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三章 ご寵愛の末に
13.初夜の翌日
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夢も見ないくらいぐっすりと眠っていた。
目を覚ましたとき、わたくしはアレク様の腕の中にいた。
アレク様はパジャマを着ていて、わたくしもパジャマを着ている。身を起こそうとしたら僅かに違和感があって、わたくしはアレク様との夜を思い出して頬が火照るのを感じた。
「レイシー、おはよう。起きられそうかな」
「は、はい、多分」
「無理はしなくていいよ。今日はここで朝食をとろう」
貴族の中には寝室で朝食をとるものもいることは知っていた。それがこういう理由だったなんて、経験してみるまでは分からないものだ。
アレク様が寝室の外まで侍女にお盆で朝食を持って来させて、寝室の中には侍女は入れずに自分でわたくしのところまでお盆を持って来てくれた。
体を起こそうとすると手を添えられて、腰の後ろにクッションを挟んで楽に座れるようにしてくださる。お盆の上には柔らかなパンとスープとヨーグルトとフルーツが乗っていた。アレク様の朝食はパンとサラダとハムとオムレツとフルーツだったので、わたくしの分だけは体に優しい食べやすいものを用意してくれたようだ。
お盆を膝の上に乗せて食べていると、アレク様は自分が食べるよりもわたくしの方に気を取られている様子だった。
「レイシー、体はつらくない?」
「はい」
「レイシー、愛しているよ」
「わたくしも、愛しています」
甘く囁かれながら朝食を食べ終えると、アレク様がわたくしが食べ終わったのを見届けて自分の分を食べていた。
その日はアレク様は執務がある様子だった。
「レイシーは休んでいていいからね。わたしもできるだけ早く戻るよ。お茶の時間は一緒にしよう」
名残惜しそうに声をかけて出かけていくアレク様をベッドの上で見送り、わたくしはもう少しだけとベッドに横になると、そのまま眠ってしまった。
目が覚めたのは昼食の直前だった。
体の気だるさはかなりマシになっていたが、多少は違和感がある。
それでも起きられるようになったので着替えて、食堂に向かう。
食堂で昼食を食べると、部屋に戻ってソファで寛ぎながら昨日の縫物の続きをした。
わたくしが今縫っているのは、黒いウサギのぬいぐるみと白い犬のぬいぐるみだった。目の色はウサギが紫、犬が赤にするつもりで、これはわたくしとアレク様を模したつもりだった。
結婚式のときに披露宴のテーブルに飾っていたぬいぐるみはあるのだが、あれは結婚式の記念にずっと結婚衣装を着せておきたいと思ったから、新しくぬいぐるみを作っているのだ。
ぬいぐるみには着せる服も作る。
アレク様を模した白い犬のぬいぐるみには白い衣装、わたくしを模した黒いウサギのぬいぐるみには色とりどりのドレスを。
着せ替えを楽しむような年齢ではなくなってしまったが、ぬいぐるみを作るのもぬいぐるみの衣装を作るのも楽しい。
ディアン伯爵家では、わたくしとアレク様の結婚衣装を着たぬいぐるみや人形の注文が殺到しているだろう。そのために先に型紙を渡していたので、ソフィアや両親は注文をうまくさばけていると思う。
明日にはディアン伯爵領に行って、アレク様にわたくしの生まれ育った土地を見てもらう。ぬいぐるみや人形の工場も視察したかった。
ぬいぐるみや人形の工場建設についてはわたくしも意見したが、実際に見に行ったことはない。わたくしにとってもディアン伯爵領に行くのはとても楽しみだった。
お茶の時間になるとアレク様が慌ただしく戻ってきた。
急いでいたのか長い白銀の髪が乱れているアレク様に、珍しいと思っていたら、抱き締められる。
「ただいま、レイシー。体はもう大丈夫?」
「おかえりなさい、アレク様。もう平気ですよ」
アレク様を抱き返しながら答えると、アレク様が安心したように微笑む。目元が朱鷺色に染まってアレク様の麗しさが一層眩しく思える。
「レイシーのところに帰って来られる喜びが、結婚したら増した気がするよ」
