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アレクサンテリ視点
11.食事の味
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レイシーはディアン子爵家では家庭菜園を作り、自分で野菜を育てていたという。
セシルも近所の畑の世話を手伝いに行き、野菜を分けてもらうことがあった。
「採れたての野菜は美味しいのよ、ガーネくん」
セシルの笑顔を思い出すと、レイシーには家庭菜園を作りたいのならば作ってほしいという思いが生まれる。
執務の途中だったがわたしはラヴァル夫人にメモを書いて侍従に届けさせていた。
皇帝宮の庭をレイシーの好きに使っていいということ。そのために庭師に手伝わせても構わないということ。
レイシーのことを考えながら執務を進めていると、ユリウスが深刻そうな表情でわたしに近付いてきた。話したいことがあるのだろう。書面を見る手を止めて、ユリウスの方を見つめる。
「ディアン子爵家の令嬢を皇帝宮にお迎えになったことが既に貴族に知れ渡っています」
「それは構わない」
「公爵家や侯爵家から、『子爵家の令嬢ならば側妃や妾妃にはちょうどいいのではないか。子どもだけ産ませて実家に帰らせればいい』などという話も出ています」
それに関しては、わたしは譲れないところがあった。
皇帝の妃が子爵家の令嬢というのは確かに身分が低いかもしれないが、わたしはレイシーを側妃や妾妃にするつもりなど全くない。
「レイシーは皇后にする。これは決定だ」
「公爵家や侯爵家の中には、反対するものも出てくるでしょう」
公爵家の令嬢の中には、確か薄着でわたしの寝室に送り込まれたものもいたのではなかっただろうか。
公爵家や侯爵家は、まだ自分の娘がわたしの皇后になることを諦めていない様子だった。
「ディアン子爵家をせめて伯爵家にできないものか。それに、レイシーを皇后にすることを反対する公爵家や侯爵家の連中を黙らせるだけの功績がディアン子爵家にほしいな」
真剣に考えるわたしに、シリルが言葉を添える。
「ディアン子爵家は四代前の皇帝陛下の御代に、私財を投げ打って国を救ってくれた功績があります。そのときに伯爵の爵位を皇帝陛下が授けようとしたのを固辞して、結局子爵家になった家です」
「そうだったな。その線で公爵家と侯爵家のレイシーを軽んじるものたちを、一時的に黙らせるか」
過去に恩義があった家ということで、時間を稼いでいる間に、ディアン子爵家に功績を挙げさせることをわたしは考えなければいけなかった。
レイシーには誰にも反対されず、祝福されて皇后になってほしい。
婚約のときにはまだ皇后にすると発表しては反対派が動くかもしれないから、水面下で少しずつ反対派を納得させていかなければいけない。
婚約式まではまだ一か月近くあった。
婚約は急いでいたのだが、ラヴァル夫人がレイシーの教育係を引き受けたときに、くれぐれも言われていた。
「レイシー様は子爵家の令嬢とはいえ、学園でずっと首席を保っていた非常に賢い方と聞いています。それでも、どんな貴族からも、皇族からも、属国の王族や要人からも、絶対に反対の声が出ないように完璧なマナーで婚約式に臨んでいただく必要があります。皇帝陛下が急いでいるのは分かりますが、レイシー様に妃教育を受ける時間をくださいませ」
「どれくらいかかる?」
「最低でも一か月は」
「では、婚約式は一か月待とう」
執務に関しては冷徹と言われるまでに冷静な判断ができるが、レイシーのこととなると冷静でいられないわたしにとっては、ラヴァル夫人の助言はありがたいものだった。
「何より、レイシー様が心の準備をする時間も必要でしょう?」
「そうだったな。わたしばかりはやってはいけない」
冷静なラヴァル夫人の判断に、わたしは任せることにした。
執務やレイシーを皇后にすることを反対しそうな公爵家や侯爵家への説明を終えた後で、わたしは皇帝宮に戻った。
皇宮は広いので、わたしが執務を行う皇宮本殿から皇帝宮までは馬車に乗って移動しなければいけない。皇宮内を移動する馬車は二頭立てで、小型で小回りが利くものだった。
