います。どうか、それでも今の気持ちを忘れないようにしてください」
「妃殿下、本当におめでとうございます」
両親と妹に認められて、わたくしも胸がいっぱいになって涙ぐんでしまった。涙ぐんだわたくしに、アレクサンテリ陛下がハンカチを差し出してくれる。青い蔦模様とアレクサンテリ陛下のお名前が刺繍されたハンカチは、皇帝宮に来てからわたくしがアレクサンテリ陛下のために作ったものだった。
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