そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥

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三章 ご寵愛の末に

21.お誕生日のお茶会と体調不良

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 わたくしの好きなものといえば、秋の味覚、芋と栗とカボチャである。
 わたくしのお誕生日のお茶会にはスイートポテトやモンブラン、カボチャのプリンが出されるように手配した。
 皇宮の厨房も腕を振るってくれるようである。

 お誕生日のお茶会は皇后としての初めての公務なので緊張はしていたが、アレク様もラヴァル夫人も協力してくださったので、問題なく準備が整った。
 お誕生日のお茶会の当日、わたくしは薄くお化粧をして秋色の淡い赤紫のドレスを着て、皇宮本殿の大広間に行った。わたくしのことはアレク様がしっかりとエスコートしてくれるので安心だ。

 アレク様と共に会場に入って皇太后陛下から順番に挨拶を受ける。皇太后陛下の次はカイエタン宰相閣下とルドミラ様、その次はお二人のお子様のエメリック様とテレーザ様とアウグスタ様、それから側近のユリウス様とその婚約者の令嬢、側近のテオ様と奥様とお子様たち、側近のシリル様と婚約者でわたくしの妹のソフィアと続く。
 誰もが笑顔でわたくしのお誕生日をお祝いしてくれた。

 お茶会の席はわたくしとアレク様が横並びで、正面に皇太后陛下、斜め前にルドミラ様とカイエタン宰相閣下が座った。ソフィアと席が離れてしまったのは寂しいが、ソフィアは伯爵家の令嬢で、わたくしは皇后なのだから仕方がない。

「皇后陛下もこれで二十歳になられたのですね」
「去年のお茶会から一年があっという間でした」
「本当におめでとうございます」

 祝ってくださる皇太后陛下に笑顔で「ありがとうございます」と答えながらも、わたくしはなんとなく食欲がなくて、お茶会のために用意された食べ物にはほとんど手をつけなかった。わたくしが食べていないのに、いつもわたくしと同じものを取り分けるアレク様はすぐに気付いた。

「レイシー、体調が悪いのかな?」
「いえ、そんなことはないです。元気ですが、今はお腹がいっぱいで食べられないだけです。お昼を食べすぎたのかもしれません」
「お昼もレイシーはそんなに食べていないよ」
「そうでしたか?」

 体調不良に心当たりはなくて、わたくしは首をかしげる。
 どこかが悪いわけではなかったが、なんとなく胸がむかむかするような感じがして大好きなスイートポテトも、モンブランも、カボチャのプリンも、食べる気にはならなかった。

 お茶会が終わった後で、アレク様は貴族たちの挨拶を早々に切り上げさせて、わたくしを皇帝宮に連れて帰った。
 わたくしは寝室に運ばれて、パジャマに着替えさせられてベッドに横にさせられた。

「すぐに医者を呼ぶ。レイシー、体を休めていてくれ」
「大袈裟です、アレク様。ちょっと食欲がなかっただけです」
「わたしが心配なのだ。レイシーがわたしより先に死んでしまったら、わたしは今度こそ生きていけない」

 元々白い顔をもっと血の気が失せた色にして、アレク様は医者が来るまで落ち着かない様子でうろうろと寝室の中を歩き回っていた。わたくしがベッドに身を起こそうとすると、アレク様が止める。

「安静にしていてくれ」
「平気です」
「お願いだから、大人しくしていてくれ」

 膝をついてお願いされそうになって、わたくしは大人しくベッドに横になる。お茶しか飲んでいなかったが、空腹感は覚えていなかった。
 医者が通されて、わたくしを診察する。
 脈を取ったり、口の中を確かめたり、聴診器で胸の音を聞いたりした後に、医者は静かに告げた。

「悪いところがあるようには思えませんが」
「本当か? 見落としがあってレイシーに何かあればわたしは生きていけない」
「皇帝陛下、落ち着いてください。一つ、皇后陛下にお聞きしてよろしいですか?」
「診察に必要なことならば許そう」
「それでは失礼します」

