異世界無宿

ゆきねる

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第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百三十話 梅雨入り報告

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「コリャ昼過ぎには降り出すな…早いうちに運び込むぞ」

家財道具の運び込みは、イズミの腕時計の短針が9時を過ぎた頃から始まった。
昼間と打ち合わせをしたが、雨の中での運び込みになるのを避ける形で前倒しになったのだ。

「二階にはベッドと箪笥だけでしたな」

「そうです。レイアウトはこんなで」

イズミは道端に簡単な部屋の間取り図を描くと、大まかな設置イメージを伝える。

「見れば見るほど、店でも開くような感じだな」

「趣味ですよ趣味、道楽と言い換えても良い。人を招いて何かをする予定は無いですがね」

イズミは半分は事実な説明をしながら、搬入されてゆく家具類を眺める。
搬入と調整作業は2時間程で完了したので、昼前にはイズミの予定はフリーになった。
ベリアは今日も今日とて冒険者ギルドにて若手冒険者の訓練をしているので別行動だし、エレノアやアヤも今日は同席していない。
久し振りに思える完全フリーである。

「さてと…どうしたもんかねぇ」

一階に置かれた椅子に座ったイズミは、腕時計の竜頭を巻きながら梅雨明け迄の予定を組み上げる。

「先ず男神様向けの酒飲みだろ、次に帝国企みの調査か」

酒飲みは5回程に分けて行なう想定なので、3日に1回のペースで開くのが良いだろう。
4日に1回ペースだと少々開きすぎな気がしたのだ。
酒飲みをシッカリと完了させる迄は帝国絡みは調査と段取りまでに抑えておいて、終わってから本格的に動けば良い。
両方ともタイムリミットは梅雨明け迄なのだから。

「そうか…今日の搬入作業も監視されてるなら、監視者達のお上にも報告が入ってる可能性もあるのか」

監視役を任されるような連中であれば、搬入された家財道具の違和感に気付くかもしれない。
どう考えても一人暮らし等を想定した選定はされていないのだから。

探りを入れられると厄介だが、今日の所は他に搬入する物も無いし準備物はグラテミアの屋敷にてまとめるので情報の流出は少ない筈だ。

腕時計の竜頭を巻き終え左手に着けると建物から出て、分厚い灰色の雲を睨んだ。
そろそろ雨が降りそうだ。
馬車置き場に入るとマスタング以外に先客が居た。
野良猫と雨の精霊であるアルハだ。

「人気者だね、6人居るよ」

「あまり嬉しくないのが辛い所ですが」

「昨日から梅雨入りしたよ…完全に明けるのは40日後の予定」

大変有り難い情報を入手した。
梅雨明けしたら出発する予定なので、今後の動きを決めやすくなったのだ。

「教えて頂きありがとうございます。そうだ、ミカンの種の件ですが」

イズミはマスタングの隣に立ち野良猫用のご飯を用意しながら、アルハに渡すミカンを種にするか苗木にするか決めかねていたので、こうして直接確認をしたのだ。

「種が良い。種からの方が育てやすいから」

「分かりました。甘いミカンが良いですか?」

「どの位甘いのか確かめておきたい」

アルハの注文に答えるように、マスタングでミカンを2種類実体化させて渡す。

「温州みかんと、せとかになります」

「せとか?」

「果汁も多く、そして甘いのが特徴です」

自分が食べた記憶が無い品種のミカンだったが、マスタングがオススメするのであれば間違いは無いだろう。

「甘さもあってみずみずしい、水分補給にも良さそうだね。ケロちゃん達も喜ぶと思う」

「ケロちゃん達は元気です?」

「元気だよ。リンゴを食べるようになってから、皆んな毛艶が良くなってる気がする。あと魔力保有量が少し増えた」

「そんな効果はリンゴ自体には無いような気がしますが」

ミカンの種が入った布袋を実体化されたので、イズミは回収してアルハに渡る。

「アルハ様、茶色の布袋が温州みかん、黒色の布袋がせとかの種です」

「ありがとう。大切に育てる」

受け取った布袋をしまったアルハが、家の方向へと顔を向ける。

「明かりが少ないね、男神様達を呼ぶ時はもう少し明るさを確保した方が良いと思う」

「分かりました。魔石ランタンとかで良いのですかね?」

「そうだね、ロウソクよりは魔石ランタンの方が良いと思う。天井から吊り下げるのと、テーブルの中央に置いておくのとで用意するのがベスト」

「飲み会前までには用意します」

「頑張ってね…この辺りは1時間後に降り始めるから、雨具の用意を忘れずに」

アルハはそう告げると、スゥッと音も無く消えてしまった。

「行ったか…で、野良猫さんはどうするんだ?」

「我は今、完全に自由の身なのだ。気の向くままにするだけよ…温州みかんとやらを食べてみたい」

「はいはい」

この野良猫は姿形が猫なだけで、中身はアルハと同じ精霊なのだ。
なので食べ合わせ等の問題が一切発生しないし、毒を盛られても無害化されてしまう。
無論、自分が毒を盛る事は有り得ない話だが。

「人間は皮を剥いて中身だけを食べるそうだな」

「皮の部分は乾燥させれば、何かと有効活用出来る場合もあるでしょう」

「それを知っていて生薬として活用するのは、エルフ族や薬師くらいだろうな。殆どは土の肥料か家畜の飼料に混ぜるかだ」

「…充分では?」

野良猫はミカンを食べて満足したのか、マスタングのボンネットに飛び乗ると丸くなってしまった。

「ランタンか」

アルハから貰った助言の言葉を呟くと、イズミは次の買い物リストを頭に浮かべながら家に戻る。
必要になるであろう数を確認してからマスタングの元へ向かうと、既に野良猫は姿を消していた。
イズミは小さくため息をつくと、雨が降り始める前にマスタングを買い出しへと走らせるのであった。
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