異世界無宿

ゆきねる

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第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百五十九話 いざ出陣

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翌日。
イズミは日の出前に隣で眠っていたオリヴィアに起こされ、2人で朝風呂をする事になった。
腕時計の短針はまだ5時を通り過ぎておらず、魔石ランタン頼みの温泉だが天気が良ければ日の出を拝めるだろう。
空を見上げてみると相変わらずの灰色1色の雲色だが。

昨晩は結局2人で同じベッドで眠った…そもそもベッドが1つしかない…が、オリヴィアの寝相は意外にも良かったので深夜帯に不慮の事故で起こされる事も無かった。
問題はオリヴィアがその魅力的な肉体を押し付けるようにして眠っていた事くらいだが、異世界で体験した初めての温泉だったからか、コトもせずに熟睡してしまったのは男としては問題なのかもしれない。

現在は柚子を浮かべた温泉に浸かりながら、今日の予定を頭で再確認する。

宿屋で朝食を摂りオリヴィアに借金分のお金を渡し、ヒュミトールを出てから帝国兵の拠点へ強襲して日没の閉門迄に戻って来る。

往復で約1000マイルの正に弾丸ツアーである。

「…本当に私を抱かなかったね」

「超高級なベッドの寝心地が良過ぎて、気が付けば眠ってたな。オリーの温もりも相まって熟睡だった」

スマンなと言いはしたイズミだったが、勿体無い事をしたような後悔も無いわけでは無い。
ここは某映画にてスタローンが見せた男気【女性にはベッドで眠ってもらい、自分は手を出さずに床で寝る】に近しい事をしたのだと思う事にした。

「アンタってそんな言葉も言えるんだね」

「得意では無いけどな」

朝風呂を満喫した2人は宿屋の朝食を頼むと、モーニングセットを持って従業員がやって来た。
白パンに温かいスープ、鮮やかな黄色の卵料理に添えられた肉と温野菜、どれも宿屋の料理人が厳選しこだわり抜いた朝食だった。

宿屋を出る前にオリヴィアのピアスをオーダーの物に付け替えてやると、チェックアウト前だが嬉しそうにしていた。
宿屋を出て馬車置き場で待機しているマスタングの元へ向かうと、イズミは早速オリヴィアの1日分の金と借金分と予備を含めた金貨1015枚を渡すと、自分が現在住んでいる賃貸の場所を伝える。

「そこって、近々再開発があるから人払いされたって聞いてたけど」

「そう。梅雨明けまでは工事も無いから、梅雨明けと同時に賃貸契約も終了するならって話で借りてるんだ」

「返済を終えたら、直ぐに行っても良いのかい?」

「生憎今日は予定があってね、日没迄には帰ってる筈」

「そう…なら夜に伺おうかしら」

「夜道で良い女一人ってのは危険だぞ?」

「心配してくれるなら、私を迎えに来てくれても良いのよ」

「その手もあるな。温泉街で待ち合わせか…予定が長引いたら待ちぼうけになる可能性もあるけど」

「女を待たせるなんて、罪な男だね。今回は許してあげるけど、他の男なら蹴るわね」

もしかしてだが、オリヴィアはかなり口が達者なのかもしれないと思いつつ、イズミは夜にオリヴィアを迎えに来る想定で話を纏めた。
この手の予定の組み方は不確定要素が多くて好きでは無いのだが、今回は仕方が無い。

