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三章 ご寵愛の末に
10.結婚式
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結婚式の当日、わたくしは早朝からお風呂に入って体中を磨かれて、全身に香油を揉みこまれて、髪に最高級の香油をつけて梳かれて、朝食は片手で持って食べられるものでお腹を満たし、そのまま念入りに派手ではないくらいの薄く見える化粧を施されて、結婚衣装に身を包んだ。
全部の作業が終わるまでには昼近くになっていたが、昼食も片手で摘まんで食べられるものをお腹に入れて、準備万端で結婚式会場となる皇宮本殿に向かう馬車に乗った。
アレクサンテリ陛下は賓客を出迎えなければいけないので、先に皇宮本殿に行っている。
皇宮本殿に馬車が着くと、父が迎えに来てくれてわたくしをエスコートしてくれた。
普段エスコートしてくれるアレクサンテリ陛下はとても背が高いので、父にエスコートされるのは少し慣れなかったが、わたくしよりも背の高い父はわたくしに歩調を合わせてくれていた。
一番踵の高い靴を履いているので、わたくしはすぐによろけそうになってしまう。それを父は優しく支えてくれた。
アレクサンテリ陛下と歩いているときに歩幅の差を感じたことがなかったことにわたくしは気付く。アレクサンテリ陛下は自然にわたくしに寄り添ってくれていた。
純白のシルクに銀糸で刺繍を入れたドレスと手袋、それに白い薔薇に淡い赤と紫の薔薇を加えた花冠、裾に刺繍の入った透ける美しい織りのヴェール。
どれもわたくしの理想としていた結婚衣装だった。
結婚式場である大広間に行くと、アレクサンテリ陛下が座っている玉座まで赤いカーペットで道ができている。わたくしが父にエスコートされてその道を歩いていくと、アレクサンテリ陛下の前で父が止まった。
「妃殿下……いや、わたしの愛しい娘、レイシー、幸せに」
「お父様……」
囁くように告げてわたくしの背を押してくれる父に、わたくしは涙をこらえながら壇上に上がった。アレクサンテリ陛下が玉座から立ち上がり、わたくしの横に並ぶ。
「わたし、アレクサンテリ・ルクセリオンは、レイシー・ディアンを皇后とし、生涯愛し、敬い、共に生きていくことを誓う」
アレクサンテリ陛下の誓いの言葉に、わたくしも同じ言葉を述べる。
「わたくし、レイシー・ディアンは、アレクサンテリ・ルクセリオン陛下を夫とし、生涯愛し、敬い、共に生きていくことを誓います」
わたくしが言えば、カイエタン宰相閣下が前に出て婚姻届けを持ってくる。
アレクサンテリ陛下はそれにさらさらとサインをして、わたくしもぎこちなくペンを取ってそれにサインをした。
「ここに、皇帝陛下と新しい皇后陛下の結婚が認められました。皇帝陛下と皇后陛下に末永い栄光を!」
カイエタン宰相閣下が宣言すると、参列している貴族や属国の王族や要人、他国の王族たちから「皇帝陛下、万歳! 皇后陛下、万歳!」と声が上がった。
わたくしはアレクサンテリ陛下に手を引かれて壇上から降りていく。わたくしたちが赤いカーペットの上を歩いていくと、わたくしたちに向かって花びらが撒かれた。
そのまま、手順通りに披露宴の会場へと場所を移す。
一番奥の席にわたくしとアレクサンテリ陛下が着くと、貴族たちや属国の王族や要人、他国の王族たちが会場に入ってきて席順通りの席に座っていく。
わたくしとアレクサンテリ陛下のテーブルには、わたくしたちの結婚衣装を着たわたくしが作ったぬいぐるみが飾ってあった。
全員が席についたところでアレクサンテリ陛下がグラスを持って立ち上がったので、わたくしも同じくグラスを持って立ち上がる。
「今日はわたしと最愛の皇后の結婚式に出席してくれて感謝する。これからますますこの国が繫栄するよう、努力していきたいと思う。皇后共々、これからもよろしく頼む」
アレクサンテリ陛下が挨拶を述べてグラスを持ちあげて乾杯をすると、貴族たちや属国の王族や要人、他国の王族たちも乾杯をしていた。
