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アレクサンテリ視点
37.叔母のお茶会
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レイシーの香水作りは女性の調香師を呼んで、行われた。
調香師はレイシーの好みと、わたしの香水で使われている香りとの相性を考えていくつか候補を出して、その中からレイシーが選んだ形になった。
香水に使う香りを選んだ後には、お茶をした。
色んな匂いを嗅いだので、わたしは紅茶の香りに息をついた。
テーブルの上にはレイシーの好きなスイートポテトやモンブランやカボチャのプリンが並んでいるのに、レイシーはキッシュだけしか食べていない。
わたしはレイシーに問いかけた。
「他に食べなくていいのかな?」
「最近、太ってきた気がします。せっかく誂えてもらった服が入らなくなるのは悲しいです」
「レイシーは痩せすぎているのだ。気にせずに食べればいい」
「でも、服が……」
確かにレイシーは最初に皇帝宮に来たころより健康的な肉体になっている。それでもまだ細くて華奢なのだが、皇帝宮に来たころには痩せすぎていた心配になったほどだった。
そのせいで服のサイズが変わってしまったことをレイシーは気にしている様子だった。皇帝宮では服は体に合わせて一番美しいラインを保って作られるので、痩せすぎから痩せ気味くらいになったレイシーでは着られなくなったものもあっただろう。
今の方が健康的で安心できるので、わたしはこれまでの服のことではなく、これからの服のことを考える。
「そうだった、レイシー。冬物をまだ誂えさせていなかったね」
「冬物ですか? 今ある服に上着を着て過ごしてはいけませんか?」
「冬用の服を誂えさせよう。ラヴァル夫人を呼ぶから、お茶の後は採寸をしてもらってほしい」
冬場でもレイシーは今ある服に上着を着て過ごそうとしていたが、わたしはレイシーには専用に誂えさせたものを着てほしかった。
わたしがそう言えば、レイシーは素直に頷いた。
お茶の後にレイシーは採寸に行き、わたしは執務に戻った。
執務も最近はそれほど忙しくはない。
大変なのはレイシーを皇后にするのに反対する公爵家や侯爵家を納得させること、そのためにディアン子爵家の陞爵を画策すること、ディアン子爵家から広まりつつある女性の社会進出の波を広げさせること、それに反対するものたちを説得していくことなどだった。
一つ一つ丁寧に準備を進めていく。
ディアン子爵家の陞爵については、女性の社会進出を広げたことだけでなく、レイシーがわたしの執務を振り分けさせることによって、皇帝の独裁を危ぶむ属国から警戒を解かれつつあることも加えておく。
女性の社会進出の広がりについては、ディアン子爵家が実際に上げている利益とそのことがどれだけこの国を発展させるかについての資料をまとめた。
執務を終えて皇帝宮に戻ると、わたしはレイシーを抱き締めた。もう出かけるときと、戻ったときにハグをしてもレイシーは嫌がったり、恥じらったりしない。それどころか、リラックスしているように体を預けてくるので、わたしも安心してレイシーに触れられる。
「アレクサンテリ陛下、結婚の衣装も作るのですが、自分のコートと、アレクサンテリ陛下の毛糸のコートも作りたいのです」
「毛糸でコートが作れるのか?」
「モチーフ編みを合わせたコートはとても温かいのですよ」
腕の中で話してくれるレイシーに、わたしはモチーフ編みというものがよく分からなかったが、レイシーが作るものならば素晴らしいのだろうと思う。
「レイシーが作ってくれるのは楽しみだな」
「水色と薄紫のモチーフで作ろうと思います」
水色はわたしが好きな青い蔦模様の色を薄くした色で、薄紫はレイシーの目の色を薄くした色だった。
それを身にまとうのがわたしは楽しみだった。
レイシーは妃候補という身分なので、いつかはこんな日が来ると思っていた。
皇帝宮に帰ってきたわたしに、レイシーが一通の手紙を差し出して相談してきた。
「アレクサンテリ陛下、このような招待状が来たのですが」
「わたしの方にも来た。叔母上はレイシーと話がしたいらしい」
「どんな方が出席されるか分かりませんし、どうすればいいのでしょう」
それは叔父のカイエタンの妻である叔母のルドミラからのお茶会への招待状で、わたしの方にも来ていた。
