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アレクサンテリ視点
50.レイシーを皇后にすると宣言した日
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わたしの生誕祭は、国中で祝われた。
国を挙げての行事なので、国中から貴族が集まり、属国からも王族や要人が集まってきている。
賓客たちから挨拶を受けるのも皇帝の役割だ。
皇宮本殿の大広間の一段高くなっている場所で玉座に座り、隣にレイシーを座らせて、わたしは挨拶を受けた。
延々と続くお祝いの言葉に、一人一人礼を述べて、お祝いの品は側近のユリウスに記録させて受け取らせる。
長い祝いの列がやっと終わりになり、わたしは給仕に飲み物のグラスを持って来させた。
グラスを手にして立ち上がると、レイシーもグラスを手にして乾杯の準備をする。
今こそ、レイシーのことを公表するときがきた。
「今日はわたしの生誕祭のために集まってくれて感謝する。夏にはわたしはディアン伯爵家のレイシーと結婚をする。レイシーには皇后になってもらうつもりだ」
反対する勢力は全部黙らせてある。
心で何と思っていようとも、この場では文句は出ないはずだった。
「皇帝陛下、万歳! 未来の皇后陛下、万歳!」
「皇帝陛下がやっと皇后陛下をお迎えになる。なんとめでたいことだ」
「おめでとうございます、皇帝陛下、未来の皇后陛下!」
賓客から声が上がる。
好意的な貴族たちにわたしが宣言したら声を上げるように根回しはしてあるので、それを皮切りに、他の賓客も祝いの言葉を述べ始めた。
レイシーには一切貴族社会の汚いところは見せない。
レイシーは守り抜くというわたしの強い決意が実行された瞬間だった。
グラスを持ちあげて乾杯をすると、わたしはレイシーに囁きかける。
「その葡萄酒を飲んではいけないよ」
「は、はい」
「かわいいレイシーが酔うところは誰にも見せたくない」
レイシーのグラスにも葡萄酒が入っていたのは、誰かの差し金かもしれない。レイシーには果実水を用意させていたはずなのに、それが葡萄酒に変わっている。レイシーはアルコールに弱いので、醜態を見せてしまうのを期待した誰かがいるのだろう。
それもわたしが気付いたので、レイシーが飲む前に止めることができた。
反対派は押さえ込んでも油断はできないということは理解した。
レイシーには何も見せないまま、まだ残っている反対派を処理していかなければいけない。
グラスに口をつけるふりをしながら、レイシーは飲まずにグラスを給仕に返した。それを確認して安心する。
わたしの挨拶が済むと、わたしはレイシーを伴ってバルコニーに出た。
バルコニーから見下ろせば、城壁の向こうに国民が集まっているのが分かる。生誕祭を祝いに来てくれたものたちだ。
「わたしの生誕を祝ってくれて感謝する。夏には皇后を迎え、この国をさらに豊かな国とするために励むことを誓おう」
皇后を迎えると宣言すれば、国民からも声が上がる。
「国王陛下、万歳!」
「皇后陛下、万歳!」
あの国民の中にも、わたしをよく思っていないものはいるはずだ。
わたしは女性の社会進出を考えてディアン伯爵家を後押ししている立場だ。
これまで女性の無償の家庭での働きを当然のものとして考えていた古い連中にとっては、女性が社会進出して自立していくことは面白くないに違いない。反対勢力も出てくるだろう。
そういうものたちに対する説明もこれから必要になってくる。
わたしが考えなければいけないことはたくさんあった。
バルコニーから戻ると場所を移して、晩餐会が開かれた。
夕食には早い時間だが、昼食を食べていないのでちょうどいい時間ともいえるだろう。
ただ、わたしは祝われる立場なので、食べる暇などない。
貴族たちや属国の王族や要人の相手に時間を取られている間に、手を付けていない料理は下げられていった。
料理が下げられても無駄になることはなく、それらは使用人たちに下げ渡されるのだが、レイシーはそれが残念なのだろう、とても悲しそうな顔をしていた。
