彼氏の優先順位[本編完結]

セイ

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2.心の距離

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「なぁ…あれお前の彼氏じゃねえの?」

そう言ってきたのは最近仲良くなったクラスメイトの倉橋くん。金髪をハーフアップにしてピアスいっぱいついけてる不良みたいな見た目してるのに実はめちゃくちゃ真面目で青衣くんの首席に次いで次席の人。ギャップにも程がある。

最近青衣くんと茜くんの間に入るお邪魔虫扱いで呼び出される事が増えてその度に倉橋くんが追い払ってくれるようになった。有り難や…。

そんな彼が窓の下を指さして来たから僕も覗き込んで見てみた。そこには青衣くんと茜くんが肩組みながらじゃれ合って歩いてる姿があった。

「…うん。そうだね。」
「……お前何とも思わんの?」
「どーいう意味…?」
「それはお前がよくわかってんじゃねぇの?」
「……倉橋くんは酷い人だね…?」

僕は笑顔を貼り付けた顔を倉橋くんに向けて言うとまた窓の下に視線を向ける。そこに二人の姿はなかった。

しばらくすると教室の扉がガラッと開けて入ってきたのはさっきまで見ていた二人だった。

「青空ごめーん!部活長引いちゃって遅くなった!帰ろ?」

二人は中学の時にもやっていたバスケ部に入部した。帰宅部の僕は部活がある日は先に帰ろうと思ってたけど青衣くんが一緒に帰りたいっていうので部活が終わるまで教室で待つのが日課になった。

「ん。全然大丈夫だよ。二人ともお疲れ様。今帰る支度するね。」

そう言って帰る支度をしている中、僕の視線の外で青衣くんと倉橋くんが睨み合って茜くんがそれをオロオロとしていたなんて知らなかった…。



「ねぇ青空…。あの…倉橋?って何で何時も青空と一緒にいるの?」
「へ…?何でって…クラスメイトだし、席も前後で話もするけど…何時も一緒ではないよ?」

いつも一緒なのは青衣くんと茜くんでしょ?っていう言葉を頑張って飲み込んだ。

「でもちょっと…距離近くない?」

それを貴方が言うんだね…。僕もそうやって素直に言葉にした方がいいのだろうか…。言っても無駄だとは思うけど……。

「彼も人待ちしてるみたいだから来るまでお話してるだけだよ?」
「…ならいいけどさ…。」

そう話してるうちに二人との分かれ道に着いてしまった。
僕のマンションの先に二人の家がある。

「ねぇねぇ青空くん!たまには夕飯食べに来ない?うちの母さんが食べにいらっしゃいってずっと言ってるの~。母さん青空くんのことめっちゃ可愛がってるしさ、自慢じゃないけど母さんの料理美味しいから食べて欲しいしさ!」
「…ごめんね、お母さん夕飯作って待ってるから…」
「うーんならしょうが無いけど…今度絶対食べに来てね?」
「うん」

じゃあねと茜くんが背を向けた瞬間、ちゅっと頬にキスされた。

「じゃまた明日な、青空」
「~っ!外で…!誰かに見られたら…!」

と赤面しながら抗議すると青衣くんは微笑みながら頭を撫でてくる。

「嫌だった?」
「~…嫌じゃ…ない。嬉しい…」
「ふふっ。じゃあね」

手を降って二人を見送る。

「今日はハンバーグだって!」
「マジ?やったね!部活終わりで腹ペコペコー」

これから同じ場所に帰っていく二人のその姿に心にちくっと痛みが走るのを見て見ぬふりをしてマンションへ入っていく。

家の中に入ると中は静まり返っている。電気を付けると誰も居ない殺風景な部屋。お母さんとは暫く顔を合わせていない。夜勤の仕事をしているお母さんとは生活リズムが真逆だから顔を合わせるのは月に2回あるかないか。食費などは多めに貰っているから食事には困らないけど。

ずっとこんな生活だから家事は得意。料理は好きだけどめんどくさい時もある。お母さんが起きて軽く食べられる物を作って冷蔵庫に入れておく。

「ふー…夕飯何食べよ…作るのめんどくさいな…ファミレス行こっかなぁ」

めんどくさい時は家にあるカップラーメンか、コンビニ飯か、気分でファミレスに行ったりする。

人淋しい時はファミレスに行く。一人で行っても周りの席の喧騒が一人にさせてくれなくて心地よい事もあるのだ。




「いらっしゃいませー」

何時ものように注文をして食事が来るのを待っていると

「また一人なのかよ」

注文した料理を持って声をかけてきたのは倉橋くん。
実はこのファミレスで会ったのがきっかけで仲良くなった。

「……一人ですが何か?」

にっこり笑って返事をすると、はぁーっと溜息を付きながら料理を置いて去っていった。

うん。周りを気にしないで食べる食事は美味しい。と思ってハッとした。僕は二人との食事が苦痛になっていたのだろうか…と。最近は二人の行動をじっと見つめる事が多い…気がする。

二人は好きだ。それは迷いなく言える。けど二人を見るのは……?

「お前何も考えずにさっさと食えよ」

僕の思考を突如切ったのはやはり倉橋くん。食事を持って勝手に僕の席の前に座って食べ始めた。

「…また来たの?こんな所で食べていいの?」
「いいんだよ。今日はもうシフト終わりだからな」
「自由だねぇ……」
「…お前も自由にしたらいいじゃん」

その自由が何を意味しているかなんて、わかりきっていた。

「自由って難しいね…」

そう言って食事を再開させた。二人とも黙って食べてるのに何故かそれが嫌じゃなかった。









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