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アレクサンテリ視点
53.初夜とやり直しの初夜
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結婚式が終わった後、レイシーはよほど疲れていたのだろう。
初めて使う夫婦の寝室にわたしが入ると、レイシーはソファに倒れ込んで眠っていた。
「レイシー?」
声をかけると、何か言っているようだが、寝言にしか聞こえない。
抱き上げてベッドに連れていくと、レイシーはそのまま眠っていた。
抱き締めるとわたしも健全な成人男性なので欲望がなかったわけではないが、それよりも安心する。
セシルと一緒に眠っていた六歳のときのように、何も怖くない気持ちになってくる。
「レイシー、ゆっくりお休み」
レイシーの額にかかる黒髪を掻き上げて口付けを落とすと、わたしも眠ってしまった。
翌朝、飛び起きたレイシーをわたしは抱き締めたままで落ち着かせる。
レイシーは何が起きているか分かっていない様子だった。
「おはよう、レイシー。疲れはとれたかな?」
「おはようございます、アレク様……え!? わたくし、寝てしまった!?」
「よく寝ていたよ。昨日は早朝から深夜まで疲れただろう。ゆっくり休めたかな?」
「申し訳ありません。わたくし、大事な初夜で眠ってしまって」
大事な初夜で眠ってしまったことをレイシーは恐縮しているが、わたしは逆に嬉しかった。
ずっと一緒に暮らして、一緒に眠るのだ。緊張して眠れないなどということがあったら、レイシーとベッドを別にしなければいけない。それくらいなら、ぐっすり眠ってくれる方が安心できる。
「疲れていたのだから仕方がないよ。わたしも昨日は眠かった。お互いに疲れを癒せたのだからよかったということにしない?」
「それでいいのですか?」
「焦らなくても、レイシーとわたしはもう結婚したのだから、初夜はいつでもいい。それよりも疲れているレイシーに無理をさせるようなことがなくてよかった。レイシーにはいつでもわたしのそばでは安心してほしいからね」
わたしのそばでは緊張せずに安心していてほしい。
わたしの願いを口にすれば、レイシーが安堵した様子になる。
それでも、レイシーは決意したように口を開く。
「今夜は、このようなことはしないように気を付けます」
「レイシー、焦らなくていいよ。レイシーの疲れが取れて、わたしを受け入れてもいいと思うまでは、一緒に眠るだけでも十分幸せだよ。やっとレイシーがわたしのものになった」
自分の気持ちを伝えると、レイシーはわたしに抱き締められたまま、もぞもぞと動いてわたしに向き直った。
「夢で見たのですが、ガーネくんがセシルに、セシルの望む布や糸で結婚式のドレスを作らせてくれると言っていたのです。アレク様は、約束を守ってくださったのですね」
そのときのことはよく覚えている。
セシルが村の娘に結婚衣装を作ってほしいと言われて作っていたときのことだった。
予算や材料などセシルは制限のある中で結婚衣装を作っていた。
だから、わたしはセシルに言ったのだ。
「ぼく、すごくえらくなって、おねえちゃんがほしい布や糸を好きなだけ買えるようにする。おねえちゃんが自分が作りたいドレスを作れるようにする。約束するから、ぼくとけっこんして!」
あのときの約束が守られているとレイシーが感じてくれているのならば、それほど嬉しいことはない。
「セシルには約束を守れなかった分、レイシーには欲しいものを全て与えたいと思っていた。それが叶えたかったのは、わたしの我が儘でもある」
「わたくしは嬉しかったです。自分の結婚衣装を作ることも、結婚相手の結婚衣装を作ることもわたくしの夢だったのですが、レナン殿との結婚では叶いそうにありませんでした」
「最愛の妻の口から、他の男の名前が出るのは面白くないな」
「すみません。でも、アレク様はわたくしの望みを叶えてくれた。これからも、わたくしが縫物をすることを許してくださる。そのことが嬉しいのです」
元婚約者の名前をレイシーの口から聞くのは面白くないが、これ以上責める気はない。
「許しなど、いらないのだ」
「え?」
「わたしが許すも許さないもない。レイシーには心のままに生きてほしい。それがレイシーの幸せだと思っている。わたしに許しを得る必要などない。レイシーはレイシーとしてそのまま生きていってほしい」