「マスター。念の為にオリヴィア様に此方を」

マスタングが実体化したのは、イズミが手放して久しい腕時計だった。
小振りな金属ブレスの腕時計で12時位置に王冠がある、マスタング特製の腕時計だ。

「ブレスは調整済みです」

「もう渡すのか?」

「御守り、保険と言った所です」

イズミは腕時計を軽く振って時間調整をしてから、オリヴィアの左手を取って腕時計を付けた。

「これは綺麗な…ブレスレットかい?」

「そんな感じだ。御守りだと思ってくれて構わないが、何かあった時には頼りになるぞ」

詳しい使い方は次に会った時に説明する約束をするとイズミはオリヴィアと別れ、ヒュミトールの出入口である門へ向かい衛兵に声をかけた。

「今日は日没近くまで外に居る予定なのですが、悪天候でもちゃんと日没まで門は開いてるかい?」

「ヒュミトールはその辺しっかりしてるさ!大型の魔物でも現れない限りは、日没を知らせる鐘が鳴るまで門は全開だ」

「それを聞けて安心したよ」

「因みにだが…夜警をしてる衛兵に金を握らせてやれば、オタクの馬車が通れるくらいは開けてくれるだろうな。酒もあれば確実に開ける」

「それは何かとマズいんじゃないか?」

「オタクはあのベリアと一緒に旅をしてるんだろ?衛兵隊はその点でアンタを信頼してるのさ」

「そうか。もし帰るのが遅くなったら、コッソリと頼むとしよう」

イズミは毎度の事のように衛兵に金貨…今回は良い情報をくれたので奮発して…5枚を握らせたら、綺麗な敬礼で門を通してくれた。
腕時計を確認すると7時を過ぎる前、雨がポツポツと降り出し始めている。

「イズミ!起きてるか?」

「当然だ、今ヒュミトールの門を抜けた所さ」

「昨日は温泉街に泊まるって聞いたから、てっきりまだ熟睡してると思ったんだけどな」

少しつまらなそうな返答だったが、ベリアも心配したのか魔法通信を繋げて来たのだ。

「で、女と寝たのか?」

「…何処まで聞いたんだ」

「マスタングから聞いただけだぞ。『女が手配した宿屋に宿泊する事になって、スキャンをかけたら旅路でも活躍出来る有望かつイズミ好みの女で、色々と相性も良さそう。旅の仲間に勧誘しようとアプローチをかけさせてる』ってくらい。因みにグラテミアにも伝えておいた」

「そうか。グラテミアさんはなんて?」

イズミは何となく、本当に何となく確認する。

「ちゃんと人間の女性を掴まえているようで安心した、だとさ。イズミの交友関係で一番付き合いが長いのって誰になるんだ?」

「ちょいちょいやりとりしてるって条件ならアーリアになるけど、旅を共にしてるって話ならベリアが一番長いかな」

「じゃあ同じ人間族相手に一番長いのは?」

ベリアの質問に答えようと記憶を辿ってみたが、それらしい記憶が思い当たらない。

「…旅のみでか?貴族の屋敷で数週間とかならあるけど」

「旅のみで限定したら?」

「…1週間も無い、かも。カレンはエルフ族だし、誰かを乗せても旅じゃなくて移動だし、もしかしたら純粋な旅のみで考えたら1日も無いかもしれない」

「あぁ…グラテミアさんが心配するのも分かる気がするわ」

「どうしてだ」

「異種族の女にしか興味の無い男、だと思われかけてたって事だよ。ちゃんと手は出したのか?」

「手?」

「抱いたのかって聞いたんだ、言わせるなよ」

「いや?超高級ベッドの寝心地が最高で何もせずに熟睡しちまった」

「はぁ!?マジかよ信じられねぇ。ナニにコンプレックスでもあるのか?」

「無いわけじゃないが、そこまでてもない」

そんなしょうもない話をしていると、マスタングから周囲に魔法反応が無いとアナウンスが入った。
これで飛行モードに切り替えても大丈夫なはずだ。

「ベリア、この話は一旦止めだ。これから本格的な移動に入る」

「分かった。コッチはグラテミアさんの屋敷の庭で軽く汗を流してる姿を見せておくから、目的地に近付いたら連絡をくれ」

「了解だ」

魔法通信を切ったイズミは、マスタングのモニターを操作して飛行モードに切り替える。
車体が浮遊したと思えば、独特なジェット音が聞こえてくる。

「マスター、飛行モードに切り替えが完了しました。目的地へのナビゲートを開始します」

イズミは慣れない飛行モードの操作をしながら、確実に目的地への高速移動を開始した。
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