転生皇女セラフィナ

秋月真鳥

文字の大きさ
4 / 5
一章 セラフィナ誕生

4.お披露目の衣装合わせ

しおりを挟む
 わたくし、セラフィナ、もうすぐ一歳になります。
 体も少しずつ動くようになってきて、歯もかなり生えて来て、わたくしはよちよちと少しだけ歩けるようになっていたし、這い這いならば高速で移動できるようになっていたし、食事は大人と変わらないものを味つけを薄くして小さく切って食べさせてもらえるようになっていた。
 毎日が動けるし、美味しいし幸せでならない。
 なにより、話せるのだ。

「にぃ! にぃー!」
「どうしたの、セラフィナ? お兄様だよ」

 まだ完璧には話せないのだが、ラファエルお兄様を呼ぶこともできる。

「まっま、ぱっぱ」
「わたくしを呼びましたか、セラフィナ」
「わたしを呼んだか、セラフィナ。おいで」

 よちよちとお父様とお母様の元に歩いて行けば、抱っこしてもらえてわたくしはその力強さと温かさに喜びを感じる。
 わたくしがまだ「お父様」「お母様」と上手に呼べないので、お父様とお母様は平民のようにわたくしが「パパ」「ママ」と呼ぶのを許してくださっていた。

 今日は一歳のお披露目のための衣装合わせだ。
 わたくしは日々大きくなっているので、大きめに作られたドレスを着せられて、オムツの上からカボチャパンツをはかされてお父様とお母様とラファエルお兄様に見せる。
 ドレスは胸で切り替えがしてあって、乳児のポッコリとしたお腹を妨げないようなデザインになっている。

「にぃ! まっま! ぱっぱ!」
「とてもよく似合っているよ」
「セラフィナはなんてかわいいのでしょう」
「天使のようですね」

 お父様もお母様もラファエルお兄様もわたくしを見てうっとりとしている。
 前世でも兄弟はいたことはいた。父の愛人の子で、母が同じではなくて、親戚の子だと言われていたが、父にべったりでかわいがられ愛されていた男の子。
 前世でその男の子と仲がいいとは言えなかったが、ラファエルお兄様はわたくしをものすごくかわいがってくれる。毎日子ども部屋に通って来てくれて、わたくしに夢中と言ってもおかしくはない。

 今世では兄にも両親にも恵まれた。
 前世のことは忘れて幸せな今世を生きてもいいのではないかという思いと、わたくしが死んでからアルベルト様がどうなってしまったのかという思いが重なって、わたくしは胸が複雑になる。難しい顔をして動かなくなったわたくしに、お父様もお母様もラファエルお兄様も心配している。

「そのドレスはかわいいが窮屈ではないのか?」
「お靴が重いのでしょうか? セラフィナが動かなくなってしまいました」
「セラフィナ、困った顔をしていますね。どうしましたか?」

 唇をきゅっと閉じて思案しているわたくしは、お父様とお母様とラファエルお兄様を心配させてしまったようだ。笑顔になろうとするが、赤ん坊の体は制御が難しい。感情のままにしか動かないのだ。

「ふ、ふぇ……」
「長時間ドレスは苦しかったのかもしれない。靴も重くて歩きにくかったかもしれない」
「すぐに着替えさせてあげますからね」
「当日は短時間でセラフィナの服を着替えさせてあげましょう」

 お父様もお母様もラファエルお兄様も迅速に動いて、わたくしは普段の柔らかな生地のロンパース姿になる。足元も布の靴に履き替えさせられて、革靴で重くて動きにくかったのが軽くなる。
 それでもわたくしの表情は晴れなかった。
 アルベルト様が心配だったのだ。

 わたくしがいなくなるとすぐに不安になってしまうアルベルト様。
 まだ十歳だったのだから仕方がない。
 わたくしが生まれて一年がもうすぐすぎるということは、アルベルト様は十一歳。ラファエルお兄様も十一歳になって同じ年になっているはずだ。
 アルベルト様は幼いころからとても賢かったので、死の意味もちゃんと知っている。
 わたくしが死んでしまったことに対して、責任を感じていないはずはないのだ。
 わたくしはアルベルト様を庇って死ねて後悔はなかったが、残されたアルベルト様がどう思っているかは分からない。

 泣き出してしまいそうになったわたくしを抱っこして、お父様が力強い腕で揺らしてくれる。
 お父様は身長も高く体も逞しいので、抱っこの安定感がとても素晴らしい。ラファエルお兄様も十一歳という年齢よりもずっと大人に見えるし、帝家の血を引いているアルベルト様もまたラファエルお兄様と変わらない体格だった気がする。

 アルベルト様はお父様の弟君の息子なのだ。いわゆる皇弟の息子ということになる。

 お父様は貴族や皇族が通う学園を卒業して成人してから一年後、一歳年下のお母様が学園を卒業してからすぐに結婚している。二十一歳のときにラファエルお兄様が生まれて、わたくしが三十一歳のときに生まれている。
 今はお父様が三十二歳、お母様が三十一歳なのだ。
 アルベルト様のお父様はお父様の一歳年下で、年上の奥様との間に二十歳のときにアルベルト様が生まれているので、アルベルト様とラファエルお兄様は同じ年で学友である。
 従兄弟同士なので、気安い関係ともいえるだろう。