 医者はアレク様に断ってから、わたくしに向き直った。何を聞かれるのかと緊張していると、医者が静かな声で問いかける。

「皇后陛下、失礼ながら最後の月のものはいつでしたか?」

 医者の問いかけの意味が分かって、わたくしははっと息を飲んだ。
 月のものが遅れているとは思っていたけれど、そういうことだとは思わなかった。

「そろそろ二か月になるかもしれません。月のものが遅れていると思っていました」
「それでは、恐らく、ご懐妊でしょうね」
「ご、ご懐妊!?」

 医者の言葉に強く反応したのはアレク様だった。
 呆然と立ちすくむアレク様に、医者が静かに告げる。

「おめでとうございます、皇帝陛下、皇后陛下。皇后陛下はこれから、体を大切にしてください」
「間違いないのか?」
「二か月くらいだったら、月のものが遅れているだけの可能性もありますが、皇帝陛下と皇后陛下は仲睦まじい夫婦とお見受けします。ご懐妊されていても不思議はないかと思います」
「それでは、わたしはなにをすればいい?」
「皇后陛下のお体に負担をかけることがないようにしてください。夜の営みは避けてくださるとよいかと思います」
「他にできることは?」
「これから悪阻が出てくると思います。皇后陛下が食べられるものを食べられるときに食べる環境を作って差し上げてください」

 わたくし以上に熱心に医者に聞いているアレク様のおかげで、わたくしが聞くことはほとんどなかった。
 わたくしは食べられるものを食べられるときに食べればいいようだ。
 夜の営みも出産するまでは避けなければいけない。

「レイシー、こんな嬉しいことはない。レイシーが無事に出産できるように、体制を整えていくつもりだ」
「アレクサンテリ陛下、わたくしに赤ちゃんを授けてくださってありがとうございます」
「礼を言うのはわたしの方だ。わたしの赤ん坊をお腹に宿してくれてありがとう」

 そそくさと医者が退出していくのを確かめて、アレク様はベッドに腰かけてわたくしの体を壊れ物のように優しく抱き締めた。強く抱き締められるのも心が通じていいものだが、優しく抱き締められるのも心地いい。
 アレク様に抱き締められて、わたくしは幸福を噛み締めていた。

 とはいえ、妊娠というものは幸福だけでは終わらないのだ。
 これからお腹の中で赤ちゃんを育てていって、出産するまでが大変なのだ。
 悪阻も始まるだろうし、お腹の中で赤ちゃんが育ってきたら内臓が圧迫されて苦しい思いもするだろう。膀胱が圧迫されてお手洗いの回数も頻繁になるというのは聞いていた。

 わたくしの妊娠は確定ではないので、まだ伏せられていたが、わたくしはラヴァル夫人をお茶の時間に呼んだ。
 ラヴァル夫人にはもう成人しているお子様が二人いるはずだ。

「ラヴァル夫人、妊娠しているときというのはどのような感じでしたか?」
「とにかく大変でした。わたくしは悪阻が酷くて、産む直前まで悪阻が続いていて、ものすごく痩せてしまって、それでも子どもが生まれたときには嬉しくて涙が止まらなかったものです」
「悪阻はそんなに大変ですか?」
「皇后陛下、もしかして……いいえ、発表されていないことを憶測で言うのはよくありませんね。悪阻は個人差があります。わたくしも二人目のときには、悪阻が軽くて、本当に妊娠しているのか疑ったくらいです」
「同じ方でも、悪阻に差が出るのですか」
「はい、わたくしの場合ははっきりと差が出ました」

 わたくしはどのようになってしまうのだろう。
 まだ胸がむかむかして、食欲がない程度なのだが、これから悪阻が酷くなるのだろうか。

「皇后陛下、案ずるより産むがやすしという言葉があります。実際に経験してみなければこればかりは分かりません」
「そうですよね」

 不安になるよりも、実際になってみてから対処を考えよう。
 幸いアレク様もわたくしに協力的なようだし、わたくしはそんなに心配はしていなかった。
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