異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百十四話 花の香りを追って

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マスタングは目的地へとV8エンジンを轟かせながら疾走している。
その車内ではアヤが物珍しげに小さな窓から外の景色を眺めている。

「マスター。広域スキャンをした結果、蜂系の魔物と思われる反応がある地点を特定しました。モニターに展開します」

「蜂蜜って蜂の魔物の巣から取るのか?」

「いいえ。蜂系の魔物が住まう場所の近くに、蜂蜜を作る蜂が生息しているのです」

「上手く共存してるのか」

「共存と言うよりは、上手く隠れているが正しいかもしれません」

「隠れてるねぇ。倒しても問題は無いのか?下手に討伐するとミツバチ達に不都合があるとかは」

「問題ありません」

目的地まではまだ距離があるので、イズミはアクセルを少し強めに踏み込んでマスタングを加速させる。


夕方、イズミ達は目的地の近くに野営の拠点を作成している。

「話の流れで連れ出してしまって、申し訳ない」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

マスタングの助手席に座りイズミ達の動きを見ていたアヤが答える。
アヤは妊娠中なので拠点設営はさせず、マスタングと共に周囲の警戒をしてもらっているのだ。

久し振りの野営なので、夕食はベリアが食べたいと言ったコーンポタージュと、試食の際に好評だったサンドイッチである。
イズミからするとモーニングみたいなチョイスだが、ベリア基準だと旅路では滅多にありつけない豪華なご馳走なのだ。

「これが…冒険者の旅路での食事なのですか?」

「いや、イズミが居るからだな。お陰でアタイはイズミの居ない冒険は出来なくなったと言っても過言じゃない」

「いや過言だろ」

アヤの疑問に答えるベリアにツッコミを入れはしたものの、冒険中の食事事情はベリアからすると劇変したのは確かである。
大きな要因はアイテムボックスの存在だ。

普通の冒険者であってもアイテムボックスを入手する事は困難であり、売りに出されていても高額過ぎて手が出せない代物だと言うのに、イズミは縁あって自分用のアイテムボックスを入手したと思えば、ベリアにも1つ渡しているのだ。
このアイテムボックスのお陰で、大量の酒や魔物討伐時のドロップアイテム、そして町で購入した料理を鮮度そのままに保管出来る。
更にはマスタングの実体化能力で用意されたスープの元なる物は、お湯を注ぐだけで美味なスープに早変わりだ。
これは最早革命と言って良いだろう。

「過言じゃないさ!このコーンポタージュだって、お湯を注いでかき混ぜれば完成ってのがどれだけ凄い事か。朝食にも夕食にも合うなんて最高だぞ」

「まだ此方では作れなさそうだし、こればっかりはマスタングが居ないと食べれないな」

「だろ?優しい甘さが堪らん」

食事を終えた3人は個別のテントで就寝する。
明日は朝から本格的に蜂探しである。


翌朝。
日の出と共に移動準備をしていると、マスタングのスキャンに反応があった。

「マスター。目的地周辺に魔物の反応が消えました」

「原因は分かるか?」

「何者かに討伐されたようです」

どうやら先客が居るようである。
朝食を取り終えた3人はマスタングに乗り込むと、真っ直ぐ目的地へと走っていった。

腕時計は9時を過ぎた所で、目的地付近に到着したのでマスタングを停車する。
ここから先はマスタングでは通りにくいので徒歩移動だ。

「ベリア、何か匂うか?」

「花の香りがする。向こうだな」

ベリアの嗅覚で探知した花のある方向と、イズミがメガネ越しに表示させた目的地の方向が一致している事を確認すると、3人は周囲を警戒しつつ歩き始める。

「アレかな」

ベリアは何かを見つけたのか、ヒョイと木へ飛び乗ると素早く移動し、少しすると何かを回収して戻って来た。

「取ってきた」

「ミカンか」

ベリアの手にあるのは、少し淡いオレンジ色をしたミカンだった。
白い花が咲いており、爽やかでどこか甘い香りを放っている。

「奥にまだありそうだ」

「そうか。なら今のうちに作っておこう」

イズミは奥へ進む前に砂糖水を作る事にした。
ヒュミトールで購入した高級な白い砂糖と、昨日の朝に水筒へと入れた澄んだ井戸水だ。
アイテムボックスに収納していたので、水筒からお椀に注いだ水に触れるとしっかりと冷たかった。
砂糖と水を1:1で混ぜると、手に持ったまま森の奥へと進む。

「この辺なんだけど…」

そう言いながら進むベリアの足が止まったので、横から顔を出して確認をする。

「コレは凄いな、ミカンの木だ」

イズミは周囲を目視確認してから、ゆっくりとミカンの木へ近付いてみる。
すると何処からか蜂が飛んできたので、少し距離を取って砂糖水を蜂が飲みやすいように皿へと乗せて離れた。

「人間族に獣人族、それにラミア族か。何用だ?」

遠くから風に乗ってそんな声が聞こえてきたので、正直に挨拶と用件を伝えてみる。

「私はイズミと言います。近々女神様や精霊達をお呼びしての会食の場を設けるとになり、そこでお出しする料理に蜂蜜を使わせて頂きたいのです」

「我らの大切な食料を使った料理だと?」

「はい。少しお時間を頂けるのであれば、お作りしますが」

「興味はある、しかし…お主等を信用して良いものか」

「初対面で信用しろとは言いませんので、ご安心下さい。料理を作って来ますので、少々お待ちを」

イズミは一度マスタングの元へ戻ると、フレンチトーストを作る準備を始める。
野郎の大雑把料理で恐縮ではあるが、食べて判断してもらう他無いのだ。
必要な食材を取り出し無ければマスタングに実体化を頼もうかと思ったが、マスタングが既にトランクにて材料を準備済みであった。

「揃ってるな…」

直近で卵や牛乳を購入した記憶は無いが、用意されているならば使わせて貰おう。
イズミは深呼吸をしてから、慣れない料理を始めるのだった。
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