冷遇された公爵子息に代わって自由に生きる

セイ

文字の大きさ
1 / 23

1.目覚め

しおりを挟む
誰にも愛されないのは辛い…寂しい…苦しい……。
でもこれは仕方のないことなんだ……。
愛してもらう資格なんて僕にはないのだから…。



愛してくれる人がいないのなら……僕が居なくなっても悲しむ人はいないって事…だよね…?




父上…僕が生まれてきてごめんなさい…。

兄上…貴方から母上を奪ってごめんなさい。



ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい………。





子供が泣いてる……。
親は何処だ……?

蹲って声を押し殺しながら泣いている5歳くらいの男の子の頭を思わず撫でてしまった。


「…っ……お兄さん…誰……?」

「…俺?」

男の子に聞かれて俺は考えてしまった。
俺は誰だ?何故ここにいる?
今まで何をしてた?
男の子に聞かれて初めて自分が何者なのか、何故ここにいるか考えて何もわからないことに気がついた。

「あー…俺もわからん。でもお前を虐める気も一人にする気もないぞ?」
「…一緒に…居てくれるの?」
「うん」
「…へへっ…僕と一緒に居てくれるの嬉しい…。僕いつも一人だからこうやってお喋りしてくれる人居なかったから…。」

それから二人は沢山話をした。
話している間に自分のことも徐々に思い出してきた。

「じゃあお兄さんは事故に遭ってしんじゃったの?」
「そうだな。引かれそうになった子供を庇って死んだ。後悔はしてないけど親より先に死んだのは悪かったな…とは思った。親より先に逝くのは親不孝者とか言われるしなぁ。」
「……意図せず死んじゃったお兄さんはもっと生きてやりたいことあった…?」
「ん~…今色々忘れてるからあれだけどきっとあったんじゃないかなぁ。生きていればどんなに小さな事でもやりたい事ってのは少なからず出来るもんだと思ってるけど…お前にはなかったのか?」
「……あったよ。あったけどね…僕のやりたいことはどう頑張ってもどうにもならない事で…諦めて死んじゃった」
「……諦めなきゃいけなかったのか?」
「やり続けるのに疲れちゃったんだよ。頑張っても頑張ってもどうにもならなくてどんどん心だけが疲弊し続けてもう終わりにしようって所まできちゃった。体は元気でも心が死んじゃったの」

小さく蹲る男の子の頭を撫でてあげた。こんな小さな子が生きることを諦めるなんて相当辛かったのだろう…。

「そんなお兄さんに朗報だよ。僕の体で悪いんだけど転生許可が下りたよ。こちらの世界で生きて好きな事していいよ!」
「は?何だよそれ…。お前の体って…お前はどうすんだよ!」
「…僕は…このまま神様の元に行く予定なの。精神が疲弊し過ぎて次の転生まで時間がかかるんだって…」
「俺は何でお前の体に転生なんだ?」
「……あのね、僕がお兄さんと仲良くなりすぎちゃったから僕の体に魂が引っ張られてるみたい。僕が引っ張ってるようなものだけど、僕はその体に戻れないの。死んだ魂は同じ体に戻れないから……面倒な体だけどお兄さんならなんとかなるんじゃないかな?自由に好きにしちゃっていいよ!」
「……何だよそれ……お前はそれでいいの?」
「うん!」
「…そっか。ならいいや。お前の体貰ってやる」
「ふふっ…次の人生楽しんでね。お兄さんなら僕の体で僕とは全く違った人生歩めるんじゃないかなぁ。あ、あとね神様がお兄さんに加護与えたから上手く使いなさいって」
「それ本人から言わないといけないやつじゃね?」
「ふふっ…今はまだあまり干渉できないみたい。でも教会?にきて祈れば特別に会えるって!!」
「そっか。まぁいいや。……じゃあな。また会えるといいな」
「…うん、またねお兄さん……」

男の子はとても綺麗に笑って手を振ってた。
神様とやらの下で元気になるといいな。
そう思った瞬間目の前が真っ白になって意識が落ちた。






目覚めたら知らない天井が目に入った。

「……あ……」

そして俺は今までの自分とは違う小さな手を見てあの男の子に入ったのだと自覚したと同時に自然と涙が溢れた……。

これはきっと彼の最後の感情……だったのだろう…。




……バイバイ、またね。









しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~

蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。 転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。 戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。 マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。 皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた! しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった! ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。 皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。 月・木更新 第13回BL大賞エントリーしています。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...