そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥

文字の大きさ
140 / 151
アレクサンテリ視点

50.レイシーを皇后にすると宣言した日

しおりを挟む
 わたしの生誕祭は、国中で祝われた。
 国を挙げての行事なので、国中から貴族が集まり、属国からも王族や要人が集まってきている。
 賓客たちから挨拶を受けるのも皇帝の役割だ。

 皇宮本殿の大広間の一段高くなっている場所で玉座に座り、隣にレイシーを座らせて、わたしは挨拶を受けた。
 延々と続くお祝いの言葉に、一人一人礼を述べて、お祝いの品は側近のユリウスに記録させて受け取らせる。
 長い祝いの列がやっと終わりになり、わたしは給仕に飲み物のグラスを持って来させた。

 グラスを手にして立ち上がると、レイシーもグラスを手にして乾杯の準備をする。
 今こそ、レイシーのことを公表するときがきた。

「今日はわたしの生誕祭のために集まってくれて感謝する。夏にはわたしはディアン伯爵家のレイシーと結婚をする。レイシーには皇后になってもらうつもりだ」

 反対する勢力は全部黙らせてある。
 心で何と思っていようとも、この場では文句は出ないはずだった。

「皇帝陛下、万歳! 未来の皇后陛下、万歳!」
「皇帝陛下がやっと皇后陛下をお迎えになる。なんとめでたいことだ」
「おめでとうございます、皇帝陛下、未来の皇后陛下!」

 賓客から声が上がる。
 好意的な貴族たちにわたしが宣言したら声を上げるように根回しはしてあるので、それを皮切りに、他の賓客も祝いの言葉を述べ始めた。
 レイシーには一切貴族社会の汚いところは見せない。
 レイシーは守り抜くというわたしの強い決意が実行された瞬間だった。

 グラスを持ちあげて乾杯をすると、わたしはレイシーに囁きかける。

「その葡萄酒を飲んではいけないよ」
「は、はい」
「かわいいレイシーが酔うところは誰にも見せたくない」

 レイシーのグラスにも葡萄酒が入っていたのは、誰かの差し金かもしれない。レイシーには果実水を用意させていたはずなのに、それが葡萄酒に変わっている。レイシーはアルコールに弱いので、醜態を見せてしまうのを期待した誰かがいるのだろう。
 それもわたしが気付いたので、レイシーが飲む前に止めることができた。

 反対派は押さえ込んでも油断はできないということは理解した。
 レイシーには何も見せないまま、まだ残っている反対派を処理していかなければいけない。

 グラスに口をつけるふりをしながら、レイシーは飲まずにグラスを給仕に返した。それを確認して安心する。

 わたしの挨拶が済むと、わたしはレイシーを伴ってバルコニーに出た。
 バルコニーから見下ろせば、城壁の向こうに国民が集まっているのが分かる。生誕祭を祝いに来てくれたものたちだ。

「わたしの生誕を祝ってくれて感謝する。夏には皇后を迎え、この国をさらに豊かな国とするために励むことを誓おう」

 皇后を迎えると宣言すれば、国民からも声が上がる。

「国王陛下、万歳!」
「皇后陛下、万歳!」

 あの国民の中にも、わたしをよく思っていないものはいるはずだ。
 わたしは女性の社会進出を考えてディアン伯爵家を後押ししている立場だ。
 これまで女性の無償の家庭での働きを当然のものとして考えていた古い連中にとっては、女性が社会進出して自立していくことは面白くないに違いない。反対勢力も出てくるだろう。
 そういうものたちに対する説明もこれから必要になってくる。

 わたしが考えなければいけないことはたくさんあった。

 バルコニーから戻ると場所を移して、晩餐会が開かれた。
 夕食には早い時間だが、昼食を食べていないのでちょうどいい時間ともいえるだろう。
 ただ、わたしは祝われる立場なので、食べる暇などない。
 貴族たちや属国の王族や要人の相手に時間を取られている間に、手を付けていない料理は下げられていった。

 料理が下げられても無駄になることはなく、それらは使用人たちに下げ渡されるのだが、レイシーはそれが残念なのだろう、とても悲しそうな顔をしていた。
 こんな顔をされると、レイシーに料理を食べてもらいたい気持ちがわいてくるが、それが許される立場ではないことが残念だった。

「ユリウス、夜会のときにレイシーが何か食べられるものを用意してくれ」
「心得ました」

 そばに控えてくれている側近のユリウスに耳打ちすれば、快く返事をしてくれた。
 晩餐会の後で夜会が開かれると、わたしはレイシーをダンスに誘った。レイシーと踊っている間は他の賓客たちは見ていてもらうことになる。
 レイシーの姿をしっかりと目に焼き付けてもらうためにもゆっくりと二人で踊ってから、用意された席についた。

 席にはユリウスが用意してくれていた軽く摘まめる軽食やお菓子が並べられていた。レイシーが視線で許可を取ってくるので、わたしは頷く。
 レイシーはキッシュやサンドイッチを皿に取って食べていた。
 相当お腹が空いていたのだろう。
 わたしは葡萄酒だけ飲んでいたが、皇太后である母が挨拶に来たのでグラスを置いた。

