異世界無宿

ゆきねる

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第十三章 陰謀の気配

第百七十二話 降ってきた話し

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イズミは地面に大の字で横になっている。
試しにベリアが訓練用の木製ナイフで突いてみるも、特段の反応は無い。

「イズミ、この程度でへばっていたら戦場で生き残れないぞ」

太陽は空高くに昇り、屋敷も賑やかになっていた。

「体力的にキツくなったら、俺は…マスタングでトンズラするのさ」

氷像の前に停まっているマスタングを見るイズミだったが、既に筋肉痛の気配を感じ取っていた。

「そうは言っても、体力があって損をする事は無いぞ。逃げるのだって大変なんだし」

何処からかやって来た猫を撫でつつ、ベリアがイズミへと今後も練習が必要だと告げた。

「筋肉痛でまともに動けない方が、俺にとっては大変な事だ。筋肉痛で手が震えてたら、攻撃が当たらなくなる」

右手を空へ伸ばし、腕の疲労感を確認する。
今、ペンを渡されて署名しろと言われたら、自分でも確実に読めないレベルの字しか書けないだろう。

「マスター。マーキングしていた魔法反応が隣領へ入りました」

マスタングからの報告を聞いたイズミは、身体を起こしてモニターを確認する。

「隣の領地って、誰のだ?」

「ガブリオレ公爵だな。かなりの好戦家と聞いた事がある」

ベリアが助手席側からモニターを覗き込み、隣の領主の事を教えてくれた。

「領を跨ぐとなると、厄介だな…アレクセイ様に報告をする必要がある」

後ろに立っていたゾルダが、状況の説明をしてくれた。

「犯罪を犯した者が領地を跨いだと想定される場合、その者の罪状や外見的特徴等を分かる範囲の情報を、速やかに隣接する領地の主に伝達する必要があるのだ。今回は隷属の魔法を使用する男だろ?早急に対応しなければならない。新たな被害者が出る前に」

「そうだな…そう言った手順やらを全て無視して良いなら、今日中に追い付いて始末出来るが」

そこまで言ったイズミだったが、ゾルダの目が『辞めてくれ』と言っていたので大人しくしておく事にした。

「なら…その男が負傷している事は伏せておこう。隷属の魔法を使った辺境伯の御令嬢暗殺未遂が発生したとして、注意喚起をするに留めるのが良いだろう」

「負傷させたのに取り逃がした、なんて報告は格好がつかないな。そうしよう」

ゾルダが屋敷へ向かうのを見送ったイズミは、車内のモニターを確認する。
地図上に浮かぶ矢印を睨みつつ、小さく呟いた。

「頼むから、悪党の巣穴に戻っていてくれよ…」


イズミがマスタングに寄り掛かりながら氷像を見上げていると、蒼い女性の顔が視界に入り込んできた。

「イズミ…だったか?」

氷の精霊、ジーヴルである。
フワフワと宙に浮いているジーヴルが、イズミの頭上に実体化したのである。

「はい。そうですが」

声は冷静だが、驚きの表情は隠しきれていないイズミを見たジーヴルが笑顔で話を始めた。

「お主、かなり面白い生き方をしているな。妾でもお主の様な境遇の者に会うのは2度目じゃ。あの気まぐれ女神から何を頼まれた?」

イズミは言葉が出て来なかった。
この世界に転移をさせた女神の存在を口にした者が、今までに1人も居なかったからだ。

「なにも…元々はマスタング、アーティファクトが転移対象だったのです。偶然私が転位のトリガーを引いただけで」

マスタングのルーフを撫でてから、言葉を続ける。

「この世界でどう生きて行くのか、楽しみに見ているらしいですよ…自殺は許さないそうです」

「だから能力無しなのか、納得した…では、この国では無いが北の最果ての国にある大聖堂へ行くと良い。そこであれば、僅かばかりの加護を授かれるやもしれん」

「加護?」

ジーヴルが右手をイズミの目の前に翳すと、精巧な彫り物のある鍵が作られていく。
それを受け取ると、金属製であった。

「その鍵を大聖堂の管理人に見せれば、案内をしてくれるだろう」

「どうして鍵を私に?」

「面白そうだからな。それにコレは旅の目的にもなる」

そう言って笑うジーヴルだったが、イズミは少しだけ嫌な予感がした。
面倒事の予感だ。
小さくため息をついたイズミは、鍵のお礼はしておこうと考え始める。

「礼ならあの酒が良い。沢山くれると尚良い!」

「ストレートに酒をご所望ですか」

イズミがマスタングに頼んで酒を実体化してもらうと、直ぐにトランクが開いた。
中には酒瓶が12本入っていた。

「おぉ!?こんなにくれるとは、お主もアーティファクトも良い奴じゃの!道中にいる同胞達にも話をつけておくから、宜しく頼むぞ」

「同胞達とは?」

「皆、刺激に飢えている精霊仲間よ。この酒を渡せば精霊しか分からぬ情報やら素材やら、色々融通を効かせてくれる筈じゃ」

あっと言う間に、新しい旅の目的が出来たようだ。
イズミは鍵をポケットに仕舞うと、次に取るべき行動を考え始めていた。
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