異世界無宿

ゆきねる

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第四章 旅と戦闘

第五十一話 老騎士の憂鬱

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マスタングはミグルンへ戻る為に草原を爆走している。
まだ陽が昇っているのでヘッドライトの点灯も不要であり、天気良し視界良しなので可能な限りアクセルは踏みっぱなしである。

イズミもさっさと戻って武器のメンテナンスや、マスタングの魔力補給に時間を取りたいと思っていた。
燃料計を見ると、現時点で半分といったところである。

「マスター、現在の速度では日没までに到着出来ません。もう少し加速して下さい」

マスタングは基本的に戦闘時以外は、イズミに運転を任せている。
速いのも遅いのも、全てイズミの実力次第なのだ。

そして、マスタングは運転して貰う事が…走る事が喜びでもあるのだ。

「マジか。御二人さん、少しばっかし飛ばしてくから、間違って自分の舌を噛まないでくれよな」

イズミはステアリングを握り直すと、アクセルを更に踏み込んだ。

先程までよりエンジンの唸りが大きく聞こえだした。
元いた世界でも聴き惚れたV8エンジンの奏でるサウンドは、異世界に来て燃料がガソリンから魔力に変わった今も健在だ。

マスタングが轟音を響かせて、草原を移動する馬車の列や冒険者達に迷惑をかけないように距離取りつつ、しかし圧倒的な速度で駆け抜けて行った。



「おい、着いたぞ」

ちゃんと日没前にミグルンに到着したイズミが、助手席に座る男に声をかけた。

意識を失っているのか、声掛けだけでは反応が無いので身体を揺らして起きてもらった。

「てっきり俺は死ぬんだと思ってた」

開口一番これである。
想像を超えた速度や車の揺れ、V8エンジンの咆哮その全てが衝撃的だったのだろう。

「言った通り日没までに到着したんだ。ギルドへの報告は頼むぜ」

イズミはまだふらついている男に改めてゴブリン討伐の報告を頼んだ。

「ちゃんと報告するさ。それが仕事だからな…そうだ、お二人さんの名前は?流石に討伐者は匿名を希望、とは報告出来ない」

全て自分達の手柄で良いと言っているのに、あくまでも仕事なので正確な報告をすると言う男だった。

イズミは一度カレンへと目をやってから、別れの挨拶がてら答えた。

「無宿者のイズミと、冒険者仮登録のカレンだ。縁があればまた会おう」

「俺はブルームってんだ。パーティーの仲間も自己紹介出来てなかったなぁ。ま、また何処かで会えるだろ!またな!」

斥候の男、ブルームは冒険者ギルドの建物がある方角へと走って行った。



騎士隊の宿舎に戻ると、日没間近だからか分からないが妙に活気があるように感じた。

先日マスタングを駐車した場所へ進むと、見るからに偉い立場なのだろう老騎士が立っていた。

マスタングを停車して、ゆっくりと降りつつ騎士を観察する。

背は2メートルはありそうだ。
銀髪か白髪で髭まで白い。
顔の彫りは深く、目は鷹の様に鋭いように感じる。
甲冑もしっかり手入れが行き届いているが、幾多もの戦闘を物語る傷が残っていた。
剣は背中に背負うタイプの大剣だ。

イズミは一目見て、かなりの強者だと推察した。

「貴殿がイズミかね?」

マスタングのドアを閉めたイズミに声をかける老騎士。

「はい。そうですが…」

落ち着いた説得力のあるような、重みのある声だった。
イズミは老騎士の目を見て答えた。

「私は騎士隊総隊長補佐役のヴァーランデルと申します。この度は騎士隊の者が無礼を働き、大変申し訳無い」

丁寧な挨拶と謝罪に呆気にとられていると、老騎士は詳しい話を続ける。

「件の男はある公爵家の三男坊でな。御父上の影響もあってか、騎士隊でも好き放題していてな」

老騎士がイズミに近付く。

「本部の許可無くイズミ殿に近付き、負傷したとの報告を受けたので来たのだが…詳細を聞くと三男坊をゴブリンの巣に放り込んだと言うではないか!」

老騎士は大笑いしていた。
他の騎士達を目だけで追うと、動きも表情も緊張で硬いように見える。

「詳細はゴブリンの巣を調査していた冒険者パーティーからの報告が、ギルド経由にて届くのかと存じますが」

イズミはあの坊やの活躍をそんなに見ていた訳では無いので、どう上手く伝えようかと考えていた。

「あやつに騎士としての剣の才能は無かったからな…良くて5から6体といったところか…で、どう負傷したのかだけは、イズミ殿の口から直接聞きたいのだが、良いかね?」

口調は明るいが、疑いも残っていると言ったところか。
あの坊やがまだ負傷の理由を話していないのか。

「…ゴブリン討伐後、フォレストオーガが1体現れました。彼は剣を捨てて逃げ出した所でオーガに追われ叩き飛ばされました」

そう話すと、騎士達に動揺の声が上がった。

「私と相棒のカレンの2人でフォレストオーガに重症を負わせましたが、その直後に彼が私の魔道具を奪い取り、それでとどめを刺そうとしたのです」

この老騎士に隠し事はマズいと判断して、ゆっくりとマグナムを取り出した。

「これがその魔道具なのですが、使用には回数制限があります。彼はそれを知らずに奪い取り、フォレストオーガに近付いて攻撃を」

そこまで言うと老騎士が口を開いた。

「使えない状態の魔道具とも知らずにイズミ殿から奪い取り、フォレストオーガへ近付いた結果噛まれた」

老騎士が大きな溜め息をついた。

「そうなります」

イズミはマグナムをゆっくりとホルスターに仕舞うと、小さく肩を竦めた。

「それを報告するのは、いささか気が滅入りますな」

老騎士は肩を落とす。
役職に就く者の宿命に、憂鬱と言う事がイズミの頭を過った。
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