着替えて夕食のために食堂に行くと、レイシーがわたしが入ってきたら膝をつこうとする。手を取ってそれを止めて、わたしは微笑んだ。
「レイシーがわたしに膝を突く必要はない。二人だけの食事だ。形式ばらなくてもいい」
凍り付いていた表情がレイシーの前では自然に溶けていく。微笑みも意識しなくても勝手に零れてしまう。
席について椅子に座ると、レイシーが目を輝かせているのが分かる。
食事のメニューをこれまで気にしたことがなかったが、レイシーが喜んでいるのならば、視線を落とせば、野菜を裏ごししたスープに、野菜のサラダ、白身魚のソテー、牛肉の煮込みと、六歳のとき以来初めて食事に関心がわいた。
スープを一口飲めば、横でレイシーのため息が聞こえる。
「美味しい……本当に美味しい……」
それを聞いていると、わたしもスープが美味しく感じられる。
スープは野菜の甘みがよく出ていて、サラダは新鮮でしゃきしゃきしていて、白身魚のソテーは臭みが全くなくて、牛肉の煮込みはフォークで触れると崩れるほど柔らかい。
ずっと砂を食べていたような感覚だったのに、レイシーと食べると、何もかもが美味しく感じられる。味が分かる。
わたしは生き返ったような気分を再び感じていた。
「ラヴァル夫人はどうだった? なにか困ったことはなかったかな?」
「とても親切にしていただきました。教養のある方で話していて楽しかったです」
「楽しかったのか……。少し妬けるな。わたしと話すのも楽しいと思ってくれたらいいのだが」
「は、はい」
今日のことをレイシーと話すと、レイシーは緊張しているようだった。
緊張を解すようにわたしは微笑んで話しかける。
「妃教育は忙しくなるだろうが、レイシーの趣味の時間も取れるように配慮する」
「ありがとうございます」
「レイシー、ずっとこうしてあなたと共に時間を過ごしたかった。わたしがどれだけ浮かれているか」
困惑しているレイシーに、まだわたしのことを受け入れるのは難しいかと思って、話題を変えた。レイシーが自分の趣味である縫物の話ならば饒舌になると知っている。
「馬車の中でわたしのジャケットを縫ってほしいと言った件、本気だ。明日、布と寸法を届けさせるので、暇なときにでも縫い進めてほしい」
「その件ですが、わたくしは上質な絹糸を持っておりません。皇帝陛下の身に着けられるようなものが作れるか分かりません」
「それでは糸も準備させよう。他に必要なものはあるかな?」
わたしが身に着けるものは布から糸まで全て厳選されていた。それをレイシーのために準備するのは難しくない。それ以外にレイシーが欲しいものがあるのならば、宝石でも、なんでも買い与えるつもりだった。
わたしの予想と反して、レイシーが求めたものはミシンだった。
「み、ミシンを……」
どんな高価なものをねだられても叶えるつもりだったが、ミシンとは拍子抜けしてしまう。この国には足で踏んで動かすミシンが売られているが、ディアン子爵家は困窮していたと聞いたのでレイシーは使えなかったのかもしれない。
「ミシンを持っていなかったのか。それではすぐに購入させよう。明日にでも部屋に届くように手配する」
「よろしいのですか? ものすごく高価なのですよ?」
「わたしの妃は本当に欲がない。宝石の一つでもねだるかと思えば、わたしのジャケットを縫うためのミシンをねだるのだからな。ミシンが何台でも買えるような宝石も贈りたいのだが」
「それは遠慮いたします」
冗談めかして宝石も贈りたいなどというと、レイシーははっきりと断ってくる。
こういう経済観念のしっかりしたところも、レイシーのよいところなのだろう。
「ミシンを買っていただけるとのこと、とても嬉しいです。ありがとうございます」
心からのお礼に、わたしはレイシーが少しだけ打ち解けてくれたようで嬉しかった。
これからレイシーのことをもっと尊重して、レイシーのしたいことを自由にできる環境を作っていかなければいけない。わたしにとってレイシーが特別なように、わたしもレイシーに特別だと思われたかった。
