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一章 セラフィナ誕生
3.セラフィナが生まれたのは
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ミルクだけの期間が終わって、離乳食が始まったとき、わたくしはこれほど嬉しいことはなかった。
わたくしの体は赤ん坊だったが、精神は十五歳なのでミルクの味に正直飽き飽きしていたのだ。
前世ではわたくしに誰か離乳食を食べさせたのだろうか。
物心ついたときには使用人たちと同じ食事を食べていたような気がする。
離乳食はパン粥に潰した野菜にスープというメニューでどれも薄味だったが、パン粥は牛乳の甘みがしっかりと出ていて、野菜は素材の味が引き出され、スープは薄い上澄みのようだったが実家で使用人のように扱われていたときよりもずっといい素材が使われているのが分かる。
どれもわたくしにとっては十分美味しかったのだ。
全部どろどろとして噛まなくても飲み込めるようなのは若干もったいなくもあったが、それだけ手をかけてもらっているという喜びがあった。
離乳食を食べるときには、お母様やお父様やラファエルお兄様が同席することがあった。
離乳食に意欲満々なわたくしに対して、お母様が食べさせてくれることが多いが、お父様もラファエルお兄様も食べさせてくれることがあった。
美味しいので頬っぺたを叩いて感激していると、頬っぺたを叩くのがわたくしの「美味しい」の合図だと分かってくれるようになっていた。
「セラフィナ、美味しいですか」
「んま、んま!」
「完食しているじゃないか、セラフィナ」
「偉いですね、セラフィナ」
名前を呼ばれて、わたくしは褒められる。褒められると嬉しくて、感情の制御などできないのでキャッキャと笑ってしまう。笑うと更にお父様とお母様とラファエルお兄様の笑みが深くなる。
「そんなに美味しかったのか」
「よかったですね、セラフィナ」
「体も大きくなって、ますますかわいくなって」
わたくしは鏡をしっかり見たことがないので分からないが、お父様とお母様とラファエルお兄様はわたくしを溺愛している。わたくしはそんなにかわいいのだろうか。外見ではなく、わたくしという存在がかわいいのではないかと気付くと嬉しくて泣けて来そうになる。
お父様もお母様もラファエルお兄様も大好きだ。
わたくしは前世のことを忘れて今世で幸せになるべきではないのかとも思い始めていた。
前世はアルベルト様に出会うまでは酷い暮らしだった。
両親には疎まれ、使用人のような扱いを受けて、平民の行く学校に通っていた。男爵家の娘とは思えないほどボロボロの服を着て、毎日足りない使用人の代わりに家の仕事をしていた。
手は荒れて、体はやせ細り、顔色も悪かったわたくし。
ベルンハルト公爵家に雇われてからは、ベルンハルト公爵家は使用人を大事にするので、使用人の部屋だったが温かい寝床を与えられて、使用人の食事も実家の食事と比べ物にならないくらい温かくて素朴で美味しかった。
冷めきった残飯を食べていたわたくしにしてみれば、ベルンハルト公爵家での暮らしは夢のようだった。
「クラリッサ、ぼくとお茶の時間を過ごさないか?」
アルベルト様に誘われたのは何歳のころだっただろう。
わたくしが十三歳、アルベルト様が八歳のころだったかもしれない。