レイシーは皇太后である母のお茶会には参加したことがあるし、自分の誕生日のお茶会では主催をしたが、貴族から招待されるお茶会にはまだ参加したことがなかった。叔母は穏やかで優しい性格で、レイシーとわたしのことを応援してくれているようなので、問題はないだろうと判断する。
なにかレイシーに言ってくる者がいても、わたしが同席していれば黙らせられるだろう。
「叔父上は皇位継承権を放棄したとはいえ皇族だ。わたしも一緒に行くつもりなので、緊張しなくていいよ」
「アレクサンテリ陛下がご一緒ならば安心できます」
安心させるようにレイシーに言えば、レイシーは頷き、返事を書いていたようだった。
「お茶会のためのドレス選びにはラヴァル夫人に手伝ってもらうといいかもしれないね」
「そうさせていただきます」
慣れないお茶会でレイシーが恥をかかないように、わたしはそっとアドバイスをした。
お茶会当日には、レイシーをエスコートして馬車に乗った。
レイシーは赤紫のドレスに、薄紫の上着を羽織っていて、髪にはわたしのラペルピンとお揃いのラベンダー色の造花をつけていた。
楚々とした美しさのあるレイシーにわたしは見惚れてしまう。
「レイシーの髪飾り、きっと注目されるよ。とてもいい出来だ」
レイシーが自分で作った造花をつけるだろうから、わたしもレイシーの作った造花のラペルピンを付けてきたのだが、お揃いになってちょうどよかった。
叔父の屋敷は皇宮の外にある。帝都の中央街にある屋敷の前で馬車が停まると、わたしが先に降りて、レイシーに手を差し出した。レイシーはわたしの手を借りて軽やかに馬車のステップを降りていく。
叔父の屋敷は宰相という身分にしては小ぶりだが、庭が広く立派だった。
わたしも叔父の屋敷を訪ねるのは初めてではないだろうか。
ずっと執務をするためだけに生きているのだと思っていた。
執務をするときは皇宮から出ることはなかったし、数少ない視察のときには皇宮から出たが、それも数度だけ。おじの屋敷に行く暇もないくらいわたしは忙しくしていた。
お茶会や社交の場はできるだけ断ってきた。
わたしにそういう楽しみは必要ないと思っていたし、何より、そういうことは煩わしいだけで楽しいとは思えなかったのだ。
セシルが殺されてしまってから、どんなこともわたしは楽しいと思えなくなった。楽しむことに罪悪感があった。
セシルは全てを奪われてしまったのに、わたしだけが幸せに生きることなどできない。
その罪悪感はまだわたしの胸の中にある。
屋敷では、叔父と叔母が玄関先に出て来て迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、皇帝陛下、妃殿下」
「本日はお招きありがとうございます」
「叔母上、お久しぶりです」
「最近は皇帝陛下は執務を他の者たちに振り分けていると聞きます。夫がどれだけ言ってもご自分でなさっていたのに、妃殿下が進言してくださったからと伺っています」
叔父と叔母に挨拶をされて、レイシーとわたしが挨拶を返すと、叔母はレイシーの功績について口にした。
「皇帝陛下お一人だけが執務を担っていたら、皇帝陛下に何かあって執務が滞るようなことがあれば誰も代わりにはなれません。皇帝陛下のお体のためにも、この国のためにも、皇帝陛下になにがあろうと国の政治が執り行われるようにしていかねばなりません。そう思って進言させていただきました」
それに対して、レイシーが聡明に答える。
レイシーの答えに叔母が感嘆のため息をついているのが分かった。
「さすがは皇后陛下にと望まれたお方。国のことも皇帝陛下のこともよく考えていらっしゃいますね。そのお話、もっと詳しく聞きたいですわ。どうぞお席に」
叔母の招待状の返事に、レイシーのことを考えた席順にしてほしいと書いておいたのだが、叔母は本当にそれを気にかけてくれたようだ。わたしたちが案内された席には、叔父と叔母、それにラヴァル夫人とモンレイユ夫人が同席していた。
このメンバーならばレイシーが何か言われることはないだろう。
「ラヴァル夫人、モンレイユ夫人。お二人も招かれていたのですね」
「レイシー殿下が親しく話せるようにとルドミラ様にお招きいただきました」
「本日はよろしくお願いします」
ラヴァル夫人は侯爵夫人であるし、モンレイユ夫人は伯爵夫人だがレイシーの家庭教師である。わたしやレイシーと同席するに相応しい人物だった。
レイシーもラヴァル夫人とモンレイユ夫人の顔を見て安堵しているのが分かる。
「妃殿下は縫物がお上手で、造花も作られていると聞きます。皇帝陛下のラペルピンと妃殿下の髪飾りはもしかして……」