「わたくしもアレク様をお迎えできる喜びが増しました」
「結婚は夫婦生活の始まりだけど、これからもっとレイシーのことを愛するようになるのかもしれない」
「わたくしもそうだと嬉しいです」
結婚式までの一年間でやり遂げた気持になっていたが、わたくしの皇后としての生活はこれから始まるのだ。同時にアレク様の妻としての生活もこれから始まる。
愛は上限がなく、日に日に高まっていくものなのかもしれない。わたくしは昨日よりも今日の方がアレク様を愛している気がするし、今日よりも明日の方がアレク様をもっと愛するようになるのだろう。
アレク様も同じならばいいと思っていた。
お茶の時間、アレク様はわたくしを膝の上に抱き上げた。
びっくりして抵抗できなかったわたくしは、アレク様から後ろから抱き締められながら膝の上に抱き上げられた形になる。
「あ、アレク様、いけません!」
「二人きりのときくらいいいではないか」
「二人きりではありません!」
「二人きりだ。そうだな?」
「はい、わたくしたちはおりません」
アレク様の強引な言葉に、控えている侍女が空気になろうとするので、わたくしは焦ってしまう。
貴族にとって使用人とは空気のようなもので、いないものとして扱えというのがマナーなのだが、貧乏子爵家で育って、使用人の数も少なく、家族のように接していたわたくしはどうしてもそれに慣れない。
アレク様は護衛がいても、侍女がいても、わたくしを抱き締めたり、口付けたりするのだが、わたくしは恥ずかしくなってしまう。
「少しの間だけこうさせてほしい」
後ろからわたくしをがっちりと抱き締めているアレク様に、わたくしは恥ずかしくて頬が熱くなりながら、俯いていた。
しばらく抱き締めていたらアレク様は満足したのか、わたくしを降ろしてくれた。
そこからやっとお茶の時間が始まる。
侍女がカップにお茶を注ぎ、わたくしはキッシュとケーキを取り分ける。今日は葡萄のケーキがあったのでそれをお皿の上に置いた。
フォークで食べながらお茶を楽しんでいると、アレク様がわたくしの食べているのと同じキッシュとケーキを取り分けているのが見えた。
「アレク様もそれにしたのですか?」
「レイシーが食べていると美味しそうに見える」
基本的にアレク様に好き嫌いはないし、わたくしも出されたものは食べるのがマナーだと分かっているので、食事に注文をつけたりしないが、お茶のときには用意された軽食やケーキやお茶菓子から自分で選んでいいので、好きなものを取ることにしている。
アレク様はあまりお茶のときに召し上がらないのだが、よく見ればわたくしと同じものを取り分けていることが多い。
「アレク様は好きなものはなんですか?」
「レイシーかな」
「そうではなくて、食べ物です」
「レイシーが食べているものは何でも好きだよ」
「嫌いなものは?」
「特にないね」
アレク様の物言いに違和感を覚える。
「アレク様には好き嫌いがないのですか?」
「というより、食にそれほど関心がなかったかな。セシルが死んでから、食べ物の味が分からなくなった。何を食べても砂を噛んでいるようだった」
アレク様が食に関心がなかったという話を聞いて、わたくしは驚きと共に、納得もする。セシルの前で何でもおいしそうに食べていた小さなガーネくんが、セシルを失ってショックのあまり食事の味が分からなくなったというのも、悲しいけれど仕方のないことなのかもしれない。
生きる気力のなかったアレク様が、セシルに庇われて救われた命だからと、命を放棄しなかったことだけがわたくしは尊く感じられる。
「生きていてくれてありがとうございます。わたくしと出会ってくれてありがとうございます」
「レイシー……」
「アレク様が命を諦めないでくれたから、わたくしはアレク様と出会って結婚できました。これからはわたくしがずっとそばにいます。一生一緒にいます」
アレク様の手を握って誓うように言えば、アレク様はわたくしの指先に唇を落として、微笑んだ。
「レイシーこそ、生まれてきてくれてありがとう。わたしに出会ってくれてありがとう。セシルが亡くなったときに、全てを諦めたわたしの元に、レイシーが来てくれたこと、こんな奇跡はないと思っている」
