そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥

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アレクサンテリ視点

42.ディアン子爵家は伯爵家に

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 ディアン子爵家は年明けのパーティーで陞爵されることが決まった。
 反対派の公爵家や侯爵家もいたが、ディアン子爵家の縫物工場が出している成果と、女性の労働力が生み出す利益、そして、レイシーが皇帝の仕事を振り分けたおかげでクーデターを起こす寸前だった属国が、皇帝の独裁を疑うことなく、クーデターを起こすよりも文官を皇宮に入れて自分たちの国の利益となることを議会に上げていこうとする方向性に変わったことで、黙らせることができた。

 年明けのパーティーの前から、ディアン子爵家を皇宮に招いていた。
 ディアン子爵家とわたしとレイシーで食事会をしたかったのだ。
 皇帝の別荘でもディアン子爵家とは食事をしたが、公の食事会を開いたのは初めてだった。
 ディアン子爵家を皇帝であるわたしがどれだけ重く見ているかを周囲に示さなければいけなかったのだ。

「ディアン家の我が国への貢献、非常に頼もしく思う。これからも続けてほしい」
「お褒めに預かり光栄です、皇帝陛下」
「またレイシーがこの国にもたらしてくれた貢献もまた、ディアン家の功績となる」
「妃殿下、ありがとうございます」

 最初は形式ばった挨拶をしたが、レイシーが居心地悪そうな顔をしているので、ここからは私的な場としてレイシーと家族が話せるように促す。

「形式ばった挨拶はここまでにして、これからは家族として話そう。レイシーの家族はわたしの家族だ。伯爵家になっても、どうか、わたしとレイシーのことをよろしく頼む」
「心得ております」
「この場は無礼講とする。レイシーのことは『妃殿下』と呼ぶ必要はない。普段のように呼んでくれ」

 わたしが宣言すると、レイシーは安堵した様子だったし、さっそくソフィアがレイシーに声をかけていた。

「お姉様は健康的になって美しくなられた気がします」
「そうでしょうか? 確かに前は痩せすぎでした。皇宮に来てドレスのサイズが変わったので作り直してもらいました」
「それくらいの方がわたくしも安心します。お姉様はずっとわたくしにばかり食べさせて、自分は我慢なさっていたから」

 レイシーが妹であるソフィアのために我慢をしていたことは想像できていた。学園の食堂で具の少ない一番安いサンドイッチしか食べられなかったのも、ソフィアに少しでも金を回すためだったのだろう。
 ソフィアとレイシー、レイシーとディアン子爵夫妻は楽し気に話していたが、夕食会が終わったら、わたしはレイシーの背を押して促した。

「ディアン家の家族の泊る部屋で過ごしてくるといい。家族の時間も必要だろう?」
「いいのですか、アレクサンテリ陛下?」
「もちろんだよ、レイシー。行っておいで」

 家族と共に過ごす時間は、レイシーが皇后になればほとんどなくなってしまうだろう。
 今のうちにレイシーが家族と触れ合える時間を作りたいとわたしは思っていた。

 年明けのパーティーで、レイシーは紫色に赤が差し色になったドレスを着ていた。レイシーが着るとどんなドレスも派手ではなく、清楚に見えるから不思議だ。
 皇宮本殿の大広間に入って、わたしは玉座に、レイシーは横にある王妃の席に座る。その席は皇后が座ることを予定されているので、レイシーは未来の皇后になるということを周囲に知らしめることができた。
 わたしとレイシーの到着に、大広間が静まり返る。
 静けさの中でわたしは声を張った。

「この度は新年のパーティーに集まってくれて感謝する。このパーティーでは皆の者に発表がある。ディアン子爵、前へ」

 わたしが促すと、ディアン子爵が前に出てくる。膝をついて頭を下げるディアン子爵にわたしは厳かに告げた。

「ディアン子爵家は、四代前の皇帝の時代に、私財を投げ打って困窮していた国庫を救ってくれた。そのときに伯爵の爵位を授けると伝えたのだが、固辞して受け入れなかった。そして、今、ディアン子爵家は人形とぬいぐるみの工場に寮を作り、女性が働きやすくして、この国の女性の社会進出を助けようとしている。また、ディアン子爵家の娘であり、わたしの婚約者であるレイシーはわたしに執務が集中することがないように進言することによって、この国の政治に関わるものを増やし、皇帝であるわたしが独裁体制を布けないように取り計らい、そのことによって属国との関係を緩和させた。その功績を讃えて、ディアン子爵家に伯爵家の爵位を授ける」