この気持ちはレイシーが皇后になっても変わらなかった。
レイシーには自分の望むことを叶えてほしい。
それを伝えると、レイシーが「アレク様のそういうところが大好きです」と言ってくれたので、わたしはレイシーを強く抱き締めた。
新婚旅行ではディアン伯爵家に行こうと決めていたから、それまでの期間、わたしは執務を休ませてもらっていた。
皇帝になって十一年、休んだことなどほぼないので、たまにはいいだろう。
その日はレイシーと乗馬をした。
わたしの馬はアストルという名前の葦毛で、レイシーの馬は鹿毛で鼻のところに白い模様があるステラという馬だった。
皇宮内でも十分に広いので、馬を走らせても問題はなかった。
「そういえばレイシーのためにプールを作らせたよ」
「本当に作ったのですか!?」
「時間があるときに泳ぐ練習をするといい」
馬に乗りながらの会話も楽しかった。
夕食は結婚式の披露宴と全く同じ料理を用意させていた。
「夕食は楽しみにしているといいよ」
「何か特別な料理が出てくるのですか?」
「昨日、レイシーは結婚式で出てきた料理を全く食べられなかっただろう? 厨房に声をかけて、同じものを作らせるように言っている」
料理を食べられずにお皿が下げられてしまうのを、悲しそうに見つめるレイシーの姿は何度も見ている。それを今回は挽回したかったのだ。
「食い意地が張っているようで恥ずかしいのですが、とても美味しそうだったので」
「わたしも全然食べられなかったからね。今日を結婚式のパーティーだと思って二人で楽しもう」
夕食も楽しく食べて、レイシーとわたしは一度自分の部屋に戻ってシャワーを浴びて、身支度を整えた。
夫婦の寝室ではレイシーが待っていてくれる。
レイシーは嫌ではないだろうか。
妊娠の可能性も考えてはいたが、それでもわたしにレイシーを抱かない選択肢はなかった。
ずっと欲望を抑えて来たし、レイシーの許しがあればレイシーに触れたい。
それでレイシーが妊娠してしまったら、妊娠や出産は命懸けというから怖い気持ちもあったが、初めてレイシーに触れられるという喜びには勝てなかった。
「レイシー、愛しているよ」
「わたくしも愛しています」
レイシーの頬に手を添えて口付ける。
触れるだけの口付けがだんだん深くなって、レイシーがわたしの腕に身を預けるのを感じる。
「レイシー、触れてもいいかな?」
「アレク様、触れてください」
「レイシーを、抱きたい」
その声はかすれるほどに切実で自分でも驚いてしまうくらいだった。
それをレイシーは柔らかく受け止める。
はっきりと口にするのは恥ずかしかったのだろうが、頷きで同意を示してくれたレイシーに、わたしはレイシーの体を抱き上げてベッドに運んだ。
翌朝、レイシーはベッドから起きられなかった。
こういう行為は初めてだと女性に負担が大きいと聞いていたが、その通りだったようだ。
「レイシー、おはよう。起きられそうかな」
「は、はい、多分」
「無理はしなくていいよ。今日はここで朝食をとろう」
ベッドで朝食をとることにして、わたしは寝室の外まで侍女に朝食を持って来させた。
寝室の中には入れる気はない。
お盆を持ってレイシーのところに戻ると、レイシーの体を起こして、レイシーが食べるのを見守る。
「レイシー、体はつらくない?」
「はい」
「レイシー、愛しているよ」
「わたくしも、愛しています」
レイシーの朝食は柔らかなパンとスープとヨーグルトだったが、わたしの朝食はいつもと同じものだった。
自分が食べるのも気がそぞろでレイシーのことばかり見ていたが、朝食を渡してきたときに叔父から執務に関するメモが届いていたので、今日はどうしても執務に行かなければいけない。
後ろ髪引かれながらレイシーに声をかける。
「レイシーは休んでいていいからね。わたしもできるだけ早く戻るよ。お茶の時間は一緒にしよう」
皇帝しか判断できない執務があるということがこんなにも煩わしいだなんて思わなかった。
皇帝としての執務をするためだけに生きていたころには、もっと執務があって眠る暇も、食べる暇もないくらいだったらいいのにと思っていたのに、今は執務は少ない方がいいと思ってしまう。
それもレイシーとの生活で変わったことだった、