「そういえば、服は今日仕立て職人が来たようだが、靴はまだ揃えていないようだね。レイシーは踵の低い靴が好きなのかな?」
服は仕立て職人を呼んで誂えさせるように命じていたが、靴までは揃えていなかったようだ。
レイシーは初めて出会ったときから、踵の低い靴を履いていた。家庭菜園も作るくらいだから実用的なものが好きなのかと思っていたら、レイシーからの返答は別のものだった。
「本当は踵の高い流行の靴を履きたかったのです。ですが、お値段が……。それにレナン殿がわたくしは背が高すぎるので、踵の高い靴は履かないでほしいと言っていたので」
レイシーの口から違う男の名前が出るのは嫌だと感じたし、何よりもその内容が酷かった。年頃の娘としてレイシーは流行の靴を履きたかっただろう。それなのに、レイシーの元婚約者のレナンはレイシーの背が高すぎるからと、踵の高い靴を履かないように言っていた。
わたしはレイシーより頭一つ以上大きいのでどれだけ踵の高い靴を履いても問題はないし、レイシーの方がわたしよりも背が高くなるとしても、レイシーには自分の好きな靴を履いてほしいと思っていた。
「あなたを捨てて他の女に目移りした見る目のない男のことか。そういえば、あの男は背が低かったな。わたしの前では遠慮することなく、レイシーの好きな靴を履くといい。踵が高すぎてレイシーが転びそうになるのはよくないが、レイシーのことを支えるくらいのことはわたしにもできる」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
嬉しそうに紫色の目を輝かせるレイシーに、わたしは愛おしさがこみあげてくる。
夕食後はレイシーを部屋まで送ってから、わたしは自分の部屋に戻った。
皇族ともなると手伝われるのが普通なのだが、わたしは誰にも触れられたくないので、侍女に命じて着替えも風呂も自分で済ませていた。
風呂に入って、ベッドに横になると、お腹の辺りが温かい感じがする。
味を感じた食事はそれだけでなく、わたしの体を温めているかのようだった。
レイシーと一緒に食べると食事に味がする。
レイシーと共に過ごすと生きていると感じる。
その日も睡眠薬なしで、わたしは眠ることができた。
セシルも近所の畑の世話を手伝いに行き、野菜を分けてもらうことがあった。
「採れたての野菜は美味しいのよ、ガーネくん」
セシルの笑顔を思い出すと、レイシーには家庭菜園を作りたいのならば作ってほしいという思いが生まれる。
執務の途中だったがわたしはラヴァル夫人にメモを書いて侍従に届けさせていた。
皇帝宮の庭をレイシーの好きに使っていいということ。そのために庭師に手伝わせても構わないということ。
レイシーのことを考えながら執務を進めていると、ユリウスが深刻そうな表情でわたしに近付いてきた。話したいことがあるのだろう。書面を見る手を止めて、ユリウスの方を見つめる。
「ディアン子爵家の令嬢を皇帝宮にお迎えになったことが既に貴族に知れ渡っています」
「それは構わない」
「公爵家や侯爵家から、『子爵家の令嬢ならば側妃や妾妃にはちょうどいいのではないか。子どもだけ産ませて実家に帰らせればいい』などという話も出ています」
それに関しては、わたしは譲れないところがあった。
皇帝の妃が子爵家の令嬢というのは確かに身分が低いかもしれないが、わたしはレイシーを側妃や妾妃にするつもりなど全くない。
「レイシーは皇后にする。これは決定だ」
「公爵家や侯爵家の中には、反対するものも出てくるでしょう」
公爵家の令嬢の中には、確か薄着でわたしの寝室に送り込まれたものもいたのではなかっただろうか。
公爵家や侯爵家は、まだ自分の娘がわたしの皇后になることを諦めていない様子だった。
「ディアン子爵家をせめて伯爵家にできないものか。それに、レイシーを皇后にすることを反対する公爵家や侯爵家の連中を黙らせるだけの功績がディアン子爵家にほしいな」
真剣に考えるわたしに、シリルが言葉を添える。