お互いに出会えてよかったとわたくしたちは思っている。
アレク様に取ってわたくしはかけがえのない相手で、わたくしに取ってアレク様はかけがえのない相手になっていた。
目を覚ましたとき、わたくしはアレク様の腕の中にいた。
アレク様はパジャマを着ていて、わたくしもパジャマを着ている。身を起こそうとしたら僅かに違和感があって、わたくしはアレク様との夜を思い出して頬が火照るのを感じた。
「レイシー、おはよう。起きられそうかな」
「は、はい、多分」
「無理はしなくていいよ。今日はここで朝食をとろう」
貴族の中には寝室で朝食をとるものもいることは知っていた。それがこういう理由だったなんて、経験してみるまでは分からないものだ。
アレク様が寝室の外まで侍女にお盆で朝食を持って来させて、寝室の中には侍女は入れずに自分でわたくしのところまでお盆を持って来てくれた。
体を起こそうとすると手を添えられて、腰の後ろにクッションを挟んで楽に座れるようにしてくださる。お盆の上には柔らかなパンとスープとヨーグルトとフルーツが乗っていた。アレク様の朝食はパンとサラダとハムとオムレツとフルーツだったので、わたくしの分だけは体に優しい食べやすいものを用意してくれたようだ。
お盆を膝の上に乗せて食べていると、アレク様は自分が食べるよりもわたくしの方に気を取られている様子だった。
「レイシー、体はつらくない?」
「はい」
「レイシー、愛しているよ」
「わたくしも、愛しています」
甘く囁かれながら朝食を食べ終えると、アレク様がわたくしが食べ終わったのを見届けて自分の分を食べていた。
その日はアレク様は執務がある様子だった。
「レイシーは休んでいていいからね。わたしもできるだけ早く戻るよ。お茶の時間は一緒にしよう」
名残惜しそうに声をかけて出かけていくアレク様をベッドの上で見送り、わたくしはもう少しだけとベッドに横になると、そのまま眠ってしまった。
目が覚めたのは昼食の直前だった。
体の気だるさはかなりマシになっていたが、多少は違和感がある。
それでも起きられるようになったので着替えて、食堂に向かう。
食堂で昼食を食べると、部屋に戻ってソファで寛ぎながら昨日の縫物の続きをした。
わたくしが今縫っているのは、黒いウサギのぬいぐるみと白い犬のぬいぐるみだった。目の色はウサギが紫、犬が赤にするつもりで、これはわたくしとアレク様を模したつもりだった。
結婚式のときに披露宴のテーブルに飾っていたぬいぐるみはあるのだが、あれは結婚式の記念にずっと結婚衣装を着せておきたいと思ったから、新しくぬいぐるみを作っているのだ。
ぬいぐるみには着せる服も作る。
アレク様を模した白い犬のぬいぐるみには白い衣装、わたくしを模した黒いウサギのぬいぐるみには色とりどりのドレスを。
着せ替えを楽しむような年齢ではなくなってしまったが、ぬいぐるみを作るのもぬいぐるみの衣装を作るのも楽しい。
ディアン伯爵家では、わたくしとアレク様の結婚衣装を着たぬいぐるみや人形の注文が殺到しているだろう。そのために先に型紙を渡していたので、ソフィアや両親は注文をうまくさばけていると思う。
明日にはディアン伯爵領に行って、アレク様にわたくしの生まれ育った土地を見てもらう。ぬいぐるみや人形の工場も視察したかった。
ぬいぐるみや人形の工場建設についてはわたくしも意見したが、実際に見に行ったことはない。わたくしにとってもディアン伯爵領に行くのはとても楽しみだった。
お茶の時間になるとアレク様が慌ただしく戻ってきた。
急いでいたのか長い白銀の髪が乱れているアレク様に、珍しいと思っていたら、抱き締められる。
「ただいま、レイシー。体はもう大丈夫?」
「おかえりなさい、アレク様。もう平気ですよ」
アレク様を抱き返しながら答えると、アレク様が安心したように微笑む。目元が朱鷺色に染まってアレク様の麗しさが一層眩しく思える。
「レイシーのところに帰って来られる喜びが、結婚したら増した気がするよ」
「わたくしもアレク様をお迎えできる喜びが増しました」
「結婚は夫婦生活の始まりだけど、これからもっとレイシーのことを愛するようになるのかもしれない」