それでも、わたしはセシルとの約束を守るため、レイシーと共に国を栄えさせるために執務をこなさなければいけない。
執務室に向かったわたしは、叔父がわたしのために最小限にしていてくれた執務に手を付けた。
初めて使う夫婦の寝室にわたしが入ると、レイシーはソファに倒れ込んで眠っていた。
「レイシー?」
声をかけると、何か言っているようだが、寝言にしか聞こえない。
抱き上げてベッドに連れていくと、レイシーはそのまま眠っていた。
抱き締めるとわたしも健全な成人男性なので欲望がなかったわけではないが、それよりも安心する。
セシルと一緒に眠っていた六歳のときのように、何も怖くない気持ちになってくる。
「レイシー、ゆっくりお休み」
レイシーの額にかかる黒髪を掻き上げて口付けを落とすと、わたしも眠ってしまった。
翌朝、飛び起きたレイシーをわたしは抱き締めたままで落ち着かせる。
レイシーは何が起きているか分かっていない様子だった。
「おはよう、レイシー。疲れはとれたかな?」
「おはようございます、アレク様……え!? わたくし、寝てしまった!?」
「よく寝ていたよ。昨日は早朝から深夜まで疲れただろう。ゆっくり休めたかな?」
「申し訳ありません。わたくし、大事な初夜で眠ってしまって」
大事な初夜で眠ってしまったことをレイシーは恐縮しているが、わたしは逆に嬉しかった。
ずっと一緒に暮らして、一緒に眠るのだ。緊張して眠れないなどということがあったら、レイシーとベッドを別にしなければいけない。それくらいなら、ぐっすり眠ってくれる方が安心できる。
「疲れていたのだから仕方がないよ。わたしも昨日は眠かった。お互いに疲れを癒せたのだからよかったということにしない?」
「それでいいのですか?」
「焦らなくても、レイシーとわたしはもう結婚したのだから、初夜はいつでもいい。それよりも疲れているレイシーに無理をさせるようなことがなくてよかった。レイシーにはいつでもわたしのそばでは安心してほしいからね」
わたしのそばでは緊張せずに安心していてほしい。
わたしの願いを口にすれば、レイシーが安堵した様子になる。
それでも、レイシーは決意したように口を開く。
「今夜は、このようなことはしないように気を付けます」
「レイシー、焦らなくていいよ。レイシーの疲れが取れて、わたしを受け入れてもいいと思うまでは、一緒に眠るだけでも十分幸せだよ。やっとレイシーがわたしのものになった」
自分の気持ちを伝えると、レイシーはわたしに抱き締められたまま、もぞもぞと動いてわたしに向き直った。
「夢で見たのですが、ガーネくんがセシルに、セシルの望む布や糸で結婚式のドレスを作らせてくれると言っていたのです。アレク様は、約束を守ってくださったのですね」
そのときのことはよく覚えている。
セシルが村の娘に結婚衣装を作ってほしいと言われて作っていたときのことだった。
予算や材料などセシルは制限のある中で結婚衣装を作っていた。
だから、わたしはセシルに言ったのだ。
「ぼく、すごくえらくなって、おねえちゃんがほしい布や糸を好きなだけ買えるようにする。おねえちゃんが自分が作りたいドレスを作れるようにする。約束するから、ぼくとけっこんして!」
あのときの約束が守られているとレイシーが感じてくれているのならば、それほど嬉しいことはない。
「セシルには約束を守れなかった分、レイシーには欲しいものを全て与えたいと思っていた。それが叶えたかったのは、わたしの我が儘でもある」
「わたくしは嬉しかったです。自分の結婚衣装を作ることも、結婚相手の結婚衣装を作ることもわたくしの夢だったのですが、レナン殿との結婚では叶いそうにありませんでした」
「最愛の妻の口から、他の男の名前が出るのは面白くないな」
「すみません。でも、アレク様はわたくしの望みを叶えてくれた。これからも、わたくしが縫物をすることを許してくださる。そのことが嬉しいのです」
元婚約者の名前をレイシーの口から聞くのは面白くないが、これ以上責める気はない。
「許しなど、いらないのだ」
「え?」
「わたしが許すも許さないもない。レイシーには心のままに生きてほしい。それがレイシーの幸せだと思っている。わたしに許しを得る必要などない。レイシーはレイシーとしてそのまま生きていってほしい」
この気持ちはレイシーが皇后になっても変わらなかった。
