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アレクサンテリ視点
18.婚約式の後のお茶会
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大量の貴族から挨拶をされて、やっとわたしとレイシーが解放されたのは、お茶の時間も近くなってからだった。
レイシーはその間食事もとっていないし、水分もとっていない。
レイシーを早く休憩させてやりたかったが、母と叔父がお茶に誘ってきた。
婚約式の後に家族でお茶をするというのは、新しく家族となるレイシーを受け入れてもらうために必要だったし、レイシーはお茶会で水分と食事を補給できるので、わたしは渋々それを受け入れた。
皇宮のお茶室に着くと、レイシーに一番に座ってもらう。わたしがエスコートするので当然なのだが、レイシーはわたしにとって皇太后よりも宰相よりも価値のある存在だということを見せておかなければいけない。
わたしが椅子に座って、母と叔父が視線で許可を得て椅子に座る。
「今日の婚約式は素晴らしかったですね。レイシー殿下もとても美しくて。そのドレス、レイシー殿下が縫われたのでしょう?」
「はい、わたくしが作らせていただきました。アレクサンテリ陛下が最高級の材料を集めてくださって、わたくしこんなに素晴らしいシルクを縫ったのは初めてです。レースもどれも細かくて美しくて」
母がレイシーにドレスの話をすると、レイシーが活き活きとしながら話し出す。
お腹が空いているだろうに、縫物の話となると活力に満ちてくるのだからレイシーらしい。
「もうヴェールは外しても構わないよ、レイシー。お茶が飲めないからね」
「ありがとうございます、アレクサンテリ陛下。あの、この花冠はまだ着けていていいですか?」
「その花冠が気に入ったようだね。着けていて構わないよ。花冠を着ける機会などこれからないかもしれないから、その花冠はコサージュに加工してもらおうか?」
「その加工、わたくしにさせていただけませんか?」
「もちろん構わないよ」
ヴェールを外したのでレイシーの顔がはっきりと見える。頬を赤くして、少し興奮している様子だった。
貴族たちの前では牽制のためにわたしは凍り付いた表情だったが、レイシーと話していると自然と笑みがこぼれる。花冠をコサージュにしたいというレイシーに、わたしは快くそれを了承した。
「皇帝陛下は本当に妃殿下をご寵愛されているようですね。皇帝陛下がそのような表情を見せるのをわたしは初めて見ました」
「大切なレイシーを怖がらせるわけにはいかないでしょう。叔父上も鋼鉄の宰相などと呼ばれているのに、叔母上には蕩けるような笑顔をみせるくせに」
「わたしは妻を愛していますからね。皇帝陛下も妃殿下を愛しているのでしょう」
「誰よりも大切に思っています」
生きながら死んでいたようなわたしの二十二年間を知っているだけに、叔父の言葉は驚きに満ちている。わたしは叔父にレイシーを重んじるように忠告するように、一言一言を選んで口にする。
わたしと叔父が話していると、レイシーは母に話しかけていた。
「アレクサンテリ陛下のジャケットもわたくしが作らせていただいたのです」
「話は聞いていましたが、これほど立派なものとは思いませんでした。皇宮の仕立て職人の仕事がなくなりますね」
「そんなにわたくしたくさんは作れません」
「ふふっ、冗談ですよ」
和やかに話しているが、母がレイシーになにか余計なことを言わないか気が気ではない。
喉が乾いているであろうレイシーは紅茶は口にしていたが、お腹もすいているであろうのに、食べ物に手を付けていない。
淑女は小鳥のように小食であるべしという、貴族の悪習に倣っているのだろうか。レイシーのためにも何か口にしてほしかった。
「レイシーの好きなキッシュがあるよ。取り分けてあげよう」
「アレクサンテリ陛下、わたくし、自分でできます」
「その美しい白い衣装が汚れてしまっては困るだろう」