「ディアン子爵家は四代前の皇帝陛下の御代に、私財を投げ打って国を救ってくれた功績があります。そのときに伯爵の爵位を皇帝陛下が授けようとしたのを固辞して、結局子爵家になった家です」
「そうだったな。その線で公爵家と侯爵家のレイシーを軽んじるものたちを、一時的に黙らせるか」
過去に恩義があった家ということで、時間を稼いでいる間に、ディアン子爵家に功績を挙げさせることをわたしは考えなければいけなかった。
レイシーには誰にも反対されず、祝福されて皇后になってほしい。
婚約のときにはまだ皇后にすると発表しては反対派が動くかもしれないから、水面下で少しずつ反対派を納得させていかなければいけない。
婚約式まではまだ一か月近くあった。
婚約は急いでいたのだが、ラヴァル夫人がレイシーの教育係を引き受けたときに、くれぐれも言われていた。
「レイシー様は子爵家の令嬢とはいえ、学園でずっと首席を保っていた非常に賢い方と聞いています。それでも、どんな貴族からも、皇族からも、属国の王族や要人からも、絶対に反対の声が出ないように完璧なマナーで婚約式に臨んでいただく必要があります。皇帝陛下が急いでいるのは分かりますが、レイシー様に妃教育を受ける時間をくださいませ」
「どれくらいかかる?」
「最低でも一か月は」
「では、婚約式は一か月待とう」
執務に関しては冷徹と言われるまでに冷静な判断ができるが、レイシーのこととなると冷静でいられないわたしにとっては、ラヴァル夫人の助言はありがたいものだった。
「何より、レイシー様が心の準備をする時間も必要でしょう?」
「そうだったな。わたしばかりはやってはいけない」
冷静なラヴァル夫人の判断に、わたしは任せることにした。
執務やレイシーを皇后にすることを反対しそうな公爵家や侯爵家への説明を終えた後で、わたしは皇帝宮に戻った。
皇宮は広いので、わたしが執務を行う皇宮本殿から皇帝宮までは馬車に乗って移動しなければいけない。皇宮内を移動する馬車は二頭立てで、小型で小回りが利くものだった。
着替えて夕食のために食堂に行くと、レイシーがわたしが入ってきたら膝をつこうとする。手を取ってそれを止めて、わたしは微笑んだ。
「レイシーがわたしに膝を突く必要はない。二人だけの食事だ。形式ばらなくてもいい」
凍り付いていた表情がレイシーの前では自然に溶けていく。微笑みも意識しなくても勝手に零れてしまう。
席について椅子に座ると、レイシーが目を輝かせているのが分かる。
食事のメニューをこれまで気にしたことがなかったが、レイシーが喜んでいるのならば、視線を落とせば、野菜を裏ごししたスープに、野菜のサラダ、白身魚のソテー、牛肉の煮込みと、六歳のとき以来初めて食事に関心がわいた。
スープを一口飲めば、横でレイシーのため息が聞こえる。
「美味しい……本当に美味しい……」
それを聞いていると、わたしもスープが美味しく感じられる。
スープは野菜の甘みがよく出ていて、サラダは新鮮でしゃきしゃきしていて、白身魚のソテーは臭みが全くなくて、牛肉の煮込みはフォークで触れると崩れるほど柔らかい。
ずっと砂を食べていたような感覚だったのに、レイシーと食べると、何もかもが美味しく感じられる。味が分かる。
わたしは生き返ったような気分を再び感じていた。
「ラヴァル夫人はどうだった? なにか困ったことはなかったかな?」
「とても親切にしていただきました。教養のある方で話していて楽しかったです」
「楽しかったのか……。少し妬けるな。わたしと話すのも楽しいと思ってくれたらいいのだが」
「は、はい」
今日のことをレイシーと話すと、レイシーは緊張しているようだった。
緊張を解すようにわたしは微笑んで話しかける。
「妃教育は忙しくなるだろうが、レイシーの趣味の時間も取れるように配慮する」
「ありがとうございます」
「レイシー、ずっとこうしてあなたと共に時間を過ごしたかった。わたしがどれだけ浮かれているか」
困惑しているレイシーに、まだわたしのことを受け入れるのは難しいかと思って、話題を変えた。レイシーが自分の趣味である縫物の話ならば饒舌になると知っている。
