異世界無宿

ゆきねる

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第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百六十話 高速移動モード

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イズミがマスタングの飛行モードにて移動を開始して数分、既にスピードメーターは時速200マイル…キロ計算で凡そ322km…に到達している。
マスタングが言うには、どういう訳かスーパーチャージャーを実体化すれば空気抵抗を考慮した上で更なる加速が出来るらしい。

腕時計を確認すると9時を過ぎた所であり、モニターでの到着予定時刻は12時前だ。
出来れば昼前に初手の攻撃を加えたいので、もう少し加速したい所だが魔力消費問題もあるので悩みどころだ。

「マスター。出力を上げましょう」

「魔力消費も馬鹿にならないだろ?その辺の問題は解消してない筈だが」

「移動用の魔力と戦闘用の魔力は別系統で保有しておりますので問題ありません。予備で貯蔵している魔力にも蓄えがありますので、ある程度の加速程度であれば容易に対応可能です」

「どの位だ?」

「100マイル上げて、時速300マイルです」

「目的地まで2時間を切るのか…」

この移動速度であれば午前11時には攻撃を加えられている計算になる。
日没迄にはヒュミトールに戻りたいので時短は大変有り難いが、その移動速度に自分の身体は耐えられるのだろうか?

「試してみる価値はあるな」

「では起動します」

マスタングを雨の降っていない雲の上にまで上昇させると、高速移動モードに切り替わる。
ボンネットから巨大なスーパーチャージャーが姿を現して運転視界の大半を奪うと、トランクの上部分に追加のジェット推進器が実体化される。

「マスター、今回の高速移動モードは直進限定です。ご覚悟を」

「覚悟が要るのか?」

ジェット推進器から爆音が響き出すとイズミの身体は運転席に強く押し付けられ、先程までとは全く違う加速による重力を感じる。
何とか操縦桿を握ってはいるものの、操作を出来る気がしない。
ジェット戦闘機に乗るパイロット達の偉大さを痛感しながら、イズミは気を失ったり嘔吐しないように踏ん張りを効かせて、戦闘前に約2時間の高速移動と戦いを挑むのだった。


場所は変わって。
ベリアはイズミに呼ばれるまで、グラテミアから転移魔法の初歩的な訓練を受けていた。
この後で戦闘があるので、今までのおさらい程度ではあるが。

ベリアが目の前に出した転移魔法は、まだまだ自分自身が転移出来るサイズにまで大型化は出来ておらず、現在はどうにかして子供1人分のサイズである。

「この短期間でなら、まずまずの成長よ」

「う~ん、もう少し大きく出来る気がするんだけどなぁ」

「大きくするだけなら出来るかもしれませんが、次は転移先までの距離を稼ぐ第二段階がありますから…今はしっかりと安定した転移口を作る事に意識を集中しましょう」

訓練を終えて休憩していた所で、グラテミアが今回の戦闘エリアの地図をベリアに渡した。

「コレは?この前見たのと少し変わってるような」

「最新版よ。昨日の夜に地図だけ届いたのですけど、梅雨の時期に土と木材でバリケードを作ってるみたいね」

「もう防衛戦をする想定なのか…早くないか?」

「恐らくゼーレラント王国からの調査部隊を警戒しての事でしょう、彼等も帝国の動きに注視してますので」

「既にゼーレラント王国の調査部隊が拠点の偵察に来ているとして、イズミの攻撃に巻き込まれる可能性は?」

「無いとは断言出来ませんが、それもまた戦場や現場の宿命です。身に迫る危険を嗅ぎ分け、察知し、対策を練り、行動をする。出来なければ負傷し、最悪は死ぬ…ただ其れだけの事。気に病む必要はありません」

「そう言われると、そうだけども」

「それにです、帝国兵の拠点周辺に住むエルフ族や魔族は避難を完了しています。それを踏まえて諭しい指揮官であれば、敵拠点から距離を取っての偵察をしている事でしょう」

「ヘマをして捕まってたりしたら?」

「そんな兵は数として数えなくて良いのよ。最初から居なかった、以上…でおしまい。寧ろ敵に情報を吐いたり寝返る可能性を考慮して、速やかにかつ確実に葬るのが理想よ」

戦闘においてそんなヘマをするような同族は居ない、と何時もと変わらぬ口調で付け加えたグラテミアは、テーブルに置かれた皿に乗っているチーズケーキを頬張る。

「ベリアさんも食べる?戦闘前の腹ごしらえは大切よ」

「…では、お言葉に甘えて」

渡されたチーズケーキと温かいお茶を飲んでいると、フラウリアが部屋にやって来た。

「ベリアさん、美容クリームをベースに面白いクリームを試作したのですが…試してくれませんか?」

「ど、どんなクリームなんです?」

ベリアは満面の笑みで近付いてくるフラウリアに表情筋の固まったような苦笑いで尋ねると、フラウリアはベリアを逃がすまいと尻尾を伸ばして捕まえる体勢を取った。

「高撥水ボディクリームです。元々は別件で依頼のあった『急な雨から衣服を守るクリーム』を作っていたのですが、気分転換に試作していたら…コッチの方が先に出来ちゃいまして」

フラウリアはベリアの左手を掴むと、手の甲にクリームを薄く伸ばす。

「まだ何も答えてないのに」

「塗り心地は悪くないと思うのですが…」

「そう言う事じゃなくて。確かに他の試作品と変わらない感じだな」

その返事を肯定と認識したフラウリアが水魔法でベリアの左手を濡らしてみると、クリームを塗った所はしっかりと水を弾いており、ツルリと滴り落ちてゆく。

「おぉ!コレは凄いな。濡れると身体が重くなって大変だけど、その心配が無くなる訳だ」

「撥水効果は凡そ半日、後は美容クリームと一緒ね。これから戦闘なのでしょ、塗っていきます?」

「…お言葉に、甘えさせて頂きます」

ベリアの言葉を聞いたフラウリアは、2人の部下を部屋に呼ぶと別室へとベリアを連れ出してゆく。
その姿を見送ったグラテミアが、フラウリアに声を掛けた。

「貴女なりの、ささやかな支援かしら?」

「そうかもしれません。ベリアさんにはイズミ様を守って頂く必要がありますし」

「そう言う事にしておくわね」

グラテミアの微笑みを背中に受けつつ、フラウリアは部屋を後にする。
ベリアがイズミから魔法通信を貰う、凡そ1時間程前の話であった。
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