そのころにはわたくしは完全にアルベルト様付きのメイドになっていて、アルベルト様の身の周りのことだけをしていた。その仕事も楽で、アルベルト様が授業を受けるときには一緒に受けて、マナーの講義を受けるときにも一緒に受けて、教養も身に付けさせてもらえるのがありがたかった。
アルベルト様は八歳にして、平民の学校を六歳から十二歳まで通って卒業したわたくしよりも高度な勉強をしていた。
「アルベルト様と同席するなど恐れ多いです」
「勉強ではいつも同席しているから同じだよ。ぼくも一人でお茶の時間を過ごすのは寂しい。一緒にいて」
アルベルト様のお願いに弱いわたくしが、知られたら叱責覚悟でお茶に同席すると、香り高い紅茶が入れられて、テーブルにお茶菓子が並ぶ。どのようにしていいのか、マナーの講義も受け始めたばかりで分からないわたくしに、アルベルト様が丁寧に教えてくれる。
「ナイフとフォークで自分の食べたいものは自分のお皿に取るんだ。一度に欲張りすぎてはいけないよ。何度でも取っていいからね」
「は、はい」
「紅茶はティーカップから持ち上げて飲むんだよ。取っ手を指で摘まむようにして持つんだ。ミルクを入れてもいいからね」
「分かりました」
紅茶を一口飲むと、牛乳を入れた方がマイルドになりそうだったので、わたくしはミルクポッドから牛乳を注ぐ。牛乳も新鮮で甘い香りがしていた。
「お砂糖は入れても入れなくてもいいんだけど、お茶菓子が甘いから、ない方が美味しく食べられるかもしれない」
アルベルト様の言う通りにして食べたお茶菓子の美味しかったこと。アルベルト様は白い頬を紅潮させてわたくしに色々と話しかけていた。
「クラリッサは好きな子はいなかったの?」
「好きな子? いませんでしたね」
強いて言えば、学校に通っていたときに、お腹を空かせたわたくしに気付いて給食を多めによそってくれる先生のことが好きだった。あれは信頼できる大人に対する好きであって、恋愛ではない。
わたくしが誰にも恋愛感情を持ったことがなかったと聞くと、アルベルト様はなぜか嬉しそうにしていた。
恋愛なんて甘いことを言っていられる立場ではなかった。
わたくしはその日の食事にもありつけないかもしれないことが多い生活だったのだ。
「ひとを好きになることよりも、今日はどれだけご飯が食べられるかばかりを考えていました。給食を多めによそってくれる先生のありがたかったこと」
「クラリッサは酷い扱いを受けていたんだね」
「そうなのかもしれませんが、ベルンハルト公爵家に雇われてからは毎日が幸せです。ご飯もいっぱい食べられて、温かい部屋で眠れて」
わたくしがミルクティーを飲みながら言えば、アルベルト様はどこかが痛いような顔をしている。
そんなアルベルト様に、わたくしは美味しいミルクティーとお茶菓子に夢中になってしまって、気付くことができなかった。わたくしもまだまだ十三歳の子どもだったのである。
前世のことを思い出していると、ラファエルお兄様がお父様とお母様と話しているのが聞こえた。離乳食を食べ終えたわたくしは、オムツを替えてもらって眠るまでお父様が抱っこしてくれていた。
温かくて安心して眠くなってくるのだが、ラファエルお兄様の声に耳を澄ませていた。
「アルベルトはあの事件以来、ずっと落ち込んでいるようなのです」
「セラフィナが生まれる前日の事件か」
「アルベルト殿以外の馬車に乗っていた全員が酷い傷を負ったと聞いています。アルベルト殿付きのメイドが亡くなったとか」
え!?
