そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥

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アレクサンテリ視点

38.ディアン子爵家の新事業

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 叔母のルドミラの主催のお茶会で、他の席からも貴族たちがわたしに挨拶に来る。中にはレイシーに対して鋭い視線を向けているものもいるが、わたしはそのものたちを、睨み付けることで黙らせた。
 わたしの従妹であるカイエタンとルドミラの子どもたち、エメリックとテレーザとアウグスタも挨拶に来た。

「皇帝陛下、妃殿下、婚約式以来ですね。妃殿下、皇帝陛下の従兄弟のエメリックです。もしかして、皇帝陛下と妃殿下の身に着けている造花はお揃いですか?」
「エメリック、久しぶりだな。これはレイシーが作ってくれたのだ」
「妃殿下はお裁縫や造花作りをなさるって本当だったのですね。とても素敵なお花です。わたくしもほしいですわ。失礼しました、わたくしは、皇帝陛下の従姉妹のテレーザです」
「エメリック様、テレーザ様、よろしくお願いします。わたくしは、レイシー・ディアンです。造花はわたくしが作らせていただきました」
「兄上、姉上、妃殿下にご挨拶したのですね。わたしはアウグスタ」

 元気のいいエメリックは十九歳、テレーザは十四歳、アウグスタは八歳だった。三人の年の離れた従兄弟たちが自己紹介するのを、わたしは微笑みながら受け入れる。
 全員叔母に似た金髪で帝家にしか現れない真紅の瞳をしている。

「造花はディアン子爵家の領地で事業を立ち上げています。そちらの方に注文してください」
「ディアン子爵家は造花の事業を立ち上げているのですか?」
「縫物や造花の事業を立ち上げています。工場が建って、寮ができ、女性たちが働きに来ているはずです」

 レイシーが説明していると、エメリックやアウグスタが驚きと興味に満ちた眼差しでレイシーを見ている。

「女性たちに仕事を与えているのですね」
「庶民の女性は働くことが難しく、自立するのが大変だと聞いています」
「そうなのです。わたくしも裕福な子爵家ではなかったので、平民の方々と変わらない暮らしをしていました。平民の方々、特に女性は今、自立して働くことが難しい社会になっています。けれど、結婚することだけが女性の生き方ではないと思うのです。自分の暮らしを自分で立てていく。それは、誰もが願うことではないでしょうか」
「それで寮を作られたのですか?」
「そうです。寮があれば女性も安全に働くことができます。男性よりも女性の一人暮らしの方が危険ですからね」

 これは大事なところだ。
 周囲の貴族にも聞いてもらわなければいけない。
 ディアン子爵家で行われていることはレイシーが考えたことだと広まれば、レイシーの功績ともなり、皇后と認められやすくなるだろう。
 女性の社会進出に反対するものは、ディアン子爵家の成果を見せて黙らせればいい。

「工場で技術を学んだら、女性が店を構える社会になるかもしれませんね」
「わたくしが目指しているのはそれです。女性も男性と同じく社会進出ができる国。それがディアン子爵家の領地から始まればいいと思っています」

 周囲の貴族たちが耳をそばだてているのを感じながら、わたしはレイシーが熱っぽく語るのを聞いていた。満足げに頷きながら聞いているのも、皇帝であるわたしがレイシーの思い付いた事業を認めているという証になる。

 お針子になりたかったセシルの夢を果たすだけでなく、レイシーはこの国の女性全体の暮らしを変えようとしている。
 そのことはもっと知られてもよかった。

「妃殿下は庶民のことも考えているのですね」
「女性の社会進出など、わたしは考えたことがありませんでした」
「ご立派です」

 感心しているエメリックとアウグスタとテレーザに、わたしは周囲で落ち着かなくしている貴族たちに無言で頷いて、近付くことを許す。
 話しかけたくてうずうずしていた様子の貴族たちは、レイシーに群がってきた。