「皇帝陛下、レイシー殿下を皇后にすることを宣言したのですね」
「最初からそのつもりだったのですが、宣言できるまでに根回しが必要でしたので、今になりました」
「レイシー殿下は今や、国民の人気者ですからね」
「そうなのですか!?」

 具体的な内容は口にするつもりはなかったが、母に分かるように言えば、レイシーが驚きの声を上げている。
 わたしは、表面上で言えることだけをレイシーに説明する。

「レイシーが人形やぬいぐるみ作りの工場の後押しをしたことや、そこに寮をつけて女性の社会進出を促したことを国民に広めただけだよ。ディアン家の陞爵で貴族たちには知らしめたし」
「わたくしはそんなにすごいことはしていませんよ?」
「レイシーはすごいことをたくさんしているんだよ。わたしの執務を振り分けさせて、皇帝に権力が集中しすぎないようにしてくれた」
「それも、そういうつもりではかったのです」
「そういうつもりではなかったにせよ、結果としてそうなったんだから、レイシーの功績だよ」

 その他に裏で手を回したことについては、絶対にレイシーには伝えない。
 自分が評価されているとは認められないレイシーに、母が苦言を呈する。

「謙虚なのはいいですが、皇后となるのですから、レイシー殿下はもっと堂々としていてください。わたくしは皇后となるときには反対する勢力もあって苦労しました。そのような苦労を、皇帝陛下はレイシー殿下にさせたくないのでしょう」

 母の言葉に、レイシーはわたしの顔をじっと見て、決意したようだった。

「はい。わたくし、もっと堂々としています」
「その意気ですよ。皇帝陛下の隣に並ぶのは自分しかいない。そう思っていてください」

 この日、レイシーはこの国の皇后となることが周知された。

 生誕祭が夜会まで終わったのは夜も更けてからで、レイシーは相当疲れている様子だった。靴が合わなかったのか、足を痛めているようだったので、レイシーを支えながら皇帝宮まで戻る。
 よろめいたレイシーを抱き留めると、レイシーはわたしの腕の中で安心したような顔をしていた。

 レイシーの部屋の前までレイシーを送っていく。

「おやすみなさいませ、アレクサンテリ陛下」
「おやすみ、レイシー」

 レイシーの前髪を上げて、額に口付けを落とした。
 これはセシルがわたしが悪夢を見て魘されるたびにしてくれていたおまじないだった。

 レイシーを部屋に送り届けて、わたしも部屋に戻ってバスルームで体と髪を洗い、ベッドに倒れ込む。

「ガーネくん、おやすみなさい」
「おねえちゃん、おやすみなさい」

 セシルが額に口付けをしてくれた記憶がよみがえって、わたしは自分の額を押さえた。
 夜中に泣きじゃくり目を覚ましたわたしは、酷い悪夢を見ていた。
 護衛が殺されたように、おじさんもおばさんもセシルも殺される夢だった。

「みんな、しんじゃう……おねえちゃんも、おじさんも、おばさんも……みんな……」
「怖い夢を見たのね」
「みんなぼくを守ってしんじゃった……。おねえちゃん、しなないで」

 泣きながらセシルに抱き着くわたしに、セシルは前髪を上げて額に口付けてくれた。

「大丈夫。もう怖い夢は見ないから」
「おねえちゃん……」
「おやすみなさい、ガーネくん」

 夢の通りではないが、セシルは殺されてしまった。
 レイシーは同じようにはさせない。
 レイシーが皇后になると宣言した以上、レイシーの身の危険もあるだろうが、絶対に守ってみせる。
 わたしは誓っていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される! 前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。 土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。 当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。 一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。 これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!

王子様とずっと一緒にいる方法

秋月真鳥
恋愛
五歳のわたくし、フィーネは姉と共に王宮へ。 そこで出会ったのは、襲われていた六歳の王太子殿下。 「フィーネ・エルネスト、助太刀します! お覚悟ー!」 身長を超える大剣で暗殺者を一掃したら、王子様の学友になっちゃった! 「フィーネ嬢、わたしと過ごしませんか?」 「王子様と一緒にいられるの!?」 毎日お茶して、一緒にお勉強して。 姉の恋の応援もして。 王子様は優しくて賢くて、まるで絵本の王子様みたい。 でも、王子様はいつか誰かと結婚してしまう。 そうしたら、わたくしは王子様のそばにいられなくなっちゃうの……? 「ずっとわたしと一緒にいる方法があると言ったら、フィーネ嬢はどうしますか?」 え? ずっと一緒にいられる方法があるの!? ――これは、五歳で出会った二人が、時間をかけて育む初恋の物語。 彼女はまだ「恋」を知らない。けれど、彼はもう決めている――。 ※貧乏子爵家の天真爛漫少女×策略王子の、ほのぼのラブコメです。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...