レイシーの好きなキッシュを取り分けてあげると、レイシーは我慢できなかったようで、それを食べて笑顔になっている。わたしもキッシュを取り分けて食べると、初めてそこでお腹が空いていたことに気付く。
空腹を感じることも忘れていた体に、レイシーは健全な感覚を取り戻させてくれる。
「遠慮しないでたくさん食べてください。婚約式のせいで昼食は食べられなかったでしょう?」
「妃殿下が遠慮されるので、わたしもいただきましょう」
母と叔父も軽食やお茶菓子を取り分けて食べ始めたので、レイシーも遠慮なく食べられるようになったようだ。お皿に取り分けて美味しそうに食べている。
「ずっと結婚することを拒んでいた皇帝陛下が、二十二歳のときに、帝都で売られている刺繍の入ったハンカチを手に入れられて、それの出所を調べて、ディアン子爵家の令嬢に辿り着いたのですよ」
「わたくしの刺繍したハンカチを頼りに、わたくしを探してくださったのですか?」
叔父がレイシーに話している。
その話はまだ早いような気がする。レイシーがセシルだということを確かめていないし、そうであっても、レイシーはレイシーとして生きているのだから、セシルの記憶を呼び起こすのは失礼にあたるかもしれない。
「叔父上、その話はやめましょう」
「大事なことではないですか。ディアン子爵家の令嬢と分かってからも、皇帝陛下は顔を合わせることができなくて、妃殿下のデビュタントの日に初めて顔を合わせて、お声を聞いて、この方だとお決めになったようですよ」
「レイシー殿下には婚約者がおられたので、それは落胆されたようですが、無事に婚約者とも別れさせることができたようで」
「母上!」
叔父がレイシーとのことを話してしまっただけでなく、母がレイシーと元婚約者のことに関して言及している。
これは黙らせなければいけないと声を荒げると、母が非難がましくわたしを見る。
「皇帝陛下が恐ろしいですわ。母に対して、そのように声を荒げることはないでしょう。レイシー殿下も怯えますよ?」
「レイシー、すまない。怖い思いをさせてしまったかな?」
「いいえ、平気です。アレクサンテリ陛下、このキッシュとても美味しかったです。ありがとうございます」
母がレイシーと元婚約者のことを言ったから悪いのだが、レイシーを怖がらせるつもりはなくて、わたしが謝れば、レイシーは何も気付いていないようで、微笑んで答えた。
よかった、レイシーには気付かれていない。
やや鈍いところのあるレイシーにわたしは感謝した。
「堅苦しい衣装はもう脱いでしまいたいですね。これで失礼いたします、母上、叔父上」
「もっとレイシー殿下とお話ししたいですわ」
「独占欲が強すぎるのはどうかと思いますよ、皇帝陛下」
「レイシーは疲れているのです。それでは、失礼します」
これ以上会話を長引かせるとどんな話が出てくるか分からない。
警戒して切り上げると、母と叔父は残念そうにしていたが、わたしはこれ以上レイシーと母と叔父を接触させておく気はなかった。
皇帝宮に帰る途中に皇宮の外の賑やかさが聞こえてきた。
わたしの婚約を祝って、皇帝宮の外はお祭り騒ぎになっているようだ。
「結婚式のときには、レイシーに国民に対して手を振ってもらうかもしれない」
「わたくし、妃として立派に務めます」
「わたしの妃は頼もしいな」
結婚式のときには、レイシーを皇后にすると宣言しなくてはいけない。
そのときまでに完璧に反対派を黙らせて、レイシーの基盤を整えておかなければいけない。
わたしには、まだまだやることがたくさんあった。
婚約式が終わってからも、わたしは忙しかった。
執務の他に、ディアン子爵家に功績を立てさせるための準備が必要だった。
どうすればディアン子爵家が認められるだろう。
四代前の皇帝のときに私財を投げ打って国を救ったというだけでは、伯爵に陞爵させるのは難しいだろう。
なにか決定打が欲しい。
それが見付からない限りは、レイシーを皇后に据えると宣言できない。
それと同時にわたしの気持ちの問題もあった。
わたしはまだ、レイシーとセシルを完全に切り離して考えられていない。
レイシーとセシルが完全に別人であると認めるということは、セシルの存在を本当に忘れることになりそうで怖いのだ。