乾杯の後は料理が運ばれてくるのだが、次々と賓客たちが挨拶に来るので食べている暇がない。やはり皇后とは忙しいのだ。手を付けられないまま下げられていくお皿を悲しく見送るしかなかった。
挨拶には一番に皇太后陛下が来てくださった。
「皇帝陛下が無事に皇后陛下をお迎えできて安心しています。皇后陛下、これからも皇帝陛下のことをよろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「皇帝陛下にとっては遅れてきた初恋のようなものだから、きっとこじらせていると思います。皇帝陛下の重すぎる愛を寛大な心で受け止めてあげてください」
「は、はい」
アレクサンテリ陛下はわたくしが初恋ではないはずだ。アレクサンテリ陛下の初恋はセシルのはずだった。皇太后陛下はそれを知っているはずなのに、片目をつぶってわたくしに悪戯っぽく微笑みかけてきた。
次に挨拶に来たカイエタン宰相閣下は、必死に堪えていたようだが、堪えきれずにアレクサンテリ陛下とわたくしの前で涙を流していた。
「皇帝陛下がこのように幸せなお姿を見られる日が来るとは思いませんでした。どうかお二人がずっと幸せでありますように」
「皇帝陛下、皇后陛下、申し訳ありません。このひとったら、皇帝陛下のことを自分の子どものようにかわいがっているものですから」
ルドミラ様が泣いているカイエタン宰相閣下の背中を撫でて、宥めていた。
カイエタン宰相閣下のお子様方、エメリック様、テレーザ様、アウグスタ様も挨拶に来てくれた。
「皇帝陛下、本当におめでとうございます」
「その衣装は皇后陛下が作られたのでしょう? とてもお似合いです。素敵です」
「皇帝陛下、皇后陛下、お幸せに」
カイエタン宰相閣下は皇位継承権を放棄しているので、わたくしに子どもができなければ、エメリック様かテレーザ様かアウグスタ様を養子にもらって皇帝位を継いでもらうことになるだろう。
できればアレクサンテリ陛下にご自分のお子を抱いてほしい気持ちはあったが、わたくしはそのときのことも覚悟して考えていた。
「エメリック様、テレーザ様、アウグスタ様、ありがとうございます」
「わたくしも皇后陛下にドレスを作ってほしいです」
「テレーザ、皇后は忙しいのだ。ドレスの注文なら、仕立て職人にするといい」
「ずるいですわ。皇帝陛下は皇后陛下に普段着も作ってもらっているのでしょう?」
かわいいテレーザ様のお願いをアレクサンテリ陛下はあっさりと却下してしまった。わたくしは時間があればテレーザ様のドレスを作っても構わないと思うのだが、皇后の仕事はそんなに忙しいのだろうか。
「いいです。わたくし、ディアン伯爵家の皇帝陛下と皇后陛下の結婚式の衣装を着たぬいぐるみセットをお父様に買ってもらいます」
「もう売り出しているのか?」
「まだですが、予約を受け付けるとディアン伯爵家のソフィア嬢が言っていました。わたくしも予約しないと」
「わたしも欲しいな」
「皇帝陛下は皇后陛下に作ってもらっているではないですか」
テーブルの上のわたくしたちの結婚衣装を着たぬいぐるみを指差されて、アレクサンテリ陛下は「それでも欲しいのだ」と言っていた。
ディアン伯爵家はまた注文が殺到しそうだった。
アレクサンテリ陛下は葡萄酒を飲んでいるが、わたくしのグラスの中身は葡萄酒によく似た色の葡萄の果実水だった。アルコールが得意ではないということをしっかりと周知されているのだろう。
挨拶に来た賓客たちは、テーブルの上のぬいぐるみに興味を持ち、ディアン伯爵家で予約が始まっているというのを聞くと、急いでディアン伯爵家の家族が座っているテーブルに向っていた。
披露宴が終わると、わたくしはカーペットが片付けられて夜会用に準備された大広間に戻って、壇上の玉座の横の椅子に腰かけた。その椅子は玉座と同じくらい立派だった。
「その椅子は皇后のための椅子なのだ。レイシーのための椅子だ」
「わたくしのための椅子……」
「一生わたしの隣にいてほしい。愛している、レイシー」
