異世界無宿

ゆきねる

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第二十八章 梅雨が明けるまで

第六百八話 役割

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翌日、イズミは地道に作り続けていたブレスレットの最終確認をマスタングに頼み、出来が微妙だと判断された物の調整をしている。
幸いな事に調整が必要なブレスレットの数は少なかったので、馬車置き場にてまったりと白湯を飲んで寛ぎながら作業をしていると昼前には全ての検品作業が終了した。

「マスター。ツールボックスを実体化します」

「3個くらいは渡しておいた方が良いかな」

「工具の自動メンテナンス機能も付与しましたので、長く使えるかと」

「破格の機能だな、工具以外を入れてもメンテナンス出来るのか?元々持っていたハサミとかナイフとか」

「可能ですが出来れば職人に調整を依頼する事を推奨します。あくまで実用レベルでのメンテナンスとお考え下さい」

「それでも十分過ぎるさ」

実体化されたツールボックスはイズミが思っていたよりも大きめのサイズであり、ラミア族の使う道具もある程度は収納出来る親切仕様だった。
これも納品時に渡すとして、ようやく終わった作業に胸をなで下ろした。

昨日今日の所ではミレイユの体調も回復傾向にあり、精霊のコルンも一日3食…野良猫達と一緒に菓子も…しっかり食べて体力回復に勤しんでいるようだ。
それでも、まだまだ活発に動くには程遠いらしいが。

「イズミよ、あの娘の保護が出来たようだな…ご飯くれ」

「取り敢えずは、ですけどね」

イズミが作業を終えたのを見ていたのか、何処からか野良猫が姿を現してご飯を所望して来たのでマスタングにて実体化すると、調理セットと材料が出て来たのでそろそろ料理をしろとの事なのだろう。

野良猫は猫用のドライフードやウェットフードではなく普通の料理を要求する事も増えて来ており、半分嫌がらせの気持ちで麺料理…チーズたっぷりのカルボナーラで、ベーコンは厚切りだ…を作ってみたのだがフォークで器用に食べてしまった。
イズミに用事があって馬車置き場までやって来たベリアがその姿を見て笑い死にしそうになる一幕もあったが、野良猫はカルボナーラも気に入ったようだった。

「これはクセになる味わいだ…娘の連れていた精霊にも食事を与えているようだな」

「ええ、必要だと判断しました。ミレイユが呼ぶにはコルンと言うそうです」

「精霊は真名を人間に教えたりはせん、呼びやすい名を何処からか選んだのだろう。疲労困憊と魔力切れで元の姿にも戻れず、まともに動く事も出来んとは困った奴よ」

野良猫はマスタングのボンネットに飛び乗ると、丸まりながらため息をついた。

「何をしてたら、そんな事になったんです?」

「土や農作物に関する色々だ。昔は人間族も感謝祭とかで大地や精霊への贈り物をしていたのだが、今はそれも簡素な物になって精霊達も悲しんでおる」

「それ以外にも原因が」

「そうさな…頑張り過ぎなのかもしれん。奴は我々と同様に活動範囲の制限が無い、故にどの土地でも現地の精霊達の支援を最大限に行なう。人間族など農作物の不作で大勢が死んでも支障は無いと言っておるのに、それは嫌だと言って話を聞かんのだ。それで己の力を使い切るなど愚の骨頂だ」

イズミは白湯を飲み終えると、マスタングのトランクを閉める。

「ヒュミトール近辺はこの前の酒盛りで、精霊達も元気になったとか聞きましたが」

「左様。だが土地全体や国の規模で捉えると、まだまだ塵も同然よ…」

片付けを済ませたイズミがマスタングの運転席に座り魔力補給をし始めながら野良猫の話を脳内でまとめていると、一連の流れにある計画が見えてきたような気がして思わず野良猫に確認を取った。

「ちょっと待てよ…旅先で酒盛りをするのは現地の精霊達に活力を与える為だと考えていたが、ミレイユを手助けしろってのはもしや」

「それだけでは足りんからだ。どの土地に住まう精霊達も疲弊気味でな、奴の支援を待ちわびる声が後を絶たない。そこであの娘の出番だ…あの娘の素養があれば精霊達に温かい食事が届けられる、そうなれば自ずとお主らがコルンと呼ぶ奴の負担も減り回復に費やせる。そもそも単純に人間族の数が減れば負担も減るのだがな」

野良猫は余り人間族に良い感情を持っていないらしく、言葉のあちこちに棘があるように感じる。

「お主らとて酒とツマミだけで生きるのは酷だろう?しっかりと飯を食わねば生きて行けん」

「まあ、そうですけれども」

「それと同じだ。人間族が食料確保の為に土地を耕し農作物を育てれば土がやせ細る、やせ細った大地から魔力を吸収出来なくなった精霊が土を元気にする為に自らの力を消耗する、消耗した精霊は外部から魔力や食事等の支援が必要になる」

「つまり精霊達への魔力や食事の支援が欠けている土地が増えていて、コルンがその分を背負って力を消耗しきったと」

物事には流れや巡りと言う前提がある。
それが一度でも崩れてしまうとどうなるかは、イズミの元いた世界に当てはめても直ぐに分かる。

「昔なら精霊が見える者がそこそこに居て意思疎通が取れた時もあったが、今ではそれすら困難だ。お主はあの娘に教える料理が、精霊達の未来に関わる事であると認識しておけば良い」

「そして農作物を食べて生きる者達の未来も…荷が重い話だ」

「食い物が無くなると争いも増える、我としては勝手に争いその数を減らしてほしいものだ」

野良猫の話が終わると、イズミはようやく笑いの波が過ぎただろうベリアに声をかける。

「ベリア、俺に用事があったんだろう?」

「…そうだった。ギルド長からミレイユの保護に関する書類を貰ったから、紛失しないように保管を頼みたくて」

ベリアが受け取った書類は、ミレイユの保護者として認めるという正式な手続き文書だった。
イズミとオリヴィアでは正式な保護者になれない…保護者になるにも前提条件がある…ので、唯一条件を満たしているベリアが代表として保護者登録をしたのだ。

「手間を掛けたな」

「良いって事よ。イズミも何処かのギルドに登録するとか、貴族と仲良くなって取引の一つでも出来るようになった方が良いかもな」

「持つべきものは権力者の友人か…相手の胃がストレスで痛みそうだ。レオンチーノの顔を見ただろ、飲まなきゃやってられないって感じだった」

「責任ある立場になると、大変なんだよな」

「Sランク冒険者ってのも、責任ある立場じゃないのか」

「緊急事態の時はな。何も無ければ単なる冒険者さ…で、野良猫さんは何を食べてたんだ?」

ベリアは馬車置き場内に漂う香りから何か美味い料理である事は確信しており、腹の虫が自己主張を始めている程だった。

「此方ではなんて呼ぶか分からないが、俺の居た所ではカルボナーラと呼ぼれていた麺料理だ。たっぷりのチーズとベーコン、それと黒胡椒が絶妙なんだ」

「それは楽しみだ」

もう完全に食事モードになったベリアを止める術は無いので、イズミはまたカルボナーラ作りに取り掛かる。
麺の原材料は小麦粉なので、ミレイユが元気になったらパン以外の料理もしっかりと学んでもらおうと認識を改めたイズミなのだった。
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