「わたくしが作らせていただきました。アレクサンテリ陛下とわたくしの結婚式の衣装も、花冠もブーケも、小物も全部任されております」
「こんな素晴らしいものを作られるのですね。なんて美しい。わたくしも妃殿下に作ってもらいたいものですわ」
わたしが着けているラペルピンとレイシーの髪に飾ってある造花に気付いた叔母が問いかけると、レイシーがはきはきと答えている。物作りの話になるとレイシーは饒舌になるのだ。
「わたくしの生家であるディアン子爵家では、今、縫物や造花の事業を立ち上げています。領地に工場ができ、少しずつ生産が始まっているところです。ぜひ、ディアン子爵家にご注文を」
「妃殿下の生家の事業でしたら、素晴らしい出来が期待できそうですね。注文させていただきますわ」
レイシーがディアン子爵家の工場を紹介すれば、叔母は満足したようで話を途切れさせる。
これはチャンスなのではないだろうか。
今後、レイシーの作ったものに誰かが興味を示せば、ディアン子爵家につなげていけば、ディアン子爵家はますます利益を上げるし、そうなれば女性の社会進出を反対する者たちに数字として成果を見せられる。
ディアン子爵家のことを考えていると、叔父がレイシーに話しかけていた。
「それにしても、皇帝陛下が執務を他のものに振り分けるようになってから、効率がよくなりましたし、皇帝陛下も休めるようになりました。妃殿下の功績は素晴らしいですね」
これも叔父の口から話題が出たのはありがたい。
ディアン子爵家の功績の下積みができる。
聞いていないようで、周囲の貴族たちは耳をそばだてているものなのだ。
「学園ではわたくしも領地経営の勉強をしておりました。わたくしはディアン子爵家の長女で、ディアン子爵家の後継者だったので。そのときに学んだことを活かしただけです」
「妃殿下は学園ではずっと首席だったと聞いています」
「ディアン子爵家を立て直すために学ぶことはたくさんありました。なにより、成績優秀者は学費が免除になりますので」
活き活きと話すレイシーに、キッシュと芋と栗のパウンドケーキを取り分けていると、レイシーが気付いて、「ありがとうございます」と言って皿を受け取った。
「皇帝陛下は妃殿下を寵愛しているというのは本当なのですね」
「わたしはレイシーがいなければ生きていけませんからね」
叔母の言葉に、わたしは周囲に聞こえるように少し声を張り上げてはっきりと答えた。
調香師はレイシーの好みと、わたしの香水で使われている香りとの相性を考えていくつか候補を出して、その中からレイシーが選んだ形になった。
香水に使う香りを選んだ後には、お茶をした。
色んな匂いを嗅いだので、わたしは紅茶の香りに息をついた。
テーブルの上にはレイシーの好きなスイートポテトやモンブランやカボチャのプリンが並んでいるのに、レイシーはキッシュだけしか食べていない。
わたしはレイシーに問いかけた。
「他に食べなくていいのかな?」
「最近、太ってきた気がします。せっかく誂えてもらった服が入らなくなるのは悲しいです」
「レイシーは痩せすぎているのだ。気にせずに食べればいい」
「でも、服が……」
確かにレイシーは最初に皇帝宮に来たころより健康的な肉体になっている。それでもまだ細くて華奢なのだが、皇帝宮に来たころには痩せすぎていた心配になったほどだった。
そのせいで服のサイズが変わってしまったことをレイシーは気にしている様子だった。皇帝宮では服は体に合わせて一番美しいラインを保って作られるので、痩せすぎから痩せ気味くらいになったレイシーでは着られなくなったものもあっただろう。
今の方が健康的で安心できるので、わたしはこれまでの服のことではなく、これからの服のことを考える。
「そうだった、レイシー。冬物をまだ誂えさせていなかったね」
「冬物ですか? 今ある服に上着を着て過ごしてはいけませんか?」
「冬用の服を誂えさせよう。ラヴァル夫人を呼ぶから、お茶の後は採寸をしてもらってほしい」
冬場でもレイシーは今ある服に上着を着て過ごそうとしていたが、わたしはレイシーには専用に誂えさせたものを着てほしかった。
わたしがそう言えば、レイシーは素直に頷いた。
お茶の後にレイシーは採寸に行き、わたしは執務に戻った。
執務も最近はそれほど忙しくはない。
大変なのはレイシーを皇后にするのに反対する公爵家や侯爵家を納得させること、そのためにディアン子爵家の陞爵を画策すること、ディアン子爵家から広まりつつある女性の社会進出の波を広げさせること、それに反対するものたちを説得していくことなどだった。