「わたくしも愛しています、アレクサンテリ陛下」
貴族として生まれた時点で、愛のある結婚など諦めていた。
それがこの一年で一転した。
わたくしはアレクサンテリ陛下を愛しているし、アレクサンテリ陛下もわたくしを愛している。
この愛はずっと続くのだとわたくしは素直に信じられた。
全部の作業が終わるまでには昼近くになっていたが、昼食も片手で摘まんで食べられるものをお腹に入れて、準備万端で結婚式会場となる皇宮本殿に向かう馬車に乗った。
アレクサンテリ陛下は賓客を出迎えなければいけないので、先に皇宮本殿に行っている。
皇宮本殿に馬車が着くと、父が迎えに来てくれてわたくしをエスコートしてくれた。
普段エスコートしてくれるアレクサンテリ陛下はとても背が高いので、父にエスコートされるのは少し慣れなかったが、わたくしよりも背の高い父はわたくしに歩調を合わせてくれていた。
一番踵の高い靴を履いているので、わたくしはすぐによろけそうになってしまう。それを父は優しく支えてくれた。
アレクサンテリ陛下と歩いているときに歩幅の差を感じたことがなかったことにわたくしは気付く。アレクサンテリ陛下は自然にわたくしに寄り添ってくれていた。
純白のシルクに銀糸で刺繍を入れたドレスと手袋、それに白い薔薇に淡い赤と紫の薔薇を加えた花冠、裾に刺繍の入った透ける美しい織りのヴェール。
どれもわたくしの理想としていた結婚衣装だった。
結婚式場である大広間に行くと、アレクサンテリ陛下が座っている玉座まで赤いカーペットで道ができている。わたくしが父にエスコートされてその道を歩いていくと、アレクサンテリ陛下の前で父が止まった。
「妃殿下……いや、わたしの愛しい娘、レイシー、幸せに」
「お父様……」
囁くように告げてわたくしの背を押してくれる父に、わたくしは涙をこらえながら壇上に上がった。アレクサンテリ陛下が玉座から立ち上がり、わたくしの横に並ぶ。
「わたし、アレクサンテリ・ルクセリオンは、レイシー・ディアンを皇后とし、生涯愛し、敬い、共に生きていくことを誓う」
アレクサンテリ陛下の誓いの言葉に、わたくしも同じ言葉を述べる。
「わたくし、レイシー・ディアンは、アレクサンテリ・ルクセリオン陛下を夫とし、生涯愛し、敬い、共に生きていくことを誓います」
わたくしが言えば、カイエタン宰相閣下が前に出て婚姻届けを持ってくる。
アレクサンテリ陛下はそれにさらさらとサインをして、わたくしもぎこちなくペンを取ってそれにサインをした。
「ここに、皇帝陛下と新しい皇后陛下の結婚が認められました。皇帝陛下と皇后陛下に末永い栄光を!」
カイエタン宰相閣下が宣言すると、参列している貴族や属国の王族や要人、他国の王族たちから「皇帝陛下、万歳! 皇后陛下、万歳!」と声が上がった。
わたくしはアレクサンテリ陛下に手を引かれて壇上から降りていく。わたくしたちが赤いカーペットの上を歩いていくと、わたくしたちに向かって花びらが撒かれた。
そのまま、手順通りに披露宴の会場へと場所を移す。
一番奥の席にわたくしとアレクサンテリ陛下が着くと、貴族たちや属国の王族や要人、他国の王族たちが会場に入ってきて席順通りの席に座っていく。
わたくしとアレクサンテリ陛下のテーブルには、わたくしたちの結婚衣装を着たわたくしが作ったぬいぐるみが飾ってあった。
全員が席についたところでアレクサンテリ陛下がグラスを持って立ち上がったので、わたくしも同じくグラスを持って立ち上がる。
「今日はわたしと最愛の皇后の結婚式に出席してくれて感謝する。これからますますこの国が繫栄するよう、努力していきたいと思う。皇后共々、これからもよろしく頼む」
アレクサンテリ陛下が挨拶を述べてグラスを持ちあげて乾杯をすると、貴族たちや属国の王族や要人、他国の王族たちも乾杯をしていた。
乾杯の後は料理が運ばれてくるのだが、次々と賓客たちが挨拶に来るので食べている暇がない。やはり皇后とは忙しいのだ。手を付けられないまま下げられていくお皿を悲しく見送るしかなかった。
挨拶には一番に皇太后陛下が来てくださった。