「馬車の中でわたしのジャケットを縫ってほしいと言った件、本気だ。明日、布と寸法を届けさせるので、暇なときにでも縫い進めてほしい」
「その件ですが、わたくしは上質な絹糸を持っておりません。皇帝陛下の身に着けられるようなものが作れるか分かりません」
「それでは糸も準備させよう。他に必要なものはあるかな?」
わたしが身に着けるものは布から糸まで全て厳選されていた。それをレイシーのために準備するのは難しくない。それ以外にレイシーが欲しいものがあるのならば、宝石でも、なんでも買い与えるつもりだった。
わたしの予想と反して、レイシーが求めたものはミシンだった。
「み、ミシンを……」
どんな高価なものをねだられても叶えるつもりだったが、ミシンとは拍子抜けしてしまう。この国には足で踏んで動かすミシンが売られているが、ディアン子爵家は困窮していたと聞いたのでレイシーは使えなかったのかもしれない。
「ミシンを持っていなかったのか。それではすぐに購入させよう。明日にでも部屋に届くように手配する」
「よろしいのですか? ものすごく高価なのですよ?」
「わたしの妃は本当に欲がない。宝石の一つでもねだるかと思えば、わたしのジャケットを縫うためのミシンをねだるのだからな。ミシンが何台でも買えるような宝石も贈りたいのだが」
「それは遠慮いたします」
冗談めかして宝石も贈りたいなどというと、レイシーははっきりと断ってくる。
こういう経済観念のしっかりしたところも、レイシーのよいところなのだろう。
「ミシンを買っていただけるとのこと、とても嬉しいです。ありがとうございます」
心からのお礼に、わたしはレイシーが少しだけ打ち解けてくれたようで嬉しかった。
これからレイシーのことをもっと尊重して、レイシーのしたいことを自由にできる環境を作っていかなければいけない。わたしにとってレイシーが特別なように、わたしもレイシーに特別だと思われたかった。
「そういえば、服は今日仕立て職人が来たようだが、靴はまだ揃えていないようだね。レイシーは踵の低い靴が好きなのかな?」
服は仕立て職人を呼んで誂えさせるように命じていたが、靴までは揃えていなかったようだ。
レイシーは初めて出会ったときから、踵の低い靴を履いていた。家庭菜園も作るくらいだから実用的なものが好きなのかと思っていたら、レイシーからの返答は別のものだった。
「本当は踵の高い流行の靴を履きたかったのです。ですが、お値段が……。それにレナン殿がわたくしは背が高すぎるので、踵の高い靴は履かないでほしいと言っていたので」
レイシーの口から違う男の名前が出るのは嫌だと感じたし、何よりもその内容が酷かった。年頃の娘としてレイシーは流行の靴を履きたかっただろう。それなのに、レイシーの元婚約者のレナンはレイシーの背が高すぎるからと、踵の高い靴を履かないように言っていた。
わたしはレイシーより頭一つ以上大きいのでどれだけ踵の高い靴を履いても問題はないし、レイシーの方がわたしよりも背が高くなるとしても、レイシーには自分の好きな靴を履いてほしいと思っていた。
「あなたを捨てて他の女に目移りした見る目のない男のことか。そういえば、あの男は背が低かったな。わたしの前では遠慮することなく、レイシーの好きな靴を履くといい。踵が高すぎてレイシーが転びそうになるのはよくないが、レイシーのことを支えるくらいのことはわたしにもできる」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
嬉しそうに紫色の目を輝かせるレイシーに、わたしは愛おしさがこみあげてくる。
夕食後はレイシーを部屋まで送ってから、わたしは自分の部屋に戻った。
皇族ともなると手伝われるのが普通なのだが、わたしは誰にも触れられたくないので、侍女に命じて着替えも風呂も自分で済ませていた。
風呂に入って、ベッドに横になると、お腹の辺りが温かい感じがする。
味を感じた食事はそれだけでなく、わたしの体を温めているかのようだった。
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