一つ一つ丁寧に準備を進めていく。
ディアン子爵家の陞爵については、女性の社会進出を広げたことだけでなく、レイシーがわたしの執務を振り分けさせることによって、皇帝の独裁を危ぶむ属国から警戒を解かれつつあることも加えておく。
女性の社会進出の広がりについては、ディアン子爵家が実際に上げている利益とそのことがどれだけこの国を発展させるかについての資料をまとめた。
執務を終えて皇帝宮に戻ると、わたしはレイシーを抱き締めた。もう出かけるときと、戻ったときにハグをしてもレイシーは嫌がったり、恥じらったりしない。それどころか、リラックスしているように体を預けてくるので、わたしも安心してレイシーに触れられる。
「アレクサンテリ陛下、結婚の衣装も作るのですが、自分のコートと、アレクサンテリ陛下の毛糸のコートも作りたいのです」
「毛糸でコートが作れるのか?」
「モチーフ編みを合わせたコートはとても温かいのですよ」
腕の中で話してくれるレイシーに、わたしはモチーフ編みというものがよく分からなかったが、レイシーが作るものならば素晴らしいのだろうと思う。
「レイシーが作ってくれるのは楽しみだな」
「水色と薄紫のモチーフで作ろうと思います」
水色はわたしが好きな青い蔦模様の色を薄くした色で、薄紫はレイシーの目の色を薄くした色だった。
それを身にまとうのがわたしは楽しみだった。
レイシーは妃候補という身分なので、いつかはこんな日が来ると思っていた。
皇帝宮に帰ってきたわたしに、レイシーが一通の手紙を差し出して相談してきた。
「アレクサンテリ陛下、このような招待状が来たのですが」
「わたしの方にも来た。叔母上はレイシーと話がしたいらしい」
「どんな方が出席されるか分かりませんし、どうすればいいのでしょう」
それは叔父のカイエタンの妻である叔母のルドミラからのお茶会への招待状で、わたしの方にも来ていた。
レイシーは皇太后である母のお茶会には参加したことがあるし、自分の誕生日のお茶会では主催をしたが、貴族から招待されるお茶会にはまだ参加したことがなかった。叔母は穏やかで優しい性格で、レイシーとわたしのことを応援してくれているようなので、問題はないだろうと判断する。
なにかレイシーに言ってくる者がいても、わたしが同席していれば黙らせられるだろう。
「叔父上は皇位継承権を放棄したとはいえ皇族だ。わたしも一緒に行くつもりなので、緊張しなくていいよ」
「アレクサンテリ陛下がご一緒ならば安心できます」
安心させるようにレイシーに言えば、レイシーは頷き、返事を書いていたようだった。
「お茶会のためのドレス選びにはラヴァル夫人に手伝ってもらうといいかもしれないね」
「そうさせていただきます」
慣れないお茶会でレイシーが恥をかかないように、わたしはそっとアドバイスをした。
お茶会当日には、レイシーをエスコートして馬車に乗った。
レイシーは赤紫のドレスに、薄紫の上着を羽織っていて、髪にはわたしのラペルピンとお揃いのラベンダー色の造花をつけていた。
楚々とした美しさのあるレイシーにわたしは見惚れてしまう。
「レイシーの髪飾り、きっと注目されるよ。とてもいい出来だ」
レイシーが自分で作った造花をつけるだろうから、わたしもレイシーの作った造花のラペルピンを付けてきたのだが、お揃いになってちょうどよかった。
叔父の屋敷は皇宮の外にある。帝都の中央街にある屋敷の前で馬車が停まると、わたしが先に降りて、レイシーに手を差し出した。レイシーはわたしの手を借りて軽やかに馬車のステップを降りていく。
叔父の屋敷は宰相という身分にしては小ぶりだが、庭が広く立派だった。
わたしも叔父の屋敷を訪ねるのは初めてではないだろうか。
ずっと執務をするためだけに生きているのだと思っていた。
執務をするときは皇宮から出ることはなかったし、数少ない視察のときには皇宮から出たが、それも数度だけ。おじの屋敷に行く暇もないくらいわたしは忙しくしていた。
お茶会や社交の場はできるだけ断ってきた。
わたしにそういう楽しみは必要ないと思っていたし、何より、そういうことは煩わしいだけで楽しいとは思えなかったのだ。
セシルが殺されてしまってから、どんなこともわたしは楽しいと思えなくなった。楽しむことに罪悪感があった。
セシルは全てを奪われてしまったのに、わたしだけが幸せに生きることなどできない。
その罪悪感はまだわたしの胸の中にある。
屋敷では、叔父と叔母が玄関先に出て来て迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、皇帝陛下、妃殿下」