「わたくしもそうだと嬉しいです」
結婚式までの一年間でやり遂げた気持になっていたが、わたくしの皇后としての生活はこれから始まるのだ。同時にアレク様の妻としての生活もこれから始まる。
愛は上限がなく、日に日に高まっていくものなのかもしれない。わたくしは昨日よりも今日の方がアレク様を愛している気がするし、今日よりも明日の方がアレク様をもっと愛するようになるのだろう。
アレク様も同じならばいいと思っていた。
お茶の時間、アレク様はわたくしを膝の上に抱き上げた。
びっくりして抵抗できなかったわたくしは、アレク様から後ろから抱き締められながら膝の上に抱き上げられた形になる。
「あ、アレク様、いけません!」
「二人きりのときくらいいいではないか」
「二人きりではありません!」
「二人きりだ。そうだな?」
「はい、わたくしたちはおりません」
アレク様の強引な言葉に、控えている侍女が空気になろうとするので、わたくしは焦ってしまう。
貴族にとって使用人とは空気のようなもので、いないものとして扱えというのがマナーなのだが、貧乏子爵家で育って、使用人の数も少なく、家族のように接していたわたくしはどうしてもそれに慣れない。
アレク様は護衛がいても、侍女がいても、わたくしを抱き締めたり、口付けたりするのだが、わたくしは恥ずかしくなってしまう。
「少しの間だけこうさせてほしい」
後ろからわたくしをがっちりと抱き締めているアレク様に、わたくしは恥ずかしくて頬が熱くなりながら、俯いていた。
しばらく抱き締めていたらアレク様は満足したのか、わたくしを降ろしてくれた。
そこからやっとお茶の時間が始まる。
侍女がカップにお茶を注ぎ、わたくしはキッシュとケーキを取り分ける。今日は葡萄のケーキがあったのでそれをお皿の上に置いた。
フォークで食べながらお茶を楽しんでいると、アレク様がわたくしの食べているのと同じキッシュとケーキを取り分けているのが見えた。
「アレク様もそれにしたのですか?」
「レイシーが食べていると美味しそうに見える」
基本的にアレク様に好き嫌いはないし、わたくしも出されたものは食べるのがマナーだと分かっているので、食事に注文をつけたりしないが、お茶のときには用意された軽食やケーキやお茶菓子から自分で選んでいいので、好きなものを取ることにしている。
アレク様はあまりお茶のときに召し上がらないのだが、よく見ればわたくしと同じものを取り分けていることが多い。
「アレク様は好きなものはなんですか?」
「レイシーかな」
「そうではなくて、食べ物です」
「レイシーが食べているものは何でも好きだよ」
「嫌いなものは?」
「特にないね」
アレク様の物言いに違和感を覚える。
「アレク様には好き嫌いがないのですか?」
「というより、食にそれほど関心がなかったかな。セシルが死んでから、食べ物の味が分からなくなった。何を食べても砂を噛んでいるようだった」
アレク様が食に関心がなかったという話を聞いて、わたくしは驚きと共に、納得もする。セシルの前で何でもおいしそうに食べていた小さなガーネくんが、セシルを失ってショックのあまり食事の味が分からなくなったというのも、悲しいけれど仕方のないことなのかもしれない。
生きる気力のなかったアレク様が、セシルに庇われて救われた命だからと、命を放棄しなかったことだけがわたくしは尊く感じられる。
「生きていてくれてありがとうございます。わたくしと出会ってくれてありがとうございます」
「レイシー……」
「アレク様が命を諦めないでくれたから、わたくしはアレク様と出会って結婚できました。これからはわたくしがずっとそばにいます。一生一緒にいます」
アレク様の手を握って誓うように言えば、アレク様はわたくしの指先に唇を落として、微笑んだ。
「レイシーこそ、生まれてきてくれてありがとう。わたしに出会ってくれてありがとう。セシルが亡くなったときに、全てを諦めたわたしの元に、レイシーが来てくれたこと、こんな奇跡はないと思っている」
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