こんな顔をされると、レイシーに料理を食べてもらいたい気持ちがわいてくるが、それが許される立場ではないことが残念だった。
「ユリウス、夜会のときにレイシーが何か食べられるものを用意してくれ」
「心得ました」
そばに控えてくれている側近のユリウスに耳打ちすれば、快く返事をしてくれた。
晩餐会の後で夜会が開かれると、わたしはレイシーをダンスに誘った。レイシーと踊っている間は他の賓客たちは見ていてもらうことになる。
レイシーの姿をしっかりと目に焼き付けてもらうためにもゆっくりと二人で踊ってから、用意された席についた。
席にはユリウスが用意してくれていた軽く摘まめる軽食やお菓子が並べられていた。レイシーが視線で許可を取ってくるので、わたしは頷く。
レイシーはキッシュやサンドイッチを皿に取って食べていた。
相当お腹が空いていたのだろう。
わたしは葡萄酒だけ飲んでいたが、皇太后である母が挨拶に来たのでグラスを置いた。
「皇帝陛下、レイシー殿下を皇后にすることを宣言したのですね」
「最初からそのつもりだったのですが、宣言できるまでに根回しが必要でしたので、今になりました」
「レイシー殿下は今や、国民の人気者ですからね」
「そうなのですか!?」
具体的な内容は口にするつもりはなかったが、母に分かるように言えば、レイシーが驚きの声を上げている。
わたしは、表面上で言えることだけをレイシーに説明する。
「レイシーが人形やぬいぐるみ作りの工場の後押しをしたことや、そこに寮をつけて女性の社会進出を促したことを国民に広めただけだよ。ディアン家の陞爵で貴族たちには知らしめたし」
「わたくしはそんなにすごいことはしていませんよ?」
「レイシーはすごいことをたくさんしているんだよ。わたしの執務を振り分けさせて、皇帝に権力が集中しすぎないようにしてくれた」
「それも、そういうつもりではかったのです」
「そういうつもりではなかったにせよ、結果としてそうなったんだから、レイシーの功績だよ」
その他に裏で手を回したことについては、絶対にレイシーには伝えない。
自分が評価されているとは認められないレイシーに、母が苦言を呈する。
「謙虚なのはいいですが、皇后となるのですから、レイシー殿下はもっと堂々としていてください。わたくしは皇后となるときには反対する勢力もあって苦労しました。そのような苦労を、皇帝陛下はレイシー殿下にさせたくないのでしょう」
母の言葉に、レイシーはわたしの顔をじっと見て、決意したようだった。
「はい。わたくし、もっと堂々としています」
「その意気ですよ。皇帝陛下の隣に並ぶのは自分しかいない。そう思っていてください」
この日、レイシーはこの国の皇后となることが周知された。
生誕祭が夜会まで終わったのは夜も更けてからで、レイシーは相当疲れている様子だった。靴が合わなかったのか、足を痛めているようだったので、レイシーを支えながら皇帝宮まで戻る。
よろめいたレイシーを抱き留めると、レイシーはわたしの腕の中で安心したような顔をしていた。
レイシーの部屋の前までレイシーを送っていく。
「おやすみなさいませ、アレクサンテリ陛下」
「おやすみ、レイシー」
レイシーの前髪を上げて、額に口付けを落とした。
これはセシルがわたしが悪夢を見て魘されるたびにしてくれていたおまじないだった。
レイシーを部屋に送り届けて、わたしも部屋に戻ってバスルームで体と髪を洗い、ベッドに倒れ込む。
「ガーネくん、おやすみなさい」
「おねえちゃん、おやすみなさい」
セシルが額に口付けをしてくれた記憶がよみがえって、わたしは自分の額を押さえた。
夜中に泣きじゃくり目を覚ましたわたしは、酷い悪夢を見ていた。
護衛が殺されたように、おじさんもおばさんもセシルも殺される夢だった。
「みんな、しんじゃう……おねえちゃんも、おじさんも、おばさんも……みんな……」
「怖い夢を見たのね」
「みんなぼくを守ってしんじゃった……。おねえちゃん、しなないで」
泣きながらセシルに抱き着くわたしに、セシルは前髪を上げて額に口付けてくれた。
「大丈夫。もう怖い夢は見ないから」
「おねえちゃん……」
「おやすみなさい、ガーネくん」