まだ、レイシーに「愛している」も「好き」も言えていない。
わたしの気持ちが整理できるのはいつなのか、わたしのも分かっていなかった。
レイシーはその間食事もとっていないし、水分もとっていない。
レイシーを早く休憩させてやりたかったが、母と叔父がお茶に誘ってきた。
婚約式の後に家族でお茶をするというのは、新しく家族となるレイシーを受け入れてもらうために必要だったし、レイシーはお茶会で水分と食事を補給できるので、わたしは渋々それを受け入れた。
皇宮のお茶室に着くと、レイシーに一番に座ってもらう。わたしがエスコートするので当然なのだが、レイシーはわたしにとって皇太后よりも宰相よりも価値のある存在だということを見せておかなければいけない。
わたしが椅子に座って、母と叔父が視線で許可を得て椅子に座る。
「今日の婚約式は素晴らしかったですね。レイシー殿下もとても美しくて。そのドレス、レイシー殿下が縫われたのでしょう?」
「はい、わたくしが作らせていただきました。アレクサンテリ陛下が最高級の材料を集めてくださって、わたくしこんなに素晴らしいシルクを縫ったのは初めてです。レースもどれも細かくて美しくて」
母がレイシーにドレスの話をすると、レイシーが活き活きとしながら話し出す。
お腹が空いているだろうに、縫物の話となると活力に満ちてくるのだからレイシーらしい。
「もうヴェールは外しても構わないよ、レイシー。お茶が飲めないからね」
「ありがとうございます、アレクサンテリ陛下。あの、この花冠はまだ着けていていいですか?」
「その花冠が気に入ったようだね。着けていて構わないよ。花冠を着ける機会などこれからないかもしれないから、その花冠はコサージュに加工してもらおうか?」
「その加工、わたくしにさせていただけませんか?」
「もちろん構わないよ」
ヴェールを外したのでレイシーの顔がはっきりと見える。頬を赤くして、少し興奮している様子だった。
貴族たちの前では牽制のためにわたしは凍り付いた表情だったが、レイシーと話していると自然と笑みがこぼれる。花冠をコサージュにしたいというレイシーに、わたしは快くそれを了承した。
「皇帝陛下は本当に妃殿下をご寵愛されているようですね。皇帝陛下がそのような表情を見せるのをわたしは初めて見ました」
「大切なレイシーを怖がらせるわけにはいかないでしょう。叔父上も鋼鉄の宰相などと呼ばれているのに、叔母上には蕩けるような笑顔をみせるくせに」
「わたしは妻を愛していますからね。皇帝陛下も妃殿下を愛しているのでしょう」
「誰よりも大切に思っています」
生きながら死んでいたようなわたしの二十二年間を知っているだけに、叔父の言葉は驚きに満ちている。わたしは叔父にレイシーを重んじるように忠告するように、一言一言を選んで口にする。
わたしと叔父が話していると、レイシーは母に話しかけていた。
「アレクサンテリ陛下のジャケットもわたくしが作らせていただいたのです」
「話は聞いていましたが、これほど立派なものとは思いませんでした。皇宮の仕立て職人の仕事がなくなりますね」
「そんなにわたくしたくさんは作れません」
「ふふっ、冗談ですよ」
和やかに話しているが、母がレイシーになにか余計なことを言わないか気が気ではない。
喉が乾いているであろうレイシーは紅茶は口にしていたが、お腹もすいているであろうのに、食べ物に手を付けていない。
淑女は小鳥のように小食であるべしという、貴族の悪習に倣っているのだろうか。レイシーのためにも何か口にしてほしかった。
「レイシーの好きなキッシュがあるよ。取り分けてあげよう」
「アレクサンテリ陛下、わたくし、自分でできます」
「その美しい白い衣装が汚れてしまっては困るだろう」
レイシーの好きなキッシュを取り分けてあげると、レイシーは我慢できなかったようで、それを食べて笑顔になっている。わたしもキッシュを取り分けて食べると、初めてそこでお腹が空いていたことに気付く。
空腹を感じることも忘れていた体に、レイシーは健全な感覚を取り戻させてくれる。