わたくしが生まれたのは、あの事故の翌日なのか。
つまり、クラリッサとしてのわたくしはあの事故で死んで、翌日にセラフィナとして生まれてきた。
クラリッサだったわたくしがどれくらい酷い状況で死んでいたかは分からないのだが、アルベルト様がセラフィナになったわたくしに会いに来たのはわたくしが生まれて一か月も経たないころである。
心の傷も消えていなかっただろう。
アルベルト様、どれほどつらかっただろう。
皇子であるラファエルお兄様の誘いは断れなかったのだろうが、アルベルト様は怪我をされていなかっただろうか。
あのときにはよく目も見えなくて、体も動かなくて、アルベルト様を確認することができなかった。
「ふぇぇ……」
気が付けば泣き出してしまっている赤ん坊のわたくしは、相変わらず感情の制御ができない。抱っこしているお父様がわたくしを揺らして、額にキスをしてくれる。
「怖い夢を見たかな、セラフィナ。大丈夫だよ、お父様がそばにいるよ」
「びぇぇ……ふぇぇ……」
泣いてしまうわたくしをお父様はあやしてくれていたが、わたくしがどうして泣いているかは分からなかっただろう。
わたくしの体は赤ん坊だったが、精神は十五歳なのでミルクの味に正直飽き飽きしていたのだ。
前世ではわたくしに誰か離乳食を食べさせたのだろうか。
物心ついたときには使用人たちと同じ食事を食べていたような気がする。
離乳食はパン粥に潰した野菜にスープというメニューでどれも薄味だったが、パン粥は牛乳の甘みがしっかりと出ていて、野菜は素材の味が引き出され、スープは薄い上澄みのようだったが実家で使用人のように扱われていたときよりもずっといい素材が使われているのが分かる。
どれもわたくしにとっては十分美味しかったのだ。
全部どろどろとして噛まなくても飲み込めるようなのは若干もったいなくもあったが、それだけ手をかけてもらっているという喜びがあった。
離乳食を食べるときには、お母様やお父様やラファエルお兄様が同席することがあった。
離乳食に意欲満々なわたくしに対して、お母様が食べさせてくれることが多いが、お父様もラファエルお兄様も食べさせてくれることがあった。
美味しいので頬っぺたを叩いて感激していると、頬っぺたを叩くのがわたくしの「美味しい」の合図だと分かってくれるようになっていた。
「セラフィナ、美味しいですか」
「んま、んま!」
「完食しているじゃないか、セラフィナ」
「偉いですね、セラフィナ」
名前を呼ばれて、わたくしは褒められる。褒められると嬉しくて、感情の制御などできないのでキャッキャと笑ってしまう。笑うと更にお父様とお母様とラファエルお兄様の笑みが深くなる。
「そんなに美味しかったのか」
「よかったですね、セラフィナ」
「体も大きくなって、ますますかわいくなって」
わたくしは鏡をしっかり見たことがないので分からないが、お父様とお母様とラファエルお兄様はわたくしを溺愛している。わたくしはそんなにかわいいのだろうか。外見ではなく、わたくしという存在がかわいいのではないかと気付くと嬉しくて泣けて来そうになる。
お父様もお母様もラファエルお兄様も大好きだ。
わたくしは前世のことを忘れて今世で幸せになるべきではないのかとも思い始めていた。
前世はアルベルト様に出会うまでは酷い暮らしだった。
両親には疎まれ、使用人のような扱いを受けて、平民の行く学校に通っていた。男爵家の娘とは思えないほどボロボロの服を着て、毎日足りない使用人の代わりに家の仕事をしていた。
手は荒れて、体はやせ細り、顔色も悪かったわたくし。
ベルンハルト公爵家に雇われてからは、ベルンハルト公爵家は使用人を大事にするので、使用人の部屋だったが温かい寝床を与えられて、使用人の食事も実家の食事と比べ物にならないくらい温かくて素朴で美味しかった。
冷めきった残飯を食べていたわたくしにしてみれば、ベルンハルト公爵家での暮らしは夢のようだった。
「クラリッサ、ぼくとお茶の時間を過ごさないか?」
アルベルト様に誘われたのは何歳のころだっただろう。
わたくしが十三歳、アルベルト様が八歳のころだったかもしれない。
そのころにはわたくしは完全にアルベルト様付きのメイドになっていて、アルベルト様の身の周りのことだけをしていた。その仕事も楽で、アルベルト様が授業を受けるときには一緒に受けて、マナーの講義を受けるときにも一緒に受けて、教養も身に付けさせてもらえるのがありがたかった。
