異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百十七話 アッサリ過ぎて不安になる

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「より重装備も提案したいのですが、それにつきましては後日相談したく」

「分かった、後でガッツリ話し合おう。今はあのムカデを退治する事に専念しよう」

マスタングの前方からはV8エンジンとスーパーチャージャーの音が、足元からは四輪ジェットエンジンの音が響き渡り、端から見たら完全に何者か分からない存在に感じる事だろう。

「皆さん、大丈夫だとは思いますが急な揺れにご注意下さい。これからムカデを倒します」

イズミは操縦桿を動かすと再び森へ接近する。

「マスター、操縦桿の赤ボタンを押して魔力の超圧縮をして下さい」

「このボタンか?」

マスタングの指示に従って赤いボタンを押すと、モニターの上部に出現した魔力チャージのインジケーターが動き出す。

緑から黄色に、黄色から赤に変化すると発射可能と表示された。
尚も下降してムカデの様子を伺っていると、触覚が姿を見せたので動きを止めてもう少し待つ。

「マスター、ノコギリの射出は操縦桿についているトリガーを引いて下さい」

「赤ボタンでチャージ、トリガーで発射か…ボタンから指を離しても大丈夫か?」

「押している時間でチャージ量の調整が可能で、チャージ完了後は離しても問題ありません。」

「途中でも発射は出来るのか。覚えておこう」

アクセルを細かく踏んでムカデに接近すると、遂にムカデが動き出した。
怒り狂ったように飛び出して来たので、イズミは操縦桿をバック方向に動かしながらアクセルを力強く踏み込んだ。

フロントガラスにディスプレイが表示される訳では無いのでどうやってムカデにロックオンしているのか分からないが、機械音声でロックオンが完了したと聞こえたのでトリガーに指を掛けて回転ノコギリを射出もとい発射した。

見た目は平べったい円盤状の回転ノコギリの刄たが、風魔法をベースにしているので半透明である。まるで特撮作品に出て来た、八つ裂きにする光の輪の光が風に属性変換でもされたかのようだ。
巨大ムカデに衝突すると、外殻をバリバリと破壊しながら切り裂いてゆく。
それでも死にはしないので、イズミはマスタングを一度上昇させて回転ノコギリの再チャージを行なう。

「流石に一撃では厳しいか」

「超大型の魔物を一撃で無力化出来るとは考えない方が、今後の戦闘においても有効かと」

「だよな…ちょっとロマンに思考が傾いてた」

「イズミ悪ぃ…ちょっと気分が」

急激な運転操作のせいかベリアが車酔いに近い症状を訴えたので、急いで巨大ムカデを片付ける事にした。

再接近して回転ノコギリを発射し、剥き出しになった胴体にガトリングを撃ち込んでから離脱した。
ガトリングの発射方式は従来どおり、ヘッドライト部が変形して銃身が出て来て、コンソールボックスに追加されているボタンを押しての発射だった。

離陸地点へ戻り飛行モードを切ると、魔力で浮遊してふんわりと地面に降り立った。

「ベリア、大丈夫か?皆んなは」

「私は大丈夫です」

後部座席へ振り返り確認してみると、アヤと妖精は何の問題も無いとの事だった。
どうやら気分が悪くなったのはベリアだけのようだ。

「あのムカデはまだ生きてるのか?」

「瀕死状態ですので、森の魔獣や生物が食べて終わりです」

「そうか…何かドロップ品でもあればと思ったのだが」

「今回は期待出来ないかと」

マスタングがそう言うのであれば、探しても特に良い事は無さそうなのでスパッと諦める。
次に考えるのは賊の足取りだ。
モニターの表示を切り替えて確認すると、4人が合流して移動をしているのが分かった。
その近くには複数の反応がある。

「マスター、賊の近くに冒険者パーティーと商人のキャラバンがあります。賊を捕獲して引き渡しましょう」

「割と距離があるけど、また飛ぶのか?ベリアがダウン寸前なのだが」

「ではコチラを飲ませて下さい。酔い止め即効薬です」

「…需要が少なそうな薬だ」

イズミは実体化された酔い止め薬をベリアに飲ませてから、再度飛行モードに設定して離陸する。

「マスタング、この飛行モードの魔力消費はどの位だ?」

「通常運転時の約9.8倍です。10倍以下の高効率を達成するには苦労しました」

「達成出来た理由は」

「最高速度を時速約124マイル、キロ計算で200キロ以下の低出力設定にしたからです。当初の目標は最高速度250マイルでした」

「確か1マイルが1.6キロだから…時速400キロ超えを目指してたのか」

「魔力消費が通常走行時と比較して15.8倍になると試算されたので、保留にしております」

「それも後で相談か?」

「そうなります」

マスタングはかなり乗り気なようなので、今後の話し合い次第では決戦兵器にもなりかねない実力を保有する事になるだろう。
対する自分は対物ライフルを扱うだけで筋肉痛である、身体を鍛え直す必要性がまた増えたのは頭痛の種になるかもしれない。

賊の近くまで飛行するマスタングが、スーパーチャージャーに見える部分を変形させると、グレネードランチャー発射機みたいな物を実体化した。

「高粘着弾です、此方で賊の身動きを封じます」

「非殺傷武器は有り難い」

「下手をすれば窒息死ですので、完全非殺傷とは言い切れません」

「そこはアレだ、不幸な事故って事で処理を願うとしよう」

上空から聞こえる謎の音に足を止めた賊をモニターで確認したイズミは、グレネードランチャーの発射ボタンを押した。
速射性にも優れているのか直ぐに4発撃ち込まれると、賊はあっという間に粘着弾の餌食となった。

「ベリア、調子はどうだ?」

「スゲェ良くなった。あの賊はどうする?」

「近くに冒険者のパーティーと商人のキャラバンが居るみたいだから、彼らに引き渡す」

「アタイらでしょっぴかないのか」

「ベリア、よく考えてくれ。定員オーバーだ」

元気になったベリアが後部座席を確認する。
普通に考えても定員オーバーなのである。

「そりゃー、またソリでも作って」

「却下だ」

飛行モードでソリを引き摺ったらどうなるか、考えるだけでも恐ろしいものである。


数十分後。
遠くで聞こえた魔物の叫び声に警戒していた冒険者パーティーの元へ、身柄を拘束された賊を引き連れたベリアが現れて無事に引き渡す事が出来た。

その冒険者パーティーもベリアの事を知っていたようで、パーティーのメンバーだった獣人族の女が、まるで推しのアイドルのパフォーマンスを見ている時のような表情をしていたのが印象的だった。

少し離れた所でマスタングを通常モードに変更したイズミは、降車して身体を伸ばし深く呼吸をして新鮮な空気を肺に取り込んだ。
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