「本日はお招きありがとうございます」
「叔母上、お久しぶりです」
「最近は皇帝陛下は執務を他の者たちに振り分けていると聞きます。夫がどれだけ言ってもご自分でなさっていたのに、妃殿下が進言してくださったからと伺っています」
叔父と叔母に挨拶をされて、レイシーとわたしが挨拶を返すと、叔母はレイシーの功績について口にした。
「皇帝陛下お一人だけが執務を担っていたら、皇帝陛下に何かあって執務が滞るようなことがあれば誰も代わりにはなれません。皇帝陛下のお体のためにも、この国のためにも、皇帝陛下になにがあろうと国の政治が執り行われるようにしていかねばなりません。そう思って進言させていただきました」
それに対して、レイシーが聡明に答える。
レイシーの答えに叔母が感嘆のため息をついているのが分かった。
「さすがは皇后陛下にと望まれたお方。国のことも皇帝陛下のこともよく考えていらっしゃいますね。そのお話、もっと詳しく聞きたいですわ。どうぞお席に」
叔母の招待状の返事に、レイシーのことを考えた席順にしてほしいと書いておいたのだが、叔母は本当にそれを気にかけてくれたようだ。わたしたちが案内された席には、叔父と叔母、それにラヴァル夫人とモンレイユ夫人が同席していた。
このメンバーならばレイシーが何か言われることはないだろう。
「ラヴァル夫人、モンレイユ夫人。お二人も招かれていたのですね」
「レイシー殿下が親しく話せるようにとルドミラ様にお招きいただきました」
「本日はよろしくお願いします」
ラヴァル夫人は侯爵夫人であるし、モンレイユ夫人は伯爵夫人だがレイシーの家庭教師である。わたしやレイシーと同席するに相応しい人物だった。
レイシーもラヴァル夫人とモンレイユ夫人の顔を見て安堵しているのが分かる。
「妃殿下は縫物がお上手で、造花も作られていると聞きます。皇帝陛下のラペルピンと妃殿下の髪飾りはもしかして……」
「わたくしが作らせていただきました。アレクサンテリ陛下とわたくしの結婚式の衣装も、花冠もブーケも、小物も全部任されております」
「こんな素晴らしいものを作られるのですね。なんて美しい。わたくしも妃殿下に作ってもらいたいものですわ」
わたしが着けているラペルピンとレイシーの髪に飾ってある造花に気付いた叔母が問いかけると、レイシーがはきはきと答えている。物作りの話になるとレイシーは饒舌になるのだ。
「わたくしの生家であるディアン子爵家では、今、縫物や造花の事業を立ち上げています。領地に工場ができ、少しずつ生産が始まっているところです。ぜひ、ディアン子爵家にご注文を」
「妃殿下の生家の事業でしたら、素晴らしい出来が期待できそうですね。注文させていただきますわ」
レイシーがディアン子爵家の工場を紹介すれば、叔母は満足したようで話を途切れさせる。
これはチャンスなのではないだろうか。
今後、レイシーの作ったものに誰かが興味を示せば、ディアン子爵家につなげていけば、ディアン子爵家はますます利益を上げるし、そうなれば女性の社会進出を反対する者たちに数字として成果を見せられる。
ディアン子爵家のことを考えていると、叔父がレイシーに話しかけていた。
「それにしても、皇帝陛下が執務を他のものに振り分けるようになってから、効率がよくなりましたし、皇帝陛下も休めるようになりました。妃殿下の功績は素晴らしいですね」
これも叔父の口から話題が出たのはありがたい。
ディアン子爵家の功績の下積みができる。
聞いていないようで、周囲の貴族たちは耳をそばだてているものなのだ。
「学園ではわたくしも領地経営の勉強をしておりました。わたくしはディアン子爵家の長女で、ディアン子爵家の後継者だったので。そのときに学んだことを活かしただけです」
「妃殿下は学園ではずっと首席だったと聞いています」
「ディアン子爵家を立て直すために学ぶことはたくさんありました。なにより、成績優秀者は学費が免除になりますので」
活き活きと話すレイシーに、キッシュと芋と栗のパウンドケーキを取り分けていると、レイシーが気付いて、「ありがとうございます」と言って皿を受け取った。
「皇帝陛下は妃殿下を寵愛しているというのは本当なのですね」
「わたしはレイシーがいなければ生きていけませんからね」
叔母の言葉に、わたしは周囲に聞こえるように少し声を張り上げてはっきりと答えた。
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