アルベルト様は八歳にして、平民の学校を六歳から十二歳まで通って卒業したわたくしよりも高度な勉強をしていた。
「アルベルト様と同席するなど恐れ多いです」
「勉強ではいつも同席しているから同じだよ。ぼくも一人でお茶の時間を過ごすのは寂しい。一緒にいて」
アルベルト様のお願いに弱いわたくしが、知られたら叱責覚悟でお茶に同席すると、香り高い紅茶が入れられて、テーブルにお茶菓子が並ぶ。どのようにしていいのか、マナーの講義も受け始めたばかりで分からないわたくしに、アルベルト様が丁寧に教えてくれる。
「ナイフとフォークで自分の食べたいものは自分のお皿に取るんだ。一度に欲張りすぎてはいけないよ。何度でも取っていいからね」
「は、はい」
「紅茶はティーカップから持ち上げて飲むんだよ。取っ手を指で摘まむようにして持つんだ。ミルクを入れてもいいからね」
「分かりました」
紅茶を一口飲むと、牛乳を入れた方がマイルドになりそうだったので、わたくしはミルクポッドから牛乳を注ぐ。牛乳も新鮮で甘い香りがしていた。
「お砂糖は入れても入れなくてもいいんだけど、お茶菓子が甘いから、ない方が美味しく食べられるかもしれない」
アルベルト様の言う通りにして食べたお茶菓子の美味しかったこと。アルベルト様は白い頬を紅潮させてわたくしに色々と話しかけていた。
「クラリッサは好きな子はいなかったの?」
「好きな子? いませんでしたね」
強いて言えば、学校に通っていたときに、お腹を空かせたわたくしに気付いて給食を多めによそってくれる先生のことが好きだった。あれは信頼できる大人に対する好きであって、恋愛ではない。
わたくしが誰にも恋愛感情を持ったことがなかったと聞くと、アルベルト様はなぜか嬉しそうにしていた。
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わたくしはその日の食事にもありつけないかもしれないことが多い生活だったのだ。
「ひとを好きになることよりも、今日はどれだけご飯が食べられるかばかりを考えていました。給食を多めによそってくれる先生のありがたかったこと」
「クラリッサは酷い扱いを受けていたんだね」
「そうなのかもしれませんが、ベルンハルト公爵家に雇われてからは毎日が幸せです。ご飯もいっぱい食べられて、温かい部屋で眠れて」
わたくしがミルクティーを飲みながら言えば、アルベルト様はどこかが痛いような顔をしている。
そんなアルベルト様に、わたくしは美味しいミルクティーとお茶菓子に夢中になってしまって、気付くことができなかった。わたくしもまだまだ十三歳の子どもだったのである。
前世のことを思い出していると、ラファエルお兄様がお父様とお母様と話しているのが聞こえた。離乳食を食べ終えたわたくしは、オムツを替えてもらって眠るまでお父様が抱っこしてくれていた。
温かくて安心して眠くなってくるのだが、ラファエルお兄様の声に耳を澄ませていた。
「アルベルトはあの事件以来、ずっと落ち込んでいるようなのです」
「セラフィナが生まれる前日の事件か」
「アルベルト殿以外の馬車に乗っていた全員が酷い傷を負ったと聞いています。アルベルト殿付きのメイドが亡くなったとか」
え!?
わたくしが生まれたのは、あの事故の翌日なのか。
つまり、クラリッサとしてのわたくしはあの事故で死んで、翌日にセラフィナとして生まれてきた。
クラリッサだったわたくしがどれくらい酷い状況で死んでいたかは分からないのだが、アルベルト様がセラフィナになったわたくしに会いに来たのはわたくしが生まれて一か月も経たないころである。
心の傷も消えていなかっただろう。
アルベルト様、どれほどつらかっただろう。
皇子であるラファエルお兄様の誘いは断れなかったのだろうが、アルベルト様は怪我をされていなかっただろうか。
あのときにはよく目も見えなくて、体も動かなくて、アルベルト様を確認することができなかった。
「ふぇぇ……」
気が付けば泣き出してしまっている赤ん坊のわたくしは、相変わらず感情の制御ができない。抱っこしているお父様がわたくしを揺らして、額にキスをしてくれる。
「怖い夢を見たかな、セラフィナ。大丈夫だよ、お父様がそばにいるよ」
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