異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
44 / 624
第四章 旅と戦闘

第四十四話 騎士隊庁舎にて

しおりを挟む
再びのミグルン。

数日ぶりなので代わり映え無い、変わっていても変化に気付けないだろう町並みを尻目に、竜騎士の案内で騎士隊の拠点へとマスタングを進めた。

もう日も暮れると言う事で、騎士隊の宿舎の1室を使わせてもらえる事になったが、監視の目がありそうでイズミは挨拶をそこそこに一旦マスタングへ戻った。

周囲に誰も見当たらない事を確認してから、右手に着けていた腕時計を外してメーターバイザーの上に置き、手首を解したり腕をゆっくりと伸ばして調子を整える。

「貴族か…この時計も目立つのか?」

イズミは昼間の会話を思い出しつつ、大切な腕時計を見つめる。
元いた世界で購入した腕時計。

イズミが『世界で1番格好良い男』と信じてやまない男が、ある映画で着用した角型の自動巻クロノグラフ。
それの復刻版だ。

「確実に目立ちますし、下手をすれば条件交渉の材料にもされかねません」

マスタングが答えた。
この世界には時計自体が存在していても非常に大型で、まず携帯出来るサイズでは無いのだ。

「コピーは可能か?」

「マスターの考える完全な複製品は作れません。こちらの世界の技術、部品と成り得る物で構成された【本物に限りなく近い複製品】となります」

イズミは大きなため息をつき、目を閉じて考え込む。
そして目を開くとマスタングのグローブボックスを開け、腕時計をそこに入れた。

「厳重に保管しておいてくれ。他人の手に渡るリスクを背負うよりマシだ」

大切だからこそ、オリジナルのままであって欲しい。
複製品を実体化させる気にはならなかった。

グローブボックスを閉めたイズミは、腕時計の重みを失った右手を見つめると、小さく笑った。
それは、物悲しげで淋しい笑みだった。

マスタングから降りたイズミは、騎士隊の宿舎へと歩を進めた。
その後姿を見たマスタングは警戒態勢に入ると同時に、小さくガコンと魔法使用時の駆動音が鳴った。
その音はとても小さく、イズミには聞き取れなかった。



翌日、簡素な朝食も程々に騎士隊からの聴取…尋問ではない…が始まった。

何故あの村へ向かったのかから始まり、何を見聞きして、どう戦ったのか。等々…



そして昼前。

「おおよその流れは理解出来たが、戦闘に関しては疑問が多い。これでは説明しきれない。見る所剣士では無いし、カレン嬢のクロスボウでは説明出来ない程の傷を賊に負わせる武器は検討も付かない」

聴取は終わっていなかった。

「それに関しては戦闘用の魔道具だと思ってくれ。それ以上の説明は難しい」

誰だって自分の得意技を誰彼構わず見せつけはしないだろ?
そう付け加えて、イズミはなるべく武器に関しては伏せて話をしていた。

その結果、埒が明かない状態になりつつある訳だが。


「しかしだな…戦闘痕はクロスボウ以外はイズミ殿が所持している魔道具が2種類、賊の原型すら分からなくなる程の攻撃が可能なモノまであると分かると、流石にある程度は答えて貰わねばならん」

試しにガトリング砲を使ったのが仇となったのだ。
アレさえ無ければもう少し穏便に話を進められたかもしれない。
イズミは苦虫を噛み潰したような表情で答える。

「アーティストの能力だ。俺も全ては把握出来ていないから、説明しきれないんだ」

騎士隊の人間も信じ難い話の連続で、記録は取っているが疑念の方が強いようだ。

イズミは冒険者ギルドの時とは違い、今回は武器の1つでも見せないと状況は好転しないと結論づけ、騎士隊の人間に肩からぶら下げたマグナムを指差した。

「訓練所はあるか?魔道具を1つ見せてやる。このままじゃ埒があかない」


外に出たイズミと騎士隊の数人は、訓練場に向かう。

「これは壊れても平気か?」

訓練場の一角にあったレンガを的に出来ると騎士隊に確認を取る。
問題ないと回答を貰い、イズミは右手で鼻を擦りながら歩き始め、マグナムを抜いてハンマーを起こしながら的との距離を取った。

騎士隊はそんなイズミの姿を少しだけ離れた場所で見つめている。

イズミが的を一度睨み、マグナムを構える。
大きいレンガの中心より、少し高めに照準を合わせる。



その直後、耳に残るような乾いた音が1発だけ響いた。



イズミはマグナムをホルスターへ収めて騎士隊の方へと向かう。
少しムスッとした表情で砕けたレンガの的を見た。

「ご覧の通り、レンガも砕ける威力の魔道具だ。一撃で相手をあの世へ送れる…かもしれない」

イズミは好きな映画のワンシーンを思い出し、もう一言付け足そうかと考えたが、あえて口には出さなかった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...