「皇帝陛下が無事に皇后陛下をお迎えできて安心しています。皇后陛下、これからも皇帝陛下のことをよろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「皇帝陛下にとっては遅れてきた初恋のようなものだから、きっとこじらせていると思います。皇帝陛下の重すぎる愛を寛大な心で受け止めてあげてください」
「は、はい」
アレクサンテリ陛下はわたくしが初恋ではないはずだ。アレクサンテリ陛下の初恋はセシルのはずだった。皇太后陛下はそれを知っているはずなのに、片目をつぶってわたくしに悪戯っぽく微笑みかけてきた。
次に挨拶に来たカイエタン宰相閣下は、必死に堪えていたようだが、堪えきれずにアレクサンテリ陛下とわたくしの前で涙を流していた。
「皇帝陛下がこのように幸せなお姿を見られる日が来るとは思いませんでした。どうかお二人がずっと幸せでありますように」
「皇帝陛下、皇后陛下、申し訳ありません。このひとったら、皇帝陛下のことを自分の子どものようにかわいがっているものですから」
ルドミラ様が泣いているカイエタン宰相閣下の背中を撫でて、宥めていた。
カイエタン宰相閣下のお子様方、エメリック様、テレーザ様、アウグスタ様も挨拶に来てくれた。
「皇帝陛下、本当におめでとうございます」
「その衣装は皇后陛下が作られたのでしょう? とてもお似合いです。素敵です」
「皇帝陛下、皇后陛下、お幸せに」
カイエタン宰相閣下は皇位継承権を放棄しているので、わたくしに子どもができなければ、エメリック様かテレーザ様かアウグスタ様を養子にもらって皇帝位を継いでもらうことになるだろう。
できればアレクサンテリ陛下にご自分のお子を抱いてほしい気持ちはあったが、わたくしはそのときのことも覚悟して考えていた。
「エメリック様、テレーザ様、アウグスタ様、ありがとうございます」
「わたくしも皇后陛下にドレスを作ってほしいです」
「テレーザ、皇后は忙しいのだ。ドレスの注文なら、仕立て職人にするといい」
「ずるいですわ。皇帝陛下は皇后陛下に普段着も作ってもらっているのでしょう?」
かわいいテレーザ様のお願いをアレクサンテリ陛下はあっさりと却下してしまった。わたくしは時間があればテレーザ様のドレスを作っても構わないと思うのだが、皇后の仕事はそんなに忙しいのだろうか。
「いいです。わたくし、ディアン伯爵家の皇帝陛下と皇后陛下の結婚式の衣装を着たぬいぐるみセットをお父様に買ってもらいます」
「もう売り出しているのか?」
「まだですが、予約を受け付けるとディアン伯爵家のソフィア嬢が言っていました。わたくしも予約しないと」
「わたしも欲しいな」
「皇帝陛下は皇后陛下に作ってもらっているではないですか」
テーブルの上のわたくしたちの結婚衣装を着たぬいぐるみを指差されて、アレクサンテリ陛下は「それでも欲しいのだ」と言っていた。
ディアン伯爵家はまた注文が殺到しそうだった。
アレクサンテリ陛下は葡萄酒を飲んでいるが、わたくしのグラスの中身は葡萄酒によく似た色の葡萄の果実水だった。アルコールが得意ではないということをしっかりと周知されているのだろう。
挨拶に来た賓客たちは、テーブルの上のぬいぐるみに興味を持ち、ディアン伯爵家で予約が始まっているというのを聞くと、急いでディアン伯爵家の家族が座っているテーブルに向っていた。
披露宴が終わると、わたくしはカーペットが片付けられて夜会用に準備された大広間に戻って、壇上の玉座の横の椅子に腰かけた。その椅子は玉座と同じくらい立派だった。
「その椅子は皇后のための椅子なのだ。レイシーのための椅子だ」
「わたくしのための椅子……」
「一生わたしの隣にいてほしい。愛している、レイシー」
「わたくしも愛しています、アレクサンテリ陛下」
貴族として生まれた時点で、愛のある結婚など諦めていた。
それがこの一年で一転した。
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