レイシーには自分の望むことを叶えてほしい。
それを伝えると、レイシーが「アレク様のそういうところが大好きです」と言ってくれたので、わたしはレイシーを強く抱き締めた。
新婚旅行ではディアン伯爵家に行こうと決めていたから、それまでの期間、わたしは執務を休ませてもらっていた。
皇帝になって十一年、休んだことなどほぼないので、たまにはいいだろう。
その日はレイシーと乗馬をした。
わたしの馬はアストルという名前の葦毛で、レイシーの馬は鹿毛で鼻のところに白い模様があるステラという馬だった。
皇宮内でも十分に広いので、馬を走らせても問題はなかった。
「そういえばレイシーのためにプールを作らせたよ」
「本当に作ったのですか!?」
「時間があるときに泳ぐ練習をするといい」
馬に乗りながらの会話も楽しかった。
夕食は結婚式の披露宴と全く同じ料理を用意させていた。
「夕食は楽しみにしているといいよ」
「何か特別な料理が出てくるのですか?」
「昨日、レイシーは結婚式で出てきた料理を全く食べられなかっただろう? 厨房に声をかけて、同じものを作らせるように言っている」
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「わたしも全然食べられなかったからね。今日を結婚式のパーティーだと思って二人で楽しもう」
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レイシーは嫌ではないだろうか。
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ずっと欲望を抑えて来たし、レイシーの許しがあればレイシーに触れたい。
それでレイシーが妊娠してしまったら、妊娠や出産は命懸けというから怖い気持ちもあったが、初めてレイシーに触れられるという喜びには勝てなかった。
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「わたくしも愛しています」
レイシーの頬に手を添えて口付ける。
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「レイシーを、抱きたい」
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はっきりと口にするのは恥ずかしかったのだろうが、頷きで同意を示してくれたレイシーに、わたしはレイシーの体を抱き上げてベッドに運んだ。
翌朝、レイシーはベッドから起きられなかった。
こういう行為は初めてだと女性に負担が大きいと聞いていたが、その通りだったようだ。
「レイシー、おはよう。起きられそうかな」
「は、はい、多分」
「無理はしなくていいよ。今日はここで朝食をとろう」
ベッドで朝食をとることにして、わたしは寝室の外まで侍女に朝食を持って来させた。
寝室の中には入れる気はない。
お盆を持ってレイシーのところに戻ると、レイシーの体を起こして、レイシーが食べるのを見守る。
「レイシー、体はつらくない?」
「はい」
「レイシー、愛しているよ」
「わたくしも、愛しています」
レイシーの朝食は柔らかなパンとスープとヨーグルトだったが、わたしの朝食はいつもと同じものだった。
自分が食べるのも気がそぞろでレイシーのことばかり見ていたが、朝食を渡してきたときに叔父から執務に関するメモが届いていたので、今日はどうしても執務に行かなければいけない。
後ろ髪引かれながらレイシーに声をかける。
「レイシーは休んでいていいからね。わたしもできるだけ早く戻るよ。お茶の時間は一緒にしよう」
皇帝しか判断できない執務があるということがこんなにも煩わしいだなんて思わなかった。
皇帝としての執務をするためだけに生きていたころには、もっと執務があって眠る暇も、食べる暇もないくらいだったらいいのにと思っていたのに、今は執務は少ない方がいいと思ってしまう。
それもレイシーとの生活で変わったことだった、
それでも、わたしはセシルとの約束を守るため、レイシーと共に国を栄えさせるために執務をこなさなければいけない。
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