「遠慮しないでたくさん食べてください。婚約式のせいで昼食は食べられなかったでしょう?」
「妃殿下が遠慮されるので、わたしもいただきましょう」
母と叔父も軽食やお茶菓子を取り分けて食べ始めたので、レイシーも遠慮なく食べられるようになったようだ。お皿に取り分けて美味しそうに食べている。
「ずっと結婚することを拒んでいた皇帝陛下が、二十二歳のときに、帝都で売られている刺繍の入ったハンカチを手に入れられて、それの出所を調べて、ディアン子爵家の令嬢に辿り着いたのですよ」
「わたくしの刺繍したハンカチを頼りに、わたくしを探してくださったのですか?」
叔父がレイシーに話している。
その話はまだ早いような気がする。レイシーがセシルだということを確かめていないし、そうであっても、レイシーはレイシーとして生きているのだから、セシルの記憶を呼び起こすのは失礼にあたるかもしれない。
「叔父上、その話はやめましょう」
「大事なことではないですか。ディアン子爵家の令嬢と分かってからも、皇帝陛下は顔を合わせることができなくて、妃殿下のデビュタントの日に初めて顔を合わせて、お声を聞いて、この方だとお決めになったようですよ」
「レイシー殿下には婚約者がおられたので、それは落胆されたようですが、無事に婚約者とも別れさせることができたようで」
「母上!」
叔父がレイシーとのことを話してしまっただけでなく、母がレイシーと元婚約者のことに関して言及している。
これは黙らせなければいけないと声を荒げると、母が非難がましくわたしを見る。
「皇帝陛下が恐ろしいですわ。母に対して、そのように声を荒げることはないでしょう。レイシー殿下も怯えますよ?」
「レイシー、すまない。怖い思いをさせてしまったかな?」
「いいえ、平気です。アレクサンテリ陛下、このキッシュとても美味しかったです。ありがとうございます」
母がレイシーと元婚約者のことを言ったから悪いのだが、レイシーを怖がらせるつもりはなくて、わたしが謝れば、レイシーは何も気付いていないようで、微笑んで答えた。
よかった、レイシーには気付かれていない。
やや鈍いところのあるレイシーにわたしは感謝した。
「堅苦しい衣装はもう脱いでしまいたいですね。これで失礼いたします、母上、叔父上」
「もっとレイシー殿下とお話ししたいですわ」
「独占欲が強すぎるのはどうかと思いますよ、皇帝陛下」
「レイシーは疲れているのです。それでは、失礼します」
これ以上会話を長引かせるとどんな話が出てくるか分からない。
警戒して切り上げると、母と叔父は残念そうにしていたが、わたしはこれ以上レイシーと母と叔父を接触させておく気はなかった。
皇帝宮に帰る途中に皇宮の外の賑やかさが聞こえてきた。
わたしの婚約を祝って、皇帝宮の外はお祭り騒ぎになっているようだ。
「結婚式のときには、レイシーに国民に対して手を振ってもらうかもしれない」
「わたくし、妃として立派に務めます」
「わたしの妃は頼もしいな」
結婚式のときには、レイシーを皇后にすると宣言しなくてはいけない。
そのときまでに完璧に反対派を黙らせて、レイシーの基盤を整えておかなければいけない。
わたしには、まだまだやることがたくさんあった。
婚約式が終わってからも、わたしは忙しかった。
執務の他に、ディアン子爵家に功績を立てさせるための準備が必要だった。
どうすればディアン子爵家が認められるだろう。
四代前の皇帝のときに私財を投げ打って国を救ったというだけでは、伯爵に陞爵させるのは難しいだろう。
なにか決定打が欲しい。
それが見付からない限りは、レイシーを皇后に据えると宣言できない。
それと同時にわたしの気持ちの問題もあった。
わたしはまだ、レイシーとセシルを完全に切り離して考えられていない。
レイシーとセシルが完全に別人であると認めるということは、セシルの存在を本当に忘れることになりそうで怖いのだ。
まだ、レイシーに「愛している」も「好き」も言えていない。
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