 気安い関係のはずなのに、アルベルト様はラファエルお兄様のことを前世でわたくしにほとんど話してくれたことはなかった。学友に選ばれたときには誇らしげに報告してくれたが、お茶に呼ばれたときなどはなんとなく気が乗らない様子でお茶会に参加していた。

 抱っこされると眠くなるのが赤ん坊というものだが、わたくしももう一歳になるのである。ある程度は我慢ができるようになってきた。
 抱っこされた安心感で涙は引っ込んだが、まだ難しい顔をしているわたくしに、ラファエルお兄様が声を上げる。

「セラフィナは慣れない格好をしてお腹が空いたのではありませんか?」
「そうかもしれないな。セラフィナ、おやつにしようか?」

 おやつ。
 その言葉に幼いわたくしの体は抵抗できない。
 よだれは出てくるし、椅子に座らされると反射的に口を開けてしまう。
 赤ちゃん用のふわふわのおせんべいを渡されて、唾液で溶けてしまうそれをわたくしは手で持ってもちゅもちゅと味わう。このおせんべいは優しい味がしてわたくしも大好きだった。
 乳幼児用の薄味も、使用人として薄い具がほとんど入っていないスープにカチカチのかびる寸前のパンを食べていたわたくしにとっては、ものすごいご馳走だった。なんでも美味しく食べられるのはわたくしの前世に感謝しなければいけないのかもしれない。
 そうでなければ、わたくしはこの赤ん坊生活に嫌気がさしていたに違いない。

 よだれでどろどろになったおせんべいを、うまく手が使えなくて口の周りに塗り付けてしまうわたくしを、ラファエルお兄様が笑顔で口の周りを拭ってくれる。コップで飲むのも上手になってきたので、コップでお茶を飲まされて口の中がさっぱりする。

 お腹がいっぱいになってくると眠くなってしまうのが赤ん坊の困ったところである。

「セラフィナ、眠いの? 椅子から落ちてしまうよ」

 うとうととし始めたわたくしをラファエルお兄様が支えてくれて、布の靴を脱がせてベビーベッドに連れて行ってくれた。ラファエルお兄様の抱っこも侮れないのだ。とても安定していて、安心して身を委ねられる。
 ベビーベッドに寝かされたわたくしが、まだ寝たくないと抵抗して手足をバタバタさせると、素早くラファエルお兄様が絵本を持ってくる。
 絵本の内容は赤ん坊向けで面白いとは言い難いのだが、皇帝一家の絵本である、挿絵が素晴らしく美しいのだ。
 美しい挿絵の絵本を見ながら、ラファエルお兄様の朗読を聞いていると、眠気が耐えきれないようになってしまう。

「お披露目の会場にはベビーベッドを設置させよう」
「それがいいですね」
「セラフィナが眠いのを我慢させるのはかわいそうだ」
「当日は衣装も少し手を加えさせて、着心地のいいものにしましょう」

 お父様とお母様がわたくしのお披露目について話し合っているのが聞こえる。
 わたくしの一歳の誕生日まで残り数日。
 誕生日のお披露目の席でわたくしはアルベルト様に会えるだろうか。
 アルベルト様に会ったとして、わたくしは喋ることもままならない身で、何ができるだろうか。

 アルベルト様にとっては、クラリッサだったわたくしが死んだ翌日のことになる。
 落ち込んでいるかもしれない。
 それだけクラリッサだったわたくしはアルベルト様と親しくしていたという自覚がある。

「あー……」

 眠る前にアルベルト様の名前を呼ぼうとしても、うまくいかなくて、不満なまま、わたくしは眠りについていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

侯爵夫人は離縁したい〜拝啓旦那様、妹が貴方のこと好きらしいのですが〜

葵一樹
恋愛
伯爵家の双子姫の姉として生まれたルイ―サは、侯爵である夫との離縁を画策していた。 両家の架け橋となるべく政略結婚したものの、冷酷な軍人として名高い夫は結婚式以来屋敷に寄りつかず、たまに顔を合せても会話すらない。 白い結婚として諦めていたルイーサだったが、夫を伴い渋々出席した実家の夜会で驚くべき事態に遭遇する。 なんと夫が双子の妹に熱い視線を送り、妹の方も同じように熱い視線を夫に向けていたのだ。 夫の興味が自分に無いことは残念だったけれど、可愛い妹の恋路は応援したい! ならば妻の座を妹と交代し、自分はひっそりと、しかし自由に生きていこうではないか。 そうひっそりと決心したルイーサは、一通の書置きと妹に宛てた書簡を残し姿を消そうと試みた。 幸いにも自分には相続した領地があり、そこに引きこもれば食うに困ることはないだろう。 いざとなれば畑でも耕して野菜でも作り、狩りをして暮らそう。 しかしいざ屋敷を抜け出そうとすると、屋敷の主である侯爵が追いかけてくる。 自分に興味もなく忙しいくせになんで邪魔をするのかと怒るルイーサ。 あの手この手で脱走を試みるルイーサだったが、次第に侯爵の不器用さに気づき始め――。 果たしてルイーサは脱走を成功させることができるのか。 じれじれ両片思いの行方はどうなるのか。

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

処理中です...