異世界無宿

ゆきねる

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第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百二十九話 仕事の依頼

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イズミは朝一番で家財道具のレンタルを頼みに出掛けると、ガタイの良いオッサンが対応をしてくれた。
求める物を口頭で伝えると、オッサンは怪訝そうな表情でイズミに確認をする。

「…お前さん、賃貸で飲み屋でも開くつもりか?」

「いや、俺の趣味だ…憧れがあってね。1ヶ月位ならそんな家に住んでみたくなったんだ、頼めるか」

「勿論だ。物も殆どあるから準備も出来るな、届けるのは今日か?」

「明日の昼間で頼みたい」

「分かった」

賃貸の場所については事前に情報共有がされているのか、詳しい話をせずとも分かってくれていたので助かった。

「レンタル料金は幾らです?」

「そうだな…損料込みで金貨10枚って所だ」

「賃貸を空けている時に荒らされた場合は?」

「そこまで考えるとは、過去にやらかされた事があるのか?まぁ良い、その時は最低でも追加で金貨12枚だな。荒らされ具合にもよるが」

「分かった、念の為に備えておくとします」

オッサンと話を付けたイズミは、その足でドワーフ族の武器工房へと移動する。
入る工房は勿論、ベリアの新たなナイフを作ってくれたボンネビルの居る工房だ。

「お前さんは確か…」

「イズミです、今日は1つ仕事の依頼をしたくて来たんです…人払いをお願い出来ます?」

ボンネビルはイズミの頼みを聞き入れ人払いをする。
静かになったのを確認したイズミは、まず依頼の内容を伝えた。

「ある剣の鞘を作って欲しい。誰にも話を漏らすこと無く、極秘で」

「極秘って…また理由有りか」

「もしかすると、魔法剣を打つよりも名誉になるかもしれない」

「魔法剣よりだぁ?随分と大きく出たな」

「これです」

ショルダーバッグから片手剣…あの霊剣…を取り出すと、ボンネビルの動きが止まった。

「これは…なんだ?見たことの無い素材、精密かつ均等な模様、誰が打った剣いや何故この剣を打ったんだ」

そっと手を伸ばしたボンネビルが霊剣に触れた途端、その身体が大きく跳ね上がった。

「…なんと恐ろしい、儂はこの剣に対して猛烈な恐れを示唆したぞ」

「剥き身のままでは寂しいでしょう、特上な鞘を拵えて頂きたい」

「今手に入る最高の素材を使えば、梅雨明け迄には完成出来ると思うが…この剣に似合うかどうか」

「そこはボンネビルさんのセンスに委ねます」

「難しい依頼だな」

「断っても構いませんが」

「いや、儂に作らせてくれ」

ボンネビルがやる気になってくれたので、次は現実的な話をする。

「鞘だけとは言え特注品、幾ら位で考えておけば?」

「上を見ればきりが無いが…天井は金貨1200枚だ」

「中々ですね。では私の気が変わる前に渡しておきます」

金貨100枚が入った布袋を12個取り出すと、ボンネビルに渡した。
これでかなり財布が寒くなるが、必要経費だと割り切る事にする。
自分が大金を持っていても使う当ては少ないのだから、こう言う時に使うのが正しい使い道だろう。

「そうも直ぐ出されると感覚がズレて来るぞ…確かに受け取った。では型取りをさせてくれ、コレだけやっておけば剣を返せる」

ボンネビルは粘土のような物を準備すると、霊剣に一度深い礼をしてから型取りを始める。
その真剣な眼差しを見て、イズミも思わず姿勢を正した。
厳かさすら感じる時が流れ、ようやく型取りを終える時には足が痺れていたが、痺れに気付いたのはボンネビルが霊剣をイズミに返却して来た時だった。

「型取りは出来た、次は10日後位に顔を出してくれ。一度具合を確かめたい」

「分かりました、では10日後に来ます…足が痺れて辛い」

「精進が足りぬのではないか?」

「返す言葉も無い」

何とか工房を後にしたイズミはマスタングに乗り込み、足の痺れが治まってから賃貸に向かい昨日今日で異常は無いかを確かめる。
戦闘用ライトを取り出して床を照らしてみたり、メガネを掛けて何か建物内に変な細工をされていないかを確認したが、今日の所は何も無いみたいである。

「マスタング、何か異常はあるか?俺には何も無いように見えるのだが」

「異常はありません。まだ何もない状態ですので、下手に仕掛けると悪目立ちする可能性を考慮して動かなかったのかもしれません」

「そうすると、明日以降は注意が必要って事か」

イズミはそう呟くと、水で濡らした雑巾で壁や床を拭いてゆく。
天井も1人で何とか綺麗にすると、イズミは外に出て玄関部分により掛かるようにして黒パンを食べ始めた。

外はジットリとした雨模様であり不快指数も高くなっているが、雨避け部分が少し広めなので濡れる事無く食事が出来る。

「…監視してる奴が居るのかもしれないが、やっぱり見えないな」

黒パンで口元を隠しながら呟いたイズミは、ため息をついてから馬車置き場に歩き出す。
そしてマスタングに乗り込むとグラテミアの屋敷へと走り出すのだった。



場所は変わって。
ボンネビルは1人で特別な素材部屋に籠もっていた。

「大親方、何を探してるんです?言ってくれれば取りますよ」

「いや、儂が一から頼まれた仕事だ。素材選びから儂がやらねば気が済まん…すまんが暫し1人にさせてくれ」

弟子を部屋から追い出すと、ボンネビルは大きな深呼吸をして部屋を見渡す。
この部屋にある素材はどれも最高級品や超が付くレアアイテムばかりであり、世界各地にある有力なドワーフ工房ですら手にしていない素材も揃っている。
上位種のブラックドラゴンやレッドドラゴンの素材もあれば、リッチと呼ばれる死霊の類がドロップした魔石もある。

ボンネビルは数種類の木材がある一角に向かうと、1本1本に触れてどれが相応しいかを考える。
 
「100年杉は微妙だな…1000年桜は悪く無いが、あの剣の模様とは合わないような気がする。やはりアレを使うしか無さそうだな」

部屋の奥で厳重に保管されている箱を開けると、丁度二振り分の鞘を作れる程の大きさのある木材が鎮座している。

「初代大親方様、使わせて頂きます」

その木材はヒュミトールにて最初の大親方となったドワーフが、あるエルフ族から受け取ったとされる木材であり、言い伝えによるとかつて聖樹と呼ばれた樹が役目を終えた際に切り分けた分の1つとされている。

「あの剣に触れた時に感じた圧倒的で抗いようの無い恐怖、恐れ…あの刀身を包み込める素材はコレしかあるまい」

ボンネビルは鞘に必要な分だけを手に取ると、他にも必要な素材を集めてゆく。

その後ボンネビルは8日程、自分専用の工房に籠り出て来る事は無く、全身全霊で鞘作りを全うするのであった。
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