夢の通りではないが、セシルは殺されてしまった。
レイシーは同じようにはさせない。
レイシーが皇后になると宣言した以上、レイシーの身の危険もあるだろうが、絶対に守ってみせる。
わたしは誓っていた。
国を挙げての行事なので、国中から貴族が集まり、属国からも王族や要人が集まってきている。
賓客たちから挨拶を受けるのも皇帝の役割だ。
皇宮本殿の大広間の一段高くなっている場所で玉座に座り、隣にレイシーを座らせて、わたしは挨拶を受けた。
延々と続くお祝いの言葉に、一人一人礼を述べて、お祝いの品は側近のユリウスに記録させて受け取らせる。
長い祝いの列がやっと終わりになり、わたしは給仕に飲み物のグラスを持って来させた。
グラスを手にして立ち上がると、レイシーもグラスを手にして乾杯の準備をする。
今こそ、レイシーのことを公表するときがきた。
「今日はわたしの生誕祭のために集まってくれて感謝する。夏にはわたしはディアン伯爵家のレイシーと結婚をする。レイシーには皇后になってもらうつもりだ」
反対する勢力は全部黙らせてある。
心で何と思っていようとも、この場では文句は出ないはずだった。
「皇帝陛下、万歳! 未来の皇后陛下、万歳!」
「皇帝陛下がやっと皇后陛下をお迎えになる。なんとめでたいことだ」
「おめでとうございます、皇帝陛下、未来の皇后陛下!」
賓客から声が上がる。
好意的な貴族たちにわたしが宣言したら声を上げるように根回しはしてあるので、それを皮切りに、他の賓客も祝いの言葉を述べ始めた。
レイシーには一切貴族社会の汚いところは見せない。
レイシーは守り抜くというわたしの強い決意が実行された瞬間だった。
グラスを持ちあげて乾杯をすると、わたしはレイシーに囁きかける。
「その葡萄酒を飲んではいけないよ」
「は、はい」
「かわいいレイシーが酔うところは誰にも見せたくない」
レイシーのグラスにも葡萄酒が入っていたのは、誰かの差し金かもしれない。レイシーには果実水を用意させていたはずなのに、それが葡萄酒に変わっている。レイシーはアルコールに弱いので、醜態を見せてしまうのを期待した誰かがいるのだろう。
それもわたしが気付いたので、レイシーが飲む前に止めることができた。
反対派は押さえ込んでも油断はできないということは理解した。
レイシーには何も見せないまま、まだ残っている反対派を処理していかなければいけない。
グラスに口をつけるふりをしながら、レイシーは飲まずにグラスを給仕に返した。それを確認して安心する。
わたしの挨拶が済むと、わたしはレイシーを伴ってバルコニーに出た。
バルコニーから見下ろせば、城壁の向こうに国民が集まっているのが分かる。生誕祭を祝いに来てくれたものたちだ。
「わたしの生誕を祝ってくれて感謝する。夏には皇后を迎え、この国をさらに豊かな国とするために励むことを誓おう」
皇后を迎えると宣言すれば、国民からも声が上がる。
「国王陛下、万歳!」
「皇后陛下、万歳!」
あの国民の中にも、わたしをよく思っていないものはいるはずだ。
わたしは女性の社会進出を考えてディアン伯爵家を後押ししている立場だ。
これまで女性の無償の家庭での働きを当然のものとして考えていた古い連中にとっては、女性が社会進出して自立していくことは面白くないに違いない。反対勢力も出てくるだろう。
そういうものたちに対する説明もこれから必要になってくる。
わたしが考えなければいけないことはたくさんあった。
バルコニーから戻ると場所を移して、晩餐会が開かれた。
夕食には早い時間だが、昼食を食べていないのでちょうどいい時間ともいえるだろう。
ただ、わたしは祝われる立場なので、食べる暇などない。
貴族たちや属国の王族や要人の相手に時間を取られている間に、手を付けていない料理は下げられていった。
料理が下げられても無駄になることはなく、それらは使用人たちに下げ渡されるのだが、レイシーはそれが残念なのだろう、とても悲しそうな顔をしていた。
こんな顔をされると、レイシーに料理を食べてもらいたい気持ちがわいてくるが、それが許される立場ではないことが残念だった。