 絶対に反対できないように、一つ一つ積み上げてきた功績が、今完成する。
 ディアン子爵家の陞爵に反対の声を上げられる貴族は、どこにもいなかった。

「光栄に存じます」
「これより、ディアン子爵家は、ディアン伯爵家となる。ディアン伯爵、書類にサインを」

 わたしが促せば、ディアン伯爵は立ち上がり、文官が持ってきた書類にサインをする。
 拍手をする貴族の中には、このことを面白く思っていない連中もいることは知っている。それでも、これだけ緻密に積み上げてきたのだ。表立って文句を言えるものは一人もいなかった。
 ディアン子爵家は伯爵家になった。
 これでレイシーを皇后にする計画も進んだというわけだ。

 給仕がわたしとレイシーにグラスを渡し、他の給仕が会場の貴族たちにグラスを配っていく。グラスが行き渡ると、わたしはそれを持ち上げて乾杯の音頭を取った。

「それでは、皆の者、存分にこの夜を楽しんでほしい」

 わたしのグラスには葡萄酒を、レイシーのグラスには果実水を用意するように給仕には言ってある。レイシーが酔っ払って醜態を見せるようなことは避けたかったし、レイシーのかわいい酔いっぷりはわたしが独り占めしたかった。

 飲み終わったグラスを給仕に渡すと、わたしは立ち上がり、レイシーに手を差し出した。

「レイシー、踊ってくれないか?」
「は、はい、喜んで」

 レイシーもグラスを給仕に渡して、わたしの手を取ってくれる。
 わたしが音楽隊のいる踊りの場に出ると、他の貴族たちは遠慮して踊りの場から離れていく。わたしはレイシーのことを見せつけるように一曲踊って、大広間の隅に移動した。
 一息ついているわたしたちに、ユリウスが話しかけてくる。

「妃殿下、ご実家が伯爵家になられまして、本当におめでとうございます」
「ありがとうございます。ユリウス様のおかげです」

 謙遜ではなく本当にユリウスのおかげと思っているレイシーに、ユリウスは静かに首を振り、「そうではありませんよ」と告げた。

「妃殿下のお言葉でなければ皇帝陛下は耳を貸さなかったでしょう。妃殿下が判断されてなさったことです。もっと誇っていいのですよ」
「そんな……」
「ユリウス、レイシーにそんなに話しかけるな。レイシーのことをそんなに見つめるな。レイシーはわたしのものだ」
「嫉妬深い男は嫌われますよ、皇帝陛下」
「レイシーはわたしのことは嫌っていない。嫌っていないよね、レイシー?」

 ユリウスであろうとも、独身男性がレイシーに近付くのは警戒してしまうわたしに、ユリウスは嫉妬深い男は嫌われるなどという。
 レイシーに嫌われている気はしないのだが、不安になって聞いてみると、レイシーははっきりと言ってくれた。

「嫌ってなどいません。お慕いしております」
「レイシーはわたしのもので、わたしはレイシーのものだよね?」
「は、はい」

 これはいい機会かもしれないと、周囲で耳をそばだてている貴族たちに聞こえるように、レイシーと仲睦まじいことをアピールすると、ユリウスが呆れた顔で見ている。

「聞いたか、ユリウス」
「脅しはよくないと思います」
「脅してなどいない。わたしはレイシーを愛しているし、レイシーもわたしを愛してくれている。これは紛れもない事実なのだ」

 わたしはレイシーのことを愛しているし、レイシーもわたしのことを愛している。
 それをはっきりと周囲にアピールすることによって、レイシーがどれだけわたしの寵愛を受けているか分からせることができる。誰もわたしとレイシーの間には入れないことをしっかりと宣言しておくのだ。

「妃殿下が困っておられますよ、皇帝陛下。妃殿下、お二人が結婚した暁には、わたしも結婚式を挙げようと思っております。そのときには、ぜひ出席してください」
「わたくしでよろしければ」
「レイシーが行くのならばわたしも行くからな」
「皇帝陛下に来ていただけるだなんて光栄です」

 一礼してユリウスは去っていったが、レイシーはソフィアを見つけたようで、ソフィアの方に視線を向けていた。
 ソフィアにダンスを申し込んでいるのは、わたしの側近のシリルだった。

「ソフィア嬢、どうかわたしと踊ってくれませんか?」
「申し訳ありません。わたくしは妃殿下に用がありますので」
「それが終わった後でもいいです。お願いします」

 レイシーはソフィアのことを気にしている。

「あの、アレクサンテリ陛下、あの方がどなたか分かりますか?」
「シリル・ロセル、ロセル侯爵家の次男で、わたしの側近だ」
「え!? あの方が!?」

 ソフィアとシリル。
 この二人の間になにか始まりそうな予感がして、わたしは避難してくるソフィアとそれを追いかけるシリルに注目していた。
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