「妃殿下のご実家のディアン子爵家の領地では、人形も作られると聞きました」
「人形の服も作ると聞きました」
「人形の花冠や髪飾りも注文可能ですか?」

 別荘でレイシーが注文を受けたのがここまで広がってきているのだろう。反対派らしき貴族は視線で牽制しつつ、注文したいものだけを近くに寄せることを許す。

「もし、人形やぬいぐるみに着せ替えの衣装や花冠をつけて製造したら、買われますか?」
「もちろん、注文したいです」
「ぬいぐるみもですか? わたしの娘は、ウサギのぬいぐるみが好きなのです」
「かわいい人形が手に入りますか?」
「ディアン子爵家に伝えてみます」

 注文を受けるレイシーにわたしは声を少し張って、周囲の貴族に聞こえるようにアピールする。

「ディアン子爵家での人形とぬいぐるみ作り、及び、その服の作成のための工場にわたしが出資しよう」
「アレクサンテリ陛下、いいのですか?」
「前回の別荘でも注文が入っていた。ディアン子爵家に工場が建てば、この国の子どもたちはかわいい人形やぬいぐるみで遊べるようになるだろう。それを女性の自立に繋げるのも素晴らしい。さすがレイシーだと思っているよ」

 これでディアン子爵家に新しい人形やぬいぐるみを製造する工場が建てられる。
 レイシーの中では、もう計画が立っているようだった。

「人形やぬいぐるみの規格を全部同じにして、同じサイズの服を製造すればたくさんの種類の服が手に入るようになります。この国には人形やぬいぐるみが少ないと思っていたのです。これは新事業になります。ありがとうございます、アレクサンテリ陛下」
「この国のためにしているだけだ。レイシーの考えは素晴らしい」

 レイシーを手放しで褒めるわたしに対して、レイシーは熱心に次の事業のことを考えていた。

 叔母のお茶会が終わると、レイシーがディアン子爵家に手紙を書く。それにわたしも、皇帝がその新しい事業に出資するという旨の手紙を添えた。
 これから忙しくなる。
 ディアン子爵家への投資や支援は会議で認めさせていたが、新しい事業への参入に関してはまだ会議を通していない。
 絶対にこの出資を会議を通さねばならない。
 わたしが意気込んでいると、レイシーが不安そうに聞いてくる。

「皇帝陛下がディアン子爵家に贔屓をしていると思われないでしょうか?」
「この事業が成功したら出資金は返してもらうつもりだよ。大丈夫、事業は成功する。それに、ディアン子爵家だけでなく、この国の子どもたちと、働く女性のために出資したと思っている。レイシーはこの国の子どもたちと働く女性のためのことを考えていて、本当に皇后に相応しいと思うよ」

 事業が成功すれば出資金は返してもらうという返還方式にすれば、議会もそれを通すだろう。
 レイシーは事業について詳細なイメージを持っているようだった。

「子どもだけでなく、成人した女性や男性もターゲットにしようと思っているのです。愛する人と同じ目の色や髪の色の人形を作ったり、愛する人と同じ目の色のぬいぐるみを作ったりすれば、成人した女性や男性も恋人に贈りやすくなると思いませんか? 注文を受ければ、衣装も似せることができます」

 人形やぬいぐるみといえば、客は子どもを想像してしまうかもしれないが、レイシーはそうではなく、大人までも客層に入れていた。
 その考えは素晴らしいと思ったので、わたしはレイシーに注文する。

「それを私に注文させてくれないか?」
「どんな人形やぬいぐるみですか?」
「レイシーとわたしの目の色をしたぬいぐるみがいいかな。それにわたしたちの婚約式の衣装と結婚式の衣装を着せるのだ」
「それは記念になりますね」

 皇帝と妃の婚約式や結婚式の衣装を着せたぬいぐるみだったら、貴族からの注文も大量に入るだろう。それを見込んでのわたしに言葉に、レイシーも乗り気な様子だった。

 セシルもわたしにぬいぐるみを作ってくれた。
 あのぬいぐるみは今どうなっているのだろう。いつかあのぬいぐるみも手元に置けるようになりたい。
 レイシーの作るぬいぐるみを楽しみにしながらも、わたしはセシルの作ってくれたぬいぐるみを懐かしく思い出していた。
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