「ユリウス、夜会のときにレイシーが何か食べられるものを用意してくれ」
「心得ました」
そばに控えてくれている側近のユリウスに耳打ちすれば、快く返事をしてくれた。
晩餐会の後で夜会が開かれると、わたしはレイシーをダンスに誘った。レイシーと踊っている間は他の賓客たちは見ていてもらうことになる。
レイシーの姿をしっかりと目に焼き付けてもらうためにもゆっくりと二人で踊ってから、用意された席についた。
席にはユリウスが用意してくれていた軽く摘まめる軽食やお菓子が並べられていた。レイシーが視線で許可を取ってくるので、わたしは頷く。
レイシーはキッシュやサンドイッチを皿に取って食べていた。
相当お腹が空いていたのだろう。
わたしは葡萄酒だけ飲んでいたが、皇太后である母が挨拶に来たのでグラスを置いた。
「皇帝陛下、レイシー殿下を皇后にすることを宣言したのですね」
「最初からそのつもりだったのですが、宣言できるまでに根回しが必要でしたので、今になりました」
「レイシー殿下は今や、国民の人気者ですからね」
「そうなのですか!?」
具体的な内容は口にするつもりはなかったが、母に分かるように言えば、レイシーが驚きの声を上げている。
わたしは、表面上で言えることだけをレイシーに説明する。
「レイシーが人形やぬいぐるみ作りの工場の後押しをしたことや、そこに寮をつけて女性の社会進出を促したことを国民に広めただけだよ。ディアン家の陞爵で貴族たちには知らしめたし」
「わたくしはそんなにすごいことはしていませんよ?」
「レイシーはすごいことをたくさんしているんだよ。わたしの執務を振り分けさせて、皇帝に権力が集中しすぎないようにしてくれた」
「それも、そういうつもりではかったのです」
「そういうつもりではなかったにせよ、結果としてそうなったんだから、レイシーの功績だよ」
その他に裏で手を回したことについては、絶対にレイシーには伝えない。
自分が評価されているとは認められないレイシーに、母が苦言を呈する。
「謙虚なのはいいですが、皇后となるのですから、レイシー殿下はもっと堂々としていてください。わたくしは皇后となるときには反対する勢力もあって苦労しました。そのような苦労を、皇帝陛下はレイシー殿下にさせたくないのでしょう」
母の言葉に、レイシーはわたしの顔をじっと見て、決意したようだった。
「はい。わたくし、もっと堂々としています」
「その意気ですよ。皇帝陛下の隣に並ぶのは自分しかいない。そう思っていてください」
この日、レイシーはこの国の皇后となることが周知された。
生誕祭が夜会まで終わったのは夜も更けてからで、レイシーは相当疲れている様子だった。靴が合わなかったのか、足を痛めているようだったので、レイシーを支えながら皇帝宮まで戻る。
よろめいたレイシーを抱き留めると、レイシーはわたしの腕の中で安心したような顔をしていた。
レイシーの部屋の前までレイシーを送っていく。
「おやすみなさいませ、アレクサンテリ陛下」
「おやすみ、レイシー」
レイシーの前髪を上げて、額に口付けを落とした。
これはセシルがわたしが悪夢を見て魘されるたびにしてくれていたおまじないだった。
レイシーを部屋に送り届けて、わたしも部屋に戻ってバスルームで体と髪を洗い、ベッドに倒れ込む。
「ガーネくん、おやすみなさい」
「おねえちゃん、おやすみなさい」
セシルが額に口付けをしてくれた記憶がよみがえって、わたしは自分の額を押さえた。
夜中に泣きじゃくり目を覚ましたわたしは、酷い悪夢を見ていた。
護衛が殺されたように、おじさんもおばさんもセシルも殺される夢だった。
「みんな、しんじゃう……おねえちゃんも、おじさんも、おばさんも……みんな……」
「怖い夢を見たのね」
「みんなぼくを守ってしんじゃった……。おねえちゃん、しなないで」
泣きながらセシルに抱き着くわたしに、セシルは前髪を上げて額に口付けてくれた。
「大丈夫。もう怖い夢は見ないから」
「おねえちゃん……」
「おやすみなさい、ガーネくん」
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